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番外編 皇帝が愛を知るまであと……①
しおりを挟む※皇帝シャリオンがお惚気夫婦に嫉妬します。
毎日毎日よくもまぁ……って感じだ。
「旦那様、こちらのクッキー何かお取りしましょうか」
「ああ」
「そうですね、あまり甘くない方がお好きだからやっぱりこっちが良いかしら」
「君が選んでくれた物なら何でもいい」
「まぁ、そんなっ……」
目の前で繰り広げられている激甘なやり取りを白い目で見つつ僕はずずっとお茶を啜った。
というかこの2人、仮にも皇帝で弟の目の前だってのにお構いなしにイチャつき過ぎじゃない?
久しぶりに会いに来た兄夫婦を目の前に小さくため息をついた。
異母兄弟であるロアとその妻ソフィア。
ついこの間までよそよそしくて危なっかしかった夫婦は、今となっては帝国一のお惚気夫婦として話題になっていた。
まぁ結果としては良かったのかな?
「しかし皇帝陛下もお疲れのようですね。顔色があまり優れないのではないですか?」
ようやく僕に話しかけるソフィア。
こうして会うのも結構久しぶりだしね。
「忙しいよー。今じゃこっちに居るよりローフィアに滞在する方が長いんだから」
ローフィア国とは旧モニータ王国のこと。
何から何まで整備不足の国をまとめるのは結構しんどいものがある。軍事力は着々と上がっているから良いとして問題は国民達の生活レベルだ。
「貧富の差が激しくてね、スラム街やら闇市やら……地下街は無法地帯だから参るよ」
「まぁ……私が国に居た頃は目立った動きは無かったように思ましたけど」
「表向きはね、裏じゃ結構悪どいことしていたみたいだよ。まぁ税が厳しいせいで自ら進んでスラム落ちする国民も少なくないみたい」
あ、なんか仕事の話してたら気分悪くなってきた。
せっかくお茶でも飲んでリフレッシュしようと思ってここに来たのに。
なにか話題を変えようかな。
「そんな事よりさ、一体いつになったら僕の服を仕立ててくれるの?」
「えっ?!」
「ジェラルドの下で修行してるんだろ?今度皇宮でパーティーがあるからそれまでには作って欲しいんだけど出来る?」
そう言えばソフィアは困ったように笑う。
まぁ無茶な要求だってのは承知だけどね、なんたって皇帝陛下だし?
「私にはまだ無理ですよ」
「えー結構楽しみにしてたのに」
「んー……ジェラルドさんに相談なさってみては?きっとパーティーには間に合わせてくれるとは思いますけど」
ソフィアが作った服が着たいんだけどなぁー。
頰を軽く膨らませながら拗ねていれば、見かねた兄上も困ったように微笑んだ。
「シャリオン、あまりソフィアを困らせるな」
「だってー!」
「それにソフィアが一番最初に仕立てる服は俺のだと決まっている。早くてもそれが終わってからだ」
そう言って側のソフィアの腰に腕を回し2人の距離はグッと近付く。ソフィアの顔も真っ赤になっちゃって見てるこっちが恥ずかしい。
「分かったよ、今回はジェラルドに頼んでみる」
「ええ。……そうだ、最近は新しい子が入ってきて事業の方もすっかり調子が良いんですよ」
「へぇ、どこかから腕の良いデザイナーでも引っ張ってきたのかい?」
「分かりませんが凄く仕事が早いので、陛下のお洋服もすぐに完成出来ると思いますわ」
にっこりと微笑むソフィア。
うん、相変わらずこの子の笑顔には何も言い返せないな。
上手く丸め込まれた僕はそっと立ち上がる。
「さて、じゃあ今から行ってくるよ。善は急げだ」
「はい、お気をつけて」
「またいつでも屋敷に寄れ」
そう言って2人は玄関先までひらひらと手を振りながら見送ってくれた。
全く……子供じゃないんだけどなぁ。
馬車に乗りながらお人好しすぎる兄夫婦を思うとつい苦笑してしまう。
あんなに愛し合って、大切にし合える関係がいつか僕にも出来るだろうか。
全てを捨てても守りたいと思えるそんな存在が……
「……なんて無理か。女運悪いし」
自虐的な笑いだけが寂しく馬車内に響く。
これまで出会ってきた女達は皆、グランディーノ帝国の皇妃になりたくて偽りの愛を僕に囁く。
それが居心地悪くて、気持ち悪くて、相手との間に無意識に壁を作ってしまうのがクセだったりする。
それでも、いつかそんな運命に巡り会えたなら……
「蕩けるくらい甘やかして、一生可愛がってあげるのに」
ふっと小さく笑いポツリと一人呟いた。
彼が運命の人に堕ちるまで、あと………。
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