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第十話:過去からの召喚状
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穏やかな午後の陽光が、テラスに差し込み、紅茶のポットをきらきらと反射させていた。アークライト公爵の隣で過ごす、この温かい時間。それが私の日常になりつつあったある日、その平和は唐突に引き裂かれた。
門の向こうから現れたのは、王家の紋章を掲げた厳めしい馬車だった。
公爵邸の静寂を破るようにやってきた王家の使者は、客間に通されると、冷たい表情で一本の羊皮紙を広げた。
「ルチア・ハノーヴァー嬢に、王家より召喚状である」
その言葉だけで、私の血の気は引いていった。使者は、抑揚のない声で罪状を読み上げる。
「――クラレンス・オルブライトとの正当な婚約を無視し、不貞を働き、アークライト・グレイフィールド公爵を不当にたぶらかした嫌疑。三日後、王宮にて開かれる審問会への出頭を命ずる」
根も葉もない、悪意に満ちた言葉の羅列。
頭が真っ白になり、耳鳴りがした。脳裏に蘇るのは、継母と義姉の蔑むような目、そして屋根裏部屋の冷たい床の感触。せっかく手に入れた温かい日々が、ガラガラと音を立てて崩れ落ちていく。
また、あの場所に、あの人たちの元へ戻される。その恐怖に、私は立っていることすらできず、その場に崩れ落ちそうになった。
その時、アークライト公爵が静かに立ち上がり、私の前に立った。まるで、私を庇う盾になるかのように。
彼は王家の使者を冷然と見据え、落ち着き払った声で応じた。
「承知した。三日後、必ず出頭しよう。……無論、私も共にな」
彼のその言葉に、使者はわずかに怯んだ表情を見せたが、一礼して下がっていった。
使者が去り、扉が閉められた瞬間、張り詰めていた糸が切れたように、私の膝から力が抜けた。
「申し訳、ありません……わたくしのせいで、公爵様に、ご迷惑を……」
「迷惑だなどと、誰が言った」
低い声が、震える私の頭上から降ってくる。見上げると、彼は私を見下ろしていた。その灰色の瞳には、静かだが、燃えるような怒りの炎が宿っていた。それは、子爵家たちの浅はかな策略と、私の心を傷つけたすべての者たちに向けられた怒りだった。
彼は私の前に跪くと、震える両肩をその大きな手で、しかし壊れ物を扱うかのように優しく掴んだ。
「誰がお前を渡すものか」
その言葉は、驚くほど力強かった。
「いいか、よく聞け、ルチア。お前は私のものだ。あの薄汚い連中の元へなど、二度と帰しはしない」
彼は私の瞳をまっすぐに見つめて、はっきりと、そして何よりも優しく告げた。
「心配するな。君は私が守る」
初めて聞く、彼の明確な庇護の言葉。
それは、どんな星屑の光よりも明るく、私の絶望の闇を貫いた。恐怖で凍てついていた心が、彼の言葉でゆっくりと溶かされていく。溢れ出した涙は、もう絶望の色をしていなかった。
「……はい」
私は、涙で濡れた声で、それでも精一杯の力で頷いた。
この人を信じよう。この人と共に、立ち向かおう。
アークライト公爵は静かに立ち上がると、執事を呼んだ。
「三日後の審問会へ向け、万全の準備を。ハノーヴァー子爵家と、その元婚約者について、徹底的に洗い出せ」
彼の冷たい声には、確かな闘志が宿っていた。
「奴らに、後悔というものを教えてやる」
三日後、私を待ち受けるのは断罪の場かもしれない。けれど、もう私は一人ではなかった。最強の盾が隣にいる。私のための戦いが、今、始まろうとしていた。
門の向こうから現れたのは、王家の紋章を掲げた厳めしい馬車だった。
公爵邸の静寂を破るようにやってきた王家の使者は、客間に通されると、冷たい表情で一本の羊皮紙を広げた。
「ルチア・ハノーヴァー嬢に、王家より召喚状である」
その言葉だけで、私の血の気は引いていった。使者は、抑揚のない声で罪状を読み上げる。
「――クラレンス・オルブライトとの正当な婚約を無視し、不貞を働き、アークライト・グレイフィールド公爵を不当にたぶらかした嫌疑。三日後、王宮にて開かれる審問会への出頭を命ずる」
根も葉もない、悪意に満ちた言葉の羅列。
頭が真っ白になり、耳鳴りがした。脳裏に蘇るのは、継母と義姉の蔑むような目、そして屋根裏部屋の冷たい床の感触。せっかく手に入れた温かい日々が、ガラガラと音を立てて崩れ落ちていく。
また、あの場所に、あの人たちの元へ戻される。その恐怖に、私は立っていることすらできず、その場に崩れ落ちそうになった。
その時、アークライト公爵が静かに立ち上がり、私の前に立った。まるで、私を庇う盾になるかのように。
彼は王家の使者を冷然と見据え、落ち着き払った声で応じた。
「承知した。三日後、必ず出頭しよう。……無論、私も共にな」
彼のその言葉に、使者はわずかに怯んだ表情を見せたが、一礼して下がっていった。
使者が去り、扉が閉められた瞬間、張り詰めていた糸が切れたように、私の膝から力が抜けた。
「申し訳、ありません……わたくしのせいで、公爵様に、ご迷惑を……」
「迷惑だなどと、誰が言った」
低い声が、震える私の頭上から降ってくる。見上げると、彼は私を見下ろしていた。その灰色の瞳には、静かだが、燃えるような怒りの炎が宿っていた。それは、子爵家たちの浅はかな策略と、私の心を傷つけたすべての者たちに向けられた怒りだった。
彼は私の前に跪くと、震える両肩をその大きな手で、しかし壊れ物を扱うかのように優しく掴んだ。
「誰がお前を渡すものか」
その言葉は、驚くほど力強かった。
「いいか、よく聞け、ルチア。お前は私のものだ。あの薄汚い連中の元へなど、二度と帰しはしない」
彼は私の瞳をまっすぐに見つめて、はっきりと、そして何よりも優しく告げた。
「心配するな。君は私が守る」
初めて聞く、彼の明確な庇護の言葉。
それは、どんな星屑の光よりも明るく、私の絶望の闇を貫いた。恐怖で凍てついていた心が、彼の言葉でゆっくりと溶かされていく。溢れ出した涙は、もう絶望の色をしていなかった。
「……はい」
私は、涙で濡れた声で、それでも精一杯の力で頷いた。
この人を信じよう。この人と共に、立ち向かおう。
アークライト公爵は静かに立ち上がると、執事を呼んだ。
「三日後の審問会へ向け、万全の準備を。ハノーヴァー子爵家と、その元婚約者について、徹底的に洗い出せ」
彼の冷たい声には、確かな闘志が宿っていた。
「奴らに、後悔というものを教えてやる」
三日後、私を待ち受けるのは断罪の場かもしれない。けれど、もう私は一人ではなかった。最強の盾が隣にいる。私のための戦いが、今、始まろうとしていた。
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