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23 番外編(ある子爵令嬢の懺悔①)
しおりを挟む誰にだって知られたくない黒歴史がある。
私にとってそれは女学校時代、男爵令嬢シルビア=バレインに"恋"をしていたということだ。
貴族令嬢なんて窮屈で退屈。
うちみたいな可もなく不可もない子爵家でもお家のため幼少期から英才教育を受けてきた。より良い嫁ぎ先からの声を待ち、安定した生活を送るために。
そんな時にあの人に出会った。
美しくて、眩しいくらいキラキラした王子様。
中性的な顔立ちとすらっとしたスタイル。そこら辺の男よりもかっこいいその人はたちまち人気者になった。
男爵令嬢で身分は低いのにあんなにも自信に満ち溢れてるシル様に、私や他のファンの子は虜になった。シル様のためなら何だって出来る!どうせ将来好きでもない人と結婚するんだから、学生時代の思い出として甘酸っぱい大恋愛をしてみたかった。
そう、ただそれだけなのに……
*****
「ハハッ、君は本当に面白い女性だね」
そこは貴族の世界とはかけ離れた場所。
その界隈では有名な秘密のサロンには、私と同様に安定した道から外れた者たちが集まっていた。
家督争いに負けた次男坊、素行が悪い大商人の息子、出世街道からはずれた名家の息子。どれも2流と言われる訳あり物件。私はこんなクズたち相手に媚びを売り、自分を猛アピールしていた。
「喜んで頂いて嬉しいですわぁ」
社交界じゃ考えられない安っぽいドレスに身を包み猫撫で声で甘える。
「いやぁ!もっとお嬢さんの話を聞きたいなぁ」
「あら、ではまた明日も会って下さいます?」
「んー……じゃあ場所を移動しないかい?二人きりでじーっくり親睦を深めようよ」
鼻の下を伸ばしいやらしい手つきで腰に手を回す男に心の中で舌打ちをする。
(くそっ!こいつもワンナイト狙いか!)
こんな質の悪い出会いの場に来る女は大抵結婚に焦っている。令嬢は学校を卒業して3年以内に結婚が決まっていなければ、こいつらよりももっと酷い男のところへ嫁がないといけない。それだけは何とかして避けなきゃいけないのに!
(ここで自分を安売りする訳にはいかない……でも、こんな男でも一応伯爵家の三男坊なんだよね)
さっきからベタベタと触ってくる男の実家はそれなりに有名だ。家督は継げなくともきっと援助金や不自由ない生活ができるはず!
「ねぇねぇお嬢さん、どう?」
「えっと、その……」
「もうすぐ約束の3年が近いんだろ?こんな所で出し惜しみしてる余裕なんてないんじゃないのかい?」
男の言葉にカァっとなる。
(こっちが焦ってるからって馬鹿にして!)
ここにいる男たちは分かってるんだ、女たちに結婚をチラつかせればどうにでも出来ると。
「まぁ良いけどね俺は、別に男は無理に結婚しなくても生きていけるし。君じゃなくても他の女を娶れば良いだけだから」
「そ、そんなっ!」
たぶん今回を逃したらもう後がない。これがラストチャンスだと思って気合を入れていたのに……
「そうそう。今日は主催者が気を利かせて踊り子を呼び寄せたと言っていたなぁ」
「お、踊り子、ですか?」
「選りすぐりの美女らしい。平民の女は身を弁えてるからそっちの方がお手付きになるかもね」
ククッと下品な笑みを浮かべながら男は言った。
「嘘……っ!」
シャンっシャンっ
「ほら、来たみたいだよ。君もじっくり楽しんでから、今夜どうするか決めれば良いさ」
そう言って男は私の肩を抱きながらソファーにふんぞり返った。
扉が開き、次々と女たちが入ってくる。
彼女たちは下着のように薄い衣装を着て派手な化粧を施している。露出された肌と妖艶な表情に、その場にいた男たちは舌なめずりをしていて何とも気持ち悪い。そんな視線も気が良いのか、彼女たちは自慢の胸や腰を揺らしながらアピールしている。
(まるで娼婦みたいっ!下品な女ばっか……ん?)
ぞろぞろと集まる女たちの中で一人の女に目が止まる。背が高くてスタイルがいい、胸のボリュームはなくとも曝け出された脚がなんとも艶かしい。
そして、その顔は……かつて私が好きになった人と同じ顔をしていた。
「シル、さま……」
何でシル様がここに?!踊り子?!
バレイン男爵家が平民に下ったのは貴族界隈では有名な話。でも、まさか身売りをするほど生活に苦しんでいるとは思っていなかった。
(でもまずいわ、シルビア=バレインの名前は貴族世界では禁句に近しい。もし知り合いだなんてバレたら……)
それこそ、私は貴族で居られなくなってしまう。
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