6 / 20
第6話:焦燥の勇者と、配信中の仲間割れ
しおりを挟む
翌日。
動画配信サイト『ダンジョン・チューブ』のランキング欄には、異常な事態が発生していた。
1位:【神回】伝説のフェンリルと朝食を食べてみた【スローライフ】(配信者:ジン)
2位:【検証】謎のおっさんの魔法、解析班がサジを投げる【切り抜き】
3位:【悲報】勇者パーティ、同接1万人割れ【オワコン】
かつての王者『シャイニング・ブレイバーズ』のチャンネルは、見るも無残な有様だった。
だが、勇者ライオネルは諦めていなかった。いや、諦めるわけにはいかなかった。
「いいか、今日の配信で挽回するぞ! 昨日のコメントにあった『地味』とか『下手』とかいう声を黙らせる、ド派手な連携を見せてやるんだ!」
ライオネルは血走った目で、メンバーに檄を飛ばした。
場所は『雷鳴の洞窟』。帯電したモンスターが出現する、難易度の高いダンジョンだ。
「ルル! お前は俺の合図に合わせて最大火力の魔法を撃て! カメラのブレなんか気にするな、とにかく迫力だ!」
「わ、わかったわよぉ……」
ルルは不満げに答える。昨日の炎上で彼女のSNSにもアンチコメントが殺到しており、メンタルは限界近かった。
配信開始。
タイトルは【復活!最強勇者の本気、見せます】。
「みんな待たせたな! 前回はちょっと調子が悪かったが、今日は完璧な『シャイニング・ブレイバーズ』を見せてやるぜ!」
ライオネルが空元気で叫ぶが、コメント欄の流れは遅い。
残っているのは、惰性で見ている古参ファンか、炎上を期待する野次馬だけだ。
『復活?』
『あのおっさんの配信見た後だと、なんかショボく見えるな』
『画質ガビガビで草』
ライオネルはコメントを見ないふりをして、現れた『サンダー・リザード』に向かって突っ込んだ。
「はぁぁぁっ! 食らえ、ライトニング・スラッシュ!」
勇者の剣が光を帯びる。
だが――リザードは素早く身を翻し、壁を駆け上がって天井へと逃げた。
ライオネルの剣はまたも空を切る。
「なっ!? ちっ、ちょこまかと!」
以前なら、裏方(ジン)の重力魔法がリザードの身体を重くし、壁走りを封じていた場面だ。
ライオネルはその「見えないアシスト」がない戦闘に、苛立ちを募らせる。
「ルル、撃て! 天井ごと吹き飛ばせ!」
「えっ、でも天井崩れたら危ないんじゃ……」
「いいから撃てぇ!」
「もう、知らないから! エクスプロージョン!」
ドゴォォォォン!!
爆炎が天井を直撃し、巨大な岩石がバラバラと降り注ぐ。
それは敵のリザードだけでなく、ライオネルたちの頭上にも。
「うわっ!? 馬鹿野郎、俺たちの上に落としてどうすんだ!」
「あんたが撃てって言ったんでしょ!?」
「誘導しろよ! 魔法使いなら落下地点の計算くらいできるだろ!」
「あたしは火力特化なの! そんな細かい制御、あのおっさん以外できるわけないでしょ!」
落石を避けながら、二人はギャーギャーと言い争いを始めた。
カメラはその無様な様子――埃まみれになり、お互いを罵倒し合う勇者と美少女――を克明に捉えていた。
『うわぁ……』
『仲間割れキター』
『配信中だぞお前ら』
『「ジン以外できるわけない」って認めてて草』
『やっぱあのおっさんが本体だったんじゃん』
決定的なコメントが流れる。
自分たちの口で「ジンがいなければ何もできない」と証明してしまったのだ。
「ぐっ……ふざけんな! 俺は勇者だぞ! こんなトカゲ一匹に!」
ライオネルは激昂し、デタラメに剣を振り回した。
だが、冷静さを欠いた攻撃が当たるはずもない。
逆にリザードの電撃を浴び、痺れて無様に転倒する。
「あーあ、見てらんないわ」
ルルが吐き捨てるように言った。その声もしっかりマイクに拾われている。
「ねえライオネル、もう止めない? あたし、こんな泥臭いことするためにパーティ入ったんじゃないんだけど」
「あ? 誰のせいでこうなってると思ってんだ!」
「あんたが弱くなったからでしょ! 前のカメラマン呼び戻せばいいじゃん!」
「黙れ! あんな地味な奴、二度と呼ぶか!」
――プツン。
そこで配信は唐突に途切れた。
あまりの醜態に、運営側が「不適切なコンテンツ」としてBAN(配信停止)したのか、あるいは機材が壊れたのか。
確かなことは一つ。
『シャイニング・ブレイバーズ』のブランドは、この日をもって完全に地に落ちたということだ。
◇◇◇
一方その頃。辺境の廃棄ダンジョン。
「ん~、いい湯だ」
俺は魔法で作った即席の露天風呂に、肩まで浸かっていた。
地面をくり抜き、水魔法で満たし、火魔法で適温に。仕上げに重力魔法で周囲の空気を遮断すれば、誰にも邪魔されない完全なプライベート空間の出来上がりだ。
ふと横を見ると、手ぬぐいを頭に乗せたシロ(フェンリル)も、目を細めて気持ちよさそうに浸かっている。
「極楽だな、シロ」
「ワフゥ……」
湯船のふちに置いたタブレットには、勇者たちの配信停止画面が表示されていた。
まあ、なんかトラブったみたいだが、今の俺には関係ないことだ。俺は興味なさげに画面を伏せた。
「さて、風呂上がりに冷えたフルーツ牛乳でも飲むか」
遠く離れた元仲間の悲鳴なんて、ここには届かない。
俺にあるのは、ただ目の前の充実したスローライフだけだ。
動画配信サイト『ダンジョン・チューブ』のランキング欄には、異常な事態が発生していた。
1位:【神回】伝説のフェンリルと朝食を食べてみた【スローライフ】(配信者:ジン)
2位:【検証】謎のおっさんの魔法、解析班がサジを投げる【切り抜き】
3位:【悲報】勇者パーティ、同接1万人割れ【オワコン】
かつての王者『シャイニング・ブレイバーズ』のチャンネルは、見るも無残な有様だった。
だが、勇者ライオネルは諦めていなかった。いや、諦めるわけにはいかなかった。
「いいか、今日の配信で挽回するぞ! 昨日のコメントにあった『地味』とか『下手』とかいう声を黙らせる、ド派手な連携を見せてやるんだ!」
ライオネルは血走った目で、メンバーに檄を飛ばした。
場所は『雷鳴の洞窟』。帯電したモンスターが出現する、難易度の高いダンジョンだ。
「ルル! お前は俺の合図に合わせて最大火力の魔法を撃て! カメラのブレなんか気にするな、とにかく迫力だ!」
「わ、わかったわよぉ……」
ルルは不満げに答える。昨日の炎上で彼女のSNSにもアンチコメントが殺到しており、メンタルは限界近かった。
配信開始。
タイトルは【復活!最強勇者の本気、見せます】。
「みんな待たせたな! 前回はちょっと調子が悪かったが、今日は完璧な『シャイニング・ブレイバーズ』を見せてやるぜ!」
ライオネルが空元気で叫ぶが、コメント欄の流れは遅い。
残っているのは、惰性で見ている古参ファンか、炎上を期待する野次馬だけだ。
『復活?』
『あのおっさんの配信見た後だと、なんかショボく見えるな』
『画質ガビガビで草』
ライオネルはコメントを見ないふりをして、現れた『サンダー・リザード』に向かって突っ込んだ。
「はぁぁぁっ! 食らえ、ライトニング・スラッシュ!」
勇者の剣が光を帯びる。
だが――リザードは素早く身を翻し、壁を駆け上がって天井へと逃げた。
ライオネルの剣はまたも空を切る。
「なっ!? ちっ、ちょこまかと!」
以前なら、裏方(ジン)の重力魔法がリザードの身体を重くし、壁走りを封じていた場面だ。
ライオネルはその「見えないアシスト」がない戦闘に、苛立ちを募らせる。
「ルル、撃て! 天井ごと吹き飛ばせ!」
「えっ、でも天井崩れたら危ないんじゃ……」
「いいから撃てぇ!」
「もう、知らないから! エクスプロージョン!」
ドゴォォォォン!!
爆炎が天井を直撃し、巨大な岩石がバラバラと降り注ぐ。
それは敵のリザードだけでなく、ライオネルたちの頭上にも。
「うわっ!? 馬鹿野郎、俺たちの上に落としてどうすんだ!」
「あんたが撃てって言ったんでしょ!?」
「誘導しろよ! 魔法使いなら落下地点の計算くらいできるだろ!」
「あたしは火力特化なの! そんな細かい制御、あのおっさん以外できるわけないでしょ!」
落石を避けながら、二人はギャーギャーと言い争いを始めた。
カメラはその無様な様子――埃まみれになり、お互いを罵倒し合う勇者と美少女――を克明に捉えていた。
『うわぁ……』
『仲間割れキター』
『配信中だぞお前ら』
『「ジン以外できるわけない」って認めてて草』
『やっぱあのおっさんが本体だったんじゃん』
決定的なコメントが流れる。
自分たちの口で「ジンがいなければ何もできない」と証明してしまったのだ。
「ぐっ……ふざけんな! 俺は勇者だぞ! こんなトカゲ一匹に!」
ライオネルは激昂し、デタラメに剣を振り回した。
だが、冷静さを欠いた攻撃が当たるはずもない。
逆にリザードの電撃を浴び、痺れて無様に転倒する。
「あーあ、見てらんないわ」
ルルが吐き捨てるように言った。その声もしっかりマイクに拾われている。
「ねえライオネル、もう止めない? あたし、こんな泥臭いことするためにパーティ入ったんじゃないんだけど」
「あ? 誰のせいでこうなってると思ってんだ!」
「あんたが弱くなったからでしょ! 前のカメラマン呼び戻せばいいじゃん!」
「黙れ! あんな地味な奴、二度と呼ぶか!」
――プツン。
そこで配信は唐突に途切れた。
あまりの醜態に、運営側が「不適切なコンテンツ」としてBAN(配信停止)したのか、あるいは機材が壊れたのか。
確かなことは一つ。
『シャイニング・ブレイバーズ』のブランドは、この日をもって完全に地に落ちたということだ。
◇◇◇
一方その頃。辺境の廃棄ダンジョン。
「ん~、いい湯だ」
俺は魔法で作った即席の露天風呂に、肩まで浸かっていた。
地面をくり抜き、水魔法で満たし、火魔法で適温に。仕上げに重力魔法で周囲の空気を遮断すれば、誰にも邪魔されない完全なプライベート空間の出来上がりだ。
ふと横を見ると、手ぬぐいを頭に乗せたシロ(フェンリル)も、目を細めて気持ちよさそうに浸かっている。
「極楽だな、シロ」
「ワフゥ……」
湯船のふちに置いたタブレットには、勇者たちの配信停止画面が表示されていた。
まあ、なんかトラブったみたいだが、今の俺には関係ないことだ。俺は興味なさげに画面を伏せた。
「さて、風呂上がりに冷えたフルーツ牛乳でも飲むか」
遠く離れた元仲間の悲鳴なんて、ここには届かない。
俺にあるのは、ただ目の前の充実したスローライフだけだ。
135
あなたにおすすめの小説
答えられません、国家機密ですから
ととせ
恋愛
フェルディ男爵は「国家機密」を継承する特別な家だ。その後継であるジェシカは、伯爵邸のガゼボで令息セイルと向き合っていた。彼はジェシカを愛してると言うが、本当に欲しているのは「国家機密」であるのは明白。全てに疲れ果てていたジェシカは、一つの決断を彼に迫る。
婚約破棄されたので四大精霊と国を出ます
今川幸乃
ファンタジー
公爵令嬢である私シルア・アリュシオンはアドラント王国第一王子クリストフと政略婚約していたが、私だけが精霊と会話をすることが出来るのを、あろうことか悪魔と話しているという言いがかりをつけられて婚約破棄される。
しかもクリストフはアイリスという女にデレデレしている。
王宮を追い出された私だったが、地水火風を司る四大精霊も私についてきてくれたので、精霊の力を借りた私は強力な魔法を使えるようになった。
そして隣国マナライト王国の王子アルツリヒトの招待を受けた。
一方、精霊の加護を失った王国には次々と災厄が訪れるのだった。
※「小説家になろう」「カクヨム」から転載
※3/8~ 改稿中
トカゲ令嬢とバカにされて聖女候補から外され辺境に追放されましたが、トカゲではなく龍でした。
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
