「君の魔法は地味で映えない」と人気ダンジョン配信パーティを追放された裏方魔導師。実は視聴数No.1の正体、俺の魔法でした

希羽

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第5話:バグった数字と、祭り状態のコメント欄

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「……ん?」

 昼食の準備を終え、ふと配信用のタブレットに目をやった俺は、フリーズした。
 そこには、俺の常識では理解不能な数字が表示されていたからだ。

 【同時接続数:582,903人】

「はあ?」

 俺は思わず素っ頓狂な声を上げた。
 58万人?
 俺が裏方をしていた頃の『シャイニング・ブレイバーズ』でさえ、最高記録は記念配信の30万人だった。
 それが、ただ焚き火で肉を焼き、デカい犬(シロ)を撫で回しているだけの配信で、その倍近い数字?

「……ああ、なるほど」

 俺は冷静に納得した。
 故障だ。
 やっぱり昨日の湿気で回路がイカれたに違いない。
 辺境の廃棄ダンジョンなんて電波も悪いし、数字がバグって表示されているのだろう。

「悪いなみんな、なんかカウンターが壊れてるみたいだ。58万人とか表示されてるよ。そんなわけないのになぁ」

 俺が苦笑いしながらカメラに語りかけると、コメント欄が滝のような速度で流れた。

『バグじゃねえよ!』
『現実を見ろおっさん!』
『今、国内の配信で同接トップだぞwww』
『王国のトレンド1位「#謎のおっさん」おめでとう』
『フェンリルと戯れる動画とか、もはや国宝映像なんだよなぁ』
『無自覚乙』

 あまりに速すぎて文字が読めない。
 まあ、機械が壊れるとログもおかしくなるっていうしな。
 俺は気にせず、シロに向き直った。

「ほらシロ、昼飯だぞ。今日はオークのステーキだ」
「ワフッ!」

 シロが嬉しそうに尻尾を振る。
 その一挙手一投足に、画面の向こうの58万人が悶絶していることなど、俺は知る由もなかった。

 ――同時刻。王都の高級宿屋の一室。

「ふざけんなよ! なんで減り続けてんだ!」

 勇者ライオネルは、壁にスマホを投げつけそうな勢いで怒鳴り散らしていた。
 彼らのチャンネル登録者数は、配信事故以来、激減の一途を辿っていた。
 100万人目前だった数字は、一晩で80万人を切り、今も秒単位で減り続けている。

「ライオネルぅ、もう一回配信しようよぉ。あたしが可愛く謝れば、みんな戻ってくるって」

 ルルが甘ったるい声で提案するが、ライオネルは爪を噛んで焦燥感を露わにした。

「甘いんだよ! 一度離れた客を戻すのがどれだけ大変か……くそっ、ジンの奴、辞める前に機材に細工しやがったな」

 自分の不手際を棚に上げ、ライオネルは元メンバーへの逆恨みを募らせる。
 その時、スマホを見ていた剣士が、震える声で言った。

「お、おいライオネル。これ見ろよ」
「あ? なんだよ今忙しいのに」
「SNSのトレンド……1位から5位まで、全部同じ話題で埋まってる」

 ライオネルがひったくるように画面を見る。

 1. #謎のおっさん
 2. #フェンリル餌付け
 3. #重力魔法ヤバすぎ
 4. #最高画質スローライフ
 5. #シャイニングブレイバーズ放送事故(↓ランクダウン)

「なんだこれは? おっさん?」

 嫌な予感がした。
 ライオネルは震える指で、その話題の中心となっている動画リンクをタップした。

 画面に映し出されたのは、見覚えのある男の顔。
 そして、信じられないほど鮮明で美しい映像の中で、伝説の魔獣フェンリルを手玉に取る姿だった。

「……は?」

 ライオネルの思考が停止する。その男は間違いなく、ライオネルがクビにした地味な裏方だ。

「う、嘘だろ……? ジンはただの荷物持ちで……重力魔法なんて、物をちょっと軽くするくらいの……」
「ライオネル! 見てこのコメント!」

 ルルが叫ぶ。

『このおっさん、昨日の放送事故のとこの元メンバーじゃね?』
『ああ、勇者パーティをクビになったらしいぞ』
『は? こんな凄腕をクビにしたのか?』
『見る目なさすぎワロタ』
『勇者(笑)の配信よりこっちの方が百倍面白いわ』
『ざまぁwww』

 ライオネルの顔から、血の気が引いていく。
 彼らが失った数字。その全てが、いやそれ以上の熱狂が、今まさに「捨てたゴミ」だったはずの男に流れている。

「ありえねえ……こんなの、ありえねえッ!!」

 ライオネルの絶叫が部屋に響く。
 だが、その声がネットの海に届くことはない。
 世界は今、辺境の「地味な」魔導師に夢中なのだから。
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