【完結】貴方が幼馴染と依存し合っているのでそろそろ婚約破棄をしましょう。

文字の大きさ
4 / 22

しおりを挟む

私とヴィンセントの結婚は、ある条件を飲むことで両親に許された。

一つは、絶対にこの関係をキュレッド家には知られないようにすること。
そしてもう一つは、アルバートとエマの不貞行為を掴むこと。

「この国じゃ通常は婚約破棄を申し出た側が賠償金を支払う義務になっている。しかもその額は相手の言い値……つまりこちらから婚約破棄を言い渡せば、アルバートが我々に多額の賠償金を請求する事が出来るんだ」

お父様は私に向かってそう説明した。

「でもそれには一部例外がある。それは不貞行為による婚約破棄。婚約破棄を受けた側が不貞行為をしたと認めたのなら宣告した側の賠償責任は棄却、むしろ慰謝料を貰えるんだ」
「それじゃ慰謝料のために証拠が必要ってこと?」
「それだけじゃないの。不貞行為により婚約破棄を受けた貴族は、生涯結婚する事が出来なくなるのよ」

お母様はニコッと微笑んで言った。

「貴族の結婚は家同士の繋がり。それを裏切った者はその後の伴侶はもちろん、後継者となる子供すら作る権利を奪われるの」
「そうだったんだ……」

(意外と深いわね、結婚って)

「ちゃんと手順を踏んで婚約を破談にしたり離縁したりするのは問題ないけど」

お母様はどこか楽しそうに話していた。

「アルバートが不貞行為で婚約破棄を言い渡されれば、キュレッド家の継承権は俺だけになる。もしそこで俺が継がないと言い出したら……分かるよね?」
「……うん」
「キュレッド家は爵位を王家へ返さなくてはならない。養子を取る事も出来るけど、今のキュレッド家の財政状況じゃまず無理だろう」

ハァとため息をつくヴィンセント。

(そうね。ロットバレン家に頼りっきりのキュレッド家が、そもそも自分たちの力で今から建て直すのは厳しいかも)

「あの人たちは俺が家を継いで贅沢三昧な隠居生活を送るのが夢だから、この計画が知れたらかなり荒れるだろう」
「だから内緒なの?」
「ああ、君に何をするか分からないからね」

ヴィンセントは私の顔を見れば困ったように笑う。

「大丈夫、君は俺が守るよ」

優しくて低い声に思わず顔が赤くなった。

(色んな事が起こりすぎて分かってなかったけど……私、あのヴィンセントの結婚するのよね?)

やっと落ち着いてきた私はようやく自分とヴィンセントとの結婚について自覚する。
ヴィンセントは令嬢たちの憧れの人だ。
貴族学校でも成績優秀、剣の腕もたつ、そして何よりその容姿。一言でいえば「完璧」だ。そんな彼の相手ともなれば並の令嬢じゃ恥をかかせてしまう。

(本当に私で良いのかしら……)

「では、明日よりアルバートの周辺を探らせよう。それとラングレー家の方も」
「証拠の方は任せて下さい。ちょっと面白いものを他国から持ってきてるので」

お父様に向かってヴィンセントは言う。

「そうなの?何?」
「ん?教えない、とにかく任せて」

ニッと意地悪く笑う。
そんな表情に訳が分からないまま小さく頷いた。





*****


「すまない、わざわざ見送りまでしてもらって」
「ううん。少し外の空気も吸いたかったから」

しばらくして屋敷に戻るヴィンセントを馬車まで見送りに出る。
外はすっかり暗くなって空気も少し冷たかった。

「何だか大変なことになってしまったわ」
「君が気にやむ必要はない」
「でも……私とアルバートの問題なのに自分一人で解決も出来ないなんて、公爵令嬢として失格よ」

馬車へと向かう道中、私は思わず呟いてしまう。
弱音を吐く自分すら情けない。
必死に勉強して、仕事もちょっとずつ覚えて、なのに精神はまだ子供。
俯く私の頭にポンと手を乗せられる。

「シャロン、君にとって俺はどんな風に見える?」
「えっ……と、ヴィンセントはいつも優しくて、大人で、スマートで、みんなの憧れで」
「凄く褒めてくれるんだね。……ありがとう、でもそんなに出来た人間じゃないんだよ」

温かい手が頭から頬へと滑る。

「好きな子が誰かのものになったら嫉妬するし、好きな子を悲しませる存在があるなら全力で排除する」
「ヴィンセント……」
「それが親であろうと、弟であろうと、友人であろうと手は抜かない」

スッと細くなる視線にビクッと肩が跳ねる。

(こんなヴィンセント見たことない……怒ってる、のかな?)

