【完結】英雄様、婚約破棄なさるなら我々もこれにて失礼いたします。

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7 Nina Side ①

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聖十字騎士団が魔王ロキを倒しどんちゃん騒ぎをしていた夜。
マリンピア王国にあるプロティオス伯爵の屋敷には一部屋だけ明かりがついていた。

使用人たちも眠りについているこの時間、部屋の窓からぼんやりと外を眺めるのはキラキラと輝く金糸の髪を持つ女性。

そんな彼女に向かって一匹の蝶がやってくる。

キラキラと輝くそれは窓ガラスを簡単に透過し、細く美しい彼女の指先にちょこんと止まった。

「どうやら終わったみたいね」

彼女、ニーナ=プロティオスはその不思議な蝶に向かってそう呟いた。


聖十字騎士団が魔王討伐のため出国した日。
ニーナは魔力で構築した諜報型の蝶を、こっそり婚約者であるホリックの衣服に付けていた。戦いが終われば真っ直ぐ彼女のところへ帰るようにインプットさせてある蝶は5年前と変わらぬ輝きを放っている。

「お疲れさま。エイたちも無事のようね」

彼女は砂粒のように崩れる蝶から魔力を通してこれまでを把握する。そこには懸命に魔物たちを倒す3人の弟子たちや、そのサポートを受けながら活躍する婚約者の姿も見える。

「あら?この女性は………そう、ホリック様の。どうりで大切に守られながら戦ってると思ったわ」

騎士団ではない女性、のちに聖女として現れる女に苦笑しながらニーナはどんどん記録を進めていく。
そしてついにホリックは魔王ロキの心臓に大剣を突き刺した。散り散りになる魔王の姿を見て、ニーナは眉をピクっと動かした。

「………ハァ」

気高く凛々しい彼女の顔が、段々と怒りを含み強張っていく。

「……そう、そういうことね。何となくそんな気がしていたけれど」

ぶつぶつと独り言を呟く彼女は、とても疲れた顔で側にあるソファーに腰掛けた。

彼女には何が見えていたのか。

一般の者からしてみれば確かに魔王ロキの体は粉々になり消えてしまった。だがニーナにはその後の光景がはっきりと見えていた。
砂のように散った魔王の体は、風に乗って何処かに飛んでいく。そしてその粒は消えることなく各方面へと舞っていったのだ。
つまり、彼の体は消滅した訳ではなく分裂しホリックの前から姿を消したに過ぎない。

「ホリック様ならきっちり心臓を捉えてくれると思ったけど……少しいたのね。彼の腕を過信してしまったわ」

聖なる大剣を創り出したのは他でもないニーナだった。
あの剣には自身の魔力を込めてある。だから剣自体に問題がないとすれば……あとの問題は自ずと見えていた。

「……だからあなたがここにいるのね、」

ニーナがそう言った瞬間、彼女は部屋の隅を睨みつけ口角を上げる。

何もないその場所に、黒い煙が突如現れた。
煙はどんどん大きくなり、まるで人型のようにうねり始めた。
異様で不気味なそれは数秒経つと完全に人のようになり、ゆっくりとニーナに向かって近寄ってくる。


「久しぶりの再会だというのに随分と冷めてるなァ、お嬢さん」


声が聞こえた瞬間、部屋の明かりがフッと消える。だがニーナは依然として態度を崩さない。
そしてようやく月明かりにそのモノの姿が照らされた。
20代前半の黒髪の青年は鋭く光る赤い瞳を持っていた。まるで獲物を狩り取るような眼光はただ真っ直ぐにニーナを捕らえている。

「熱い抱擁くらいしてくれてもバチは当たらねェと思うが?」
「寝言は寝て仰ったら?魔王ロキ」

魔王ロキ。
そう呼ばれた男はニヤッと不敵に笑った。
数分前まで煙だったそれは、男にしては美しすぎるその顔をぐっとニーナに近付けた。

「ククッ、何だよ。5年もかけた作戦が失敗した割には元気そうだなァ。てっきり俺が死んで哀しんでるかと思ったのに」
「ふふっ。ご冗談が未だにお好きなのね」
「……相変わらず辛辣だ」
「ご心配なく。今も仕留め損ねた貴方をどう抹消してやろうか考えていた所ですから」

ニコニコと笑いながら物騒なことを告げるニーナに、魔王は思わず苦笑した。

「本当に……たまんねぇな、お嬢さんは」
「褒め言葉ですか?気持ち悪い」
「素直に喜べばいいのに。アンタの術はしっかり効いてる」

そう言って魔王は服の裾をペラっと捲る。
腹のど真ん中には大きな穴が開いていて、その周りはポロポロと崩れかかっていた。

「見ろよ、姿を保っていることも出来ねェ。あと数分でまた煙に戻るだろう。大した攻撃でもなかったのに」
「あらそれは残念」
「それもこれも英雄サマのおかげだ」

その言葉にニーナの表情がピクっと動いた。
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