追放された魔法使いの巻き込まれ旅

ゆり

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3章 依存国ツィーシャ

備えあれば (リュカオンside)

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キィ……

古びた木製の扉を開けて家に入ると、明かりがひとつもついていなかった。

「ただいま……?」

少し不安になりつつ出した言葉に、返事はやってこなかった。
僕は家の明かりをつけながら『シャルア』にあてがった部屋へ向かう。

勝手に入るのは忍びないけど、安否の確認のためだと思って許してほしい。
音を立てないようにそっと扉を開けて部屋を見ると、ベッドで丸まって寝ている『シャルア』を見つけた。
そばまで寄って寝息を確認して、ようやく僕はほっと息をついた。
嫌な予感がすると思って急いで帰ったら人気がなくて本当に心配した。
思っていたようなことではなかったからよかった。

『シャルア』は無防備にも『外見変化』のフードやいつものローブを羽織らず、薄着で寝ていた。
ベッドのサイドテーブルにはいろいろな本が積まれていて、読んでいる途中で眠くなったのだろうかと思った。
一番上に積まれている本を手に取ってみると、結構分厚い本で、表紙には『魔法文字-魔法対応辞典』と書かれている。

数ページめくるだけで表紙の通りのことが書いてあるとわかった。
そして、『シャルア』がこの本を読もうと頑張っていることもわかった。
この本のすぐ下に積まれている2、3冊は本ではなくノートだった。
少しだけ覗いてみると、魔法文字を練習した跡が残っていた。

アナスタシアにいたとき、『シャルア』は一般に魔法が使えるようになる年齢よりも早いわずか3歳の段階で魔法を日々使っていた。
僕と『クレア』は『シャルア』より後にあの場所に来たことと、アナスタシア自体が魔法に疎いせいで稀有な存在とわからなかったことが起因して、一種の癖、のような魔法の使い方になってしまったんだと思っていた。
だから魔法文字を覚えられないと知られたときから、『シャルア』が魔法文字を見る機会はなくなった。
キルナの話が本当なら癖とは言えないけど。

でも、こうやって学ぼうとした形跡がある。
ここ数ヶ月だけだとは思えない量だから、きっと逃げた後に魔法文字に触れる機会があったのかもしれない。
難しくてもこれが『シャルア』のやりたいことなら応援してあげたい。
僕は本を閉じてできるだけ元の状態に戻して部屋を後にした。

僕も今から勉強しないといけない。

僕は転移の魔導具がある部屋までやってきた。

『сизйовнлоеышожййцчсые』

僕が詠唱すると、僕と同じ背格好をした影が現れた。分身だ。
僕の魔力を分け与えると、僕が指示したことを勝手にやってくれる。
僕は闇魔法の練習もだが他にやることがある。本当は明日やる予定だったけど、嫌な予感がしたから前倒しだ。

「僕が戻るまでに、この転移の魔導具を改良してほしい。どう改良するかはわかるよね」

僕の問いかけに影がこくりと頷いた。
そんなに難しくないだろうし、今日中に改良できるだろう。

「じゃあよろしくね」

僕は影に魔力を分け与えて、そのもうひとつ奥の部屋へ移動した。
奥の部屋は昔造った魔導具の収容場所だった。
僕は属性ごとに分類された収容スペースからひとつの魔導具を取り出した。
亜空間の部屋を作る魔導具だ。
まだ魔法石が十分にあるのを確認して、僕は魔導具を起動した。
目の前に僕が入ったら誰も入れないくらいの大きさの立方体が現れた。
僕が中に入ると、見た目とは裏腹にほぼ無限に広がる空間が存在していた。
ちゃんと起動しているみたいだ。

早速僕はキルナに借りた魔法書の一冊を広げた。
分厚いだけあって、初歩のものから上位のものまで揃っている。
中位までは大体知っているものが多かったが、いつも使うものと似て非なるものがあったので肩慣らしに使ってみる。

『игсутсутцоибомлфуттсущ』

僕の詠唱で僕の影から闇の槍が何本も突き出てきた。

ただ、槍から生命を感じる。
試しに持っていたりんごを投げてやると、すべての槍がりんごへ尖る刃を向かわせて、すべて貫通した。

ちゃんと使えるということは、僕の知っているものと同じ系統であることは確かだ。
変わったのは槍が僕の意思の通りに動くようになったこと。
詠唱ひとつでここまで変わるのかと感心する。
便利で問題なく使えそうだし、これから使っていこう。

