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しおりを挟む「んー……困ったわ」
私は何十着あるドレスの前でかれこれ2時間ずっと睨めっこをしている。
挙式には控えめなフォーマルドレスを着ていくとして、問題はその後だ。結婚披露パーティーには沢山の貴族たちが参加する。特に女性にとっては重要な社交場だ、ドレスやアクセサリー、靴に髪飾りなど細かい所までチェックされてしまう。
(このドレスはお気に入りだけど少し流行を過ぎてしまったし……このネックレス、可愛いけどこれに合う靴がないのよね)
新しく新調しようか、という両親の提案をお金が勿体ないという理由で断ってしまった。今思えば我慢しないでお願いすれば良かったわ。
コンコン
「失礼致します。お嬢様、アシュレイ=スプラウト様がお見えでございます」
「へ?あ、アシュレイ様が?!」
今日は女学校も騎士学校も休校日。
そんな彼は屋敷で訓練に励むと言っていたのに。
「すぐに向かうと伝えて!」
「かしこまりました」
まさかアシュレイ様がここを訪れると思わなかった。私は手櫛で髪を整え、急いで彼が待つ応接室へと向かった。
「お待たせ致しました」
「ああ、突然来てすまない」
アシュレイ様は持っていたカップをテーブルに置き、申し訳なさそうにそう言った。
「いえ、大丈夫です。どうなさったのですか?」
「ミハエルの結婚式の日、迎えに来る時間を伝え忘れてしまっていた。当日は9時頃に迎えに来る」
「畏まりました」
「それと披露パーティーのことなんだが、」
アシュレイ様は私の顔を伺いながら話す。しばらくして扉が開き、ぞろぞろとスプラウト家の従者の人たちが入ってきた。
(な、何っ?!)
「受け取ってくれないか」
従者の人たちは何やら沢山の箱を持っていて、次々にラッピングをほどいていく。
それはどれも有名ブランドのドレス、ピカピカの靴、それと沢山のアクセサリーや帽子にバックだ。
「まぁ……これは一体、」
「パーティーで身につけて欲しい。その、何が良いのか分からず沢山選んでしまった」
「こんなに……申し訳なくて全部は受け取れません!」
「いい、全てパーティー用という訳じゃない。気に入らなければ友人に譲ってもらっても構わないから」
話している間も次々に持ち込まれる贈り物たち。しかもどれも一流と呼ばれる高級品ばかりだ。
「近くでじっくり見てみればいい」
「はいっ!」
促され並べられたプレゼントを見ていく。
(あ、これかわいい)
目に止まったのはシンプルなデザインの淡いブルーのドレス。手触りもいいし、何より肌を露出しすぎないその形が私好みだ。
社交界ではパートナーと服の色を合わせるという暗黙の了解がある。だから私がブルーを選べばアシュレイ様もそれに合わせることになるんだが……
「あの……アシュレイ様」
「決まったか?」
「はい、これが素敵で……その、アシュレイ様はブルーはお好きですか?」
もしも気に入らない時は別のものにしよう。
すると、アシュレイ様は優しく微笑みながら私の頭を撫でてくれた。
「俺に気を遣わないで気に入った物を選べばいい」
「ですが……」
「君によく似合いそうだ」
手に持ったドレスを見てそう言ってくれた。あまりにも真っ直ぐに見つめられ、私は恥ずかしさのあまり俯いてしまう。
彼への想いを自覚してから上手く話せない。それに日に日にアシュレイ様がカッコよく見えてしまう。
(こんな素敵な人が私の婚約者だなんて、今更だけど本当に奇跡みたい)
そしてふとシルビア嬢のことを思い出す。
彼女もこのパーティーに参加するとミハエル様は言っていた。たぶん彼女の取り巻きである令嬢たちもそこには居るんだろう。何かしらのハプニングは起きてしまいそうな予感がする。
「アシュレイ様」
「ん?」
「もしシルビア嬢が何かしてきたら……」
私は何をすれば良いのでしょう。
そう尋ねれば、アシュレイ様は真面目な顔でしばらく考え込む。
(エリザベスさんの言う通り、シルビア嬢が暴走しないとも言い切れない。その日、もしアシュレイ様に危険が迫ったら)
私は彼を守り切れるのか。
「心配するな、君は私が守るから」
「でも」
「グラシャ」
不安で取り乱す私がパッと顔を上げれば、目の前にはアシュレイ様の胸元が。力強い両腕で包まれるように抱きしめられていた。
「俺を信じてくれ」
低くはっきりとした言葉がすんなりと心に入っていく。さっきまでの不安が段々と静まっていった。
「……はい、」
恐る恐る両腕をアシュレイ様の腰元に回しぎゅっと抱き着く。その暖かさに安心していくのが分かった。
この人と一緒にいると全部安心する。
しばらく私たちはお互いを確かめるように抱きしめ合っていた。
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