追放された魔法使いの巻き込まれ旅

ゆり

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閑話 昔の思い出を携えて

聖なる日の思い出

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クリスマスの話です。ご都合主義な閑話となっています。
苦手な方は読まなくていいです。

ちなみに、地球の日にちだと、第3章は1月の下旬にあたります。地球での冬イベントの時期は、第2章にあたります。
そのあたりは少しだけ考えてますので(とはいえ今回の話とはそこまで関係はないのですが)、プレゼントと思ってください。













「聖なる日?」

クレアは思わず聞き返した。
首を傾げるクレアにうんざりとした顔でセイルクは頷いた。
今日も2人は一緒に魔法の練習で集まっていて、その休憩中に出た話題だった。

「そう、今日は聖なる日。慈愛の神であるセレナが生まれた日にして、大陸に愛が芽生えた日。
愛を確かめ合う日として、恋人連れの人が外に出てデートする日」
「あぁ………知ってるかも」

クレアはセイルクの説明で、昔の今の時期を思い出して、思い当たる日があったようだ。
セイルクが驚いた顔でクレアを見てくるため、クレアはまた首を傾げた。

「何?なんかおかしい?」
「あぁ、いや…………クレアも『そっち』か」

ますますわからないことを言われてクレアの頭に疑問が残ったまま、休憩が終わるのだった。






「ただいまー……………っと」

クレアは今日の特訓を終えて宿に戻り、誰に対して言ってるのかわからない帰宅の挨拶を述べて部屋に入った。
そして、つい最近連絡したばかりの人に連絡をかけた。


ザ………ザザ……


少しの間砂嵐が流れてから、プツッと音がして目の前に、簡素だが格調高い執務室が映る。
時間的にも、目の前に誰もいないことも考えて、きっと夕食の時間だろう。

「まあ、ちょっとした世間話だったし」

クレアはそれだけ呟いて連絡を切ろうと水晶に手を伸ばす。

ガチャリ

しかし、もうあと少しで手が届くといったところで、向こう側から扉の開く音がした。

『あれ………』

突然誰かが来て、動きを止めたクレアは、その人物が映るのを待つようにモニターを凝視する。
やがて、水晶の位置がずれて、人が映った。

緑の瞳に赤紫色の髪を七三で分け、右側の前髪を少し垂らした少年だ。
言葉を詰まらせているのか、クレアを見るだけで固まっている。
クレアはその少年を見て声を弾ませた。

「わあ、メルオン!久しぶりだね」
『………クレア様、とお呼びしたほうが?』

クレアが話しかけてようやく口を動かした少年、メルオンは、少し困ったように笑いかけた。
どうやら、呼び方で困っていたようだ。

クレアはグラントでは違う名前で呼ばれていたこともあって、どう呼ぶのか悩んでいたみたいだ。

クレアはメルオンに笑い返した。
メルオンは、ファルの補佐官をしていて、クレアがグラントにいたときはよく話をした相手でもある。
今年で17になったメルオンは、最後に会ったころよりもたくましくなっていて、細くはあるが、筋肉がついているのがよくわかる。

クレアがまじまじと見ていると、メルオンはわざとらしく咳払いした。

『………それで、公子様にご入用で?』

公子様、というのはファルのことだ。
クレアは座り直しながら返事をした。

「うん。まあ、ちょっとした昔話だったし、メルオンにも会えたからもう…………」

いいよ、と続けようとしたが。

『いいえ、呼んでまいります』
「え?本当に大丈夫……」
『私の命を救うと思って、呼ばせてください』
「あ、うん…………」
『ありがとうございます』

押しに負けて、クレアはメルオンにファルを呼んできてもらうことになった。

(そんなに仕事に目覚めたんだ………)

クレアはメルオンの必死さに対してそう結論づけた。





しばらくして。

『クレア、この前ぶりだな』
「うん、ファルもこの前ぶり。
もし仕事とか溜まってるなら、突然のことだったし全然切るんだけど………」
『いや、何もない。だから、話して?』

