「君の魔法は地味で映えない」と人気ダンジョン配信パーティを追放された裏方魔導師。実は視聴数No.1の正体、俺の魔法でした

希羽

文字の大きさ
4 / 20

第4話:無自覚バズと、伝説のフェンリル(野良犬)

しおりを挟む
 翌朝。
 小鳥のさえずりで目を覚ました俺は、大きく伸びをした。

「ふあ……よく寝た。野宿も悪くないな」

 昨夜は焚き火のそばでそのまま眠ってしまったらしい。
 俺は寝ぼけ眼で、まだ起動したままだった配信タブレットを覗き込んだ。

「ん? 故障か?」

 画面の隅に表示されている同接数のカウンターが、『1,204』という数字を示していたからだ。
 昨夜の「5人」から、なぜか200倍以上に膨れ上がっている。
 コメント欄も、俺が寝ている間ずっと動いていた形跡があった。

『おっさん起きろ』
『寝顔配信とか需要ないぞw』
『でも画質良すぎて環境映像として優秀』
『この焚き火の音、癒やされるわぁ』

「……なんだこれ。バグか?」

 俺は端末を軽く叩いたが、数字は変わらない。
 まあいい。どうせ暇人が集まっているだけだろう。
 俺は気にせず、朝食の準備に取り掛かることにした。昨日の猪肉の残りを炙り、香草を振る。

 その時だった。

 ゾワリ。
 肌を刺すような冷気が、森の奥から漂ってきた。
 あたりの鳥たちが一斉に飛び去り、森が不気味なほどの静寂に包まれる。

『え?』
『なんか雰囲気変わった?』
『おい、奥! なんかいるぞ!』
『嘘だろ……あの銀色の毛並み……』
『逃げろおっさん! 死ぬぞ!!』

 コメント欄がパニックで加速する。
 俺も視線を上げた。
 森の暗がりから、音もなく現れた「それ」は、優美で、そして圧倒的な威圧感を放っていた。

 銀色に輝く体毛。
 大人の背丈ほどもある巨躯。
 そして、全てを見透かすような黄金の瞳。

「……でかい犬だな」

 俺は呟いた。

『犬じゃねえよ!』
『フェンリルだああああああ!!』
『災害指定モンスターSランク! 国が動くレベルだぞ!』
『終わった。この配信は遺書になる』

 視聴者たちが絶望する中、その銀色の狼――フェンリルは、俺を睨み据え、低い唸り声を上げた。
 敵意ではない。これは……。

「グルルルルッ!!」

 フェンリルが地面を蹴った。
 速い。
 音速を超えたその動きは、雷光のように俺の喉元へと迫る。

 ――グゥンッ。

 だが、俺の目の前数センチで、フェンリルは急停止した。
 いや、強制的に止められたのだ。

「グラビティ・ダウン」

 俺は箸を持ったままの指を、軽く下に向けただけだ。
 それだけで、フェンリルの背中には数トンの重力がのしかかり、その巨体を地面に縫い付けていた。

「キャンッ!?」

 フェンリルが情けない声を上げて、地面にペシャリと伏せる。
 四肢を踏ん張り、起き上がろうともがくが、俺の重力鎖はビクともしない。

「いきなり飛びかかってくるなよ。危ないだろ」
「クゥゥン……」

 俺は肉を焼きながら、困ったように溜息をついた。

「腹が減ってるのか? まあ、そんなデカい図体してりゃあな」

 俺は焼けたばかりの猪肉を一切れ、放り投げてやった。
 フェンリルの鼻先に落ちる肉。
 俺は重力を解除する。

「食え」

 フェンリルは警戒するように俺を見て、それから恐る恐る肉に食いついた。
 瞬間、その黄金の瞳が見開かれる。
 ハグハグ、ガツガツ!
 すごい勢いで肉を平らげると、フェンリルは尻尾をブンブンと振りながら、俺の方へ擦り寄ってきた。

