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8 Nina Side ②
しおりを挟むそんな僅かな変化も魔王は見逃さない。
ニーナの神経を逆撫でするように魔王は楽しげに語る。
「お膳立てまでしてやったのに惜しかったなァ。あの男、焦ったのか心臓の核から1センチほど左に剣を突き立てたんだ。おかげで俺は虫の息ではあるがあの剣に封じられずに済んだ」
ケラケラと心の底から楽しそうに言う。
だがニーナは至って冷静だった。
「悔しいか?」
「………」
「そうだよなァ、自分は贅沢も自由も捨てて国を守るために尽くしてきたのに。あの大剣だってお嬢さんの力が込められていなかったらただの鉄の塊だからよ」
魔王の指先がそっとニーナの頬に触れる。
「最初から俺のものになれば良かったんだ。そうすれば、お嬢さんだけは生かしておいてやったのに」
ニッと怪しげな笑みを浮かべると、赤い瞳がゆっくりと近付く。唇が触れ合いそうになる寸前、クスッと楽しげな笑い声がした。
「……何がおかしい?」
動きを止めた魔王はゆっくりと顔を離すと、暗がりでもニーナの整った顔が堪えるように笑っているのに気付いた。
しばらくして彼女は口元を手で隠し、目尻に溜まった涙を指で払った。
「ごめんなさい、魔王ともあろう方が随分と余裕なく口説いてくるものだから……ふふっ!」
「………」
「でも残念、あんなどうしようもない浮気男でも貴方よりはずっとマシなの」
頬に触れる魔王の手を振り払い、ニーナは再び窓の外を眺めた。
彼女は何故魔王が自分に執着しているかは知らない。
気まぐれか、あるいは封印できるほどの力を持つ自分を懐柔しようとしているのか……。
だがニーナは表情を変えることなく、目の前に立つ魔王に向かって淡々と嘘を語った。
「ああ見えてホリック様は二人きりの時はお優しいの。花を愛でるように私の名前を呼んで、髪に触れ、優しくキスしてくれる。外での火遊びくらいどうってことないわ」
「………嘘つくな。お前が愛されていない事などお見通しなんだよ」
「この国でのことは結界が張られている以上、さすがの貴方でも盗み見れなかったはずよ?ただ貴方は知らないだけ」
さっきまでヘラヘラしていた魔王の顔つきが変わる。
オリンピア王国には常時ニーナの結界がはられており、どんな魔物を結界を通ることは出来なかった。それはその頂点に立つ魔王も同様、中で起きていることは彼らが知ることは絶対に出来ない。
ニーナが語る嘘を、今の魔王には完全に否定できる根拠がないのだ。
「アリスさんとの浮気だって単なる性欲処理よ。こうして戦いが終われば、また前みたいにホリック様は私を……」
「黙れ」
ミシッと音がし、ニーナの後ろにある窓ガラスに亀裂が走った。
「これ以上喋るなら今ここでお嬢さんを傷物にしてやる」
魔王の目が冷たく光りニーナを睨みつける。
こんなにも感情を出して怒るのは初めてで……安っぽい挑発にまんまと乗っかった魔王にニーナはそっと微笑んだ。
「そんな崩れかけた体で何が出来るの?」
「甘く見られては困るなァ。……だが正直ここでお前をモノにすれば、後々あのうるさい弟子どもが血眼になって俺を倒しに来る。面倒事はなるべく避けたい」
「賢明なご判断ね」
「だから全て回復した時、攫いに来る」
魔王は消えかけている指でニーナの頬を撫でた。
今にも噛みつきそうな、欲望に満ちた赤い瞳は真っ直ぐに彼女だけを映す。
「弟子どもも、あの男も、お前を縛ろうとする国王もまとめて消してやる。お前が触れ、見て、笑いかけた者全てを生かしてはおかない」
力のない指先はまるで傷を残そうとするようにニーナの頬に爪をたてる。
「忘れるな。どこに居ようとお嬢さんは俺のモノだ。逃げずに大人しく……」
パチン
指の鳴る音がすると、うっすらと残っていた魔王の体はシャボン玉が弾けるようになくなった。
再び部屋が静まり返り、残されたニーナはふぅと軽く息をついた。
「……死にかけのくせにお喋りね、」
熱烈な口説き文句に嫌悪を抱きながら、もう一度ニーナは指を鳴らす。すると王国を覆う夜空に透明な膜が張られたような光が現れ、そして瞬時に消えてしまった。
「二重に張っておけば時間稼ぎくらいにはなるわね。……さて、」
ニーナは立ち上がり大きく背伸びをした。
さっきまでの顔つきから変わり、何かを決意したような……
「とりあえず準備をしなくちゃ」
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