SSSランク冒険者から始めるS級異世界生活

佐竹アキノリ

文字の大きさ
8 / 20
第一章

8 9Sランク吸血剣

しおりを挟む
 ぶらぶらと街中を眺めていたリベルは疲れ果てていた。
 隣のアマネは買ったばかりの衣服の入った袋を下げながら上機嫌である。装備を買ってさっさと帰る予定だったのだが、完全に当てが外れた。

「まだ買うのか……?」
「安くて可愛いのがあったらね」
「それより装備は……」

 そもそも、剣と鎧を買いに来たはずである。
 リベルが困った顔をすると、アマネはちょっぴり不服そうにする。

「可愛い女の子と一緒に買い物できるんだから、もうちょっと喜んでもいいんだよ」
「自分で言うことか……?」
「それにリベルくんは着替えとか買わないわけ? 不潔」
「優先順位が低いだけだ。服なんて、前の世界のものでも大丈夫だろ」
「えっと……前の世界の装備、すぐにボロボロになるんだよ。服だって……」

 鎧ですら、あっさりと砕かれてしまう。まして衣服であればなおさらだ。

 リベルは自分の上着を見れば、あちこち切れている。そしてアマネのものもまた、ほつれたり破れたりしているところがある。

 戦いが激しければ当然、もっと破れることになる。肌が露出することになるのだ。
 アマネは半眼で視線を向けてくる。

「えっち」
「い、いや、その……そういうのじゃなくてだな、ほら……」

 しどろもどろになるリベルであったが、アマネは一つため息をついた。

「リベルくんはもうちょっと、配慮したほうがいいと思うよ」
「以後気をつける」
「うん。……あ、鍛冶屋があるよ」

 アマネの狐耳がぴょんと立つ。

 こぢんまりとしており、個人でやっているようだ。
 これまでもいくつか鍛冶屋を見てきたが、ここは安そうだからちょうどいい。

 早速中に入ると、いくつもの剣が展示されている。盗難防止に固定されていたり、鎖がついていたりする。

 だから手に取ることなく、そのまま眺めていたのだが――

「おや?」

 リベルは一振りの剣に違和感を覚えて、そちらに向かっていく。

「そっちは中古品みたいだよ」
「ああ。全体的に安いな」

 そんなことを言いつつ、目を向けるのは一番高い剣だ。剣身はすらりとしており、刃こぼれはない。手入れがなされている証拠だ。

 そこらの新品よりも値が張っている。
 理由はわからないが、なんとも心引かれるものがある。

「いらっしゃい。……と、そいつは呪われた品だ」

 店主は出てくるなり、そう口にした。

「……なにかあるのか?」

「かつて名工が打ったもので、幾人もの持ち主の手を渡ってきた経緯がある。……あんたらは新人か?」

「昨日来たばかりだ」

「なら、最初から説明するか。ランクが一桁上がれば、桁違いに強くなるのは知っているだろう?」

「ああ」

 その話は聞いている。
 ランクが一桁上がるごとに、上の階層に上がることができるとか。

「剣も同じだ。ランクが一つ上がれば、まるで切れ味が異なる。そいつは俺たちの技術や魂を込めたところで、どうしようもねえことだ」

「……つまり、持ち主のランクが上がってしまうと使いものにならなくなる、ということか」

「そうだ。こいつは9Sランク吸血剣だからな。10Sランクになった者はこいつを手放し、新しい持ち主に引き渡される。そんでもって、そいつもまた10Sランクになっていく。その過程を何度も、楽しく見てきたもんだ」

 話は過去形になっている。
 ということは、今はそのサイクルが断たれているのだろう。

「こいつの最後の持ち主は、殺人にハマっちまった。人間を切り殺すのに夢中になったんだよ。幾人もの血を吸ううちに、こいつは吸血の呪いを持つようになった。手にしている所有者の魔力と血を奪い続けていくんだ」

「なるほど……違和感の正体はそれか。店主、少し握ってみてもいいか?」

「命の保証はしねえぞ」

「構わない。幾度も死線は越えてきている」

 リベルは剣を手に取る。
 途端、目眩にも似た感覚が襲ってきて、なにかが体の中を走っていく。

 軽く手を握り、剣を構える。その体からはゆらゆらと、煙とも光ともつかないものが立ち上っていた。

 店主は思わず声を荒らげた。

「な、なんだこの魔力は……!」

「これが魔力か」

 リベルはこの世界の魔力を感じ取る。
 自分の中にも秘められていた力だ。

 自力で用いるのは、まだ難しそうだが、この剣があれば力を引き出すことはできるはずだ。

 剣身に視線を落とせば、血の赤色に染まっている。
 全身を伝った魔力は手から剣へと吸い込まれており、そのときに血も取り込んでいるのだろう。

「素晴らしい剣だ」
「あたりめえだ。俺の爺さんが打ったんだからな。ところで体は大丈夫なのか?」
「ああ。問題ない。長時間使っていると、魔力も血も枯渇しそうだがな」
「……それは問題あるんじゃねえのか?」
「どうせ戦えば流血する。さして違いもないさ」

