「君の魔法は地味で映えない」と人気ダンジョン配信パーティを追放された裏方魔導師。実は視聴数No.1の正体、俺の魔法でした

希羽

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第2話:そして始まる、伝説の放送事故

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「よっしゃ! それじゃあ新生『シャイニング・ブレイバーズ』の記念すべき初配信、いくぜ!」

 勇者ライオネルの威勢のいい掛け声と共に、配信開始のランプが灯った。
 場所は『灼熱の渓谷』中層。中級モンスターが徘徊する、彼らにとっては「狩り慣れた庭」のようなダンジョンだ。

 カメラドローンの操作権限は、新加入の魔導師ルルが持っている。
 彼女はタブレット片手に、カメラ目線でウィンクをした。

「みんな~! 見てるぅ? 新メンバーのルルだよぉ! 今日はあたしの爆裂魔法で、モンスターなんてドッカーン!しちゃうからね!」

 コメント欄が滝のように流れる。

『ルルちゃんキターーー!』
『かわいい! おっさんとは大違いw』
『今日のライオネル様もイケメン』
『画質最高! 期待してるぞ!』

 同接数は開始数分で10万人を突破。
 ライオネルは満足げに頷き、大剣を担いでポーズを決めた。

「よし、早速獲物のお出ましだ! 行くぞお前ら、俺たちの最強の連携を見せてやれ!」

 現れたのは『フレイム・ウルフ』の群れ。動きが素早く、炎を纏った狼型のモンスターだ。
 普段なら、ライオネルの一撃で一掃される雑魚敵である。
 普段なら、そうだった。

「はぁっ! ブレイブ・スラッシュ!」

 ライオネルが剣を振りかぶり、光り輝く必殺の斬撃を放つ。
 それは本来、ウルフの首を綺麗に跳ね飛ばし、スローモーションのような美しいになるはずだった。

 しかし。

 スカッ。

「……え?」

 ライオネルの剣は、ウルフの鼻先を掠め、虚しく空を切った。
 ウルフが直前でバックステップしたのだ。
 勢い余ったライオネルは、つんのめるように体勢を崩し、地面に剣を叩きつけてしまった。

『え?』
『外した?』
『今の必中距離じゃなかったか?』

 コメント欄が一瞬止まる。
 ライオネルは顔を赤くして叫んだ。

「ち、違う! 今のは地面が滑ったんだ! おいルル、援護しろ!」
「任せてぇ! いくよぉ、エクスプロージョン!!」

 ルルが巨大な杖を振るう。
 ドガァァァァァン!!
 凄まじい爆音と共に、ウルフの群れの中心で爆炎が上がった。
 派手だ。確かに派手だ。
 だが、その衝撃波は敵だけでなく、味方とカメラにも襲いかかった。

 ガガガガガッ! グルンッ!

 爆風に煽られたカメラドローンが錐揉み回転を始める。
 配信画面は天地が逆転し、激しくシェイクされたカクテルのような映像を垂れ流した。

『うわああああ画面酔ううううう』
『何これ!? カメラワーク酷すぎない?』
『目が、目がああああ』
『ルルちゃん、カメラ固定して!』

「きゃあっ!? ちょ、ちょっと待って、これ操作難しっ……!」

 ルルは魔法の制御とドローンの操作を同時に行おうとして、パニックに陥っていた。
 ジンは無詠唱の重力魔法でドローンを空中に「固定」していたため、どれだけ激しい戦闘中でも映像は微動だにしなかったのだが、ルルにそんな芸当ができるはずもない。

 そして、爆煙が晴れた後。

「ガアアアッ!」
「うわっちゃあ!?」

 無傷のフレイム・ウルフが煙の中から飛び出し、ライオネルの尻に噛み付いた。
 爆発は派手だったが、素早いウルフたちは爆心から逃れていたのだ。
 ジンの重力魔法による足止めがなければ、広範囲魔法などただの目くらましでしかない。

「い、痛え! 離せこの野郎! おい、回復! あと剣士、何してんだカバー入れ!」
「無理だよライオネル! 煙で何も見えない!」
「回復魔法かけたいけど、ライオネルが動き回るから照準が定まらないのよ!」

 戦場はカオスだった。
 ウルフに噛まれて逃げ回る勇者。
 適当に魔法をぶっ放してさらに視界を悪くする新入り。
 右往左往するだけの前衛。
 そして、それを映すブレブレの手振れ映像。

『何を見せられてるんだ俺たちは』
『ライオネル、あんな動きトロかったっけ?』
『いつもは敵がビタッと止まって見えたけど、あれヤラセだったんか?』
『カメラ酔いで吐きそう。ブラウザバックするわ』
『おっさん(ジン)戻して……』

 同接数は見る見るうちに減っていく。
 10万、8万、5万……。
 コメント欄は「草」「放送事故」「グダグダすぎ」という文字で埋め尽くされた。

「くそっ、なんでだ!? なんで当たんねえんだよ!」

 ライオネルは剣を振り回しながら、内心で焦っていた。
 (おかしい。いつもなら、俺が剣を振れば敵は勝手に当たりに来るような感覚だったのに。体が重い。剣がブレる。それにカメラが邪魔だ!)

 彼は気づいていなかった。
 彼の「神業」のような剣技が、ジンの微細な重力制御によるアシスト――敵を引き寄せ、剣の軌道を修正し、体勢を支える――によって成立していた「接待プレイ」だったことに。

「おいルル! もっと映える魔法撃て! 挽回するんだよ!」
「やってるよぉ! でもこのカメラ、全然言うこと聞かないの!」

 結局、彼らが泥だらけになりながらウルフの群れを撃退した頃には、同接数はピーク時の半分以下になっていた。

「はぁ、はぁ……ど、どうだ! 見たか俺の剣技!」

 ライオネルはボロボロの鎧でカメラに向かってキメ顔を作ったが、カメラは明後日の方向を映していた。

『……』
『お疲れ様でした』
『登録解除しました』
『前のカメラマンの方が優秀だったな』

 流れる冷ややかなコメントを見て、ライオネルは顔を引き攣らせた。

「ち、違う! 今日はラグが酷かったんだ! 回線の調子が悪い! そうだよなルル!?」
「そ、そうそう! 機材の不調! あのおっさんがボロい機材押し付けたせいだよぉ!」

 二人は必死に言い訳を並べ立てたが、一度離れた視聴者の心が戻ることはなかった。

 ――その頃。
 ギルドから遠く離れた辺境の地。

「へっくち」

 俺は焚き火の前でくしゃみをした。
 目の前には、廃棄ダンジョンで狩ったばかりの『ジャイアント・ボア(大猪)』の肉が、じゅうじゅうと良い音を立てて焼けている。

「風邪か? まあいい、この肉は極上だ」

 俺は肉を頬張り、とろけるような脂の甘みに思わず顔を綻ばせた。
 テスト用に起動しておいたドローンカメラが、そんな俺の晩酌風景を映しているはずだ。

 手元のタブレットに目を落とすと、視聴者数は『5人』。
 物好きもいるもんだな、と思いながら画面を覗き込むと、コメントがポツポツと流れていた。

『何この画質の良さ』 
『おい、背景で浮いてる岩、あれ魔法か?』 
『なんかすごい美味そうなんだが』

 ……なんだこれ? 岩が浮いてるのがそんなに珍しいか? まあいい、今は食事が先だ。俺は首を傾げつつ、再び肉にかぶりついた。

 ――この時の俺はまだ知らない。この静かな晩酌が、後に語り継がれる伝説の始まりになるなんてことを。
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