上機嫌な笑顔のファルと裏腹に、遠い目をしたメルオンを見て、クレアは早めに話そうと決意した。

「今日って、聖なる日なんだって。慈愛の神が生まれた日」
『あぁ、そういえばそうか。それがどうかしたか?』
「今日その話を聞いて昔のことを思い出して……………」










4年前。

クレア(このときは『シャルア』と呼ばれていた)とファルとメルオンはいつも一緒にいた。
互いに好きなことを共有して、勉強して、訓練して、時に喧嘩をする仲だった。

そんなある日。

「おはようございます、『シャルア』様。今日はお祭りですよ」
「……おま………つり?」

目をこすりながら聞き直した『シャルア』は、起こしに来てくれた侍女に詳しい話を聞いた。

「はい!慈愛の女神、セレナはご存知ですか?」
「たしか、生命が誕生したけど、生き残るために弱者が淘汰され出したときに降り立ったんですよね?」

なんとか思い出した『シャルア』の説明を相槌を打ちながら聞いていた侍女が補足した。

「神話まで覚えたなんて素敵です!
『シャルア』様の言うとおり、セレナは弱肉強食の世界で、不憫に生を終わらせる者への救済として降り立ち、弱者を救い、皆と手を取り合う世界に導こうとした方です。
でも、神話に出てくるとはいえ、創世期の神ではないので非公式の神様なんです。

今日はそのセレナがこの地に降り立った日で、各地でセレナを祀ったお祭りを行うんです。
セレナへの感謝をするとともに、いつも大事にしてくれている方へ愛を伝えるお祭りなんです」

少し得意げに話す侍女の話に『シャルア』は目を輝かせた。

「へぇ………じゃあ、今日は『ありがとうの日』ってことですか?」
「えっ、あ…………うーーーんと…………(『シャルア』様はまだ子どもだし………)そうです!そうともいえます!」

ちょっと残念そうな顔をして『シャルア』に答えた侍女は、顔を洗う用の洗面器を置いて仕事をしながら目線を合わせて話しかけてくれた。

「とりあえず、今日はお祭りです!誰かに贈り物をしたり、お祭りでみんなと楽しんだりする日なので、今日はお出かけしてみてはいかがですか?」
「…………はいっ」

『シャルア』は息巻いて侍女に答えた。
そうと決まれば。







コンコンコン

重厚なデザインの扉を3回ノックして、メルオンの父が出迎えてくれた。

「おや、『シャルア』様。公爵様にご用でしょうか?」
「はい、外に行きたくて」
「ほう、外ですか」

公爵の執務室に入って、『シャルア』は案内された席に座った。
『シャルア』が入ってきたのを見て執務を一度止めて向かいに座った公爵は、メルオンの父に「だそうですよ?」と言われて口を開いた。

「…………家出か」
「えっ、違います!」
「じゃあ何故だ?」

突然ずーんと重い空気で聞いてきた公爵の言葉をすぐに否定すると、公爵は『シャルア』の言葉を待ちはじめた。
後ろでメルオンの父が腹を抱えて笑っているのを横目に、『シャルア』は目を輝かせて言った。

「お祭りです!今日は聖なる日で、お祭りがあるって教えてもらったんです。
だから、お祭りに、行きたくて………」
「いいですね。『シャルア』様はこちらに来られて初めてのお祭りですし、楽しみなことでしょう!ね、公爵様?」

いつもは自己主張がない『シャルア』のお願いを、微笑ましいっと言った様子で見るメルオンの父は公爵に早く許可を出すように圧をかける。
公爵は大きく息を吐いた。

「……………護衛は大量につけるぞ」

それだけ言って、公爵は執務に戻ってしまった。
先ほどの大きく息を吐いたのが、呆れたと思われたのではないかと『シャルア』は不安になって、公爵の機嫌を伺うが、メルオンの父がそっと耳打ちしてくれた。

「家出だと早とちりして恥ずかしかったんですよ。
お祭り、楽しんできてください。我が家の愚息とも行ってくださると嬉しいです」
「………はいっ。おふたりとも、ありがとうございます!」



バタン。



そう言って出て行った『シャルア』を見送って、メルオンの父はちらと公爵を見た。

「………よかったんですか?一緒に行かなくて」

その言葉に、公爵は少し朗らかな表情を見せた。

「今夜は先約があるからな」
「あー………私もそうさせていただきたいのですが」
「断る」
「横暴ですよ………」

メルオンの父は目の端に涙を溜めるふりをして、仕事を再開した。







「メルオン」

早速、外出許可を得た『シャルア』は出掛けることを今朝の侍女に伝えて、メルオンを誘いにきていた。

「どうしたの?『シャルア』」

談話室で火にあたりながら、黙々と本を読んでいたメルオン(このときはまだ敬語じゃなかった)は、『シャルア』に声をかけられて本に栞を挟んでまで話を聞いてくれる。

「その、今日は聖なる日なんだって。それで、公爵様から許可をもらったから、一緒にお祭りに行かない?って誘いに来たの」
「えっ、僕も行きたい!けど………父上が許してくれるかな」
「それなら、さっきメルオンのお父さんが一緒に行ってほしいって言ってたから大丈夫だと思う」
「………ほんと?」

