10 / 26
10
しおりを挟むそしてミハエル様とエリザベス様の結婚式の日。
挙式の行われるのはエリザベス様が小さい頃から礼拝に訪れていた小さな教会。私たちが教会に到着した時にはすでにエマーソン侯爵夫妻、レリック伯爵夫妻はいて、その近くには赤髪の小柄な青年が立っていた。その青年は私たちの存在に気付くと子犬のように駆け寄ってきた。
「ケイン」
「久しぶりだなアッシュ!また背伸びたか?!」
「お前と最後に会った時から2㎝ほど伸びた」
「くぅ~~~!羨ましい、俺なんか5㎜伸びただけでも大騒ぎだってのに!」
(この人がケイン様?)
アシュレイ様やミハエル様と同じ侯爵家の嫡男であるケイン=ジェランダ様はしばらくして私の存在に気付く。
「?アッシュ、この人って……」
「婚約者のグラシャだ」
「おぉー!!アンタがあの!アッシュの!」
「は、初めまして」
「会えて嬉しいぜー!俺はケイン、グラシャって呼ぶけどいい?俺も様とか要らないから!」
「は、はいっ!」
握られた手はぶんぶんと上下に振られる。
(み、ミハエル様とは大違いだわ!)
紳士的な彼とは違い、目をキラキラさせ眩しいくらいの笑顔を向ける……何というか懐っこい弟みたいだ。きっと身長が私とほぼ同じだからそう思えるのかしら。
「グラシャも結婚披露パーティー出るんだろ?そん時さ、俺とも一緒にダンスを……」
「ケイン、いい加減にしろ」
無邪気に話してくるケインを制し、アシュレイ様はされるがままの私をぐいっと抱き寄せた。
「騒ぐな、神聖な場だぞ」
「むっ!お前俺がグラシャに絡んでるのがおもしろくないからって」
「呼び捨てにするな」
「良いじゃん、本人から許可取ってるし」
「俺は許可しない」
「お前のモンじゃないだろ!」
ギャーギャーと騒ぐケインと静かに苛立つアシュレイ様。この二人は多分顔を合わせるたびにこんな風なんだろう。そしてその仲介役がきっとミハエル様だ。
「まぁまぁ落ち着いて下さい二人とも。もうそろそろ挙式が始まりますから」
「……そうだな」
「この続きは後でだな!」
「……」
「もう!二人ともやめて!」
強引に二人の間に入り口喧嘩を止めさせた。
すると教会内のパイプオルガンが鳴り始める。
その場にいる全員が出入り口へと注目すると、ゆっくりと重厚な扉が開いた。
「わぁ……」
一緒に入場してきた二人はまるで物語から飛び出してきたのように美しかった。
白い衣装に身を包んだミハエル様はもちろんだが、純白のウエディングドレスを着たエリザベスさんは本物の天使のように素敵だった。
(どうしよう、涙が出そう)
幸せそうな光景にうるっとしてしまう。
「グラシャ」
隣に立つアシュレイ様は私にハンカチを差し出してくれた。それを手に取り目元を拭う。
「綺麗だな」
「ええとっても。エリザベスさんすごく幸せそう」
寄り添いバージンロードを歩く二人は誰よりも幸せそうに笑っていた。
(こんな風に、私も……)
アシュレイ様と歩けたならどれだけ幸せなんだろう。横にいる彼を見れば口元に軽く笑みを浮かべながら友人を祝福している。
私はもう一度二人に視線を送り、その後も盛大な拍手を送ったのだ。
それから式は着々と進められ、あっという間に二人を送り出すところまで時間が経っていた。
「グラシャさん」
「エリザベスさんっ!」
新郎新婦は馬車に乗り邸宅に戻る。それをゲスト全員で見送ろうとした時、エリザベスさんとミハエル様は私の元に駆け寄ってきてくれた。
「本当に素敵だったわ!二人ともお幸せに」
「ありがとうグラシャ嬢」
「グラシャさん、貴女にお祝いして貰えて本当に嬉しいわ!次は貴女たちの番ね?」
そう言ってエリザベスさんは持っていたブーケを私にぎゅっと握らせる。
「花嫁からのブーケにはね、幸せのお裾分けという意味があるの。グラシャさんに沢山の幸せがやって来ますように」
「ありがとう、本当に嬉しい!」
「パーティーも楽しみにしててくれ、最高のもてなしをするからな」
「ありがとうミハエル」
そして二人は馬車に乗り込みゆっくりと教会を出て行った。
「いい式だったな!」
「ああ、二人とも幸せそうだった」
「次はお前たちの番だぜ?アッシュ、男見せろよ」
「……ああ」
私の後ろで二人が何かを話しているけどよく聞こえない。アシュレイ様を見ればぱちっと目が合う。
その顔は今までで一番穏やかで、まるで慈しむような表情に私もつられて微笑んだ。
「行こうか、グラシャ」
「ええ」
そして私たちはその日の幸せを語り合いながら帰路へとついた。
167
あなたにおすすめの小説
わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない
鈴宮(すずみや)
恋愛
孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。
しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。
その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?
