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しおりを挟む「すごい……」
私は呆気に取られることしか出来なかった。
「つ、捕まるなら大体倉庫だろ!そんなの証拠にならないさ!」
「あらそうでしょうか。いずれにせよ、捕まえた犯人に問いただせばおのずと答えは出ますよ」
「か、彼女たちが裏切るはずが……」
「あら、犯人が複数人だと知ってらっしゃるの?」
エリザベスさんは言葉巧みにシルビア嬢を追い詰めていく。
対するシルビア嬢の顔色はとても悪く、焦ったように早口で言い訳する。でも……当然周りの反応は薄く、彼女が窮地に立たされているのは目に見えて分かった。
「もういい」
会場がシンとなる。
「アシュレイ様」
隣に立つアシュレイ様は真っ直ぐシルビア嬢を見つめている。
自分のピンチを助けてくれたアシュレイ様に気を良くしたのか、シルビア嬢は涙目になりながら小さく笑う。
「アッシュ……やっぱり助けてくれたんだね」
「シルビア=バレイン、スプラウト侯爵家の後継者であるこの私が命ずる。今すぐにグラシャ=ノーストスへの謝罪をしろ」
冷たい言葉にシルビア嬢の顔が一変した。
「な……なんで、」
「俺はお前の無礼を何度も見逃してきた。何故か分かるか?こんなんでも幼少期を共に過ごした仲間だと思っていたからだ。身分差なんて本当は気にせず良い関係を続けたかった」
「じ、じゃあ!」
「でもそれをお前が壊したんだ。分かるだろ?お前は幼馴染である事を利用し好き放題し過ぎた。グラシャへの無礼な言動もその内の一つだ」
冷静に、淡々と真実だけを話すアシュレイ様。
その表情は怒りでもなく、呆れている訳でもなく、ただ無表情で……余計に恐ろしさを強調させている。
するとアシュレイ様の横からミハエル様、そしてケインがやって来て同じくシルビア嬢を見つめた。
「シルビア、そう言うことだ。僕たちも親友であるアッシュとグラシャ嬢を苦しめるお前をもう見過ごせない」
「同感だ。覚悟決めろよシルビア」
「ミハエル……ケインまで、そんな……」
ぺたんとその場に座り込むシルビア嬢。そこにはかつて堂々としていた麗人の姿はない。
「スプラウト家はバレイン家との絶縁を宣言する」
「エマーソン家も同じく」
「ジェランダ家もだ」
沢山のゲストが見届ける中で三人ははっきりとそう告げる。その瞬間、会場には自警団がやって来て座り込むシルビア嬢を強引に立たせた。そして、自警団の何人かは人混みの中からある男女を連れてシルビア嬢の元へと戻ってくる。
「父さん……母さん、どうして」
「この馬鹿娘がっ!」
「なんて事を……シル、貴女ほんとに……っ!」
父親である男性は激昂し、母親である女性は涙を流しながら顔を押さえている。見るからに人の良さそうな二人だが奔放なシルビア嬢を見るからにきっと厳しく育てなかったのだろう。そのツケが今まとめてこの家族に回ってきたのだ。
「これが最後のチャンスだ。グラシャに謝れ」
鋭く睨み付けるアシュレイ様にシルビア嬢はビクッと肩を震わせた。きっとこんなに怒っている彼を見た事がないのだろう、それまで飄々としていた彼女の態度が素直になった。
「も、申し訳、ございませんでした……ノーストス、伯爵令嬢様っ」
シルビア嬢に深々と頭を下げられバレイン男爵夫妻も同じように私に向かって頭を下げる。一時は彼女を恨んだりもした。でも、今は特別怒りも何もない。それはきっと私が今アシュレイ様からちゃんと愛されていると自覚したから……心に余裕が出来たのかも知れなかった。
「……もう貴女にお会いする事はないでしょうが、お体を大切にお元気で」
私から掛けられる言葉はせいぜいこのくらいだ。そして三人は自警団に引き摺られるように屋敷から出て行った。
一気に静かになった空気。
ひそひそと小声で話していた噂好きの令嬢たちも、引き摺られるようにして退出した彼らを見て言葉を失っている。
「アシュレイ様……」
「グラシャ、君がいなくなったと分かって俺は本当に怖くなった。どんな強敵と対峙した時よりも自分が怪我をした時よりも。もうあんな思いはしたくない」
そっと私の手を取るアシュレイ様は苦しそうに笑いながらそっと引き寄せる。
「今ここで誓う。もう君に辛い思いはさせない」
「っ!」
「だから俺の側にずっといてくれないか」
アシュレイ様は真っ直ぐな人。だからこの言葉が絶対に裏切られないと知っている。
私は大きく頷き、彼の胸に顔を埋めた。
「さぁ皆さまっ!ちょっとしたハプニングがありましたがそれもまた一興、今宵生まれ変わった二人に盛大な拍手をお送りくださいませ!」
エリザベスさんの声にハッとする。
(そうだ、今パーティーの最中っ!)
つい二人きりかと思ってて……。
周りを見渡せばじぃーっと私たちを見た後、わっと言う歓声と共に沢山の拍手が聞こえる。
「おめでとうございますっ!」
「お幸せに!」
えっと……とりあえずは、大成功なのかしら。
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