星屑を紡ぐ令嬢と、色を失った魔法使い

希羽

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第十三話:世界で一番鮮やかな言葉

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 公爵邸に戻る馬車の中は、審問会の喧騒が嘘のように静かだった。

 窓の外を流れていく王都の景色を眺めながらも、私の心は隣に座る人のことでいっぱいだった。助けてくれたことへの感謝。そして、あの場で告げられた、あまりにも熱烈な言葉。

 屋敷に帰り着き、二人きりの客間に通されたとき、私は意を決して口を開いた。

「あの、公爵様……助けてくださり、本当にありがとうございました」

 深く頭を下げた私に、彼は静かに「当然のことをしたまでだ」と応えた。

「それから……」

 私は勇気を振り絞って、顔を上げた。

「審問会で仰ってくださったこと……『唯一無二の存在』というのは、その……本当、なのですか?」

 私の問いに、アークライト公爵は答えの代わりに、懐から一枚のハンカチを取り出した。それは、私がこの屋敷に来て、初めて彼のために刺繍した、あの忘れな草のハンカチだった。

 彼はその刺繍にそっと指先で触れると、ゆっくりと顔を上げ、私をまっすぐに見つめた。

 その瞬間、私は息をのんだ。

 彼の瞳は、もう灰色ではなかった。噂に聞いた、そして日記で読んだ、かつての彼が持っていたはずの、雨上がりの空のように澄んだ青色が、そこにあった。完全に、色彩を取り戻していたのだ。

 彼は、その美しい青い瞳で私を見つめ、初めて聞く穏やかな声で言った。

「君の髪は、陽だまりのような温かい亜麻色だ。そして、その瞳は、春の若葉のように優しい緑色をしている」

 彼は私の手を取り、私が着ているドレスに視線を移す。

「そして、そのドレスは……私がずっと、見たいと願っていた夜空の青だ。こんなにも、美しい色だったのだな」

 一つ一つの言葉が、私の心に温かい光となって降り注ぐ。彼が自分の目で見た「色」を、私のために言葉にしてくれている。それが、どんな宝石よりも、どんな賛辞よりも、私の心を震わせた。

「この世界は、こんなにも美しいもので満ちていたのだな。君が教えてくれるまで、私は忘れていた」

 彼はそう言うと、私の手を取ったまま、その場に跪いた。

 英雄であり、誰にも膝を屈することのなかったはずの公爵が、私の前に。

「ルチア」

 初めて、彼は私の名を呼んだ。

「君が私の灰色だった世界に色をくれたように、これからの君の世界を、私が彩ることを誓う。どうか、私と結婚してほしい」

 それは、世界で一番鮮やかで、誠実な言葉だった。

 溢れ出した涙が、彼の手にぽたぽたと落ちていく。それはもう、悲しみや恐怖の涙ではなかった。幸せに満たされた、温かい涙だった。

 かつて、恐怖で声も出せなかった私。でも、今は違う。

「はい……!」

 私は、涙で濡れた笑顔で、精一杯の声を振り絞った。

「喜んで……!」

 彼は静かに立ち上がると、その大きな手で私の涙を優しく拭ってくれた。そして、ゆっくりと顔を近づけ、彼の唇が、私の唇にそっと重なった。

 窓の外では、空が茜色と金色に燃える、美しい夕焼けが広がっていた。

 私の新しい人生は、この世のすべての美しい色に祝福されて、今、確かに始まろうとしていた。
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