我慢しないことにした結果
宝月 蓮
恋愛
メアリー、ワイアット、クレアは幼馴染。いつも三人で過ごすことが多い。しかしクレアがわがままを言うせいで、いつもメアリーは我慢を強いられていた。更に、メアリーはワイアットに好意を寄せていたが色々なことが重なりワイアットはわがままなクレアと婚約することになってしまう。失意の中、欲望に忠実なクレアの更なるわがままで追い詰められていくメアリー。そんなメアリーを救ったのは、兄達の友人であるアレクサンダー。アレクサンダーはメアリーに、もう我慢しなくて良い、思いの全てを吐き出してごらんと優しく包み込んでくれた。メアリーはそんなアレクサンダーに惹かれていく。
小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
【完結】婚約者と養い親に不要といわれたので、幼馴染の側近と国を出ます
衿乃 光希
恋愛
卒業パーティーの最中、婚約者から突然婚約破棄を告げられたシェリーヌ。
婚約者の心を留めておけないような娘はいらないと、養父からも不要と言われる。
シェリーヌは16年過ごした国を出る。
生まれた時からの側近アランと一緒に・・・。
第18回恋愛小説大賞エントリーしましたので、第2部を執筆中です。
第2部祖国から手紙が届き、養父の体調がすぐれないことを知らされる。迷いながらも一時戻ってきたシェリーヌ。見舞った翌日、養父は天に召された。葬儀後、貴族の死去が相次いでいるという不穏な噂を耳にする。恋愛小説大賞は51位で終了しました。皆さま、投票ありがとうございました。
本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います
<子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。>
両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。
※ 本編完結済。他視点での話、継続中。
※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています
※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります
勇者様がお望みなのはどうやら王女様ではないようです
ララ
恋愛
大好きな幼馴染で恋人のアレン。
彼は5年ほど前に神託によって勇者に選ばれた。
先日、ようやく魔王討伐を終えて帰ってきた。
帰還を祝うパーティーで見た彼は以前よりもさらにかっこよく、魅力的になっていた。
ずっと待ってた。
帰ってくるって言った言葉を信じて。
あの日のプロポーズを信じて。
でも帰ってきた彼からはなんの連絡もない。
それどころか街中勇者と王女の密やかな恋の話で大盛り上がり。
なんで‥‥どうして?
幼馴染と夫の衝撃告白に号泣「僕たちは愛し合っている」王子兄弟の関係に私の入る隙間がない!
佐藤 美奈
恋愛
「僕たちは愛し合っているんだ!」
突然、夫に言われた。アメリアは第一子を出産したばかりなのに……。
アメリア公爵令嬢はレオナルド王太子と結婚して、アメリアは王太子妃になった。
アメリアの幼馴染のウィリアム。アメリアの夫はレオナルド。二人は兄弟王子。
二人は、仲が良い兄弟だと思っていたけど予想以上だった。二人の親密さに、私は入る隙間がなさそうだと思っていたら本当になかったなんて……。
【完結】貴方の後悔など、聞きたくありません。
なか
恋愛
学園に特待生として入学したリディアであったが、平民である彼女は貴族家の者には目障りだった。
追い出すようなイジメを受けていた彼女を救ってくれたのはグレアルフという伯爵家の青年。
優しく、明るいグレアルフは屈託のない笑顔でリディアと接する。
誰にも明かさずに会う内に恋仲となった二人であったが、
リディアは知ってしまう、グレアルフの本性を……。
全てを知り、死を考えた彼女であったが、
とある出会いにより自分の価値を知った時、再び立ち上がる事を選択する。
後悔の言葉など全て無視する決意と共に、生きていく。
不倫した妹の頭がおかしすぎて家族で呆れる「夫のせいで彼に捨てられた」妹は断絶して子供は家族で育てることに
佐藤 美奈
恋愛
ネコのように愛らしい顔立ちの妹のアメリア令嬢が突然実家に帰って来た。
赤ちゃんのようにギャーギャー泣き叫んで夫のオリバーがひどいと主張するのです。
家族でなだめて話を聞いてみると妹の頭が徐々におかしいことに気がついてくる。
アメリアとオリバーは幼馴染で1年前に結婚をして子供のミアという女の子がいます。
不倫していたアメリアとオリバーの離婚は決定したが、その子供がどちらで引き取るのか揉めたらしい。
不倫相手は夫の弟のフレディだと告白された時は家族で平常心を失って天国に行きそうになる。
夫のオリバーも不倫相手の弟フレディもミアは自分の子供だと全力で主張します。
そして検査した結果はオリバーの子供でもフレディのどちらの子供でもなかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる