「君の魔法は地味で映えない」と人気ダンジョン配信パーティを追放された裏方魔導師。実は視聴数No.1の正体、俺の魔法でした

希羽

文字の大きさ
10 / 20

第10話:逆ギレした勇者、全財産をはたいて「フェイク暴き」に来る

しおりを挟む
 王都の安宿。
 粉々になったスマホの残骸の前で、勇者ライオネルは血走った目で仲間たちを見回した。

「いいか、よく聞け。あの配信は『トリック』だ」

 ライオネルは、何かに取り憑かれたように早口でまくし立てた。

「フェンリル? ドラゴン? そんなものが都合よく一箇所に集まるわけがない。あれはジンの野郎が、大金を払って幻影魔法の使い手を雇ったか、あるいは精巧なゴーレムを使っているに決まっている!」
「えぇ……? でも、ギルドの鑑定結果は……」

 剣士が弱々しく反論しようとするが、ライオネルは聞く耳を持たない。

「ギルドもグルなんだよ! あいつら、俺たち『シャイニング・ブレイバーズ』の影響力が大きくなりすぎるのを恐れてたんだ。だからジンを担ぎ上げて、俺たちを潰そうとしてるんだ!」

 陰謀論。
 人は追い詰められると、自分のプライドを守るために世界の方を歪めて解釈する。今のライオネルはまさにそれだった。

「逆転のチャンスだ。俺たちが現地に行って、あの化け物たちが『ハリボテ』であることを暴く。そして、詐欺師のジンを成敗するんだ! そうすれば俺たちは、悪を討った英雄として返り咲ける!」
「なるほど! それなら勝てるわね!」

 ルルもまた、現実逃避を選んだ。彼女にとって「自分が捨てた男が世界一すごい」という現実は、受け入れがたいものだったからだ。

「よし、行くぞ! なけなしの貯金をはたいて『転移スクロール』を買う! 今すぐ辺境へ飛んで、奴の化けの皮を剥いでやる!」

 ◇◇◇

 ――数時間後。辺境、廃棄ダンジョンの入り口付近。

 空間が歪み、ライオネルたち三人が姿を現した。
 王都から馬車で数日の距離を、高価なスクロールで一瞬で移動してきたのだ。財布の中身はもう空っぽだが、これから配信で稼ぐ予定なので問題ない(と彼らは思っている)。

「ここか……ふん、ゴミ溜めがお似合いだな」

 ライオネルは鼻を鳴らし、茂みに身を隠した。
 そして、新しいスマホ(ルルに借金して買った)を取り出し、配信を開始した。

 タイトルは、【緊急突撃】謎のおっさんの「やらせ」を暴く!【正義執行】。

「みんな、待たせたな! 勇者ライオネルだ! 今日はネットを騒がせている詐欺師の現場を押さえるために、ここまで来たぜ!」

 野次馬根性たくましい視聴者たちが、すぐに集まってくる。

『うわ、本当に来たのか』
『懲りないなこいつら』
『やらせって……あれガチだぞ?』
『死にに来たのかな?』
『遺書は書いたか?』

 コメント欄の警告を、ライオネルは「信者によるアンチコメ」だと解釈して無視した。

「よし、カメラを向けるぞ。あそこを見ろ!」

 ルルがカメラをズームする。
 そこには、ダンジョンの入り口広場で作業をするジン(俺)の姿があった。
 そして、その背後には――

 巨大な黒竜(クロ)と、銀色の巨獣(シロ)が寝そべっている。

「ひっ……!」

 剣士が小さく悲鳴を上げる。遠目に見ても、その圧倒的な存在感は生物としての本能的な恐怖を呼び起こす。
 だが、ライオネルは勝ち誇ったように笑った。

「見ろ! 動かないだろ!」

 確かに、クロとシロは微動だにせず、ただ寝ているように見える。

「SランクやSSランクの魔獣が、人間の気配を感じて無警戒に寝ているはずがない。あれはやっぱり作り物だ! よく出来た人形だな!」
「さっすがライオネル! 見破っちゃうなんて!」

 ルルがお追従を言う。
 二人は恐怖を「これは偽物だ」という思い込みで塗りつぶし、ジン(俺)の元へ近づいてくる。

 一方、俺は何をしているのか。
 俺は右手にくわを持ち、畑のような区画に向き合っていた。

「グラビティ・プラウ」

 ブォン!!

 俺が杖を振ると、地面の土が一斉に空中に浮き上がり、雑草と小石が弾き出され、ふかふかの土壌となって着地した。
 数時間かかる耕作作業が、わずか一秒で完了する。

「よし、いい土だ。これならダンジョン芋がよく育つぞ」

 俺は額の汗を拭った。
 そして、後ろで寝ているクロに声をかける。

「おーいクロ、水やり頼むわ」
「グ……(むにゃむにゃ……)」

 クロは寝ぼけ眼を開けもせず、鼻先から「プシュッ」と霧状の水ブレスを吐き出した。
 それは完璧な散水となって、畑を潤した。

「サンキュー。シロ、カラス除け頼むな」
「ワン(zzz……)」

 シロは尻尾をパタンと一度振って、返事をした。

 その光景を見て、茂みの陰のライオネルは確信した。

「見たか!? あのドラゴン、水しか出さなかったぞ! 火を吐く機構を作る予算がなかったんだな!」
「あはは! ショボいギミックね!」
「よし、今こそ突撃だ! あのインチキ舞台を破壊して、俺たちの正しさを証明するぞ!」

 ライオネルが剣を抜き、ルルが杖を構える。
 彼らは飛び出した。
 破滅へのレッドカーペットへ、自らの足で。

『あーあ』
『行っちゃった』
『ドラゴンを「水しか出せない」って解釈するの天才かよ』
『そりゃ畑に火は吐かないだろwww』
『おっさん、後ろ後ろ!』
『【速報】勇者パーティ、最後の突撃を開始』

 コメント欄が「wktk(ワクワクテカテカ)」と「南無(ナム)」で埋め尽くされる中、ついに直接対決の火蓋が切って落とされた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

答えられません、国家機密ですから

ととせ
恋愛
フェルディ男爵は「国家機密」を継承する特別な家だ。その後継であるジェシカは、伯爵邸のガゼボで令息セイルと向き合っていた。彼はジェシカを愛してると言うが、本当に欲しているのは「国家機密」であるのは明白。全てに疲れ果てていたジェシカは、一つの決断を彼に迫る。

トカゲ令嬢とバカにされて聖女候補から外され辺境に追放されましたが、トカゲではなく龍でした。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。  リバコーン公爵家の長女ソフィアは、全貴族令嬢10人の1人の聖獣持ちに選ばれたが、その聖獣がこれまで誰も持ったことのない小さく弱々しいトカゲでしかなかった。それに比べて側室から生まれた妹は有名な聖獣スフィンクスが従魔となった。他にもグリフォンやペガサス、ワイバーンなどの実力も名声もある従魔を従える聖女がいた。リバコーン公爵家の名誉を重んじる父親は、ソフィアを正室の領地に追いやり第13王子との婚約も辞退しようとしたのだが……  王立聖女学園、そこは爵位を無視した弱肉強食の競争社会。だがどれだけ努力しようとも神の気紛れで全てが決められてしまう。まず従魔が得られるかどうかで貴族令嬢に残れるかどうかが決まってしまう。

「男のくせに料理なんて」と笑われたけど、今やギルドの胃袋を支えてます。

ファンタジー
「顔も頭も平凡で何の役にも立たない」とグリュメ家を追放されたボルダン。 辿り着いたのはギルド食堂。そこで今まで培った料理の腕を発揮し……。 ※複数のサイトに投稿しています。

