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第1話:映えない魔法使いと、見え透いた追放劇
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「ジン、単刀直入に言う。お前、クビな」
ダンジョン攻略を終えた直後のギルドの貸会議室。
配信機材を片付けていた俺の背中に投げつけられたのは、労いの言葉ではなく解雇通知だった。
振り返ると、そこにはプラチナブロンドの髪をワックスで完璧に整え、煌びやかなミスリルの鎧に身を包んだ青年――このパーティのリーダーであり『勇者』のライオネルが、スマホでエゴサをしながら足を組んで座っていた。
「……クビ、ですか」
「ああ。悪いけど、これは決定事項だ。パーティメンバー全員の総意ってやつ?」
俺は視線を巡らせる。
ソファーには、回復役の聖女と、前衛のアタッカーである剣士が座っていた。二人とも俺と目が合うと、気まずそうに視線を逸らす……わけでもなく、ニヤニヤと嘲るような笑みを浮かべていた。
なるほど、総意ね。
「理由は聞いても?」
「理由? そんなの決まってんだろ。映えないんだよ、お前の魔法」
ライオネルは吐き捨てるように言った。
「俺たちのチャンネル『シャイニング・ブレイバーズ』は今や登録者数100万人目前の超人気パーティだ。視聴者が求めてるの分かるか? 派手なエフェクト! 爽快な一撃! ピンチからの逆転劇! そういうエンタメなんだよ」
「…………」
「なのにお前ときたらどうだ? 重力魔法? なんだよそれ。画面じゃ何が起きてるかさっぱり分からねえんだよ。敵が勝手に転んでるようにしか見えねえし、お前が杖を振っても火も出なけりゃ雷も落ちない。コメント欄見たか? 『後ろのおっさん何してんの?』『荷物持ち?』『地味すぎw』って書かれまくってんだよ」
ライオネルはスマホの画面を俺に突きつける。
そこには確かに、俺の地味さを揶揄する心ないコメントが並んでいた。
俺は小さく溜息をついた。
……なるほど。彼らには、そう見えていたのか。
俺の『重力魔法』は、確かに視覚的なエフェクトは皆無に近い。
だが、ライオネルが放つ大技が百発百中で当たるのは何故か。
素早いワイバーンが、都合よく地面に縫い付けられたように動かなくなるのは何故か。
そして何より、彼らが全力で暴れ回っても、カメラの映像が微動だにせず、映画のような滑らかなアングルを維持できているのは何故か。
全て俺が、ミリ単位で重力を操作し、敵を拘束し、カメラをスタビライザーのように浮遊制御しているからだ。
だが――俺はそれを口にはしなかった。
30歳を過ぎたいい大人が、20代前半の血気盛んな若者に「実は僕が全部やってたんだよ!」と弁明するのは、なんというか、痛々しい。
それに、正直なところ。
(……ちょうど、潮時だったかもしれないな)
俺は内心でそう思っていた。
再生回数、高評価率、スパチャの額。数字に取り憑かれ、危険な深層階へ無茶な特攻を繰り返す彼らについていくことに、俺は疲れていたのだ。
「分かりました。今までお世話になりました」
「お、意外とあっさり引き下がるじゃん。もっと『置いていかないでくれぇ!』とか泣きつくかと思ったのに」
ライオネルが拍子抜けしたように鼻を鳴らす。
そして、部屋の奥のドアが開いた。
「お待たせしましたぁ~! あれ? まだいたんですかぁ?」
入ってきたのは、露出度の高い真っ赤なローブを纏った若い少女だった。手には身の丈ほどもある巨大な杖を持っている。
「紹介しよう。新メンバーの『爆炎のルル』ちゃんだ! 彼女の魔法はすげえぞ、とにかく爆発! 派手! 画面映え最強!」
「よろしくお願いしまぁす! あ、おじさん、そのカメラ置いていってくださいね? 明日からの配信で使うんで」
ルルと呼ばれた少女は、俺の手から商売道具である配信ドローンと制御タブレットをひったくった。
「……それは俺の私物なんですが」
「はぁ? ケチくせえこと言ってんじゃねえよ。手切れ金代わりに置いてけ。その代わり、お前にはこれをやるよ」
ライオネルがテーブルに放り投げたのは、一枚の古ぼけた羊皮紙だった。
「辺境の『廃棄ダンジョン』の権利書だ。じいちゃんの遺産整理で出てきたゴミ物件だけどな。お前の地味な魔法がお似合いの場所だろ? そこで畑でも耕して余生を過ごしな」
ドッと、室内が笑いに包まれる。
俺は黙って権利書を手に取った。
廃棄ダンジョン。魔素が枯れ、モンスターも出なくなった廃坑のような場所だ。資産価値はゼロに近い。
だが――俺にとっては、願ってもない退職金だった。
「ありがとうございます。では」
俺は一礼し、部屋を出た。
背後から「負け犬が」「せいぜい地味に生きろよ」という嘲笑が聞こえたが、扉が閉まると完全に遮断された。
廊下を歩きながら、俺は懐から自分の端末を取り出す。
そこには『シャイニング・ブレイバーズ』のチャンネル管理画面が表示されていた。俺は裏方として全てのアカウント管理を行っていたのだ。
「パスワード変更、管理者権限の譲渡……よし」
俺は淡々と事務処理を済ませ、最後に【登録解除】のボタンを押した。
これで俺は完全に部外者だ。
「さて……」
ギルドの外に出ると、夕日が街を照らしていた。
不思議と、心は軽かった。
あの承認欲求と数字のノルマに追われる日々から解放されたのだ。
「辺境のダンジョンか。悪くないな」
誰にも邪魔されず、誰の顔色も窺わず。
俺の好き勝手に魔法を使って、静かに暮らす。
それは俺が長年夢見ていた、最高のスローライフの始まりだった。
――この時の俺は、まだ知らなかった。
俺が抜けた後の『勇者パーティ』が、俺という重石(ストッパー)を失ってどうなるかを。
そして、俺がただ「生活のため」に始めた辺境からの配信が、世界中を巻き込む大騒動になることを。
「ま、とりあえず今日は飲むか」
俺は近くの酒場へと足を向けた。
足取りは、重力魔法を使うまでもなく、羽のように軽かった。
ダンジョン攻略を終えた直後のギルドの貸会議室。
配信機材を片付けていた俺の背中に投げつけられたのは、労いの言葉ではなく解雇通知だった。
振り返ると、そこにはプラチナブロンドの髪をワックスで完璧に整え、煌びやかなミスリルの鎧に身を包んだ青年――このパーティのリーダーであり『勇者』のライオネルが、スマホでエゴサをしながら足を組んで座っていた。
「……クビ、ですか」
「ああ。悪いけど、これは決定事項だ。パーティメンバー全員の総意ってやつ?」
俺は視線を巡らせる。
ソファーには、回復役の聖女と、前衛のアタッカーである剣士が座っていた。二人とも俺と目が合うと、気まずそうに視線を逸らす……わけでもなく、ニヤニヤと嘲るような笑みを浮かべていた。
なるほど、総意ね。
「理由は聞いても?」
「理由? そんなの決まってんだろ。映えないんだよ、お前の魔法」
ライオネルは吐き捨てるように言った。
「俺たちのチャンネル『シャイニング・ブレイバーズ』は今や登録者数100万人目前の超人気パーティだ。視聴者が求めてるの分かるか? 派手なエフェクト! 爽快な一撃! ピンチからの逆転劇! そういうエンタメなんだよ」
「…………」
「なのにお前ときたらどうだ? 重力魔法? なんだよそれ。画面じゃ何が起きてるかさっぱり分からねえんだよ。敵が勝手に転んでるようにしか見えねえし、お前が杖を振っても火も出なけりゃ雷も落ちない。コメント欄見たか? 『後ろのおっさん何してんの?』『荷物持ち?』『地味すぎw』って書かれまくってんだよ」
ライオネルはスマホの画面を俺に突きつける。
そこには確かに、俺の地味さを揶揄する心ないコメントが並んでいた。
俺は小さく溜息をついた。
……なるほど。彼らには、そう見えていたのか。
俺の『重力魔法』は、確かに視覚的なエフェクトは皆無に近い。