 言いつつもリベルは、

(前に血を流したのはいつだったか)

 と思い返してみる。
 もう何年も無傷でいた気がする。

「気に入った。ぜひ買いたい……と言いたいところなんだが、手持ちがなくてな」

 半年分の生活費をもらっているとはいえ、この剣には届かない。

「……よし、こうしようじゃねえか。その剣を貸し出そう。一ヶ月あたり、売値の十分の一でいい」

「いいのか?」

 初期投資を抑えられるのなら、願ったり叶ったりだ。

「普段は貸し出しなんてしねえぞ。そもそも、買えば自分のもんだ。長期的に使える。だが、あんたには無駄な金になる」

「……というと?」

「さっさと10Sランクに上がっちまうのさ。あんたには強者のオーラがある。間違いねえ」

「買いかぶりすぎだな。だが……俺も約束がある。早く頂点に上がるつもりだ」
「それなら、契約は成立だな」
「ありがとう。いい買い物をした」
「あんたが有名になったら、うちの店を宣伝してくれよ」
「任せとけ」

 店主は早速、剣を用意してくれる。

「鞘はサービスだ」
「助かる。もう有り金が底をつきそうなんだ」

 リベルは剣を腰に佩きながら、頼りないことを口にする。
 と、そこでアマネが尻尾を揺らしながらやってくる。彼女はずっと、自分の装備を選んでいたようだ。

「仕方ないなあ。ほら、サーコート。サイズはこれでいい?」

 アマネは非常にシンプルなサーコートを持ってきていた。鎧の上から着る布製のもので膝丈までの長さがある。

 装備をまとめて買えるように、布製のものではあるが、鍛冶屋でも取り扱っているのだろう。

「いや、お金がないんだけど。あと鎧もない」
「あたしは余ったから、買ってあげるよ。鎧はそのうちね」
「……いいのか?」
「うん。SSSランクの剣聖なんだから、身なりもちゃんとしないとね」
「ありがとう、助かる」
「その代わり、あたしが困ったときは、かっこよく守ってね!」
「かっこいいかどうかはわからないが……善処する」

 リベルはサーコートを羽織ると、それなりに剣聖らしい格好になる。
 一方アマネは軽装であった。簡単な革の鎧に二振りのショートソード、それからナイフなど。どれもSSランクの品だ。

「さて、お金を使った分だけ、働くとするか」
「もうギルドの営業は終わってるよ。明日からだね」
「そうだったな。それじゃ、今日は準備を整えるとしよう」

 二人は初めての仕事のことを考えながら、帰途に就くのだった。

    ◇

 翌日、リベルはギルドに張り出されている依頼を見ていた。

 職員お勧めのものがいくつかあって、どれを選ぼうかと考えていたのだ。

「これにするか」

 そして紙に手を伸ばしたところ――横から割り込んできた手が、パッとそれを奪い取った。

 なにかと思って見れば、見知った顔があった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

捨てた騎士と拾った魔術師

吉野屋
恋愛
 貴族の庶子であるミリアムは、前世持ちである。冷遇されていたが政略でおっさん貴族の後妻落ちになる事を懸念して逃げ出した。実家では隠していたが、魔力にギフトと生活能力はあるので、王都に行き暮らす。優しくて美しい夫も出来て幸せな生活をしていたが、夫の兄の死で伯爵家を継いだ夫に捨てられてしまう。その後、王都に来る前に出会った男(その時は鳥だった)に再会して国を左右する陰謀に巻き込まれていく。

Shining Rhapsody 〜神に転生した料理人〜

橘 霞月
ファンタジー
異世界へと転生した有名料理人は、この世界では最強でした。しかし自分の事を理解していない為、自重無しの生活はトラブルだらけ。しかも、いつの間にかハーレムを築いてます。平穏無事に、夢を叶える事は出来るのか!?

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~

eggy
ファンタジー
 もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。  村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。  ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。  しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。  まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。  幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

知識スキルで異世界らいふ

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

処理中です...