【完結】英雄様、婚約破棄なさるなら我々もこれにて失礼いたします。

文字の大きさ
8 / 20

8 Nina Side ②

しおりを挟む

そんな僅かな変化も魔王は見逃さない。
ニーナの神経を逆撫でするように魔王は楽しげに語る。

「お膳立てまでしてやったのに惜しかったなァ。あの男、焦ったのか心臓の核から1センチほど左に剣を突き立てたんだ。おかげで俺は虫の息ではあるがあの剣に封じられずに済んだ」

ケラケラと心の底から楽しそうに言う。
だがニーナは至って冷静だった。

「悔しいか?」
「………」
「そうだよなァ、自分は贅沢も自由も捨てて国を守るために尽くしてきたのに。あの大剣だってお嬢さんの力が込められていなかったらただの鉄の塊だからよ」

魔王の指先がそっとニーナの頬に触れる。

「最初から俺のものになれば良かったんだ。そうすれば、お嬢さんだけは生かしておいてやったのに」

ニッと怪しげな笑みを浮かべると、赤い瞳がゆっくりと近付く。唇が触れ合いそうになる寸前、クスッと楽しげな笑い声がした。

「……何がおかしい?」

動きを止めた魔王はゆっくりと顔を離すと、暗がりでもニーナの整った顔が堪えるように笑っているのに気付いた。
しばらくして彼女は口元を手で隠し、目尻に溜まった涙を指で払った。

「ごめんなさい、魔王ともあろう方が随分と余裕なく口説いてくるものだから……ふふっ!」
「………」
「でも残念、あんなどうしようもない浮気男でも貴方よりはずっとマシなの」

頬に触れる魔王の手を振り払い、ニーナは再び窓の外を眺めた。

彼女は何故魔王が自分に執着しているかは知らない。
気まぐれか、あるいは封印できるほどの力を持つ自分を懐柔しようとしているのか……。

だがニーナは表情を変えることなく、目の前に立つ魔王に向かって淡々とを語った。

「ああ見えてホリック様は二人きりの時はお優しいの。花を愛でるように私の名前を呼んで、髪に触れ、優しくキスしてくれる。外での火遊びくらいどうってことないわ」
「………嘘つくな。お前が愛されていない事などお見通しなんだよ」
「この国でのことは結界が張られている以上、さすがの貴方でも盗み見れなかったはずよ?ただ貴方は知らないだけ」

さっきまでヘラヘラしていた魔王の顔つきが変わる。

オリンピア王国には常時ニーナの結界がはられており、どんな魔物を結界を通ることは出来なかった。それはその頂点に立つ魔王も同様、中で起きていることは彼らが知ることは絶対に出来ない。
ニーナが語る嘘を、今の魔王には完全に否定できる根拠がないのだ。

「アリスさんとの浮気だって単なる性欲処理よ。こうして戦いが終われば、また前みたいにホリック様は私を……」
「黙れ」

ミシッと音がし、ニーナの後ろにある窓ガラスに亀裂が走った。

「これ以上喋るなら今ここでお嬢さんを傷物にしてやる」

魔王の目が冷たく光りニーナを睨みつける。

こんなにも感情を出して怒るのは初めてで……安っぽい挑発にまんまと乗っかった魔王にニーナはそっと微笑んだ。

「そんな崩れかけた体で何が出来るの?」
「甘く見られては困るなァ。……だが正直ここでお前をモノにすれば、後々あのうるさい弟子どもが血眼になって俺を倒しに来る。面倒事はなるべく避けたい」
「賢明なご判断ね」
「だから全て回復した時、攫いに来る」

魔王は消えかけている指でニーナの頬を撫でた。
今にも噛みつきそうな、欲望に満ちた赤い瞳は真っ直ぐに彼女だけを映す。

「弟子どもも、あの男も、お前を縛ろうとする国王もまとめて消してやる。お前が触れ、見て、笑いかけた者全てを生かしてはおかない」

力のない指先はまるで傷を残そうとするようにニーナの頬に爪をたてる。

「忘れるな。どこに居ようとお嬢さんは俺のモノだ。逃げずに大人しく……」


パチン


指の鳴る音がすると、うっすらと残っていた魔王の体はシャボン玉が弾けるようになくなった。

再び部屋が静まり返り、残されたニーナはふぅと軽く息をついた。

「……死にかけのくせにお喋りね、」

熱烈な口説き文句に嫌悪を抱きながら、もう一度ニーナは指を鳴らす。すると王国を覆う夜空に透明な膜が張られたような光が現れ、そして瞬時に消えてしまった。

「二重に張っておけば時間稼ぎくらいにはなるわね。……さて、」

ニーナは立ち上がり大きく背伸びをした。
さっきまでの顔つきから変わり、何かを決意したような……


「とりあえず準備をしなくちゃ」
しおりを挟む
感想 151

あなたにおすすめの小説

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

真実の愛に祝福を

あんど もあ
ファンタジー
王太子が公爵令嬢と婚約破棄をした。その後、真実の愛の相手の男爵令嬢とめでたく婚約できたのだが、その先は……。

【完結】「婚約者は妹のことが好きなようです。妹に婚約者を譲ったら元婚約者と妹の様子がおかしいのですが」

まほりろ
恋愛
※小説家になろうにて日間総合ランキング6位まで上がった作品です!2022/07/10 私の婚約者のエドワード様は私のことを「アリーシア」と呼び、私の妹のクラウディアのことを「ディア」と愛称で呼ぶ。 エドワード様は当家を訪ねて来るたびに私には黄色い薔薇を十五本、妹のクラウディアにはピンクの薔薇を七本渡す。 エドワード様は薔薇の花言葉が色と本数によって違うことをご存知ないのかしら? それにピンクはエドワード様の髪と瞳の色。自分の髪や瞳の色の花を異性に贈る意味をエドワード様が知らないはずがないわ。 エドワード様はクラウディアを愛しているのね。二人が愛し合っているなら私は身を引くわ。 そう思って私はエドワード様との婚約を解消した。 なのに婚約を解消したはずのエドワード様が先触れもなく当家を訪れ、私のことを「シア」と呼び迫ってきて……。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

【完結】平凡な容姿の召喚聖女はそろそろ貴方達を捨てさせてもらいます

ユユ
ファンタジー
“美少女だね” “可愛いね” “天使みたい” 知ってる。そう言われ続けてきたから。 だけど… “なんだコレは。 こんなモノを私は妻にしなければならないのか” 召喚(誘拐)された世界では平凡だった。 私は言われた言葉を忘れたりはしない。 * さらっとファンタジー系程度 * 完結保証付き * 暇つぶしにどうぞ

透明な貴方

ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
 政略結婚の両親は、私が生まれてから離縁した。  私の名は、マーシャ・フャルム・ククルス。  ククルス公爵家の一人娘。  父ククルス公爵は仕事人間で、殆ど家には帰って来ない。母は既に年下の伯爵と再婚し、伯爵夫人として暮らしているらしい。  複雑な環境で育つマーシャの家庭には、秘密があった。 (カクヨムさん、小説家になろうさんにも載せています)

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

妹のことが好き過ぎて婚約破棄をしたいそうですが、後悔しても知りませんよ?

カミツドリ
ファンタジー
侯爵令嬢のフリージアは婚約者である第四王子殿下のボルドーに、彼女の妹のことが好きになったという理由で婚約破棄をされてしまう。 フリージアは逆らうことが出来ずに受け入れる以外に、選択肢はなかった。ただし最後に、「後悔しないでくださいね?」という言葉だけを残して去って行く……。

処理中です...