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第十一話:偽りの断罪
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審問室は、息が詰まるほど静かで、冷たい空気に満ちていた。
高い天井から吊るされたシャンデリアの光は、壁にかけられた歴代国王の肖像画を鈍く照らし出し、居並ぶ王族や有力貴族たちの表情をうかがい知ることはできない。私は、アークライト公爵の隣で、借りてきた猫のように身を縮こまらせていた。彼の存在だけが、この凍てつくような場所で私を支える唯一の支えだった。
やがて、審問官の厳かな声が響き、原告側の証言が始まった。
最初に証言台に立ったのは、元婚約者のクラレンスだった。彼は悲劇の主人公を演じるかのように、ハンカチで目元を押さえながら、か細い声で訴えた。
「私とルチア嬢は、将来を誓い合った仲でございました。しかし……彼女は、アークライト公爵閣下の富と権力に目がくらみ、私を捨ててしまったのです。彼女が自ら公爵閣下を誘惑したに違いありません!」
次に、継母が涙ながらに言葉を続けた。
「わたくしどもは、ルチアを実の娘同然に慈しみ、育ててまいりました。それなのに、あの子は……あの子は、恩を仇で返すようなことを……。婚約者を裏切り、家の名を汚し、わたくしたちの心をどれだけ踏みにじれば気が済むのでしょう」
そして、最後にセシリアが、悲しげに眉を寄せてとどめを刺した。
「妹は……昔から、人のものを欲しがる癖がございました。私のドレス、私の宝石……そしてついには、私の大切な友人であったクラレンスまで……。妹がしたことは、許されることではありません」
次々と浴びせかけられる、巧妙に塗り固められた嘘、嘘、嘘。
彼らの迫真の演技に、審問室の空気は完全に同情的、そして私に対しては非難の色を帯びていくのが肌で感じられた。貴族たちの冷ややかな視線が、針のように私に突き刺さる。
「被告人、ルチア・ハノーヴァー。今の証言に対し、何か弁明は」
審問官の冷たい声が、私に反論を促す。
何か言わなければ。これはすべて嘘だと、叫ばなければ。
しかし、継母とセシリアの鋭い視線が私を射抜いた瞬間、屋根裏部屋で過ごした無力な日々の記憶が蘇り、喉が凍りついた。体が鉛のように重く、指先が冷たくなっていく。声を出そうとしても、唇が震えるだけで、意味のある言葉にならない。
私の沈黙は、罪を認めた者のそれと見なされたようだった。審問室のあちこちから、「やはりそうか」「はしたない娘だ」というひそひそ声が聞こえてくる。
ああ、駄目だ。私は、また負けるのだ。この人たちの前では、私はいつだって無力なままなのだ。
絶望が心を覆い尽くし、私が顔を伏せた、その時だった。
今まで黙って私の隣に座っていたアークライト公爵が、静かに、しかし部屋中の誰もが無視できないほどの圧倒的な存在感を放って、すっくと立ち上がった。
灰色の瞳が、氷の刃のように原告たちと審問官を射抜く。
「よろしいかな」
その凛とした低い声は、シンと静まり返った審問室の隅々にまで響き渡った。
「茶番は終わりだ。ここからは、私が彼女の弁護をしよう」
高い天井から吊るされたシャンデリアの光は、壁にかけられた歴代国王の肖像画を鈍く照らし出し、居並ぶ王族や有力貴族たちの表情をうかがい知ることはできない。私は、アークライト公爵の隣で、借りてきた猫のように身を縮こまらせていた。彼の存在だけが、この凍てつくような場所で私を支える唯一の支えだった。
やがて、審問官の厳かな声が響き、原告側の証言が始まった。
最初に証言台に立ったのは、元婚約者のクラレンスだった。彼は悲劇の主人公を演じるかのように、ハンカチで目元を押さえながら、か細い声で訴えた。
「私とルチア嬢は、将来を誓い合った仲でございました。しかし……彼女は、アークライト公爵閣下の富と権力に目がくらみ、私を捨ててしまったのです。彼女が自ら公爵閣下を誘惑したに違いありません!」
次に、継母が涙ながらに言葉を続けた。
「わたくしどもは、ルチアを実の娘同然に慈しみ、育ててまいりました。それなのに、あの子は……あの子は、恩を仇で返すようなことを……。婚約者を裏切り、家の名を汚し、わたくしたちの心をどれだけ踏みにじれば気が済むのでしょう」
そして、最後にセシリアが、悲しげに眉を寄せてとどめを刺した。
「妹は……昔から、人のものを欲しがる癖がございました。私のドレス、私の宝石……そしてついには、私の大切な友人であったクラレンスまで……。妹がしたことは、許されることではありません」
次々と浴びせかけられる、巧妙に塗り固められた嘘、嘘、嘘。
彼らの迫真の演技に、審問室の空気は完全に同情的、そして私に対しては非難の色を帯びていくのが肌で感じられた。貴族たちの冷ややかな視線が、針のように私に突き刺さる。
「被告人、ルチア・ハノーヴァー。今の証言に対し、何か弁明は」
審問官の冷たい声が、私に反論を促す。
何か言わなければ。これはすべて嘘だと、叫ばなければ。
しかし、継母とセシリアの鋭い視線が私を射抜いた瞬間、屋根裏部屋で過ごした無力な日々の記憶が蘇り、喉が凍りついた。体が鉛のように重く、指先が冷たくなっていく。声を出そうとしても、唇が震えるだけで、意味のある言葉にならない。
私の沈黙は、罪を認めた者のそれと見なされたようだった。審問室のあちこちから、「やはりそうか」「はしたない娘だ」というひそひそ声が聞こえてくる。
ああ、駄目だ。私は、また負けるのだ。この人たちの前では、私はいつだって無力なままなのだ。
絶望が心を覆い尽くし、私が顔を伏せた、その時だった。
今まで黙って私の隣に座っていたアークライト公爵が、静かに、しかし部屋中の誰もが無視できないほどの圧倒的な存在感を放って、すっくと立ち上がった。
灰色の瞳が、氷の刃のように原告たちと審問官を射抜く。
「よろしいかな」
その凛とした低い声は、シンと静まり返った審問室の隅々にまで響き渡った。
「茶番は終わりだ。ここからは、私が彼女の弁護をしよう」
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