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しおりを挟む「グラシャ、そろそろ家に送ろう」
いつものようにスプラウト家で夕食を頂いた後、デザートを食べ終わりお義母様と話していればアシュレイ様はそう声をかけた。
「あら、もうそんな時間?つい話し込んじゃったわ!グラシャちゃん、それじゃあこの話は明日ね」
「ええ、お義母様」
立ち上がり一礼をした後部屋を出る。
前を行くアシュレイ様を追いかけながら自分よりも大きな背中に抱きつきたい衝動を何とか抑え込む。
幸いにもここには誰もいない。
(……だめだめ、急にそんな事しては。ちゃんとエリザベスさんが教えた通りにしなきゃ。よしっ!)
「あ、あのっ!アシュレイ様」
「ん?」
振り返ったアシュレイ様と目がぱちっと合う。
「き、今日っ泊まって行ってはダメでしょうか?」
「…………」
私の言葉にフリーズするアシュレイ様。
(ついに言ってしまった!で、でも今日も結局二人きりには慣れなかったし、もっといっぱいお話したいし……となれば、やっぱりお泊まり会が一番だと思ったんだけど)
チラッと顔を伺えばアシュレイ様は気まずそうに口元を押さえている。
「ダメだ」
久しぶりに聞いた低い声。この声は……ちょっと怒ってる時の声だ。
「あ……そ、そうですよね!私は一体何を」
「グラシャ」
「忘れて下さい!つい調子に乗ってしまって、アシュレイ様だってお疲れなのに私がいたら休めませんものね!」
勇気を出した、でも断られてしまった。それがとてつもなく恥ずかしい。
アシュレイ様を追い越すように早足で屋敷を出た。
「グラシャ」
「見送りは結構です!ちゃんと一人で帰れますので」
「話を聞いてくれ」
屋敷の外はもう暗くなっていて、灯りがぼんやりとついたここなら私の顔はアシュレイ様に見えないだろう。きっと恥ずかしさで真っ赤になってしまっているはずだから。
馬車が待っている正門までの道をひたすら早足で抜けていくが、あと少しのところでアシュレイ様に腕を掴まれてしまった。
「待ってくれ、グラシャ」
「っ……は、離してください」
「ダメだ」
こうなった時のアシュレイ様はしつこい。それは私がよく知っている、知ってるけど……。
「……二人きりになりたかったんです。やっと貴方と気持ちが通じ合ったのに、その、距離が縮まっていないみたいで嫌だったんです」
ぽつぽつと呟く。
正直に自分の気持ちを伝えること、それが一番大切で一番難しい。
「私に触れるのは嫌ですか?」
「グラシャ……」
「わ、私は好きですっ!あったかくて、幸せで、もっとアシュレイ様の知りたくて」
「頼むから」
腕をぐっと引かれれば、ぽすんとアシュレイ様の胸に飛び込んだ。久しぶりに伝わる感触と温度に訳が分からず顔を上げようとするものの、またぎゅっと抱き締められてしまう。これだとアシュレイ様の顔がちゃんと見えない。
「これ以上可愛いことを言わないでくれ」
「あ、アシュレイ様……?」
「こっちは理性を保つのに必死なんだ。今だって……本当は帰したくないのに」
いつもの余裕ある声とは違い、何とか絞り出しているみたいな苦しい声が聞こえる。つまり……嫌われてる訳じゃないってこと?
何とか抜け出し見上げれば、アシュレイ様の顔は私と同じくらい真っ赤に染まっていた。
「グラシャ」
「んっ」
頬に両手が添えられ、ゆっくりと唇が重なる。
「愛してる」
「っ!」
「結婚したら覚悟してくれ。これでは済まさない」
「なっ!」
ニッと笑うアシュレイ様に心臓がバクバクと脈打った。何か企んでいるかのような、そんな意地悪な笑顔がたまらなくカッコいい。
(アシュレイ様も同じ気持ち、だったのかしら)
だとしたら良かった、ちゃんと自分の気持ちを伝えて。はっきり言っていなければ今ごろすれ違ったままだったかも知れない。
「……ふふっ」
「?何がおかしいんだ」
「いえ、嬉しくて。同じ気持ちでいてくれたのですね」
「あまりからかうな」
「からかってませんよ」
「からかってる」
「からかってません」
「いや、絶対からかっている」
「もう!頑固なんだから」
懐かしいやり取りに私たちはまた同時に笑い出す。
ゆっくりでも良いから自分の気持ちをちゃんと伝えていこう。不器用で真面目な彼ならきっと私の言葉を聞いてくれる。
そして本物の夫婦になっていきましょうね。
*****
本編は一度完結です。
ざまぁメイン(シルビア目線、他令嬢目線など)の話を数話更新します。
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