リバコーン公爵家の長女ソフィアは、全貴族令嬢10人の1人の聖獣持ちに選ばれたが、その聖獣がこれまで誰も持ったことのない小さく弱々しいトカゲでしかなかった。それに比べて側室から生まれた妹は有名な聖獣スフィンクスが従魔となった。他にもグリフォンやペガサス、ワイバーンなどの実力も名声もある従魔を従える聖女がいた。リバコーン公爵家の名誉を重んじる父親は、ソフィアを正室の領地に追いやり第13王子との婚約も辞退しようとしたのだが……
王立聖女学園、そこは爵位を無視した弱肉強食の競争社会。だがどれだけ努力しようとも神の気紛れで全てが決められてしまう。まず従魔が得られるかどうかで貴族令嬢に残れるかどうかが決まってしまう。
神託の聖女様~偽義妹を置き去りにすることにしました
青の雀
恋愛
半年前に両親を亡くした公爵令嬢のバレンシアは、相続権を王位から認められ、晴れて公爵位を叙勲されることになった。
それから半年後、突如現れた義妹と称する女に王太子殿下との婚約まで奪われることになったため、怒りに任せて家出をするはずが、公爵家の使用人もろとも家を出ることに……。
幼い頃、義母に酸で顔を焼かれた公爵令嬢は、それでも愛してくれた王太子が冤罪で追放されたので、ついていくことにしました。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
設定はゆるくなっています、気になる方は最初から読まないでください。
ウィンターレン公爵家令嬢ジェミーは、幼い頃に義母のアイラに酸で顔を焼かれてしまった。何とか命は助かったものの、とても社交界にデビューできるような顔ではなかった。だが不屈の精神力と仮面をつける事で、社交界にデビューを果たした。そんなジェミーを、心優しく人の本質を見抜ける王太子レオナルドが見初めた。王太子はジェミーを婚約者に選び、幸せな家庭を築くかに思われたが、王位を狙う邪悪な弟に冤罪を着せられ追放刑にされてしまった。
地味で無能な聖女だと婚約破棄されました。でも本当は【超過浄化】スキル持ちだったので、辺境で騎士団長様と幸せになります。ざまぁはこれからです。
黒崎隼人
ファンタジー
聖女なのに力が弱い「偽物」と蔑まれ、婚約者の王子と妹に裏切られ、死の土地である「瘴気の辺境」へ追放されたリナ。しかし、そこで彼女の【浄化】スキルが、あらゆる穢れを消し去る伝説級の【超過浄化】だったことが判明する! その奇跡を隣国の最強騎士団長カイルに見出されたリナは、彼の溺愛に戸惑いながらも、荒れ地を楽園へと変えていく。一方、リナを捨てた王国は瘴気に沈み崩壊寸前。今さら元婚約者が土下座しに来ても、もう遅い! 不遇だった少女が本当の愛と居場所を見つける、爽快な逆転ラブファンタジー!
婚約破棄? 私、この国の守護神ですが。
國樹田 樹
恋愛
王宮の舞踏会場にて婚約破棄を宣言された公爵令嬢・メリザンド=デラクロワ。
声高に断罪を叫ぶ王太子を前に、彼女は余裕の笑みを湛えていた。
愚かな男―――否、愚かな人間に、女神は鉄槌を下す。
古の盟約に縛られた一人の『女性』を巡る、悲恋と未来のお話。
よくある感じのざまぁ物語です。
ふんわり設定。ゆるーくお読みください。
婚約破棄されたので聖獣育てて田舎に帰ったら、なぜか世界の中心になっていました
かしおり
恋愛
「アメリア・ヴァルディア。君との婚約は、ここで破棄する」
王太子ロウェルの冷酷な言葉と共に、彼は“平民出身の聖女”ノエルの手を取った。
だが侯爵令嬢アメリアは、悲しむどころか——
「では、実家に帰らせていただきますね」
そう言い残し、静かにその場を後にした。
向かった先は、聖獣たちが棲まう辺境の地。
かつて彼女が命を救った聖獣“ヴィル”が待つ、誰も知らぬ聖域だった。
魔物の侵攻、暴走する偽聖女、崩壊寸前の王都——
そして頼る者すらいなくなった王太子が頭を垂れたとき、
アメリアは静かに告げる。
「もう遅いわ。今さら後悔しても……ヴィルが許してくれないもの」
聖獣たちと共に、新たな居場所で幸せに生きようとする彼女に、
世界の運命すら引き寄せられていく——
ざまぁもふもふ癒し満載!
婚約破棄から始まる、爽快&優しい異世界スローライフファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる