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15 side アズミ
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※ ここからは側室アズミの視点になります。
「ではこれを、故郷の父母の元へ」
「畏まりました」
離れに戻った私はすぐさまことの顛末を手紙に記す。そしてそれを侍女に渡した後、ふぅと小さく息を吐いた。早馬と船を出せば3日ほどで届くだろう。本当はもっと早くに知らせてあげたかったけど……まぁこれまでの数年を考えれば3日くらいどうってことはない。
「ふぎゃぁあ」
「ああ。……ごめんね、そろそろご飯の時間ね」
そばで泣く娘を抱き自分の乳をあげれば、小さな口で一生懸命吸う。生まれたばかりで弱々しいはずなのにその必死な姿に思わず笑みが溢れる。
この子は何も知らない。
自分の父親にこの先一生出会えないことを。
王妃であり次期国王の後見人となったサリファ様。そんな彼女の命を狙おうとしたギルバート、待ち受けるのは地下牢生活だ。そして彼はそこで私たちの復讐を受け続けてもらう。そうして命を遂げるしかない。
「……モニカや私なら、苦しまずにさくっと死なせてあげたのに」
運が悪いことに彼への執行人はあのセリーヌだ。
きっと……予定よりもずっと苦しむことになるでしょう。
「失礼致します。アズミ様、こちらに妃殿下……い、いえ、サリファ様がいらっしゃっているのですが!」
「サリファ様が?」
「は、はいっ!アズミ様と、少しお話をしたいと言っておりまして」
わざわざこちらに足を運んで下さるなんて……。
「すぐにお通しして下さい」
「はいっ!」
侍女はバタバタと足を立てながら戻っていく。
この後宮には基本、ギルバートしか立ち入れなかった。彼はここを花園と自慢げに言っていたけど、私たちにとっては監獄に近かった。愛してもいない男に身体を開き、嬉しくもないのに笑顔を振りまく。そんなの……私だけじゃ耐えられなかった。
モニカやセリーヌが居たから、ここまで頑張れたのかも知れない。まぁそんなのあの二人には言わないけど。
「失礼しますよ」
「っ!サリファ様!」
勢いよく振り返れば、遠慮がちに部屋へと入ってくるサリファ様がいた。
いつにも増して凛とした姿に同性ながらに惚れ惚れしてしまう。
あの男はどうしてこんなにも美しい人にあんな仕打ちが出来たのかしら。理解に苦しむ。
「突然来てしまってごめんなさい。今、忙しいですか?」
「いえっとんでもないです!わざわざ御足労いただいて……私から直接出向きましたのに」
「ふふっ、一度後宮内に来てみたかったのです」
なんだか楽しそうに笑うサリファ様にキュンとする。いつも凛々しくカッコいいサリファ様が今日はちょっと可愛い。
「あら、リンはお眠ですか?」
「はい。今しがた乳を飲んで満足したみたいです」
「かわいいですね、抱いても良いですか?」
「も、もちろんですっ!」
そう言ってサリファ様は私の腕からリンを受け取り、優しい表情で見つめる。
「リンは貴女にそっくりです。この艶やかな黒髪も……何よりお腹いっぱいになったら寝てしまうところも」
「っ、昔のことです」
「ふふっ。初めて出会った時の貴女は……誰にも懐かない猫のようでしたからね」
昔を思い出して笑うサリファ様、恥ずかしさで顔面が沸騰しそう。
私がこの国にやって来た理由。
それは、行方不明になった兄さんを探すため。それまで兄さんは国で魔導を教える教師として活躍していた。優しくて、教えるのが上手い評判の魔導師。そんな兄さんに王令が下される。
ルスダン王国に行き、魔導を通じて我が国と強固な関係を築くこと。
とても難しく聞こえるが兄さんに課せられた使命は魔導をルスダン王国に広めることであった。何も知らないルスダンの民たちが魔導を知るのは良いことだ。兄さんはそう言って嬉々として出発した。
それから毎日のように手紙が届く。最初こそ楽しそうにルスダンのことを綴った手紙も、次第に王宮内への愚痴となり、最終的にはギルバート=ルスダンという王太子が魔導師を極端に嫌っているとまで書いてあった。
あの兄さんが、誰かを悪く言うなんて考えられない。
よっぽど向こうの国で何かあるに違いない。
私は手紙を両親に見せ、すぐ帰国命令を出してほしいと頼み込んだ。沢山の手続きを終え、何とか呼び戻せるというところまで来た時だった。
