【完結】貴方が幼馴染と依存し合っているのでそろそろ婚約破棄をしましょう。

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はっきりと言い放つ私に対し、キュレッド夫妻はわなわなと震え顔を真っ赤にさせた。

「自分が何を言っているのか分かってるのか!」
「キュレッド伯爵こそお分かりですか?私はロットバレン公爵令嬢です、いくら小娘とはいえ立場は貴方よりも上ですよ」
「っ!!」
「ご自分の立場を弁えて下さい」

伯爵の顔がますます赤くなる。
息子と同い年の女に叱られてしまえば誰だってそんな顔をするでしょうね。

「し、シャロンちゃん!どうしてそんな意地悪なことするの?私たち何か貴女が嫌がるようなことしたかしら」

話しかけてくる夫人にますます嫌気が差す。

(本当に何にも分かってないのね)

「……キュレッド伯爵夫人、私のことは公爵令嬢とお呼び下さい」
「えっ」
「結婚前なのに母親のように接してくる貴女の態度に前々から疑問を持っていました。婚前である今、私と貴女の関係は公爵令嬢とただの伯爵夫人です。私の名前を気安く呼ばないで下さい」
「なっ……っ!」

我ながら非常だとは思う。でもこれが普通なのだ。
一瞬にして凍りつく空気の中、キュレッド伯爵はハハハと乾いた声で笑う。

「も、申し訳ありませんでした……公爵令嬢。しかしながら保留ともればロットバレン公の許可が必要ではないでしょうか」
「そ、そうですよ!一存でお決めになっては……」
「父からは好きにする様にと言われていますから」

ピシャリと言い切る。
伯爵は焦りながらも口元をニヤッと歪めた。

「……ならば貴女様は当然知っていらっしゃるのですよね。もし婚約破棄となった場合の賠償責任を」

(やはり気にするところはそこなのね)

多額の賠償金。
恐らく彼らは金さえ入ればこんな結婚どうでもいいんだろう。その口ぶりはまさにそう言っているようだった。

「……もちろんです」
「賠償金は基本上限なし!つまり、私たちは好きな金額を公爵家に請求できる!」
「まぁそういう事になりますね」
「ハハッ!そのお言葉、決して忘れないで下さいよ」

勝ち誇ったように笑う伯爵と夫人。

(二人は私が婚約破棄についてよく分からず先走ったと思ってるんだわ。……あの顔、もう自分たちの勝ちを確信してるもの)

「そうと決まればもう話は済みました、ロットバレン公爵にも宜しくお伝え下さいな!」

そう言って二人は足早に屋敷から出て行った。

「………」
「………」

残された私とヴィンセントはお互い顔を見合わせる。

「……何というか」
「うん」
「「すっごく疲れた」」





*****

その日の夜、戻ってきたお父様とお母様に一連の流れを報告する。

「そうか、キュレッド夫妻が……」
「ええ。恐らく私たちの話に乗ってくると思います、あの様子じゃ結婚を進めるよりも賠償金を貰う方が簡単だと判断したのでしょう」

今頃二人は賠償金の額について綿密に打ち合わせしているだろう。

「何と愚かな。自分たちに一切非がないと何故思えるんだろうか」
「きっと……証拠が出てこなければ何とでも言い訳出来ると思ってるのよ。不貞の証拠を確実に掴んだ者は今までいないから」

お母様は困ったように言う。

実際のところこの法律が真っ当に施行された例は少ない。不貞の証拠とは、情事中、その場に婚約者本人と証人となる第三者が居合わせる事が条件となるからだ。

(つまり、アルバートとラングレー嬢の浮気現場に、私ともう一人が飛び込んでいくしかない)

しかも証人には近親者は含まれない。
お父様やお母様、ヴィンセントが一緒に目撃したとしてもそれは認められないのだ。

「使用人を同行させたとしても100%の非を認めさせるのは困難だ。ヴィンセント、準備はちゃんと出来ているんだろうな」

お父様は正面に座るヴィンセントに言う。

「ご安心下さい、既に証拠は揃っていますから」
「えっ?!」
「本当か?」
「はい。なのでいつでも動けますよ」

ヴィンセントはニコッと笑いかけた。
訳が分からず彼を見れば、いつもと同じように優しく微笑んでくれた。

「それよりも、此度は身内が本当にご迷惑をおかけしました。あれが親とは……恥ずかしい限りです」
「気にする事じゃない、本当に君は良くやってくれているじゃないか」
「そうよ。それに、シャロンの事だっていつも助けてくれるわ」
「お、お母様っ!」

飲んでいた紅茶を吹き出しそうになる。

「ハハッ、愛する人を守るのは当然ですから」
「ちょっ!」

恥ずかしげもなくさらっとヴィンセントは言う。

(この人は本当にっ!)

今、私の顔は真っ赤になっているはずだ。
頬を両手で押さえれば、お父様もお母様もニコニコと温かい眼差しで見てくる。逆にそれが恥ずかしさを倍増させてるんだけど……

「では話し合いは後日、こちらからキュレッド家に伝えよう。シャロンもヴィンセントもそれでいいね?」
「「はい」」

コクンと頷く私たちにお父様は笑いかけた。
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