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第6章
第6話
しおりを挟む気を失って眠っている間も焦熱剣と凍結剣の喧嘩している声が聴こえている中、息苦しさを感じてふと目を覚ましたら、ゼロがまたも髭面のおっさんの容姿になって勝手に俺に口付けをしていた。
「おはようございます。まだMPの供給が必要でしたので、勝手にですが口付けをさせていただきました」
「いいんだけど、なんでまたその顔になるのかなあ。俺は別におっさんが好きな訳じゃないよ?むしろノーマルで女性が好きなんだけど」
「記憶をスキャンしてますので存じてますが?
それに、この容姿で口付けするのも、監視者が女性の姿で口付けするのを好んでいないのを感じてますからです」
「監視者のことは誰が監視してるか分からないなら放っておいていいよ。女性が好きなのを知っているなら、俺好みの女性の姿に変身してくれよ」
「マスターに正式な名称をいただいていませんので、それは了承できません」
「そんな、名前を付けないだけで俺の言うことを聞かないなんて、他の言うことは聞くのに、容姿の要望は聞かないなんて酷いな」
「そう酷いと思うのなら、私に正式な名称を付けて下さい。さすればマスターの言うことはどのような命令でも聞きます」
そう話す彼の言葉に次の言葉が出ない。
早めに正式に名前を付けなければならないと思いつつも、中々呼びたい名前が思い付かないでいたが、ふと一つ彼の名前にピッタリな名を思い付いたものの、今は止めておこうと心の隅に留めた。
「それなら俺が我慢するしかないね。碌な名前くらいならいくらでも思い付くけど、下手に今名前を付けたら、あとで仲間たちと合流したとき非難されると思うから、もうしばらく待ってて欲しい」
「そうですか、それなら待ちます。
それでお次はどの扉をお開けになりますか?」
「そうだなあ。もうあれに以上の強い敵は居ないだろうけど、正面の扉は止めた方がよさそうだから、横の扉にしようと思ってるよ。
それで、あと二回しか扉は開けられないし、どうしようかな。あと、焦熱剣と凍結剣はまだ喧嘩し続けるなら、ここに置いて行くけど、まだ喧嘩続けるの?」
【なに!俺様を置いて行くっていうのか!
お前さん、どうせ置いていくならコイツだけを置いて行こうぜ】
【なにを仰いますか、このお馬鹿さんは!
お前様は喧嘩を続けるなら貴方と私を両方とも置いて行くって言っているんですよ?】
寝起きでまだ喧嘩していた剣たち声が鬱陶しくてそう言えば、凍結剣が焦熱剣を馬鹿にした言い方をすることで、また喧嘩が始まった。勿体ないが、本気で二本とも置いて行こうと思って、喧嘩をしている二本に向かって、次でもう上にあがるかもだからと言って扉に手を掛けると、二本とも喧嘩を辞めて俺の元に飛んできて腰にピタリとくっ付いた。
【ふざけんじゃねえぞ!今更、こんなヤツの所為で俺様を置いていこうなんて許さねえ!】
【それはこちらのセリフですよ。折角、私が認めた主に貴方との喧嘩を理由に、こんな場所で棄てられたとなれば生涯の汚点となるのは間違いないでしょう】
俺の腰にくっ付いた剣たちは、またも言い合いを始めたことにより、二本とも手に取って放り投げて地面に落とした。
「俺はそれが嫌だって言ってんだけど?
俺の腰にくっ付いてまでうるさい喧嘩をするなら、置いていく。じゃなければ永遠にI.Bに収納したままにするよ」
俺がそう言うと、二本の魔剣は沈黙して再び腰にくっ付いた。
「じゃあ、気を取り直して行こっかね」
右と左、どちらの側面の扉を開けようか悩んだものの、これは悩んでも仕方ないと思い、利き手側の右側の側面の扉を開けたら、夥しい数のゴブリンがフロア中にいた。
「マスター惜しいです。ゴブリン女王の方でしたね」
「え、これってクイーンの方なの?このゴブリンの中の何処かにゴブリンクイーンがいるのか。じゃあ、手っ取り早く一気に行こうかね。焦熱剣、一振りで終わらせるよ」
焦熱剣に話しかけるも、剣は沈黙したままだ。
「焦熱剣?なんで黙っているんだ?」
【お前さんは俺様が黙らないと、置いていくんだろうが】
先程の喧嘩について黙らないと置いて行くというのを守って沈黙していたようだが、それは凍結剣と喧嘩をしないように言ったことで、俺が焦熱剣に話しかけるときは普通に話して良いと言えば、いつのも調子の焦熱剣に戻って一気に行くぜと意気揚々とフロアに入り、横斬りで一振りしたら、炎の衝撃波が飛んで手前のゴブリンから焼け、真っ二つになって絶命していった。
炎の衝撃波は奥の壁まで届いたころ、フロアの中央部に魔法陣が出現した。
「結局、ゴブリンが多過ぎてどれがゴブリン女王だったか分からなかったな」
「マスター、ゴブリン女王が生きている限り、無限にゴブリンを生み出して、ゴブリンの中に守られながら遠くから魔法を放ってくるものです。 そして、女王は普通のゴブリンよりも一回りほど小さいので、余計に見つかりにくいのです」
