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しおりを挟むあの夜から色んな事が変わった。
エマ=ラングレーの存在が貴族界隈に知れ渡り、彼女を寵愛するアルバートへの風当たりが強くなった。そしてキュレッド夫妻は二人の不穏な噂を払拭する作業に奔走しているらしい。
(でもあんな大勢の前で失態を晒したんだもの、二度と社交界には呼ばれないでしょうね)
対する私とヴィンセントの株は急上昇。
特にヴィンセントはそんな二人から私を救い出したヒーローとしてますますファンを獲得。いつも優しくて紳士な彼が見せた冷たい表情と厳しい態度に、令嬢たちはもっとのめり込んでいった。
そんな事もあり、今ではヴィンセントと会うのに周りの目を気にする事がなくなった。
「シャロン、この間言っていた取引だけど今朝連絡があって快く引き受けてくれるそうだよ」
「あら、随分早い返答で助かるわ。すぐに手続きを進めて準備しましょう」
執務室でデスクに向かう私と書類を渡すヴィンセント。最近は公爵家の仕事も波に乗ってきている。
(それもこれも全部ヴィンセントのおかげね)
おかげでロットバレン家はより短期間で一層大きく成長していた。
「ねぇヴィンセント」
「ん?」
「あれから……アルバートはどうしてるの?」
ピタッと動きが止まる。
あれからアルバートは学校にも来なくなった。
噂によれば街に出たりしているみたいだけど私と会う事はなくなった。一度彼の様子が気になりキュレッド家を訪れたが、キュレッド夫人に嫌な顔をされ半ば強引に帰らされたのだ。
(よっぽど可愛がっている息子に恥をかかせた事が気に入らないみたいだったわね)
「さぁ?家には居ないみたいだからきっとラングレー家に入り浸ってるんじゃないかな」
まるで他人事。
「ほら、俺あの人たちと話をしないから」
「……そんなあっさりと」
「今に始まった事じゃないよ」
ニコッと笑うヴィンセントが怖い。
ヴィンセントの話が本当なら、きっとキュレッド夫妻も焦っていると思う。せっかく火消しに回っているのに、元凶であるアルバートがラングレー家に居座っていれば元も子もない。
コンコン
「失礼致します。キュレッド伯爵夫妻がお見えで御座います」
まるでこの会話を聞いていたかのようなタイミングで侍女が部屋に入ってくる。
チラッとヴィンセントの顔を見ればあからさまに嫌な顔をする。どうやらここに来るとは聞いていなかったみたい。
「……お通しして」
「はい」
「ロットバレン公がいない時に来るなんて何企んでるんだろうな」
「分からない、でも追い返す訳にいかないでしょ」
私たちは夫妻が待つ応接室へと向かった。
*****
「これはこれはシャロン様!」
「あら、ヴィンセントもいたのね!」
現れた私たちに夫妻は立ち上がり目を輝かせる。そして隣に立つヴィンセントを見て一瞬驚くも、特に気にした素振りもせず挨拶した。
「……本日、お父様は王宮に出向いておりますので私がご対応いたします」
突然の訪問でしたので。
嫌味たっぷりにそう言えば二人は冷や汗を流しながらも笑みを浮かべていた。
「は、ははっ……いやいや申し訳ない」
「それでご用件は何でしょう」
「あ、ああ。実は今日きたのはいくつか尋ねたい事があって」
キュレッド伯爵はチラリとヴィンセントの顔を見る。
「その……ゔ、ヴィンセントはいつまでここに?」
「聞かれては何かまずい話をするんですか?」
「いやっ、その!」
動揺の仕方が尋常じゃない。
けどヴィンセントも譲るつもりはないのか、私の隣に座り睨むようにして二人を見ていた。
(実の親子なのに力関係が逆ね)
「そ、その……昨日ラクワ商会に出向きまして。その時に何着か服を見に行ったのですが……最近、取引をお止めになったのかと」
「……?」
「いえそのっ、店主に公爵家の名前を出しても、えっと……意味を分かっていないような素振りでしたので」
ああ、なるほど。
不自然な話し方と態度に納得がいった。
つまり、ロットバレン家の名前を出しても商品を貰えなかったって事を言いたいんだ。
(彼らがうちの名前を使ってタダ同然で買い物をしているのは知っている。それに対してお父様が対応したことも……わざわざお父様がいない時に来るなんて何て卑怯なのかしら)
私やお母様なら言いくるめてもう一度美味しい思いが出来ると思ってる。その浅ましさがアルバートそっくりだった。
「ラクワ商会はうちの得意先です。事情が分かりませんが取引を中止する事はあり得ません」
「そ、そうですか……では何故あんなことに、」
「そうそう。そう言えば最近私たちの名前を語り商品を奪っていく輩がいると報告が届いていました」
「!!!」
「お二人もお気をつけ下さいね」
視線を合わせず言う。二人は顔を見合わせそれ以上は何も言ってこなかった。
「で、他には何か?」
「え、ええ。あのね、アルバートとの結婚をすぐにでも進められないかしら」
「は?」
危ない、つい心の声が漏れ出てしまった。
「……結婚は私たちが貴族学校を卒業してからという約束だったと思いますけど」
「そうなんだけどね、なるべく早い方がいいと思うのよ。シャロンちゃんも今お仕事手伝ったりして充分自立も出来ているし、それに子供を作るなら早い方が良いでしょ?」
夫人はニコニコと笑いながら喋る。が、それと並行して私のテンションはどんどん下がって行く。
(え、気持ち悪い……ラングレー嬢との関係をうやむやにしてさっさと結婚させるなんて)
ひた隠しにしながら話す二人に呆れてしまう。
「それがいい!あいつもちゃんと公爵としての自覚を持たせねばならんしな!」
「ええ、そうしましょう」
「……お言葉ですが、結婚の話は保留にさせて下さい」
二人の笑い声がピタリと止まる。
「え……い、今なんて」
「ですから保留にと」
「何を今更!」
「お二人こそラングレー嬢とアルバートの関係を分かっててそう仰ってるんですよね」
「……何のことかしら」
しらを切り通せるつもりかしら。
「アルバートに不貞の疑惑がある以上、この結婚を簡単に進める訳にはいきません」
ロットバレン家の当主は今いない。
だからこそ、私が毅然とした態度で彼らに立ち向かわないといけないのだ。
「後日、アルバートとラングレー嬢も交えてお話しましょう。全てはそこで決着つけます」
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