地味で無能な聖女だと婚約破棄されました。でも本当は【超過浄化】スキル持ちだったので、辺境で騎士団長様と幸せになります。ざまぁはこれからです。

黒崎隼人
ファンタジー
聖女なのに力が弱い「偽物」と蔑まれ、婚約者の王子と妹に裏切られ、死の土地である「瘴気の辺境」へ追放されたリナ。しかし、そこで彼女の【浄化】スキルが、あらゆる穢れを消し去る伝説級の【超過浄化】だったことが判明する! その奇跡を隣国の最強騎士団長カイルに見出されたリナは、彼の溺愛に戸惑いながらも、荒れ地を楽園へと変えていく。一方、リナを捨てた王国は瘴気に沈み崩壊寸前。今さら元婚約者が土下座しに来ても、もう遅い! 不遇だった少女が本当の愛と居場所を見つける、爽快な逆転ラブファンタジー!

婚約破棄? 私、この国の守護神ですが。

國樹田 樹
恋愛
王宮の舞踏会場にて婚約破棄を宣言された公爵令嬢・メリザンド=デラクロワ。 声高に断罪を叫ぶ王太子を前に、彼女は余裕の笑みを湛えていた。 愚かな男―――否、愚かな人間に、女神は鉄槌を下す。 古の盟約に縛られた一人の『女性』を巡る、悲恋と未来のお話。 よくある感じのざまぁ物語です。 ふんわり設定。ゆるーくお読みください。

婚約破棄されたので聖獣育てて田舎に帰ったら、なぜか世界の中心になっていました

かしおり
恋愛
「アメリア・ヴァルディア。君との婚約は、ここで破棄する」 王太子ロウェルの冷酷な言葉と共に、彼は“平民出身の聖女”ノエルの手を取った。 だが侯爵令嬢アメリアは、悲しむどころか—— 「では、実家に帰らせていただきますね」 そう言い残し、静かにその場を後にした。 向かった先は、聖獣たちが棲まう辺境の地。 かつて彼女が命を救った聖獣“ヴィル”が待つ、誰も知らぬ聖域だった。 魔物の侵攻、暴走する偽聖女、崩壊寸前の王都—— そして頼る者すらいなくなった王太子が頭を垂れたとき、 アメリアは静かに告げる。 「もう遅いわ。今さら後悔しても……ヴィルが許してくれないもの」 聖獣たちと共に、新たな居場所で幸せに生きようとする彼女に、 世界の運命すら引き寄せられていく—— ざまぁもふもふ癒し満載! 婚約破棄から始まる、爽快&優しい異世界スローライフファンタジー!

義母と義妹に虐げられていましたが、陰からじっくり復讐させていただきます〜おしとやか令嬢の裏の顔〜

有賀冬馬
ファンタジー
貴族の令嬢リディアは、父の再婚によりやってきた継母と義妹から、日々いじめと侮蔑を受けていた。 「あら、またそのみすぼらしいドレス? まるで使用人ね」 本当の母は早くに亡くなり、父も病死。残されたのは、冷たい屋敷と陰湿な支配。 けれど、リディアは泣き寝入りする女じゃなかった――。 おしとやかで無力な令嬢を演じながら、彼女はじわじわと仕返しを始める。 貴族社会の裏の裏。人の噂。人間関係。 「ふふ、気づいた時には遅いのよ」 優しげな仮面の下に、冷たい微笑みを宿すリディアの復讐劇が今、始まる。 ざまぁ×恋愛×ファンタジーの三拍子で贈る、スカッと復讐劇! 勧善懲悪が好きな方、読後感すっきりしたい方にオススメです!

妹に魅了された婚約者の王太子に顔を斬られ追放された公爵令嬢は辺境でスローライフを楽しむ。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。  マクリントック公爵家の長女カチュアは、婚約者だった王太子に斬られ、顔に醜い傷を受けてしまった。王妃の座を狙う妹が王太子を魅了して操っていたのだ。カチュアは顔の傷を治してももらえず、身一つで辺境に追放されてしまった。

処理中です...