【完結】男装の麗人が私の婚約者を欲しがっているご様子ですが…

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14 アシュレイ視点

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※アシュレイ視点



「遅いな」

ミハエルとケインと話し込んでいたが、飲み物を取りに行ったグラシャの戻りが遅いことに気付く。
すぐに戻ると言ったが……20分ほど経っただろうか、いくら人が混み合う場所とはいえそんなに時間はかからないだろう。

「トイレじゃね?それかほら、化粧直しとか?」
「彼女は何も言わずどこか行くような女じゃない」
「ハァ?!何それもう自分の妻扱いかよ」

ハッと鼻で笑うケイン。

こいつはいちいち感に触る言い方をする。が、たまにまともな事を言うから厄介だ。
一触即発な雰囲気を察したミハエルが深くため息をついた。

「うるさいよケイン。……確かにちょっと遅いね、僕屋敷の様子見てこようか?」
「いや、俺が行ってくる。主役はお前なんだからパーティーを楽しめ」

流石に新郎をこき使う訳にはいかない。
俺はそう言ってその場を離れた。

グラシャの今日の服装は俺がプレゼントした淡いブルーのドレス。清廉された彼女なら一目で分かるはずだが、パーティー会場に今のところグラシャの姿はない。

「アッシュ!」

不意に名前を呼ばれ振り返れば、数人の令嬢を引き連れたシルビアと出会う。
細身のシルバーのタキシードを着るシルビア、まるで今夜の主役は自分だと言っているような格好に思わず眉を顰めた。

「まぁ……やっぱりお似合いね」
「お二人とも素敵だわぁ」
「ねぇどっちがタイプ?私はシル様!」
「私はスプラウト様かしら」

こそこそと話す令嬢たち。睨みつける訳ではないが視線を送れば彼女たちはビクッと肩を跳ねさせその後静かになった。

「こらこら顔が怖いぞ?彼女たち、お前に怯えちゃってるじゃないか」
「関係ない。グラシャを見なかったか?」

周りの令嬢たちが俺をどう思おうが関係ない。
そう聞くとシルビアは少し考える素振りをした後、俺に向かってニコッと微笑む。

「グラシャ嬢なら知ってるよ。お前に愛想が尽きたと言って帰って行ったかな?」
「嘘をつくな」
「嘘じゃないさ。そうだな……いつまでも告白してくれない男よりもっといい男がいるからって、確かそう言ってたかなぁ」

その言葉にグッと拳を握る。
グラシャはそんな事を言わない、でも思い当たる節があるから全否定できない自分がいる。

「……なぁアッシュ、いい加減素直になれ」
「何がだ」
「お前が今日までグラシャ嬢に告白できない理由を教えてあげる。それはお前の心の中に別の相手がいからだ。その人を忘れようと無理矢理グラシャ嬢を好きだと自分に言い聞かせてるんだよ」
「……何の話だ」

シルビアは笑顔のまま俺に近づく。

「アッシュ、私はお前が好きだ」

目の前に立つシルビアは俺の頬に触れ微笑んだ。
遠巻きにそれを眺める貴族たちはざわざわと騒ぎ出し、令嬢たちは興奮気味に口元を押さえていた。

「幼馴染としてじゃない、一人の男としてだ。私ならお前のサポートも最大限に出来る。また昔のように一緒に過ごそう」

久しぶりに近距離で見たシルビアは、服装こそ男のようだがその瞳はまさしく欲にまみれた女だった。
シルビアを遠ざけていたのは身分の差があるからだけではない。いつからか彼女は今みたいに女の目で俺を見てくるようになった。恋愛感情を、欲情を含んだその視線がいつしか気持ち悪く思えて、だから俺は理由をつけて距離を置いた。
だが、そのはっきりしない態度が返って彼女を調子に乗らせることになってしまったんだろう。

「身分の差は私たちにとってそんなに大きな問題じゃないさ。一緒に乗り越えて……」
「さっきから何の話をしてるんだ」

気付けば腹の底から唸るような声が出ていた。

「え?」
「シルビア、お前はさっきから何を言っている」
「な、何って……私はお前の事を思って」
「ならば今すぐ離れろ。俺はグラシャを探しに行く」
「え……な、何それ……」

訳が分からないという表情のシルビア。口元は笑っているが、その目は完全に泳ぎ切っている。

「え?スプラウト様とシル様ってなんじゃないの?」
「そうだと思うけど……」
「だってシル様言ってたでしょ?」

「「「ノーストス嬢がいなければ、スプラウト様はシル様の元にやって来るって」」」

令嬢たちの言葉が聞こえた瞬間、何も言わずヘラヘラとし出したシルビアに詰め寄る。

「グラシャはどこだ」
「へ……?な、なんのことっ」
「とぼけるな。お前が彼女を連れ去ったんだろ」
「ち、違うよっ!私じゃ……わ、私の言うことを信じてよ!彼女はお前を置いて帰ったんだよ」

ガンっ!
シルビアを壁際まで追い詰め、その背後にある壁を思い切り殴りつける。大きな衝撃に外野の声はピタッと止んだ。

「え……え、アッ」
「俺の愛する人はどこだ。もし彼女に傷一つでも付けてみろ。その時は……」

お前を絶対に許さない。

耳元でそう告げれば、シルビアは膝から崩れるようにその場に座り込んだ。
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