『シャルア』の誘いに思わず席を立つほど喜んだメルオンの気持ちは一瞬萎んでしまったが、父親の許可を得たとなれば話は別だった。
メルオンは目を輝かせて『シャルア』に真偽を確かめると、『シャルア』は大きく頷いた。

「本当だよ。忙しくなかったら一緒に行こう?」
「…………行くっ!準備するよ!」

決意を固めたメルオンが談話室を出ようとすると、入り口にファルが立っていた。

「わっ………ファル!」
「そんなに慌てて、何してるんだ?」
「えへへ、今から『シャルア』とお祭りに行くんだ。ファルも一緒に来ない?」

ファルはメルオンに誘われて、「おまつり」と小さく呟いて目を輝かせた。
そして、返答を待つメルオンの視線に気づいて誤魔化すように咳払いをした。

「…………まあ、行ってもいいけど」
「やったあ!じゃあ一緒に準備しよ!」
「あ、おい!服を引っ張るな!」

そうして嵐のように談話室を去ったふたりの後で、『シャルア』はひとり、クスリと笑った。







「「わぁ~……………!」」

街に来て、その賑わいようにメルオンと『シャルア』は感嘆の声をあげた。
『シャルア』にとっては人生初めての祭りだった分、喜びもひとしおだろう。
『シャルア』は持ってきた肩掛けカバンのひもをぎゅっと握った。

今日は楽しみにもきたが、もうひとつミッションがあった。

(みんなに贈り物を買わないと)

今まで、そしてこれからの感謝としての贈り物を買いに来たのだ。
『シャルア』の持ち金は銀貨5枚(日本円5,000円)。

「あそこで面白そうなことしてるよ!早く行こう!」
「…………うんっ。ファルも!」
「今行く」

自分も楽しみつつ、喜んでもらえる贈り物を買おうと必死になるのだった。



「ダメだ…………買えてない………」

『シャルア』はがくりと肩を落とした。
十分に堪能しすぎて、贈り物を考える暇がなかったのだ。
本来の目的を果たせなかったら、次は来年までこの機会に恵まれない。
来年ここにいるかもわからない『シャルア』には重要なことだった。

そうして、装飾品や日用雑貨を売っているあたりにやってきた。

露店を覗いてみると、綺麗にあしらわれた本物の宝石のような輝きの装飾品が、格安で売られていた。

ネックレスにブレスレット、ピアスなどいろいろなものが売られているが、そのすべてが六芒星をモチーフにした売り物になっていた。
『シャルア』が気になってまじまじと見ていると、露店の店主が話しかけてきた。

「お嬢さん、気に入ったものあった?」
「あ………なんでみんな星なのかなって思ってました」

店主は『シャルア』の疑問に納得して、商品を手に取って教えてくれた。

「この六芒星はこのお祭りのトレードマークなんだよ。セレナ様が植えたという神話の木の先端にこの星が光っていたことからあやかっているんだ。
うちは、このはめ込んでいる部分が魔法石なんだ。とはいえ、まじない程度のくず石なんだけどね」

少し自嘲気味に締めた店主の話を聞いて、『シャルア』はまた店の商品を見つめた。
店主が謙遜していると思うくらいには、この店の商品に惹かれていた。

立体的な六芒星のネックレスの中で輝く魔法石は、本当に綺麗な空色で透き通っている。
くず石でも、磨けば光る。
光る原石のようなこの魔法石はくず石だと思わせない輝きを放っている。

