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しおりを挟むロア様が旧モニータ王国に行ってから季節が変わる。
まさかこんなに戻られないなんて正直思っていなくて、私は毎日窓の外から愛しい姿が戻るのを待ち望んでいた。
「遅い……やっぱり国の内情が酷かったのかしら」
ポツリと呟くも自分1人だけの部屋では返答もなく大きなため息すらも虚しく響いた。
手紙のやり取りは続いているので無事でいる事は間違いないのだけど……ここまで顔を合わせていないと少しだけ不安になる。
もしかして私の事忘れてしまったとか?
それとも、向こうで素敵な女性に出会った?
血塗れの番犬という呼び名と少々近寄りがたい風貌のせいで敬遠されがちだけどロア様は正直とてもカッコいい。シャリオン皇帝は柔和な感じがあるけど、ロア様はこうクールで大人というか……
「って……惚気てる場合じゃないわ」
でも正直ちょっと寂しくなってきたのは事実だし。
「……リンデルに相談してみよう」
*****
という事で。
私は今、ロア様の自室にいます。
「……やっぱりお部屋に黙って入るのはダメかしら」
あの後リンデルに相談すればロア様が戻られるまで寝室をお借りすれば良いのではという結論に至った。
というか、夫婦になったのだから寝室は一緒にすべきとリンデルに怒られたけど……。
就寝の準備をし終えた後ロア様の寝室に入る。
「何だかいけない事してる気分」
ぺたぺたと入っていき大きなベッドに腰掛ける。
ふわりとロア様の香りがして思わず顔が赤くなった。そっと寝転べば匂いがもっと強くなり恥ずかしい気持ちと安心した気持ちが押し寄せる。
まるで優しく抱き締められているみたい……。
段々と眠くなってきた……。
そのまま静かに目を閉じゆっくりと意識を手放した。
「………フィア」
夢の中で優しく名前を呼ばれてる気がする。
「ソフィア」
ロア様のベッドで眠ってしまったからってまさかロア様の夢まで見てしまうなんて……私ってば結構重症ね。
ギュッと抱き締められる妄想までしちゃうなんて。
………ん?
ゆっくり瞳を開ければ目の前は真っ暗。
ちょっとだけ体を離せばそれは誰かの胸板部分で、顔を上げればそこには優しく微笑むロア様がいた。
「ぁっ!」
「ただいま」
「ろっロア様……おかえりなさい、です」
「ああ。起こしてしまったな」
そっと頭を撫でられながら話し続けるロア様に私はこの状況をどう回避するかグルグルと考え込んでいた。
黙って部屋に侵入、更には布団に潜り込み匂いを堪能。
確実に変態な女だと思ってるはず。
「君が部屋にいたから驚いた」
「ごめんなさいっ、勝手に……」
「いや、帰ってきてすぐ会えたから嬉しいよ」
慌てふためく私を楽しそうに見つめる。
久しぶりに聞く甘い声にバクバクと心臓がうるさい。
こんな至近距離なのだってまだ慣れてない。
私は恐る恐る背中に手を回しぎゅうっと抱き付く。
会いたかったロア様に会えてこんなに嬉しいなんて。
「会いたかったです……っ」
聞こえるか聞こえないか分からない声でポツリと呟く。
縋るようにロア様の胸に顔を埋めていると、軽く顎に指を添えられる。強制的に顔を上げられればふわりと唇が重ねられた。
一瞬びくりと体が弾むが徐々に深くなる口付けに体の力が段々と抜けていく。
気付けば肩で息をするくらい呼吸が荒くなっていた。
「ぁっ……ロア、さま」
「あまり可愛い事を言わないでくれ。君が思ってる以上に余裕ないんだから」
ちゅっと音を立て唇を舐められる。
多分今私の顔は真っ赤だろう……それでもロア様が困ったように笑うから私もつられるようにクスッと笑った。
大切なものを扱うように触れられながら何度もキスを落とされる。
私達は夫婦になったけど、まるで付き合いたての恋人同士みたいに戯れ合う時間がとても愛おしかった。
人形だった私が貴方に溺愛されるなんて。
不器用でぶっきらぼうな貴方からの真っ直ぐな愛が、
どうかこれからもずっと続きますように……。
********************
これにて本編完結いたしました!
皆様にお付き合い頂き有難う御座いました。
沢山の温かいコメントに励まされながら何とか完結出来て本当に感無量で御座います(^^)
今後は番外編をのんびり不定期更新したいと思います。
◎フレイアのその後について。
◎皇帝陛下から見たラブラブ兄夫婦。
こんな話が見たい!というご意見がありましたらコメント欄にて受け付けますので気軽にお申し付け下さいませ。
それではまた次の物語でお会いしましょう。
2020.06.15 紺
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