「なんだ、もっと欲しいのか? しょうがないな」

 俺が追加の肉をやると、あろうことかこの伝説の魔獣は、俺の足元にごろんと寝転がり、腹を見せたのだ。
 服従のポーズ。

「よしよし。毛並みがいいな、お前は」

 俺はフェンリルの首元をワシャワシャと撫でた。
 フェンリルは「くぅ~ん」と甘えた声を出し、俺の手に顔を擦り付けてくる。
 さっきまでの殺気はどこへやら、完全にただのデカい愛玩犬だ。

「一人暮らしも寂しいし、ちょうどいいか。お前、俺んとこで飼ってやるよ」

 俺は適当に決めた。

「名前は……白っぽいから『シロ』でいいか」

『ネーミングセンスwww』
『フェンリル捕まえてシロてwww』
『嘘だろ……あのフェンリルがお腹見せてる……』
『俺たちが見てるのって、神話の映像だっけ?』
『フェンリル制圧とか、このおっさん何者だよ』
『【速報】伝説の魔獣、餌付けされる』

 コメント欄が爆発的な速度で流れているが、俺は肉を焼くのに忙しくて気づかない。
 シロ(フェンリル)は俺の足元で幸せそうに肉を貪り、時折カメラに向かって「ヴゥーッ(撮るな)」と威嚇している。

「こらシロ、視聴者さんに失礼だろ」
「キャン!」

 俺が叱ると、シロはお利口に座り直した。
 うん、しつけも楽そうだ。

「さて、朝飯も食ったし、今日はこのダンジョンの奥でも探索してみるか。なあシロ?」
「ワンッ!」

 こうして、俺とシロ(元・人類の脅威)の、奇妙な同居生活が始まった。
 この時点で、同接数は『5万人』を突破。
 SNSのトレンドには「#フェンリル餌付け」「#シロちゃん」「#謎のおっさん」が並び始めていた。

 一方その頃。

 王都のギルド本部では、緊急招集がかかっていた。
「おい! この配信を見ろ! 辺境でSランク指定個体のフェンリルが確認された!」
「討伐隊を……いや待て、なんだこの映像は?」
「手懐けられてる!? 誰だこの男は! すぐに特定しろ!」

 俺の平穏なスローライフ(予定)は、知らぬ間に、国家規模の騒動へと発展しつつあった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

地味で無能な聖女だと婚約破棄されました。でも本当は【超過浄化】スキル持ちだったので、辺境で騎士団長様と幸せになります。ざまぁはこれからです。

黒崎隼人
ファンタジー
聖女なのに力が弱い「偽物」と蔑まれ、婚約者の王子と妹に裏切られ、死の土地である「瘴気の辺境」へ追放されたリナ。しかし、そこで彼女の【浄化】スキルが、あらゆる穢れを消し去る伝説級の【超過浄化】だったことが判明する! その奇跡を隣国の最強騎士団長カイルに見出されたリナは、彼の溺愛に戸惑いながらも、荒れ地を楽園へと変えていく。一方、リナを捨てた王国は瘴気に沈み崩壊寸前。今さら元婚約者が土下座しに来ても、もう遅い! 不遇だった少女が本当の愛と居場所を見つける、爽快な逆転ラブファンタジー!

答えられません、国家機密ですから

ととせ
恋愛
フェルディ男爵は「国家機密」を継承する特別な家だ。その後継であるジェシカは、伯爵邸のガゼボで令息セイルと向き合っていた。彼はジェシカを愛してると言うが、本当に欲しているのは「国家機密」であるのは明白。全てに疲れ果てていたジェシカは、一つの決断を彼に迫る。

トカゲ令嬢とバカにされて聖女候補から外され辺境に追放されましたが、トカゲではなく龍でした。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。  リバコーン公爵家の長女ソフィアは、全貴族令嬢10人の1人の聖獣持ちに選ばれたが、その聖獣がこれまで誰も持ったことのない小さく弱々しいトカゲでしかなかった。それに比べて側室から生まれた妹は有名な聖獣スフィンクスが従魔となった。他にもグリフォンやペガサス、ワイバーンなどの実力も名声もある従魔を従える聖女がいた。リバコーン公爵家の名誉を重んじる父親は、ソフィアを正室の領地に追いやり第13王子との婚約も辞退しようとしたのだが……  王立聖女学園、そこは爵位を無視した弱肉強食の競争社会。だがどれだけ努力しようとも神の気紛れで全てが決められてしまう。まず従魔が得られるかどうかで貴族令嬢に残れるかどうかが決まってしまう。

