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しおりを挟むそしてついに私たちは約束の日を迎えた。
「キュレッド伯爵夫妻、アルバート様、エマ=ラングレー男爵令嬢をお連れ致しました」
侍女に連れられてやって来た彼らは遠慮する事なくズカズカと私たちの前に現れた。
(アルバート……何だか痩せたかしら)
久しぶりに会ったアルバートは夜会で会った時よりも痩せ細り、顔色も何だか良くなかった。そんな彼の腕にはラングレー嬢がべったりとくっついている。
あくまで身分の上の私たちに見せる態度ではない。
「ご無沙汰しておりますなロットバレン公爵様!」
キュレッド伯爵はニコニコと上機嫌で話しかけてくる。自分たちには非がない、そんな堂々たる態度にお父様の顔がどんどん険しくなっていった。
「……立ち話もなんだ、そこに掛けてくれ」
ソファーへと促せばアルバート以外は平然と座ろうとする。だが、アルバートは気まずそうに目を泳がせなかなか座ろうとしなかった。
「アルバート?」
「っ、あ」
「どうしたの?早く座って」
「……う、うん」
明らかに挙動不審な態度。
訳が分からないまま私も座った。
「本日はお呼び立てして申し訳ありません。とても大事な話を皆様に聞いて頂きたく思いまして」
「シャロン……?」
「アルバート、貴方との婚約を破棄致します」
呆気に取られたままのアルバートに言い放つ。
キュレッド夫妻は想定内だったのか特に驚いた様子はない、だがラングレー嬢はアルバート以上に驚いた顔をしていた。
「シャ、ロン……なぜ」
「何故?それは貴方が一番よく知ってるでしょ?」
「はぐらかさないでくれよ!婚約破棄って……そんな今更」
今更というフレーズが引っかかる。
何だがこっちが一方的に悪いみたいな言い方。
「今更じゃないわ、ずっと前から思っていたの」
「シャロン」
「ねぇアルバート、貴方、うちから多額の援助金を貰ってたわよね。あれ何に使ってたの?」
「っ……あれは」
アルバートは口籠る。
援助金とは本来、財政難である家が後継者以外を嫁や婿に出しその嫁ぎ先より受け取る金だ。自分たちの子供を金で売る、そう思われないよう私的には使わずその殆どが家を建て直すため領民たちの救済に充てられる。キュレッド伯爵が持つ領地はここ最近不作が続き、領民達はみんな貧しく暮らしていはず。
なのに伯爵たちは今まで以上に贅沢な暮らしをしていた。そんなの許される訳がない。
「キュレッド伯爵、お応え下さい」
「……はて、何に使ったか忘れましたな」
「ならば私がお教えしましょう。オーダーメイドのドレスに宝石、有名パティスリーのケーキや高級茶葉。アンティーク家具など……どれもここ不必要な出費だとは思いませんか?」
事前に用意していた明細書を彼らの前に出す。
「っ!貰ったものをどう使おうと我々の勝手ではありませんか!」
「確かに。ですがそのお金がある人物に使われていたとなると話は別です」
「ある人物?」
「ええ。アルバート、ここ最近貴方名義でオーダーメイドドレスを買ったわね。これは誰にあげたもの?」
「誰って……エマに」
そこまで話した後、ハッとして口を塞ぐ。
「そうね、これもこれも全部女性もの。ロットバレン家からのお金が婚約者ではない女性への貢物に使われている証拠になるわね?」
「!!!」
キュレッド家が他人であるラングレー嬢へ物を与えている。彼らの純粋な資金であれば問題はないけど、それがロットバレン家からの援助金となれば話は別だ。
(ただでさえ今、アルバートとエマの関係はグレー。更に物品を与えていたとなると、その関係は単なる幼馴染とは言いにくいでしょう)
「シャロン……僕とエマは、幼馴染で」
「ならこれは何かしら」
「それは、ほら、ただのプレゼントだよ。エマは滅多に買い物に行けない体なんだ、たまには贅沢をさせてあげたくて」
「貴方は婚約者である私には一つもプレゼントした事ないくせに、ずいぶんとお友達想いなのね」
なんて苦しい言い訳。
(まさか明細を手に入れてるとは思ってなかったんでしょうね)
根回しは十分されていた。が、資金の流れを確実に潰していくのはそう難しい事じゃない。
「シャロン様、一つ宜しいですか?」
「……何かしら」
それまで黙っていたラングレー嬢が控えめに手を挙げる。
「何が誤解をなさってる様子ですわ」
「……誤解?」
「ええ。私とアルはあくまで幼馴染、シャロン様は一体何をそんなに躍起になられているのでしょう」
クスクスと笑う彼女に眉を顰めてしまう。
この期に及んでまだそんな事を……。
「アルは優しい人です。貧しい私に沢山のプレゼントをくれた、ただそれだけなのです」
「……だとしても尋常じゃない数の贈り物よ。普通の友人関係だけだったとは考えられないわ」
「いいえシャロン様、私たちの間に恋愛感情は決してありません。友人として、彼はいつも私にとても優しいだけですわ」
ふふっと勝ち誇った笑み。
アルバートも助け舟が来たと思いホッとした顔をする。
「そうだよシャロン、僕とエマは友達だ。なのに君はいつも僕たちの関係を怪しんでばかりだね」
「……」
「エマは体が弱く、そして貧しいんだ。そんな彼女を助けて何が悪いんだ?」
完全に開き直った態度に怒りが込み上げる。
お父様もお母様も、私が黙って見守っててと言ってあるため口は挟んでこない。でもその顔は物凄い怒っているようで……
「ハハッ、アルバート許してあげなさい。公爵令嬢だってヤキモチくらいは妬いてしまって当然だ」
「そうよね!エマちゃんは美人だから嫉妬してしまうのもしょうがないわ」
「まぁ、おじさまとおばさまったら!」
和気あいあいとした雰囲気。
彼らは余裕そうに笑いながら言った。
「シャロン」
散々笑った後、アルバートは立ち上がりポンと私の肩を叩く。
「早とちりするのは君の悪い癖だ。こんなものだけで人を疑うなんて良くないよ」
「アルバート……」
「今なら許してあげるから、僕とエマにきちんと謝ってごらん」
「謝るのはお前たちだろ?」
部屋の扉がゆっくりと開く。
現れた人物の姿に、それまで勝ちを確信していた彼らの顔が一気に青くなっていった。
「兄さん」
そこには、腕を組み彼らを真っ直ぐ睨みつけるヴィンセントがいた。
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