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2nd フェーズ 集
No.34 メイド長と楽しい絵画
しおりを挟むメイドとして富豪ブルジョ・ジーの館に潜入する事になったユキチカ達。
初日を終えた帰り、彼らは各々得た情報を元に話をする事に。
「おもしろいのあったよー」
ユキチカはブルジョの部屋でみた資料の話をし始める。
彼はシャーロットの端末に記憶した情報を送った。
「いや、さりげなく凄い事してるけど。まあいいや、なになに」
シャーロット、それとジーナはその資料を見る。
「プロジェクト名エデンズゲート……別の空間へ瞬時に移動する装置って感じかな?そんなことまで……」
「そんなの出来るもんなの?開発費用の見積もり凄い桁の数字が並んでますけど」
二人はその資料を読みながら話す。
「できるよ!ぜーんぶ、バラバラにして向こうで組み立てるの!」
「えーっとね、まあ実現のための理屈はある程度出てね。ただその理屈を行うための技術とかエネルギー問題とか色々あってね」
ユキチカとシャーロットの説明をきいて何かを思い出すジーナ。
「あれ、キビさんが潜入捜査の前に言ってた、あのーボロボロになる金属のやつ。もしかして……」
「あ!関係あるかも!じゃあもう既に実験は始まってるってこと?」
二人はキビが話していた農場での異常な現象について思い出す。
「あれ、そう言えば確かブルジョさんが持ってる会社って、流通関係じゃなかった?そんなの出来たら商売あがったりなんじゃ。もしかしてそれが原因で出資額を減らしたとか?」
ジーナの言う通りブルジョ・ジーは流通産業界隈ではトップの企業を経営している人間だった。
「確かにそうだけど、でもこの開発に出資すれば……その本当に成果が出ればだけど、出資者としてそれ相応の見返りがあるでしょ?本当にこれが出来たら流通産業なんて独占できそうなものなのに」
シャーロットはそう言って首を傾げた。
「うーん、それもそうだね……ユキチカはどう思う?」
「ご主人様があの会社は信用ならないって。本当はもうバイバイしたいみたい」
ユキチカの話を聞いてシャーロットは少し考える。
「もしかして、そう言う人が他にいるのかも。それでブルジョさんみたいに抵抗するような行動をとったんじゃない?実際にあの事件の被害者に同じような財力を持った人がいたんでしょ?もしそうなら……」
「事件の犯人はウルティメイトって事?まあ確かに先輩たちが言う噂が本当ならありえそうだけど。でも捕まったんだよね?」
「もしかしたらもっと犯人いるかも?」
二人の話にユキチカが入る。
「つまり捕まった犯人はその一部だけって事?」
「あるいは囮みたいな。犯人は捕まった、もう安全っていう気持ちにさせて油断させるつもりかも。もしウルティメイトなら犯人の証拠もみ消すの訳ないだろうし。いずれにせよ用心しておくに越したことはないね」
二人が話しているとユキチカはあくびをする。
「ふぁ~ねむー」
「あ、そうだね。今日は色々あったしここら辺にしとこうか」
「明日はコロちゃん連れて来るから他にも色々と分かると思うし」
こうして3人はこの日を終えた。
翌日、再びブルジョの元で働くユキチカ達。
シャーロットは予定通り、コロちゃんをこっそりと持ち込んでいた。
「よし、みんなに見つからないようにお願いね」
彼女はそう言ってコロちゃんを物陰に忍ばせて仕事に戻る。
それからしばらくして、ジーナとシャーロットの元に一人の女性が現れた。
「あなた達が新しく入ったイーナさんにチャールズさん?」
「はい、昨日からここで働かせて頂いてます!」
「ど、どうも初めまして」
ジーナとシャーロットに話しかけるその人物は彼女達と同じメイド服を着ていた。
「失礼しました、ここでメイド長をしている者です。ヴィクトリアと申します」
ヴィクトリアは丁寧にお辞儀をした。
「そうだ、新人さんなんて久しぶりですから、どうでしょう?これから少しだけお茶しませんか?」
そう言われて二人は彼女の部屋に行き、お茶をする事に。
「ふむ、なるほど随分と鍛え込んでいる」
ジーナをみてヴィクトリアはそう話す。
「え?どうして」
