【完結】人形と呼ばれる私が隣国の貴方に溺愛される訳がない

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「ふざけるなぁ!」

全てが丸く収まろうとしている中、今まで騒ぐ事のなかったジーク様が今日一番の大きな声を出す。
騎士たちに押さえつけられながらも、ふーふーと荒い呼吸を繰り返し血走った目で私と皇帝陛下を見比べる。

「こんなのっ、こんなの……許される訳ない!」

「許すも何も君が決める事じゃない」

「フレイアは僕の、僕だけの女神なんだ!」

バタバタと暴れる姿はまるで駄々をこねる子供のようで、見ているこちらが恥ずかしくなる程愚かだった。

「ソフィア!お前が何とかしろ!」

彼の怒りの矛先は今度は私に移ったようで、その余裕のなさそうな格好のまま私を怒鳴りつける。

でも何故まだこんな態度が取れるの?

今この場で発言権があるのはグランディーノ帝国の皇帝陛下と現モニータ王国の国王だけ。なのにこの人はどれだけ自分の愚かさを露見させたら気が済むのだろうか。
小さくため息をつきそっと声をかける。

「ジーク様、今は国と国との話し合いです。外野は口を挟む問題ではありませんわ」

「うるさいっ!そもそもお前のせいでこんな事が!」

ギャンギャンと吠える彼が見てて痛々しい。
逆らう事すら出来なかった人なのに、今は相手をするだけで疲れてしまうわ。

「そんなお前だから親にも捨てられるのだ!」

その言葉にピクリと動きが止まる。
それは私の心を確実に揺さぶる言葉で……出来れば触れられたくなかった事実。
動揺する私に気を良くしたのか、ジーク様はハッと得意げな笑みを浮かべどんどんと喋り出す。

誰も愛す訳がないだろ!大人しく僕の側室になれば良いものを……っ!」

「ジーク!お前はなんて事をっ!」

怒りで我を忘れ側室の話を暴露するジーク様。それを聞いた国王は顔を真っ青にしながら口を大きく開ける。
だが、今のジーク様には誰の声も届かない。
ただ私を傷付けたいが為に言葉を紡ぐ。

「親にも僕にも捨てられて、お前が幸せになれる場所なんか何処にもある訳……」


ガンっ


風を切る音がし、次の瞬間金属がぶつかる音がした。


「ひっ、ぃっ!」

取り押さえられているジーグ様の鼻先スレスレに突き立てられた銀色の剣。
床に突き立てられた剣を握るのは俯いたまま無言を貫くロア様の姿だった。

「ロア様……」

「それ以上彼女を侮辱するならその首、俺が切り落とす」

腹の底から響くような低い声。
ギロっと睨みつけるロア様の顔……初めて見た。
そんなロア様に恐縮しきったジーク様は、それまで饒舌だった口を固く閉じる。目からは涙が溢れ、みっともなく鼻水までも垂れていた。

「そんなに今死ぬのを望むなら叶えてやる」

「ぁっ……た、助け」

「誰も今のお前を助けない。俺の妻をこんなに傷付けたお前が助かる訳ないだろう」

床に突き刺さった剣を一度引き抜きロア様はそっとジーク様の首元に剣先を当てる。

「たっ頼むっ!助けてぇ……!」

一気に剣が振り下ろされた瞬間、誰もがそのまま首を斬り落としてしまったと思った。
ギュッと目を瞑れば、再び金属の音が大きく響いた。




「……まぁ、流石に僕の命令なしに殺しはしないよねぇ」




皇帝陛下の楽しそうな声が聞こえた。

瞑っていた目をゆっくりと開ければ、血塗れになっていると思っていた状況はなくジーク様の首は見事に繋がっていた。その代わり、鼻の頭は微かに切れたのか少しだけ血が垂れている。

「良かった……」

ロア様が人を殺さなくて。
未だにバクバクと心臓が鳴っている。
腰が抜けてしまいペタンとその場に座り込んだ。

「ではモニータ国王、今の王太子の言動も全部含めさっきの条件飲んでもらえますね?」

グッと国王に顔を近付ける皇帝陛下。
ジーク様は見事に失神してしまったし、もはや国王一人ではどう立て直す事も出来なくなった。

国王は失神した息子を見つめた後、項垂れるように床に頭を擦り付けた。

「すまない……っ若き皇帝よ、国を……頼む!」

「任せて下さいよ」

ニコッと微笑む皇帝陛下。
これでモニータ王国はグランディーノ帝国のものになる。

この瞬間、全部終わったのだ。
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