「君の魔法は地味で映えない」と人気ダンジョン配信パーティを追放された裏方魔導師。実は視聴数No.1の正体、俺の魔法でした

希羽

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第17話:重力魔法で「天空の温泉宿」を一瞬で作ってみた

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「嫌ですわ! わたくし、まだ帰りませんことよ!」

 ゲルマン大臣を乗せた飛空艇が護送のために飛び立とうとする中、アイリス王女はタラップにしがみついて駄々をこねていた。
 泥だらけのドレスもそのままに、頬を膨らませている。

「姫様、もう日も暮れますよ。王城に帰らないと国王陛下が心配するでしょう」
「お父様には『聖地巡礼の実況動画を撮るから外泊します』と連絡しました! 今日はここに泊まりますの!」
「いや、泊まるって言ってもなぁ……」

 俺は困って頭をかいた。
 ここは廃棄ダンジョンだ。俺の住処は、洞窟の入り口を適当に改造しただけの簡素なものだし、シロとクロが寝ているから狭い。
 一国の王女を雑魚寝させるわけにもいかないだろう。

「客間なんてありませんよ。野宿になりますけど?」
「野宿……! シロちゃんの背中で寝てもよろしくて!?」(大興奮)
「シロが嫌がります」

 シロは「勘弁してくれ」という顔で俺の後ろに隠れた。
 はぁ、仕方ない。
 ここで追い返して、また泣かれても面倒だ。

「……分かりましたよ。宿があれば文句ないんですね?」
「えっ? あるんですの?」
「無いなら、作ればいいだけです」

 俺は近くの断崖絶壁を見上げた。
 手頃な岩盤がある。

「ちょっと下がっててください。埃が舞うんで」

 俺は杖を構えると、イメージを構築した。
 建築とは、重力への挑戦だ。
 石を積み上げ、梁を渡し、屋根を支える。それらは全て「落ちないため」の工夫だ。
 だが、重力を支配する俺に、そんな制約は存在しない。

「グラビティ・カッター」

 ズンッ!

 目に見えない刃が、岩山を水平に両断した。
 直径20メートルほどの巨大な岩盤が、円盤状に切り出される。

「ゼロ・グラビティ、からのフロート」

 ゴゴゴゴゴ……ッ!!

 地響きと共に、切り出された数千トンの岩塊が、まるで発泡スチロールのようにふわりと宙に浮き上がった。

 王女が「ぽかん」と口を開けて見上げている。

「さあ、仕上げだ。グラビティ・プレス」

 俺は空中に浮いた岩盤に向けて、指先を指揮者のように動かした。

 ギチチチチッ!

 岩盤の一部に超高圧の重力をかけ、圧縮し、削り取る。
 不要な石材が弾け飛び、残った部分が滑らかな壁となり、柱となり、そして浴槽となる。
 のみもハンマーもいらない。重力こそが最強の彫刻刀だ。
 ものの数分で、荒々しい岩塊は、白亜の神殿のような美しい離れ家へと変貌した。

「ついでに、地下水脈を吸い上げて……と」

 俺は地下深くに眠る温泉脈に重力のストローを差し込み、上空の離れ家まで引っ張り上げた。
 削り出した石の浴槽に、なみなみと湯が満たされていく。

「よし、完成。『天空の温泉宿ゲストハウス』だ」

 俺が指を鳴らすと、浮遊した離れ家から石の階段がスルスルと地上へ伸びてきた。

「……え?」

 王女は固まっていた。
 配信画面のコメント欄も、完全に停止していた。
 そして数秒後、爆発した。

『はあああああああああ!?』
『ラピュ◯だ! ラピュ◯があるぞ!』
『建築RTAすぎる』
『3分クッキングのノリで天空の城を作るな』
『物理法則が息してない』
『これ、国家プロジェクト級の大工事だぞ!?』
『おっさん、自分の常識のなさを自覚してくれ』

 王女は震える手で、空中に浮かぶ優雅な石造りの建物を指差した。

「こ、これを……魔法だけで? 一瞬で? わたくしのために?」
「まあ、地面に作るとシロたちが走り回って壊しそうなんで。空なら安全でしょ」

 俺は適当な理由をつけた。
 本当は、高いところなら眺めがいいだろうという、俺なりのちょっとしたサービス精神だったのだが。

「ジン様……っ!」

 王女の瞳が潤み、キラキラとした光を放ち始めた。

「素敵すぎますわ……! こんなロマンチックなプレゼント、王族でも貰ったことありません! 一生住みます! ここに骨を埋めますわ!」
「いや、一泊だけにして帰ってくださいね?」

 聞いちゃいない。
 王女はドレスの裾を持ち上げ、石段を駆け上がっていった。

「わぁっ! お風呂! 露天風呂ですわ! しかも空の上!」

 上空から王女の歓声が聞こえる。
 見上げれば、星空に近い場所にある露天風呂からは、きっと絶景が見えることだろう。

「ふぅ、やれやれ。これで静かになるか」

 俺は肩を回した。
 だが、俺は気づいていなかった。
 この夜、上空に浮かび上がった「天空の温泉宿」が放つ魔力光が、遠く離れた森の奥深くに住む種族――建築と美を愛する『エルフ』たちの目に留まってしまったことを。

「……なんだ、あの美しい造形は?」
「人の手によるものとは思えん。神の御業か?」
「行こう。あの技術、学ばねばならん!」

 新たな「押しかけ弟子」たちが、大挙して押し寄せようとしていた。
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