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しおりを挟むそして、私の生活は平和を取り戻した。
「いいお天気……」
結婚式が終わり早くも1ヶ月が経った頃、私はリンデルと中庭でお茶をしていた。
「こうして2人でお茶をするのは久しぶりだわ」
「そうですね。ホント……旦那様も奥様も、ここの所ゆっくり出来ませんでしたものね」
心配そうに私を見つめるリンデルに苦笑する。
あれから皇帝陛下はモニータ国王とジーク様を連れ皇宮へと戻り、国の譲渡に関する簡単な締約を取り決めた。もちろん国王だけの手続きで国を貰い受ける訳は無いので、皇帝陛下はモニータ王国を訪れ向こうの宰相達と今後について話し合いを進めるらしい。
ロア様も騎士団長として陛下に同行している。
たまに届くロア様からの手紙には話し合いは順調に進んでおり、向こうの宰相達の理解も早いので元モニータ王国は直ぐにでも国として再起出来ると書かれていた。
元々あの国を支えていたのは、宰相を始め地道に頑張ってくれていた彼らだ。
きっと国の為ならばと尽力してくれたに違いないわ。
そして国はこれまでの絶対王家主義を撤廃。
国の指導者はシャリオン皇帝陛下だが、運営や実質的な実権は宰相や官僚達に委ねるという。国のノウハウが分かっている彼らを信用した陛下の裁量にはホントに頭が上がらない。
商業、軍事、税金など見直す事が多すぎて皇帝陛下は毎日お疲れだとロア様は心配そうに書いていた。
そして最後に書かれていたのはティムレット家について。
皇帝陛下と共にロア様が屋敷を訪れた際、フレイアが帝国で何をしたのか、どういう罰を受ける事になったのかを細かく説明したそうだ。
父上は顔面蒼白、母上は泣き叫び暴れそこは阿鼻叫喚な現場となった。勿論母上は無実を信じて疑わなかったし、姉である私の存在を盾に何とかフレイアの釈放を訴えたそうだが……
『あれ、ソフィア嬢は侯爵閣下により離縁されてるので姉じゃないですけど……御夫人はご存知ないのかな?』
と、悪魔のような皇帝陛下の一言で事態は一転。
寝耳に水だった母上の前で次々に暴露される父上の行動。私を帝国に売り飛ばした事、その金は寵愛する娼婦へ全て貢ぎ込んだ事、更にはまた借金を膨らませている事。
正直母上はフレイアの事なんてどうでも良くなるくらいに発狂したそうだ。良かった……その場にいなくて。
こうして無事称号は剥奪。
母上は実家に戻り、父上は多額の借金を抱え地下街へと潜り行方不明になったそうだ。
「全く感謝がなかった訳じゃないけど、こうも呆気なく終わってしまうのね」
「奥様……」
「きっとティムレット家は今すぐ崩れてもおかしくない状況だったんだわ。それを……フレイアという存在がギリギリ繋いでいたんでしょうね」
お茶を一口含みポツリと呟く。
なんだかんだで家族でいられたのも彼女のお陰なんだわ。
「そう言えば、フレイア嬢はどうなったのですか」
「さぁ?どこで何をしているのか……」
あの後フレイアは牢屋から連れ出され何処かに行ってしまった。皇帝陛下に今後のことを尋ねてもはぐらかされるだけだし、ロア様も詳しい事は聞いていないみたいだった。
もしかしたらこっそり殺されてしまったかも知れないと思ったけど……陛下は約束だけは守ってくれるはずだし。
最後の最後まで私の顔を見なかったフレイアの横顔だけが脳裏に焼き付く。
きっと、彼女なりの幸せが待ってる筈だから。
「ですが奥様もここ最近お忙しかったですね……メイエル子爵様のお手伝い、ここの所ずっと行ってらっしゃいますもの」
「私なんてお手伝いになってないわ。ただジェラルドさんとお話しているだけよ」
ちなみに私はジェラルドさんの元で服飾の勉強をしている。ど素人の私もいつかジェラルドさんみたいに素敵なドレスを作りたいし、それに屋敷でのんびりしてるより忙しい方が性に合っているみたいだから。
ようやく取り戻した平和な日常。
私は青空を見つめながら、まだ戻らぬ旦那様の帰りを今か今かと待ち続けた。
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