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番外編 ひとりぼっちの妖精
しおりを挟む※帝国側に捕まった元妹フレイアの後日談。
空がこんなにも青い事を私は最近ようやく知った。
爽やかな風が吹き抜ける森の中、雲ひとつない空を見上げながらそう思っていた。
ここはグランディーノ帝国の最西端に位置する森。
国境付近のため住人は安全の為生活する事を禁じられており、恐らくこの森から10キロ圏内に人は住んでいない。
そんな森の奥深くに建っている家に私は住んでいた。
つい半年前まで私は他国の侯爵令嬢だった。
綺麗なドレスに身を包み、流行りの宝石を身につけながら美味しい食事を堪能する。使用人たちを侍らせ買い物に出かけたり、のんびり両親とお茶を楽しむ優雅な生活を送っていた。
それが、たった一瞬で全て失ったわ。
姉の婚約者を奪い、その姉を国から追い出してから私の環境は大きく一変する。
次期王妃としてのレッスンはとてもキツいし、今まで見たいに気軽に恋人に会う事も許されなくなった。沢山頑張ってるのに誰も褒めてくれず、しまいには出来が悪いと怒られる毎日。
あのキラキラした生活に戻りたかっただけ……。
そして私は、絶対にやってはいけない禁忌を犯したの。
「風が出てきたわ……」
小さくて古い家の窓枠がカタカタと音を立てる。
今はもう慣れてしまったけど、ここに連れて来られた時は最悪だった。
目隠しをされ辿り着いたのは森の奥深くにあるこの家だった。到着後、ここまで連れてきたノーマンという皇帝の側近は私の目隠しを解きながら淡々と説明したわ。
『今日からこの家に住んでもらいます。使用人や護衛は愚か、この森は商人も立ち入らない場所ですから』
『なっ……そんなの無理だわ!食事は?着替えは?病気になったらどうするの?!』
『食べ物がないなら作物を育てればいい。着る服がないなら布を紡げばいい。病は……気合いで?』
『ふざけないで!』
『この森の周辺には多種多様の薬草や野草が育ってます。知識のない貴女でも生きていけるよう、家には最低限の生活知識が書いてある本がありますからそれを読んで下さい』
そう言ってそそくさと帰ろうとする男を私は必死で引き止める為に背中に縋り付く。
冗談じゃないわ、このまま一生ここで暮らすなんて。
それにもう二度と誰かに会う事なく死んでいくなんて。
『……止めてください、一応俺も怒ってるんです』
『え?』
『ソフィア姉さんを悲しませた。大事な家族を泣かせた様な人と1分1秒でも一緒にいたくないので』
グッと私の肩を押し退けそのまま部屋を出て行く。
お姉様が養子になったと聞いた時はまさかそんな訳ないと思っていた。いくらお父様が厳しくとも家族を売るような事は絶対しないと……。
だがここに来る道中ノーマンという人が教えてくれた。
お父様が借金の肩代わりにお姉様を売った事。
それを知ったお母様はティムレット家を出て行った事。
わたしはなにも知らなかった……いや、知ろうとしていなかったのかも知れない。
昼食を作るためキッチンに立ち、粟と野草を鍋でコトコト煮る。
最近はずっとこのスープを食べている……美味しくもないし本当に生きていく為だけに食事をするだけ。
洗濯や掃除もした事ないから最初は毎日泣いていたけど、今じゃそれが当たり前のように体に染みついていた。
一番驚いたのはあんなに愛してたジーク様の顔を思い出せない事。
幸せで素敵な毎日を送っていたのにここに来てからは一度も思い出す事が出来ない。野草を探しに行ったり家事をこなす忙しい毎日の中で、もう私の中から彼の存在が消えていた。
あんなに縋っていたのに無くなってしまえばこうもあっさりなのね。
そしてこの森は夜になれば綺麗な満月が浮かび上がる。
虫や鳥の声しか聞こえないこの森で、私は毎日外に出てそっと月に祈る。
思い浮かべるのは大好きだったお姉様のこと。
『フレイア、一人で生きて。誰かに頼らず自分の力だけで生きていけるようになって』
優しい声が頭の中を反響する。
お姉様は最期まで私を優しく心配してくれた。
それなのに私は……。
涙が溢れそうになるけどグッと堪える。もしこのまま泣いてたら今までの私と変わらないから。
「ごめんなさい……っごめんなさい、!」
ねぇお姉様。
私は何とか1人で生きてるわ。
毎日月に懺悔を繰り返しながら自分の力で暮らしてる。
例えこのまま一人きりで死んでいくとしても、私は貴女を思って毎日生きていくでしょう。
それが、私が貴女に出来る唯一の贖罪と感謝だから……。
end
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