【完結】貴方が幼馴染と依存し合っているのでそろそろ婚約破棄をしましょう。

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「救えないな、婚約者を裏切って他の女にうつつを抜かすだけではなく盗みまでするなんて」

軽蔑したように言い捨てるヴィンセント。
確かにこれは誰も助けられない。

バキンっ

鈍く硬い音と共にドサっと床に振動が伝わる。
視線を向ければ息を荒げたキュレッド伯爵が拳を握りその足元に倒れ込むアルバートを睨みつけていた。

頬を押さえて倒れるアルバートは、涙や鼻水でぐちゃぐちゃになった顔を父親に向ける。

「父さんっ……、!」
「この馬鹿息子が!とんだ恥晒しだお前は!」

もう一度殴りかかりそうな勢いで怒鳴りつける。
そんな二人の間に入ったのは、アルバートに覆い被さるように抱き着くラングレー嬢だった。

「おじさまっやめて下さい!アルが可哀想よ!」
「黙れ売女が!お前のせいで、お前がアルバートに擦り寄ってきたせいでうちはもうお終いだ!」

態度が一転する伯爵に吐き気がする。

(今まで見て見ぬふりだった癖に自分の立場が危うくなればあっさり切り捨てるなんて)

「キュレッド伯爵」
「ひっ!こ、公爵様っ!これには深い訳が!」
「言い訳は結構。とりあえず話そうじゃないか」

ポンと肩を叩くお父様に怯える伯爵。
私たちは床に座り込むアルバートとラングレー嬢を無視して再びソファーに座り直した。

「シャロン、お前の意見をもう一度聞こう」

お父様はそう言う。
チラッとアルバートを見れば、さっきとは違い縋り付くような目で私を見ていた。

(今更私に何を期待しているのかしら)

貰ったネックレスをぎゅっと握る。

「私の気持ちに変わりはありません、アルバート=キュレッドとの婚約を破棄します」
「し、シャロンっ!」
「そして婚約時の不貞行為がこうして露見した今、彼へ慰謝料を要求します」

これ以上付き合っていられない。
そう言い切れば彼らは絶望に満ちた顔をした。

「そんな……シャロン、考え直してくれ!今までの事は全部違うんだよ」
「違う?何が違うの?」
「っそれは、」
「公爵家から私利私欲のためにお金を搾取していたこと?ラングレー嬢と愛し合っていたこと?それともブルーダイヤモンドを盗んだことかしら」
「あ……っ、お、怒っているのかい?」
「怒る?どうして貴方なんかに怒らなきゃならないの?怒りとは多少なりとも愛情があるから相手に抱くのであって、今の貴方には怒りすら沸かないわ」

我ながら驚くくらい酷い言葉が出てくる。

「ねぇアルバート、今どんな気持ちかしら」

グッと彼に顔を近づけてニコッと微笑む。

「私たちを裏切った気分はどう?それともまだ私が貴方を助けてくれると勘違いしてる?」
「あぁ……ごめん、許して……っ」
「許すも何も怒ってないわ。ただ、貴方たちにこれ以上巻き込まれたくないだけよ」

そう言って懐に隠しておいた紙をアルバートの目の前にペラッと出す。

「これは……?」
「婚約破棄についての公正書類よ、サインをして」
「っ、シャロン」
「それと、こっちはキュレッド伯爵に」

呆けている伯爵に歩み寄り、アルバート同様に紙を取り出し渡す。
震える手でそれを受け取った伯爵は最後まで目を通した後、口をパクパクさせながら私を見た。

「こ、これは」
「慰謝料の金額です。それと今までロットバレン家管轄の商人から踏み倒した商品の代金もまとめて合算しておきました」
「こんな金額っ、横暴だ!」
「そうですか?公爵家を裏切った代償としてはまだ安い方だと思いますけど」
「それでもうちが払える訳ないだろうっ!」

(逆上されても困るわね)

大人げなく騒いでいる伯爵に引いてしまう。大袈裟にため息をついてみれば、伯爵はびくりと肩を跳ねさせた。

「という事です、いかが致しましょうかお父様」
「ふむ……そうだな、ではすぐに自警団を呼んで彼らを詐欺罪で投獄して貰わねばならないな」
「と、投獄っ?!」

目に見えて動揺する彼らをお父様は睨みつけた。

「何だ?」
「い、いえっ」
「反論があれば言ってみろ」

言葉で追い詰めていくお父様。

(流石ロットバレン公爵家の当主、言葉だけで相手を黙らせるなんて)

「だがそうだな、私たちも鬼ではない。交換条件を飲むと言うなら減額を考えてやっても良い」
「本当でございますかっ?!」
「ああ。……ヴィンセントをキュレッドの籍から外し、その身柄をこちらに渡してもらおう」

お父様の言葉に全員が驚く。
だが、一番驚いた顔をしたのはキュレッド夫人だった。彼女は真っ青な顔で首を大きく振る。

「な、なりません……ヴィンセントは私がお腹を痛めて産んだ子ですっ!そんな大切な我が子を手放せと仰るのですか!」
「公爵様、いくら何でも酷すぎます」
「酷いのはどちらかしら」

それまで黙っていたお母様が言う。

「大切な我が子を苦しめていたのは誰?」
「「……」」
「親ならば子を守って当然。ですが貴方たちはヴィンセントに負担をかけるばかりで、彼を守るどころか敵となっていたんじゃないですか?」

お母様はゆっくりと語りかけるように話す。
二人は何も言わず、ただ俯いてしまった。

「親が子供の未来を潰すものじゃないですわ」

優しく微笑むお母様を見て、私は何故だか泣きたくなった。

(お母様、きっといっぱい心配してくれたんだわ)

自分に語りかけられた様な気がしてしまう。
ふと目が合えばいつものように笑うお母様に、私は少しでも安心して欲しくて小さく微笑み返した。

「……キュレッド伯爵」
「くっ……ヴィンセントの気持ちを聞かせて下さいっ!きっとこの子は私たちと縁を切りたくないはず、私の跡を継ぐためにここまで育ててきたのですから!」

必死にそう叫ぶキュレッド伯爵。
これ以上、醜態を晒し続ける彼をほんの少しだけ気の毒に感じてしまう。

(彼らからしたらヴィンセントは唯一の誇り。親としての恥も外聞も捨てるしかないんだわ)

「ヴィンセントっ!今までの事は全部水に流そう!これからまた一から頑張って行こうじゃないか!」
「そうよ!私たち家族じゃない、やり直せるわ」
「兄さん……ヴィンセント兄さん、ごめんなさい」

ヴィンセントは真顔で彼らを見る。その表情は冷たくて、でもどこか悲しそうに見えた。

「全員、離れて下さい」
「ヴィンセント」
「これ以上、嫌いにさせないでくれ」

絞り出すように怒りを含んだ声に、3人ともピタリと動きを止める。

「こんな親を、こんな弟を持ったことを、俺は今だって恥だと思ってるよ」

誰もが凍りつくような美しい笑顔でヴィンセントはそう言い放った。
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