近くには同じネックレスで、中の魔法石の色が赤と緑のものがあった。
『シャルア』は真っ先に2人の顔が浮かんだ。

「この3つ、買います。これで足りますか?」
「十分だ。ほら、釣りの大銅貨だ。
買ってくれてありがとう」
「こちらこそありがとうございます」

『シャルア』は大銅貨1枚(日本円100円)と買ったものを大事にカバンに入れた。
そして、ふと、一緒に来ていた2人の姿が見当たらないことに気がついた。

「あれ…………?」

『シャルア』は迷子になった。











「いない………」

『シャルア』はあたりを見回して不安げな顔で立ち尽くす。
あの後、来た道を戻りつつ、みんなへの贈り物を無事買った『シャルア』は、最初に街に降ろしてもらったところまで戻ってきていた。

だんだんと暗くなってきていて、灯りのつきだしたところもある。
帰ってみんなに贈り物を渡したいが、歩いて帰るには公爵城までは遠すぎる。

「どうしよう………………」

近くのベンチに腰掛けて、『シャルア』はじんわりと灯る街灯をぼんやりと見つめた。


────家出か


『シャルア』は今朝の公爵の言葉を思い出した。
何だか今の状況が近いと思ったのだ。


カバンの中には、みんなへの贈り物。

あたたかい光は、街の人々の笑顔を照らす。

慈雨のようにほどよく降る雪。

そんな中、一人だけ、『シャルア』だけが仲間外れな気がしてならなかった。


次第に日は落ちて、暗くなると、なぜか急に街灯が全部消えた。

突然のことで驚く『シャルア』と反対に、皆は待っていたかのように空を見上げていた。
一体何事かと、『シャルア』も空を見上げたときだった。






ひゅ~………………


ドドンッ、バンッ



花火だった。
六芒星やセレナをかたどった花火などが空に浮かぶ。


(みんなで見たかったな…………)

ぼう然と、綺麗な花火を見上げながら考える『シャルア』の脳内でみんなの笑顔が浮かぶ。
今の景色を、みんなで見れたらどれだけ楽しいだろうか。


「ファル、メルオン…………」


『シャルア』が無意識につぶやいたそのときだった。


「『シャルア』ッ!!」

突然、聞き覚えのある声に呼ばれて、『シャルア』は思わず顔を向けた。
そこには息を切らしたファルとメルオンがいた。
たくさん、探してくれたみたいだ。

2人は『シャルア』とわかってすぐに抱きついてきた。

「よかった…………!」
「勝手にいなくなるなよ……」
「うん…………ごめんなさい」

そうやって3人で抱き合って、涙で声を震わせながら一緒に公爵城に帰った。












「………ってことがあったなぁと思って、連絡したくなっちゃったんだ」

クレアの話を聞いて、ファルは苦笑いしながら当時を思い出していた。

『あぁ………初めて3人でお祭りに行った話か。迷子騒動があってからは外出に信じられないくらい護衛をつけられてたっけ』
「街の地図も転移魔法も覚えたのにつけてもらってて、結構恥ずかしかったな………」

つられて苦笑いしたクレアを見て、メルオンもその様子を思い出してか、口元を手で押さえて笑っていた。

『たしかに……あの人数はさすがに多いと思いました。
私は護衛が増えたこともですが、いただいたネックレスもいい思い出だと思ってます』
『帰ってきてすぐに貰ったやつか。結構大事に保管してるよ』
「………2人ともまだ持ってくれてるの?」


4年前、無事にファルたちと合流して城に帰ってすぐ、あの露店で買ったネックレスを渡したのだ。
3人の目の色がそれぞれのネックレスの魔法石と一致していて、特別なものになった。


そう思っていたのはクレアだけだと思っていたが、2人とも持っていたみたいだ。
2人は亜空間収納の袋から各々のネックレスを取り出してクレアに見えるように見せた。
クレアはまだ持ってもらっていることが嬉しくて、思わず笑ってしまった。

『………クレアの分も保管してあるからな』

そう言って、水色の魔法石のネックレスも取り出したファルを見て、クレアは少し申し訳ない顔をした。

クレアが自分の意思でグラントに置いていったものは、数え切れない。
旅の終わりに、共に散るのはごめんだった。



「うん。……………ごめんね」
『そこは、ありがとうだろ』

複雑な表情でネックレスを見つめながら、謝るクレアに、間髪入れずにファルは反論した。

今日は聖なる日。
ごめんは似合わない。

クレアは少し目を見開いてから、笑って頷いた。

「うん。ありがとう。
…………今年も楽しい聖なる日を過ごせたよ」
『『こちらこそ』』

ファルとメルオンも笑って答えてくれたのだった。
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