「なるほど、じゃあいつかまたゴブリン女王と戦うことがあれば、気を付けて見てみないと分からないね」
このゴブリン女王のフロアの魔法陣に乗ってもいいが、もしかしたら、隣の扉がゴブリン王なのではないかと思って出現した扉を出て隣の扉を開けたら、真紅の肌をしたジャイアントゴブリンが大木を持って立っていた。
「あーもう惜しかったなあ。向かいがゴブリン王だったのかなあ。でも開けてしまったし、仕方ない。油断せず、さっさと倒してしまおう。
さっきは焦熱剣を使ったから、今度は凍結剣に頑張ってもらおうかな」
【はい!私、お前様のために頑張ります!】
【チッ、飼い主に媚び売る犬っころかよ】
「はいはいはい、焦熱剣はまた喧嘩を仕掛ける気かい?それなら反省してもらおうかね」
焦熱剣には反省してもらおうとI.Bに収納して凍結剣だけを手に、ジャイアントゴブリンが待つフロアに入ると、足を踏み入れるなり大木を振り回しながら向かってきたものの、凍結剣で受けて大木を凍らせた。
大木を伝って手が凍ってくるのを恐れてか、凍ってない方の手で無理矢理大木を凍った手から剥がして大木を投げつけてきたものの、芯まで凍結した大木だったため、殴れば粉々に砕けて細かい氷の粒が宙を舞う。
そんな中、ジャイアントゴブリンは殴りかかってくるも、その拳の指一本一本に俺の拳を素早く当てて拳の指の骨を折ったら、悲鳴を上げてながら引いて、もう片方の先程に凍った拳で薙ぎ払ってきたが、これも凍結剣の刃を薙ぎ払う腕に当てて腕を斬り裂いた。
「これで両手は使い物にならなくなったな!
凍結剣、次の一撃で倒すよ!」
【了解致しました。私も弱者を痛めつける趣味はございませんので、さっさと倒しとうございました】
凍結剣もさっさと斬り倒したい気持ちがあったようで、凍結剣にMPを多めに吸わせて焦熱剣の時のように凍結剣を振り下ろして、凍えるような冷たい衝撃波を発生させると、ジャイアントゴブリンは縦に真っ二つに割れ、血は凍って横に倒れた。
「この個体はゴブリン王より強い個体で、オーガ王クラスの強さでしたが、いとも簡単に普通のドラゴンすら倒してしまいますマスターにとっては、雑魚だったようですね」
「へえ、ジャイアントゴブリンでもそれぐらい強さの上下があるのか。ところで、これからはお願いなんだけど向かいの扉を開けてもいいかな?」
「マスターは三つの扉を開けたら先に進むと仰ってましたので、先に進みましょう」
向かいにある残りの二つの扉が気になって、そうゼロにお願いをするも、俺が最初に言ったことで聞く耳持たず、俺の足首を掴んで転ばされてズルズルと引きずられながら魔法陣に乗った。
引きずられる間に足を動かして蹴ったりして抵抗をしたものの、彼はシールドを張って俺の蹴りを防いだ。だからといって、凍結剣で斬りかかるわけにもいかず、仕方なく大人しく魔法陣に乗ったのだった。
魔法陣に乗ったあと今までと同じように、すぐ見知らぬ場所に転送されるのだと思っていたら、辺りは暗くて目の前にテレビのような映像が映し出されている。足元の魔法陣はそのままなのだが、映像はこのダンジョンの色んな階層であろう場面が映し出され、時折冒険者が魔物と戦っている場面があったりした。
「これって…」
「はい。マスターのお考えの通り、このダンジョン内の映像でございます。同じ階層でも複数の試練が待ち受けております」
「試練?」
彼の試練というのに引っかかり、試練と聞き返したら、彼がまだあの場所で眠る前は、このダンジョンの役目としてはヤマトに行くだけの実力者かどうかの試練の場所だとか。
それに、彼にとって現在のダンジョンの状況では見当たらないらしいが、昔は悪人や道徳心が皆無な者が必ず行き当たる階層がないらしい。
「それはそうとマスター、石板の方はまだ見られてないようですが、いつ見られるのでしょうか?マスターにとって役に立つ魔法やスキルが記されているのですが」
彼にそう言われて、今まで忘れていた石板を一つI.Bから取り出して見てみるも、石板には火炎玉と書かれているだけで特に意味が分からず、首を傾げると、この石板はMPを流し込んで初めて習得できるものだと首を傾げる俺に彼が言い、言われるがままに石板にMPを流し込む。そうすることで、頭の中に火炎玉についての詠唱や火炎玉の説明や火炎玉の研究を費やした男の人生そのものの映像が流れ込んできて、頭が痛くなって蹲るも、頭痛が治るころには火炎玉についての全てが頭の中に収まっていた。
火炎玉とは読んで字のごとく火炎の玉だが、その形は自在に変えることができ、わざわざ言葉に出さずとも考えるだけで出すことができる魔法だ。火炎玉とあるが、火炎に関わる魔法全般を使える
これだったら想像魔法で充分だと思っていたら、俺の考えを察したゼロに、これで強大な炎の魔法を使っても怪しまれないですね。と言われたことで、俺に石板を見させた意味はそういう意図があったのかと納得した。
