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0章 プロローグ
プロローグ
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ザッ、ザッ、ザッ
砂利道を誰かが歩いているようだ。
そろそろ本格的に冬が始まり、
どこの町でも冬ごもりの準備を終えて家に引きこもっているはずだと言うのに、
そのローブで全身を隠した者は、時期なんて関係ないというようにずんずん歩いている。
強い風が吹き、フードがはらりと落ちた。
フードからのぞいたのは、透き通るほど美しい腰まで伸びた銀髪に、寒空の色をした淡い水色の瞳をもつ雪のような肌の少女だった。
身長は150半ば、歳は14,15くらいだろうか。
少女はフードを被り直すこともなくただ前へ____前方には商業都市、フレンティアの門が見える____前方へ進んでいく。
彼女の周りを大量の魔物が死体となっては消えていくのをくりかえしながら。
【フレンティア城門】
フレンティアは大陸一の商業都市だ。
大陸の真ん中に位置しているため、四方八方からモノが毎日やってくるからなのか、「流行が毎日変わる都市」とも言われている。
ここに定住する人は大体が商業者関連の家族であり、家主は大抵世界中を飛び回っていて不在が当たり前という都市である。
商業都市として栄えてるだけあって、生活水準は周辺都市と比べれば少し高いといえる。
少女がたどり着いた城門は、いわゆる「正門」という門で、フレンティアの中で一番大きく、人の出入りが激しい場所である。
冬ごもりが始まる時期でも商業者はやってくるようで、今日もフレンティアは大盛況のようだ。
少女はフレンティアの城門の賑わいようを実感しながら、入る際に必要となる検閲の列に並ぶ。
ようやく歩いていた足を止めた少女は、落ち着いた様子で古びたマジックバックから本を取り出した。
『旅のお供に読める本』
いかにも旅のために作られたような題名の本を開いてしおりを挟んでいたページから読み始めようとしたとき、大きな怒鳴り声が聞こえた。
「バカ野郎!!!何勝手に手ェ出してんだ、平民!!汚ねぇ手で俺の商品にさわんじゃねぇよ!!」
「ち、ちがう、俺は……」
「いい訳なんてしなくていい、お前を突き出しゃ終わる話だからな」
商人が優先的に検閲される列に並んでいるところからだ。
どうやら、商人同士のケンカのようだ。言葉から察するに、怒鳴っている男の商品を、おどおどしている男の商人が勝手に触れたようだ。
少女が黙ってその光景を眺めていると、後ろに並んでいたツナギを着た男が一緒に並ぶ仲間と口を開く。
「あぁ、ありゃ終わったなぁ」
「テッドのやり方には正直呆れちまうけどよ、誰があんなの止められるんだって話だよな」
「ずりぃやり方だよ。商人のプライドがない」
彼らの話を隣で盗み聞いた少女は、本をしまって話しかける。
「あそこで揉めているのはいつものことなんですか」
少女が急に話しかけてきたため、少し驚いた彼らは少女と目線を合わせて答える。
「そうだなぁ。あいつらはあれで商売してるっていってもおかしくねぇよ」
「この後あいつらは、商品をキズモノにされたって騒いで価格を下げて町の奴らに売りつけるんだ」
困ったような顔で話す商人たちには反面、諦めも垣間見えた。
「どうして勝手に値下げしないんですか」
「フレンティアではやむを得ない事情や事前の正当な申請がない限り、勝手な値下げは禁止して全ての商品を同じ値段で売っているんだ。みんなの商売が平等になるように、とね」
どうやら本当にいつものことのようだ。
しかし、なぜ告発しないのだろうか。
少女は商人たちにもう一度問いかけた。
「迷惑しているなら、どうして告発しないんですか」
「テッド____あそこで騒いでる奴はここの上層部と仲がいいせいで全く懲りないんだよ」
「誰か魔法で消してくんなーかねぇ、ま、そんな魔法使いいないから無理なんだけどよ」
「そうだなぁ、テッドも商人の端くれだが魔法は俺らの中じゃ相当の実力者だからな」
と、永遠と語り始めてしまったため、少女は今の話を整理した。