攻撃魔法も防御魔法も支援魔法もあるなんて思っていなくて、闇属性の幅が広がっていくのを感じる。
キルナに借りて正解だった。

そうして僕はその一冊に書かれた、知らなかった魔法をすべて試し始めた。



『дрсимбж кэвзчцлжэстяын идчБэует』

「………あーだめか」

僕は床に大になって寝転がった。
下位から中位は難なくすべてできたし、使えそうなくらいにまでは上達した。
上位も何個かはいけたが、今みたいなやたら長い詠唱で高い魔力が要求されるものは不発に終わった。
魔法陣が現れるだけで、そのまま消えてしまう。
魔力さえあればいけるのかも定かではないけれど、他に原因がわからない。
魔力ばかりはどうにもならない。魔法石で補うくらいしかないけど、魔法石は純正のグラント製は高いし、最近は処理をしていない粗悪品が出回っている。
そんな中で買うのはリスクがある。

諦めるよりほかはないみたいだ。
知らなかった魔法もちらちらあったから、収穫ではある。
今日は疲れたからここまでにしよう。

僕は起き上がって床に置いたもう一冊の魔法書を持って立ち上がる。

「………っと」

緩く持っていたせいか、バサリ、と音を立てて僕がまだ読んでいないほうの魔法書が床に落ちる。
内心キルナに謝りながら魔法書を拾い上げて、どんな内容が書いてあるのか落とした拍子に開いたページを少し読んでみてみる。

『闇属性にしかできない魔力増強の方法

本書では初歩的な《闇矢ダークアロー》から、最高位の《黒穴ブラックホール》まで幅広い闇属性の魔法を載せている。
しかし、上位以上の魔法では使えた者が数百年前に遡るような事例も少なくない。その多くは形骸化し、もはや現代の魔法使いには到達できない領域の代物とされてきた。才能はいくらでも伸ばすことができるが、魔力が圧倒的に足りない。
我々はこの書を作成するにあたって、魔力が足りないためにできない魔法を載せたところで意味がないと思い、当初は中位までを載せる予定だった。

しかし、我々はついに見つけた。
それが、この章の名の通り、闇属性にのみ可能とされる魔力増強の方法である。
実際に10名ほどの被験者に行ったところ、全員の魔力量が3倍以上に増大した。
歴史的発見だが、大々的に発表した際の影響を鑑みて、この限定著書に記載するだけに留めた。この書を手に入れた闇属性の魔法使いの手助けになることを祈っている。




その方法とは、身体に瘴気を取り込むことである』








「………ぇ」

身体の芯が冷たくなるのを感じながら、僕は次のページをめくった。


『瘴気とは魔物が豊富に持つもので、近年大陸中で被害の報告が上がっているものである』

違う、そんなことは知っている。
何か、どこかに知らない情報は。

『…………闇属性は瘴気耐性が他の属性や魔力なしと比べて極めて高いことがわかった。
魔物は瘴気が濃いほど強い魔物へと変化するという仮説があるように、これは人間にも適用できると思い我々は実験をすることにした。

…………実験は成功だった!
闇属性、聖属性以外の被験者は瘴気を投与して一刻もしないうちに死亡した。対照的に闇属性は2倍、3倍と魔力を増強させることが判明した。しかも、どれだけ取り込んでも体調が悪くなる程度で収まり、むしろそれすらも糧にして魔力が増大した。

原因はまだ解明できていないが、現段階での仮説は闇属性が瘴気から現れたもので、上位存在の瘴気を取り込むことによって増強されたとする考えだ。
今後はこの仮説の検証と、聖属性の瘴気耐性を調べていきたい。今後の動向を望む場合は支援をしてくれると嬉しい』




僕は気づけばその本を閉じていた。

信じたくなかったから。


この本の内容が正しいなら、僕は同じことをされている。
僕が『こう』なった原因。
何度も何度も何度も何度も何度も何度もされてきた忌々しいあの時間が、この本の内容に基づくものだとしたら。
この研究がまだ続いているとしたら。

闇属性の僕は。
聖属性の『ちびっ子』は。


「……………っう」

お腹の底から何かが込み上げてきて、僕はそれを必死に抑えた。

転移の魔導具を改良して正解だった。
備えるに越したことはないと思ったけど、まさかこんなにすぐ危険がわかるなんて。



はやく、けりをつけて、逃げないと。
待ち構えるのは──────。
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