他の石板については汚れ過ぎて、汚れを落とさないと見れない状態だが、俺の想像魔法であれば汚れを落とすことなど造作もないことだ。
だが、石板は文字を読まなくてもMPを流せば今のように石板の内容を修得できるようだ。
「マスター、そろそろ地上に上がります」
まだこれから他の石板を試してみようとしたとき、彼の言葉で中断されて火炎玉の石板をI.Bに収納して、地上に上がるという言葉に心躍る気持ちを落ち着かせる。
背筋を伸ばして正面を向いたら、各階層の様々なダンジョンの映像は終わって暗転していた。
そして、薄っすらと光っていた魔法陣の光が消え、真っ暗闇になったところで、暗闇に目が慣れてきて目を凝らしたら、壁や地面など石畳が見えた。
まだダンジョンの中か、何処かの地下に転移したのかも知れない。
「ねえゼロ。なんか、まだダンジョンの中か、何処かの地下のように思うんだけど」
「しばらくお待ち下さい。この場からサーチして現在地を検索致します」
彼はそう言って目を閉じた。そうして待つこと数分後目が随分と慣れて、明かりを出さなくても今いる場の全体が分かった。それは、大小さまざまな大きさの木箱が積み重なって少し埃っぽいところをみると何処かの物置のようだ。
今度は安全そうだと凍結剣はI.Bに収納しておいて、彼が目を開けるのを待つ。
しばらく経っても、まだゼロは目を閉じたままで、特にやることも無く、俺も目を閉じて待っていたら、ドタバタとここに近付いてくる音が聞こえてきて、扉一つ見当たらない壁の一面が急にバカっと開き、ピンと立った犬耳と熊のような丸い耳が恐る恐るといった感じで姿を現した。
犬耳がこちらの様子を伺うようにピクピクと動き、安全だと思ったのか、顔を覗かせると、俺とゼロの姿を見てビクッと硬直させて動かなくなった。
「えーと、俺たちは怪しい者じゃないよ。
って、信用してもらえるか分からないけど、ヤマトに繋がるダンジョンの魔法陣を通ってきたんだけど、此処は何処かの教えてもらえるかな?」
「うわあああ!首無しの鎧が喋ったー!」
「待ってよ~。置いていかないでよ~」
犬と熊の容姿男の子らに話しかけたら、首無しの鎧だと思われ、悲鳴を上げながら逃げて行った。
「この暗い倉庫に全身鎧の所為で顔が見えなかったのかな」
「そのようですね。やはり此処はヤマトで間違いないようです。ヤマトのギルド本部の地下倉庫のようです」
いつの間にかサーチが終わったであろう彼が、現在いる場所について教えてくれた。
「じゃあ、入口も開いたことだし、行こっかね」
開いた所から出ると、ひたすらに長い通路があり、先程の獣人の子らが走って行く姿があって、そちらに行けばいいのかと思って進む。
熊の獣人の子が追い掛けてきたー!っと泣き叫ぶ声が聞こえてきた。
「これって追い掛けちゃいけないのかな」
「あの獣人のことを思ってのことなら追い掛けない方がよろしいです。どのみち行く方向は一緒なのですから、私たちはゆっくり進みましょう」
彼の言葉に立ち止まって獣人の子らが遠ざかって見えなくなったところで再び歩き始め、この全身鎧を着ていたらまた誰かと遭遇したときに同じ反応されるのではないだろうかと考え、彼に他に着る物がないかを尋ねると、ローブや昔流行っていたらしい普通の服を持っていることが分かって、今着ている全身鎧は脱いで返そうとしたら、自分には不必要な物だからと返却はしなくてもいいということになり、一旦全身鎧を脱いでI.Bに収納し、全裸になったところでまたも悲鳴が聞こえた。
今度は女性の甲高い声で、悲鳴の聞こえた方向を振り向くと、兎と牛の容姿の女性が変態とか言いながら、先程の獣人の子らが女性たちに隠れるようにいるところ、獣人の女性たちは近くにいたのだろう。
「この変質者めが!どこから入ってきた!」
獣人の子たちの背後から、二人の狼の獣人が槍を持って現れ、槍を突き付けた。
「その子にも何をするつもりだったんだ!この変態めが!」
獣人たちの質問にゼロの方を振り向けば、目を潤ませているチワワの獣人に変化していた。
「この裏切り者!」
「マスター、ここは一人で捕まって下さい。
私はここの人間関係や、この場所が現在どのような場所として使われているかを調べてまいりますので。調べ終わり次第、マスターを助けに参ります」
ゼロは俺にしか聴こえない声量で話し、槍を構えている獣人らの間をすり抜けて駆けて行き、残された俺は大人しく全裸のまま手首に鉃枷を着けられて連れていかれることになった。
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※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
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