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3章 依存国ツィーシャ
靄となった記憶
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「ここに居させてくださいよ~!私もっとおふたりと熱い仲になりたいんです!」
リュカオンがキルナに帰るように促すと、キルナは涙を流しながら懇願してきた。
リュカオンはいまだに混乱しているクレアを横目に、キルナに答える。
「悪いけど今日は『シャルア』が限界だから、帰ってほしいんだけど」
「そんな、あんまりです……」
断固として席を立たず、ついに泣き落としを始めるキルナに、リュカオンはため息をついた。
どうしてこんな人に尾けられたのかと心底呆れているようだった。
「……今帰ってくれたらまた来てもいいから」
「帰ります」
少し投げやりに言ったことが引き金となって、キルナはすぐに立ち上がって玄関まですたすたと歩き出した。
キルナの様子にまたため息をついたリュカオンは途中まで見送ろうと立ち上がり、クレアの背中を優しく撫でた。
「見送ってくるから、ゆっくりしてて」
「…………うん」
クレアは返事で精一杯といった感じで、リュカオンはそれ以上は何も言わずに玄関まで行って、キルナを見送りに出て行った。
「はう……見送りしてくれるなんて、紳士的ですね……余計にまた訪れたくなりました」
「なんでだよ……」
軽口を叩きあう声が遠ざかっていくのを聞いて、クレアはリュカオンからあてがわれた部屋に戻った。
備え付けのテーブルつきの椅子に座ったクレアは、亜空間から一冊の本を取り出すとためらいがちに表紙をめくった。
『「сгхуивмпэ」
この文字は「火」を意味している。ここに前頁に記載した付属文字を重ね合わせることで、ようやく火属性の初級魔法である「火炎」が使える(右図の魔法陣)。
魔法陣に書いてある文字を正しい詠唱によってなぞることで発することができる。』
隣のページには、右上に大きく魔法陣が描かれている。
『сгхуивмпэ квиеие обито』
丸い魔法陣に沿う形で、意味のわからない文字の羅列が書き込まれている。
見出し語や説明から、「сгхуивмпэ」が「炎」を示しているとはわかるが、何故これが「炎」と読めるのかは、クレアには到底理解できなかった。
後ろについている「квиеие обито」という文字は、説明の通りなら付属文字と呼ばれるものであるが、これもまったくもってクレアにはわからないものだった。
グラントにいたころに魔法の勉強のはじめの一歩としてもらった、『魔法文字-魔法対応辞典』は、至るページで努力の跡が見られた。
見出し語として大きく記された魔法文字を必死になぞった跡や、付録ページの魔法文字理論の解読を試みた跡が随所に見られる。
しかし、どれだけ頑張ってもクレアが魔法文字を読める日は来なかった。
それに加えて、クレアは魔法文字を使わずして既に魔法を使うことができたため、この努力は無駄となったのだ。
「……一体誰が?」
小さなつぶやきは誰にも受け止められることなく、クレアの頭の中で響き渡る。
クレアはテーブルに本を置いて、ベッドに横になって目を閉じる。
記憶を辿れないかと試みる。
直近の出来事から、戻っていって、旅で出会った人や、グラントで過ごした日々、大魔協に捕まったころ、『クレア』が死んだとき、アナスタシア王国にいたとき──────。
クレアは目を開けて、体を起こすとため息をついた。
幼すぎるからなのか、何かが邪魔をしているのか。もやがかかったようにそれより前のことは思い出せない。
加えて、『クレア』が呼んでくれた名前も。
アナスタシア王国の出身でないなら、一体自分はどこの出身なのか。
何者なのか。
自分は捨てられたのか。
なぜアナスタシア王国にいたのか。
なぜ思い出せないのか。
なぜ なぜ なぜ
なぜ なぜ なぜ なぜ なぜ なぜ
なぜ なぜ なぜ なぜ なぜ なぜ
なぜ なぜ なぜ なぜ なぜ なぜ
「私は………っ」
頭がおかしくなりそうで、クレアはベッドに自分のしかめっ面を押し付けた。
約束を果たすために始めた旅だ。
過去は思い出にして、ただ約束を果たしたいと決めた。
それなのに、次第に昔は見えてこなかったものが見えてくる。
知らない自分が出てくる。
考えすぎて痛くなる頭を休めようと、クレアは目を閉じた。
コンコンコン
「………『シャルア』、出来は良くないけど昼を作ったから好きなときに食べにおいで」
「……」
どれくらい眠っていたのか。
意識が浮上したのは、リュカオンが扉をノックしたあたりからだった。
起き抜けで、疲れ切っていてクレアは返事もままならなかった。
起きる気にもなれず、少しの間天井を眺めていたが、のそのそと起き上がった。
(食べないのは違う気がするから……)
クレアはそう言い聞かせてベッドに座り直してから立って扉を開けた。
しん、とした廊下が寂しい。
クレアはダイニングテーブルに置いてあったオムライスを前に座る。
歪な形で焦げた卵焼きが歪でところどころ焦げたチキンライスに乗っかった、オムライスは、料理をしなさそうなリュカオンが頑張って作ってくれたことがうかがえる。
魔法で少し温めて、一緒に置かれていた食器で食べ始めた。
食べ終えて食器を洗って片付けたクレアは、食べ始めたときよりかは冷静になっていた。
今考えてもわからないものは仕方がないと振り切ったのだ。
リュカオンの料理のおかげかもしれない。
クレアはリュカオンに食べたことを伝えようと近辺を歩きだしたが、いつも通らない廊下を曲がった先から魔力が視えた。
(この魔力は………リュカオン?)
