【完結】貴方が幼馴染と依存し合っているのでそろそろ婚約破棄をしましょう。

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鬼のような形相でゆっくりとこちらにやって来るヴィンセントに、キュレッド夫妻もアルバートもごくりと生唾を飲み込む。唯一彼の恐ろしさに気付いていないのは、能天気に笑っているラングレー嬢くらいだった。

「ヴィジー、貴方からもシャロン様に言ってよ。私たち3人はただの幼馴染ですごく仲が良いだけだって」
「お前まだそんな事言ってるのか」

呆れながら深くため息をつく。

「エマ、本当のことを言え」
「なぁに?」
「お前らの関係がただの友人関係じゃないなんて、この場にいる全員知ってんだよ」

厳しく問い詰められても飄々とするラングレー嬢。対するアルバートは明らかに動揺していた。

「アルバート」
「っ……はい、」
「最後のチャンスだ。全てを打ち明け、心の底からシャロンに謝れ」
「……ぼ、僕は謝るような事をしていません。シャロンも兄さんも何か勘違いなさってるんですよ」

声を震わせながら笑うアルバート。
ヴィンセントの目が見据えるようにすぅと細くなる。

「そうか、わかった」

そう言ってヴィンセントはパンと手を叩く。
すると、数人の侍女たちがぞろぞろと部屋に入ってきて、何やら大きな機材をセットし始める。

「ヴィンセント、これは一体……」
「これは東洋の国に出向いた際に購入したものです」
「えっと……それが今何の関係があるんだ?」
「知っていますか、その国はとても小さいですが科学や工業が我が国よりも格段に進歩しているんです」

ガチャガチャと何やら動かす侍女たち。

(小さな箱……あれはレンズ?)

壁に向けられたレンズも小さいが透き通っている。この国には出来ない技術が垣間見えた。

「物事を静止画として残す写真機とは違いこれは映像として残すもの。音も、動きも、何もかもが記録される」

設置が終われば侍女たちはカーテンを引き部屋が真っ暗になる。想像も出来ない展開にキュレッド夫妻もアルバートも困惑していた。

「兄さん、これは一体……」
「お前が言う勘違いを、この場ではっきりさせよう」

ガチャリ

ヴィンセントが何やらスイッチらしきものに触れると、真っ暗だった部屋がぼんやりと明るくなっていく。光はレンズを通して壁一面を照らし、その真っ白な壁には鮮明に何が見える。

「これは……」

壁に映し出されたのはアルバートの部屋だった。
過去に一度訪れたことのあるその場所、ベッドの位置やデスク、ソファーまではっきりと分かる。

「僕の部屋だ……でも何で、」
「問題はこれからだ」

それまで稼働する機械音しかしなかった箱からガチャリと大きな音が聞こえる。

『最低な気分だわ!』

「これ……私の声…」

ラングレー嬢は映像を見ながらポツリと呟く。
見れば真っ赤なドレスに身を包んだラングレー嬢がキャンキャンと騒ぎながらアルバートの部屋にいた。

(あの夜会の日だわ……そっか、ヴィンセントが言っていたのってこれだったんだ)

ヴィンセントの作戦は東洋から持ってきたこれを使い、二人の様子を隠し撮りするために屋敷から彼らを追い出させたのね。

この場にいる全員がそれに注目する。
キュレッド夫妻も何が何だか分からない顔をしていたが、ただ一人アルバートだけが徐々に顔を青くしていた。

『エマが一番可愛いし、僕はエマが大好きだよ』

優しくて甘いアルバートの声。

(こんな言葉、かけてもらった事ないわ……)

暗い部屋に映し出されるのは甘い言葉をかけながら口付け合う二人。次第にそれは深みを増し、ついにはソファーへとなだれこむ。

「あぁ……やめてくれ、もう……」

真っ青になりながら頭を抱え込むアルバート。

「……キュレッド伯爵、これは一体どういう事かな」
「いや、えっと……っ!」
「あらあら、随分とはしたないですわ。ねぇ夫人?」
「な、な、何かの間違いですわ……」

笑顔のままキュレッド夫妻を追い詰めていくお父様とお母様、当然この事態を知らなかった二人は汗をだらだらと流しながらも息子の痴態を目の当たりにする。

「止めてっ!止めてよヴィジー!」

立ち上がったラングレー嬢は目にいっぱいの涙を流し、真っ赤な顔のまめヴィンセントに詰め寄る。が、彼は興味なさそうにラングレー嬢を遠ざけた。

(無理もないわ、こんな醜態を大勢の前で晒されたら誰だって恥ずかしくて死にそうだもの)

「どうしたエマ、何が嫌なんだ」
「っ!」
「お前たちはただの幼馴染なんだろ?姿をたっぷり見て行けよ」
「っ……ひどい!」
「何が?何もやましいことはない、そう言い切ったのはお前たちだろ?」

アルバートとラングレー嬢の情事は激しさを増し、聞くに耐えない彼女の声が部屋中に響き渡った。

「……ヴィンセント、もういいわ」
「そうかい?」
「ええ、ありがとう」

再度ボタンを押せばまた部屋が真っ暗になった。
侍女たちがゆっくりとカーテンを開けていき、ようやく全員の顔がはっきりと見えるようになる。

放心状態のキュレッド夫妻、ソファーの上で耳を塞ぎながら蹲るアルバート、ヴィンセントの足元で泣き崩れるラングレー嬢。
地獄のような光景が目に飛び込んできた。

「当然これは都合よくこちらが加工する事は出来ない、正真正銘の真実を映したものだ。不貞行為を示すには立派な証拠として挙げられる」

淡々と説明するヴィンセント。
それを聞き、ハッとしたようにキュレッド伯爵は顔を上げた。

「ふ、不貞行為……ヴィンセント、まさかそれを」
「もちろんこの記録はシャロンに渡すよ」

ニコッと伯爵に笑いかける。伯爵の顔が絶望に満ちた表情になった。

「アルバート」

ヴィンセントの声に反応しアルバートの肩が大きく跳ねた。

「お前、まだ何か隠してるだろ?」
「……にい、さん」
、今ここで出せ」

顔を上げたアルバートの顔が真っ青から白くなっていく。

(ポケットの中?)

訳が分からないまま見つめれば、アルバートはカチカチと歯を鳴らしながら涙を溢す。みんなに注目されながらも、ポケットに手を突っ込み取り出した物をテーブルの上に置いた。

それは、光り輝く青い宝石。

「これは……私が貰ったネックレス…」
「先に屋敷に来て正解だったよ。シャロンの部屋に忍び込むお前を偶然見た時、そんな事だろうと思っていたさ」

ヴィンセントはネックレスを取り私の後ろへと回る。

「エマに強請られ盗もうとしたんただろ、本当にお前はクズだな」

再び私の胸元で光るネックレスを見て、アルバートは震えながら咽び泣いた。

小さく縮こまりみっともなく泣き崩れる彼を、私はただ何の感情もなく見下ろした。
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