「男のくせに料理なんて」と笑われたけど、今やギルドの胃袋を支えてます。

ファンタジー
「顔も頭も平凡で何の役にも立たない」とグリュメ家を追放されたボルダン。 辿り着いたのはギルド食堂。そこで今まで培った料理の腕を発揮し……。 ※複数のサイトに投稿しています。

追放悪役令嬢、辺境の荒れ地を楽園に!元夫の求婚?ざまぁ、今更遅いです!

黒崎隼人
ファンタジー
皇太子カイルから「政治的理由」で離婚を宣告され、辺境へ追放された悪役令嬢レイナ。しかし彼女は、前世の農業知識と、偶然出会った神獣フェンリルの力を得て、荒れ地を豊かな楽園へと変えていく。 そんな彼女の元に現れたのは、離婚したはずの元夫。「離婚は君を守るためだった」と告白し、復縁を迫るカイルだが、レイナの答えは「ノー」。 「離婚したからこそ、本当の幸せが見つかった」 これは、悪女のレッテルを貼られた令嬢が、自らの手で未来を切り拓き、元夫と「夫婦ではない」最高のパートナーシップを築く、成り上がりと新しい絆の物語。

婚約破棄? 私、この国の守護神ですが。

國樹田 樹
恋愛
王宮の舞踏会場にて婚約破棄を宣言された公爵令嬢・メリザンド=デラクロワ。 声高に断罪を叫ぶ王太子を前に、彼女は余裕の笑みを湛えていた。 愚かな男―――否、愚かな人間に、女神は鉄槌を下す。 古の盟約に縛られた一人の『女性』を巡る、悲恋と未来のお話。 よくある感じのざまぁ物語です。 ふんわり設定。ゆるーくお読みください。

婚約破棄されたので聖獣育てて田舎に帰ったら、なぜか世界の中心になっていました

かしおり
恋愛
「アメリア・ヴァルディア。君との婚約は、ここで破棄する」 王太子ロウェルの冷酷な言葉と共に、彼は“平民出身の聖女”ノエルの手を取った。 だが侯爵令嬢アメリアは、悲しむどころか—— 「では、実家に帰らせていただきますね」 そう言い残し、静かにその場を後にした。 向かった先は、聖獣たちが棲まう辺境の地。 かつて彼女が命を救った聖獣“ヴィル”が待つ、誰も知らぬ聖域だった。 魔物の侵攻、暴走する偽聖女、崩壊寸前の王都—— そして頼る者すらいなくなった王太子が頭を垂れたとき、 アメリアは静かに告げる。 「もう遅いわ。今さら後悔しても……ヴィルが許してくれないもの」 聖獣たちと共に、新たな居場所で幸せに生きようとする彼女に、 世界の運命すら引き寄せられていく—— ざまぁもふもふ癒し満載! 婚約破棄から始まる、爽快&優しい異世界スローライフファンタジー!

義母と義妹に虐げられていましたが、陰からじっくり復讐させていただきます〜おしとやか令嬢の裏の顔〜

有賀冬馬
ファンタジー
貴族の令嬢リディアは、父の再婚によりやってきた継母と義妹から、日々いじめと侮蔑を受けていた。 「あら、またそのみすぼらしいドレス? まるで使用人ね」 本当の母は早くに亡くなり、父も病死。残されたのは、冷たい屋敷と陰湿な支配。 けれど、リディアは泣き寝入りする女じゃなかった――。 おしとやかで無力な令嬢を演じながら、彼女はじわじわと仕返しを始める。 貴族社会の裏の裏。人の噂。人間関係。 「ふふ、気づいた時には遅いのよ」 優しげな仮面の下に、冷たい微笑みを宿すリディアの復讐劇が今、始まる。 ざまぁ×恋愛×ファンタジーの三拍子で贈る、スカッと復讐劇! 勧善懲悪が好きな方、読後感すっきりしたい方にオススメです!

処理中です...