クレアは魔力の残滓を辿って廊下を曲がり、突き当たりにある部屋の扉を少し開けた。
隙間から見える部屋の中はとても暗く、天井から何かが吊るされていて、少し開けているだけでもいろんな匂いがする。
視えているリュカオンの魔力の残滓は、部屋のもっと奥に続いていた。
キィ………
クレアは建て付けの悪い扉を体が通れるほどまで開けて、部屋に入ってから扉を閉めると、真っ暗でリュカオンの魔力の残滓以外は目を凝らしても形しかわからないほどだった。
クレアは足もとを見ながらゆっくりと残滓を追いかけながら進んでいき、また扉があるのを見つけた。
魔力の残滓はこの向こうに続いている。
クレアは唾を飲み込んで、扉に手をかけた。
ギィ……
これまた古びた木の扉が音を鳴らして開くと、巨大な魔法陣を映し出す謎の物体とそれを前にするリュカオンがいた。
「………あれ『シャルア』?」
リュカオンは扉の音でこちらを向いて驚いた顔をしていた。
リュカオンがキルナに帰るように促すと、キルナは涙を流しながら懇願してきた。
リュカオンはいまだに混乱しているクレアを横目に、キルナに答える。
「悪いけど今日は『シャルア』が限界だから、帰ってほしいんだけど」
「そんな、あんまりです……」
断固として席を立たず、ついに泣き落としを始めるキルナに、リュカオンはため息をついた。
どうしてこんな人に尾けられたのかと心底呆れているようだった。
「……今帰ってくれたらまた来てもいいから」
「帰ります」
少し投げやりに言ったことが引き金となって、キルナはすぐに立ち上がって玄関まですたすたと歩き出した。
キルナの様子にまたため息をついたリュカオンは途中まで見送ろうと立ち上がり、クレアの背中を優しく撫でた。
「見送ってくるから、ゆっくりしてて」
「…………うん」
クレアは返事で精一杯といった感じで、リュカオンはそれ以上は何も言わずに玄関まで行って、キルナを見送りに出て行った。
「はう……見送りしてくれるなんて、紳士的ですね……余計にまた訪れたくなりました」
「なんでだよ……」
軽口を叩きあう声が遠ざかっていくのを聞いて、クレアはリュカオンからあてがわれた部屋に戻った。
備え付けのテーブルつきの椅子に座ったクレアは、亜空間から一冊の本を取り出すとためらいがちに表紙をめくった。
『「сгхуивмпэ」
この文字は「火」を意味している。ここに前頁に記載した付属文字を重ね合わせることで、ようやく火属性の初級魔法である「火炎」が使える(右図の魔法陣)。
魔法陣に書いてある文字を正しい詠唱によってなぞることで発することができる。』
隣のページには、右上に大きく魔法陣が描かれている。
『сгхуивмпэ квиеие обито』
丸い魔法陣に沿う形で、意味のわからない文字の羅列が書き込まれている。
見出し語や説明から、「сгхуивмпэ」が「炎」を示しているとはわかるが、何故これが「炎」と読めるのかは、クレアには到底理解できなかった。
後ろについている「квиеие обито」という文字は、説明の通りなら付属文字と呼ばれるものであるが、これもまったくもってクレアにはわからないものだった。
グラントにいたころに魔法の勉強のはじめの一歩としてもらった、『魔法文字-魔法対応辞典』は、至るページで努力の跡が見られた。
見出し語として大きく記された魔法文字を必死になぞった跡や、付録ページの魔法文字理論の解読を試みた跡が随所に見られる。
しかし、どれだけ頑張ってもクレアが魔法文字を読める日は来なかった。
それに加えて、クレアは魔法文字を使わずして既に魔法を使うことができたため、この努力は無駄となったのだ。
「……一体誰が?」