「みれば分かる」
ヴィクトリアは微笑む。
「見ればって、こんな服なのに?」
ジーナが言うようにメイド服は肌の露出が殆どない、身体付きなど分かりそうに無いものだが。
「立ち方、歩き方、肌が露出してなくても十分な情報ですよ。さてそんな凄い子がどうしてここに働きに来たのですか?」
微笑みながら質問するヴィクトリア。
「それはこんな機会そうそうないですから」
ジーナは微笑み返す。
「こんな機会とは?」
「今の時代、このような場所で働けるのはアンドロイドですから。まさか人の身で働けるような場所があるなんて思っていなくて」
ジーナは一切動揺せずに返答した。
「なるほど……」
ヴィクトリアはシャーロットに目を向ける。
「貴女は少し落ち着かない様子ですね?」
「貴女が何を持ち込んだのかは分からないですが、一応ここのルールとして電子機器の持ち込みは遠慮してもらっています」
そう言われたシャーロットはビクッとする。
「ッ!!」
「ふふふ、動揺し過ぎですよ?貴女はお友達と違ってこういうのに耐性がないみたいですね。表情が固まっていますよ」
そう言って紅茶を飲むヴィクトリア。
「今後は気を付けてくださいね、ご主人様に見つかったら大事ですから。さて、私はお仕事に戻りますね。あ、お茶とお茶菓子も遠慮せずに召し上がってください。終わったら食器はそのままにして貰って構いませんので」
そう言ってヴィクトリアは部屋から出て行く。
「ぷはー!ああ、緊張した!」
「どうして、なんで分かったのかな?」
彼女が部屋を出てから少し間をおいて、ジーナとシャーロットは話す。
「分からない、けどまあ、今回は見逃して貰えるみたいだし。もしかしたら電子機器以前持ち込んだ人がいて、以降は新人に聞くのが通例なのかもしれないしさ!とにかくよかったね」
「そうだね、良かった~心臓バックバクだよ」
二人は少し落ち着くまで淹れて貰ったお茶を飲みながら過ごすのであった。
一方その頃ユキチカは昨日同様にご主人様と一緒にいた。
「ご主人様、さっきのヴィクトリアって人は?」
「ああ、ヴィクトリアね、昨日は私が購入したあれを受け取りに行って貰っていたんだよ。そうだ!一緒に観てみようか」
ブルジョは席を立ち、包装紙に包まれた絵画を取り出す。
縦100cmもない程度の絵画、森の中にある湖が色鮮やかな絵の具と力強い筆づかいで描かれていた。
「どうだい?だからめちゃくちゃだろ?木の形も全然ちがうし、色だって、僕が知る木の色じゃないし水の色じゃない」
「おもしろい、たのしそうだね」
ユキチカは絵を見てそう言った。
「そう!そうなんだよ!こんな滅茶苦茶な絵なのに楽しいんだ!」
ブルジョが嬉しそうに話す。
「この作者はね世界中を旅して絵を描いていたんだよ。そこで見た風景、その光景をみて揺れ動いた自分の感情をそのままに表現しているんだ。だからきっと楽しくてしょうがなかったんじゃないかな。勿論大変な事もあっただろうけど、これは彼にしか描けない作品だ」
そう言うとブルジョの笑みが少し薄れる。
「でもね、彼は数十年前のあの事件で他の多くの男性同様に消えてしまったんだ。これは彼が描いた最後の作品だと言われている」
ブルジョはそう言ってユキチカに視線を戻す。
「ユキちゃんはこの世界の在り方についてどう思うかな?」
「?」
ユキチカは首を傾ける。
「男という生物学的な分類をされた事でほぼ軟禁状態の生活。国の資源として管理される。彼のように国外に出る事はまずできない。私ぐらいの金があったとしてもね。一体どれほどの人間を買収しないといけない事か」
「ご主人様?」
「どんなに特別扱いされようが、これじゃあ柵の中で育てられている家畜と一緒だ。そう思わないかい?」
「ご主人様は豚さんや鶏さんや牛さんなの?」
ユキチカは彼の感情をうまく汲み取れていない。
「はっはっは!そうかもしれないね!でも君は違うだろ?ああ、これも運命なんだろうか、君みたいな自由な男に出会えるなんてね」
笑いながらブルジョはそう言った。
「僕は自由?ん、あれ?あれれ?」
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