ヴィンセントは滅多に感情を表に出さない。
いつも穏やかな表情をしてて誰にだって優しい、私にとってはいいお兄さん的ポジションだ。

「シャロン」

指先は毛先へと移動しひとつまみ掴むとヴィンセントはそっとキスを落とす。

「好きだよ」

低く甘い声で囁かれる。その瞬間、私の顔が真っ赤に染まっていくのが分かった。

「わ、私は……っ!」
「無理して言わなくてもいいよ?正直ロットバレン公と夫人に君の気持ちを無視して先に結婚宣言したのは我ながらかなり卑怯だと分かってるから」
「っ……ヴィンセント、」
「全部終わって落ち着いてからで良い、その時に君の気持ちを聞かせて」

言葉に詰まる私を見て何かを察したのか、ヴィンセントはまた困ったように笑いポンポンと頭を撫でた。

今の私はアルバートの婚約者。
気持ちを伝える事も、受け入れる事も反則だ。
だから全部終わったら、ケジメをつけたらその時にちゃんと自分の気持ちを伝えよう。

「……ありがとう、ヴィンセント」
「こちらこそ」

そして私たちは迎えの馬車の前まで歩く。乗り込んだヴィンセントに小さく手を振った。

「おやすみなさい」
「おやすみシャロン、いい夢を」

そして馬車はゆっくりと離れていく。
私はそれを見えなくなるまでずっと見送った。


(アルバート……貴方は今、何をしているの)

彼が来なかった今日、何もかもが動き出した。
私とアルバートの関係も、ヴィンセントとの関係も、ロットバレン家とキュレッド家の関係も……

「……大丈夫、きっと全部上手くいくわ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

完結 冗談で済ますつもりでしょうが、そうはいきません。

音爽(ネソウ)
恋愛
王子の幼馴染はいつもわがまま放題。それを放置する。 結婚式でもやらかして私の挙式はメチャクチャに 「ほんの冗談さ」と王子は軽くあしらうが、そこに一人の男性が現れて……

あなたのことなんて、もうどうでもいいです

もるだ
恋愛
舞踏会でレオニーに突きつけられたのは婚約破棄だった。婚約者の相手にぶつかられて派手に転んだせいで、大騒ぎになったのに……。日々の業務を押しつけられ怒鳴りつけられいいように扱われていたレオニーは限界を迎える。そして、気がつくと魔法が使えるようになっていた。 元婚約者にこき使われていたレオニーは復讐を始める。

【完結】私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜

くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。 味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。 ――けれど、彼らは知らなかった。 彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。 すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、 復讐ではなく「関わらない」という選択。 だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。

[完結]婚約破棄してください。そして私にもう関わらないで

みちこ
恋愛
妹ばかり溺愛する両親、妹は思い通りにならないと泣いて私の事を責める 婚約者も妹の味方、そんな私の味方になってくれる人はお兄様と伯父さんと伯母さんとお祖父様とお祖母様 私を愛してくれる人の為にももう自由になります

比べないでください

わらびもち
恋愛
「ビクトリアはこうだった」 「ビクトリアならそんなことは言わない」  前の婚約者、ビクトリア様と比べて私のことを否定する王太子殿下。  もう、うんざりです。  そんなにビクトリア様がいいなら私と婚約解消なさってください――――……  

婚約破棄に、承知いたしました。と返したら爆笑されました。

パリパリかぷちーの
恋愛
公爵令嬢カルルは、ある夜会で王太子ジェラールから婚約破棄を言い渡される。しかし、カルルは泣くどころか、これまで立て替えていた経費や労働対価の「莫大な請求書」をその場で叩きつけた。

【完結】要らないと言っていたのに今更好きだったなんて言うんですか?

星野真弓
恋愛
 十五歳で第一王子のフロイデンと婚約した公爵令嬢のイルメラは、彼のためなら何でもするつもりで生活して来た。  だが三年が経った今では冷たい態度ばかり取るフロイデンに対する恋心はほとんど冷めてしまっていた。  そんなある日、フロイデンが「イルメラなんて要らない」と男友達と話しているところを目撃してしまい、彼女の中に残っていた恋心は消え失せ、とっとと別れることに決める。  しかし、どういうわけかフロイデンは慌てた様子で引き留め始めて――

今から婚約者に会いに行きます。〜私は運命の相手ではないから

毛蟹
恋愛
婚約者が王立学園の卒業を間近に控えていたある日。 ポーリーンのところに、婚約者の恋人だと名乗る女性がやってきた。 彼女は別れろ。と、一方的に迫り。 最後には暴言を吐いた。 「ああ、本当に嫌だわ。こんな田舎。肥溜めの臭いがするみたい。……貴女からも漂ってるわよ」  洗練された都会に住む自分の方がトリスタンにふさわしい。と、言わんばかりに彼女は微笑んだ。 「ねえ、卒業パーティーには来ないでね。恥をかくのは貴女よ。婚約破棄されてもまだ間に合うでしょう?早く相手を見つけたら?」 彼女が去ると、ポーリーンはある事を考えた。 ちゃんと、別れ話をしようと。 ポーリーンはこっそりと屋敷から抜け出して、婚約者のところへと向かった。

処理中です...