だが、ライオネルが放つ大技が百発百中で当たるのは何故か。
素早いワイバーンが、都合よく地面に縫い付けられたように動かなくなるのは何故か。
そして何より、彼らが全力で暴れ回っても、カメラの映像が微動だにせず、映画のような滑らかなアングルを維持できているのは何故か。
全て俺が、ミリ単位で重力を操作し、敵を拘束し、カメラをスタビライザーのように浮遊制御しているからだ。
だが――俺はそれを口にはしなかった。
30歳を過ぎたいい大人が、20代前半の血気盛んな若者に「実は僕が全部やってたんだよ!」と弁明するのは、なんというか、痛々しい。
それに、正直なところ。
(……ちょうど、潮時だったかもしれないな)
俺は内心でそう思っていた。
再生回数、高評価率、スパチャの額。数字に取り憑かれ、危険な深層階へ無茶な特攻を繰り返す彼らについていくことに、俺は疲れていたのだ。
「分かりました。今までお世話になりました」
「お、意外とあっさり引き下がるじゃん。もっと『置いていかないでくれぇ!』とか泣きつくかと思ったのに」
ライオネルが拍子抜けしたように鼻を鳴らす。
そして、部屋の奥のドアが開いた。
「お待たせしましたぁ~! あれ? まだいたんですかぁ?」
入ってきたのは、露出度の高い真っ赤なローブを纏った若い少女だった。手には身の丈ほどもある巨大な杖を持っている。
「紹介しよう。新メンバーの『爆炎のルル』ちゃんだ! 彼女の魔法はすげえぞ、とにかく爆発! 派手! 画面映え最強!」
「よろしくお願いしまぁす! あ、おじさん、そのカメラ置いていってくださいね? 明日からの配信で使うんで」
ルルと呼ばれた少女は、俺の手から商売道具である配信ドローンと制御タブレットをひったくった。
「……それは俺の私物なんですが」
「はぁ? ケチくせえこと言ってんじゃねえよ。手切れ金代わりに置いてけ。その代わり、お前にはこれをやるよ」
ライオネルがテーブルに放り投げたのは、一枚の古ぼけた羊皮紙だった。
「辺境の『廃棄ダンジョン』の権利書だ。じいちゃんの遺産整理で出てきたゴミ物件だけどな。お前の地味な魔法がお似合いの場所だろ? そこで畑でも耕して余生を過ごしな」
ドッと、室内が笑いに包まれる。
俺は黙って権利書を手に取った。
廃棄ダンジョン。魔素が枯れ、モンスターも出なくなった廃坑のような場所だ。資産価値はゼロに近い。
だが――俺にとっては、願ってもない退職金だった。
「ありがとうございます。では」
俺は一礼し、部屋を出た。
背後から「負け犬が」「せいぜい地味に生きろよ」という嘲笑が聞こえたが、扉が閉まると完全に遮断された。
廊下を歩きながら、俺は懐から自分の端末を取り出す。
そこには『シャイニング・ブレイバーズ』のチャンネル管理画面が表示されていた。俺は裏方として全てのアカウント管理を行っていたのだ。
「パスワード変更、管理者権限の譲渡……よし」
俺は淡々と事務処理を済ませ、最後に【登録解除】のボタンを押した。
これで俺は完全に部外者だ。
「さて……」
ギルドの外に出ると、夕日が街を照らしていた。
不思議と、心は軽かった。
あの承認欲求と数字のノルマに追われる日々から解放されたのだ。
「辺境のダンジョンか。悪くないな」
誰にも邪魔されず、誰の顔色も窺わず。
俺の好き勝手に魔法を使って、静かに暮らす。
それは俺が長年夢見ていた、最高のスローライフの始まりだった。
――この時の俺は、まだ知らなかった。
俺が抜けた後の『勇者パーティ』が、俺という重石(ストッパー)を失ってどうなるかを。
そして、俺がただ「生活のため」に始めた辺境からの配信が、世界中を巻き込む大騒動になることを。
「ま、とりあえず今日は飲むか」
俺は近くの酒場へと足を向けた。
足取りは、重力魔法を使うまでもなく、羽のように軽かった。
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