あんなにまめに届いていた兄さんからの手紙が、ある日ぱたりと来なくなってしまった。
「ではこれを、故郷の父母の元へ」
「畏まりました」
離れに戻った私はすぐさまことの顛末を手紙に記す。そしてそれを侍女に渡した後、ふぅと小さく息を吐いた。早馬と船を出せば3日ほどで届くだろう。本当はもっと早くに知らせてあげたかったけど……まぁこれまでの数年を考えれば3日くらいどうってことはない。
「ふぎゃぁあ」
「ああ。……ごめんね、そろそろご飯の時間ね」
そばで泣く娘を抱き自分の乳をあげれば、小さな口で一生懸命吸う。生まれたばかりで弱々しいはずなのにその必死な姿に思わず笑みが溢れる。
この子は何も知らない。
自分の父親にこの先一生出会えないことを。
王妃であり次期国王の後見人となったサリファ様。そんな彼女の命を狙おうとしたギルバート、待ち受けるのは地下牢生活だ。そして彼はそこで私たちの復讐を受け続けてもらう。そうして命を遂げるしかない。
「……モニカや私なら、苦しまずにさくっと死なせてあげたのに」
運が悪いことに彼への執行人はあのセリーヌだ。
きっと……予定よりもずっと苦しむことになるでしょう。
「失礼致します。アズミ様、こちらに妃殿下……い、いえ、サリファ様がいらっしゃっているのですが!」
「サリファ様が?」
「は、はいっ!アズミ様と、少しお話をしたいと言っておりまして」
わざわざこちらに足を運んで下さるなんて……。
「すぐにお通しして下さい」
「はいっ!」
侍女はバタバタと足を立てながら戻っていく。
この後宮には基本、ギルバートしか立ち入れなかった。彼はここを花園と自慢げに言っていたけど、私たちにとっては監獄に近かった。愛してもいない男に身体を開き、嬉しくもないのに笑顔を振りまく。そんなの……私だけじゃ耐えられなかった。
モニカやセリーヌが居たから、ここまで頑張れたのかも知れない。まぁそんなのあの二人には言わないけど。
「失礼しますよ」
「っ!サリファ様!」
勢いよく振り返れば、遠慮がちに部屋へと入ってくるサリファ様がいた。
いつにも増して凛とした姿に同性ながらに惚れ惚れしてしまう。
あの男はどうしてこんなにも美しい人にあんな仕打ちが出来たのかしら。理解に苦しむ。
「突然来てしまってごめんなさい。今、忙しいですか?」
「いえっとんでもないです!わざわざ御足労いただいて……私から直接出向きましたのに」
「ふふっ、一度後宮内に来てみたかったのです」
なんだか楽しそうに笑うサリファ様にキュンとする。いつも凛々しくカッコいいサリファ様が今日はちょっと可愛い。
「あら、リンはお眠ですか?」
「はい。今しがた乳を飲んで満足したみたいです」
「かわいいですね、抱いても良いですか?」
「も、もちろんですっ!」
そう言ってサリファ様は私の腕からリンを受け取り、優しい表情で見つめる。
「リンは貴女にそっくりです。この艶やかな黒髪も……何よりお腹いっぱいになったら寝てしまうところも」
「っ、昔のことです」
「ふふっ。初めて出会った時の貴女は……誰にも懐かない猫のようでしたからね」
昔を思い出して笑うサリファ様、恥ずかしさで顔面が沸騰しそう。
私がこの国にやって来た理由。
それは、行方不明になった兄さんを探すため。それまで兄さんは国で魔導を教える教師として活躍していた。優しくて、教えるのが上手い評判の魔導師。そんな兄さんに王令が下される。
ルスダン王国に行き、魔導を通じて我が国と強固な関係を築くこと。
とても難しく聞こえるが兄さんに課せられた使命は魔導をルスダン王国に広めることであった。何も知らないルスダンの民たちが魔導を知るのは良いことだ。兄さんはそう言って嬉々として出発した。
それから毎日のように手紙が届く。最初こそ楽しそうにルスダンのことを綴った手紙も、次第に王宮内への愚痴となり、最終的にはギルバート=ルスダンという王太子が魔導師を極端に嫌っているとまで書いてあった。
あの兄さんが、誰かを悪く言うなんて考えられない。
よっぽど向こうの国で何かあるに違いない。
私は手紙を両親に見せ、すぐ帰国命令を出してほしいと頼み込んだ。沢山の手続きを終え、何とか呼び戻せるというところまで来た時だった。
あんなにまめに届いていた兄さんからの手紙が、ある日ぱたりと来なくなってしまった。
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