小さなつぶやきは誰にも受け止められることなく、クレアの頭の中で響き渡る。
クレアはテーブルに本を置いて、ベッドに横になって目を閉じる。
記憶を辿れないかと試みる。
直近の出来事から、戻っていって、旅で出会った人や、グラントで過ごした日々、大魔協に捕まったころ、『クレア』が死んだとき、アナスタシア王国にいたとき──────。
クレアは目を開けて、体を起こすとため息をついた。
幼すぎるからなのか、何かが邪魔をしているのか。もやがかかったようにそれより前のことは思い出せない。
加えて、『クレア』が呼んでくれた名前も。
アナスタシア王国の出身でないなら、一体自分はどこの出身なのか。
何者なのか。
自分は捨てられたのか。
なぜアナスタシア王国にいたのか。
なぜ思い出せないのか。
なぜ なぜ なぜ
なぜ なぜ なぜ なぜ なぜ なぜ
なぜ なぜ なぜ なぜ なぜ なぜ
なぜ なぜ なぜ なぜ なぜ なぜ
「私は………っ」
頭がおかしくなりそうで、クレアはベッドに自分のしかめっ面を押し付けた。
約束を果たすために始めた旅だ。
過去は思い出にして、ただ約束を果たしたいと決めた。
それなのに、次第に昔は見えてこなかったものが見えてくる。
知らない自分が出てくる。
考えすぎて痛くなる頭を休めようと、クレアは目を閉じた。
コンコンコン
「………『シャルア』、出来は良くないけど昼を作ったから好きなときに食べにおいで」
「……」
どれくらい眠っていたのか。
意識が浮上したのは、リュカオンが扉をノックしたあたりからだった。
起き抜けで、疲れ切っていてクレアは返事もままならなかった。
起きる気にもなれず、少しの間天井を眺めていたが、のそのそと起き上がった。
(食べないのは違う気がするから……)
クレアはそう言い聞かせてベッドに座り直してから立って扉を開けた。
しん、とした廊下が寂しい。
クレアはダイニングテーブルに置いてあったオムライスを前に座る。
歪な形で焦げた卵焼きが歪でところどころ焦げたチキンライスに乗っかった、オムライスは、料理をしなさそうなリュカオンが頑張って作ってくれたことがうかがえる。
魔法で少し温めて、一緒に置かれていた食器で食べ始めた。
食べ終えて食器を洗って片付けたクレアは、食べ始めたときよりかは冷静になっていた。
今考えてもわからないものは仕方がないと振り切ったのだ。
リュカオンの料理のおかげかもしれない。
クレアはリュカオンに食べたことを伝えようと近辺を歩きだしたが、いつも通らない廊下を曲がった先から魔力が視えた。
(この魔力は………リュカオン?)
クレアは魔力の残滓を辿って廊下を曲がり、突き当たりにある部屋の扉を少し開けた。
隙間から見える部屋の中はとても暗く、天井から何かが吊るされていて、少し開けているだけでもいろんな匂いがする。
視えているリュカオンの魔力の残滓は、部屋のもっと奥に続いていた。
キィ………
クレアは建て付けの悪い扉を体が通れるほどまで開けて、部屋に入ってから扉を閉めると、真っ暗でリュカオンの魔力の残滓以外は目を凝らしても形しかわからないほどだった。
クレアは足もとを見ながらゆっくりと残滓を追いかけながら進んでいき、また扉があるのを見つけた。
魔力の残滓はこの向こうに続いている。
クレアは唾を飲み込んで、扉に手をかけた。
ギィ……
これまた古びた木の扉が音を鳴らして開くと、巨大な魔法陣を映し出す謎の物体とそれを前にするリュカオンがいた。
「………あれ『シャルア』?」
リュカオンは扉の音でこちらを向いて驚いた顔をしていた。
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