つまり、彼____テッドは、自分の商品を相手によって品質が低下した、として届出、相手の商売を潰すと同時に、一律の値段で売るフレンティアで不法な値下げを行って商売をしているということだ。
(初日からめんどうな場所に出会ってしまった……)
少女はため息をついた。そして、古びたマジックバックから、自身と同じ身長ほどある杖を取り出した。
話し込んでいた男たちは、フレンティアでは稀にしか見ない魔法使いの杖を少女が取り出したのを見て、少女に近寄った。
「お、お前さん、魔法使いなのか!?」
「……まぁ、一応ですが」
「な、なら、ならよ!さっきまでの話聞いてただろ?頼むよ、テッド懲らしめてくれねぇか?」
「おい、ジュセルよせ。相手はテッドだ。こんな小さい子じゃ無理だ」
「でも魔法使いだぞ、ロウ!年齢も身長も、俺たち商人には関係ないだろ。嬢ちゃん、頼むよ……」
藁にもすがる思いで少女に頼み込む男、ジュセルは少女に土下座して願い出るほど懇願している。
ロウはそんなジュセルに呆れながら、少女を冷たい目で見ている。
これは見定められているのだろうか。
少女はジュセルの肩に手をおいた。
「その願い、確かに聞き届けました」
ジュセルにその一言だけ言うと、少女は自分の検閲の列を外れて、テッドたちに近づいていく。
ジュセルは少女の言葉に呆然としているが、ロウは少女の危険な行動に声だけで止まるように言ってくる。
もちろん、少女がロウの言葉を聞くはずもなく、少女はただ前へ進んでいく。
テッドたちの前へ着いたとたん、少女は杖の先端を地面においた。
次の瞬間。
杖の先端を中心として大きな幾何学模様の魔法陣が現れた。
この世界は魔法陣の複雑さで魔法使いの強さがわかるというが、少女の展開した魔法陣は幾重もの幾何学模様が調和して存在している。
魔法使い同士、または博識な者ならばこの魔法陣を見ただけで逃げるはずだが、テッドは違った。
「なんだお前、ガキのくせに魔法陣を俺の前で披露して……見せつけてんのか?」
(……知らないのか)
テッドはこれを挑発と受け取ったようで、少女の穏便に済ませようとした策は失敗に終わったようだ。
少女は小さくため息をつき、杖を地面から離した。魔法陣もそれに応じて引っ込む。
怖気ついたと感じたテッドはニヤリと笑って少女に近づく。
「俺に怖がってんのかァ?……ちいちゃなおこちゃまには怖かったでちゅねー?今謝れば許してあげまちゅよー」
「……………」
本当にバカにされているようだ。
少女は怒りを抑えてテッドに笑顔を向けた。少女の目を引かれる透明度のある笑顔に怯むテッドを横目に、少女はテッドの荷台に近寄った。
少女は荷台をのぞいてもう一度杖を地面において、何かを確信したようだった。
(やっぱり、あの人は____)
少女が荷台をのぞいていることに気づいたテッドは我に返り、少女の首根っこを掴んで投げ捨てる。
「テメェ、何しやがった!?お前も商品を触ったな!?コイツと一緒に突き出してやるよ!!」
勝ち誇った顔で話すテッドを気にせず、尻もちをついた少女は立ち上がってローブについた土をきれいに払い落とす。
無視をされたと思ったテッドが顔を赤くして殴りかかる____が、少女は殴り飛ばされず、無傷で立っていた。むしろテッドの方が重症で、殴りかかった右手を押さえ込んでいる。たぶん骨折だろう。
少女はテッドに初めて話しかけた。
「すみません。手荒な真似をしようとすると、跳ね返してしまうんです。さっきはとっさのことで驚きましたが……。と、それよりも解決する話がありましたね。まずはじめに、濡れ衣はよくないです。マイナス1点」
マイナス1点と言った瞬間に、電撃を受けたかのようにテッドの体がはねた。
何も言えずに悶えるテッドを気にせず少女は続ける。
「一連の流れを見させていただきました。どうやら商品に勝手に触られたことが品質に関わると思ったようですね。
………先ほど魔法で調べさせていただきましたが、商品には全て同じ人____テッドさんの『記憶』しかありませんでした。
あぁ、念の為疑いのかかっていた彼の『記憶』がないかも照らしましたが…荷台は幕がかかっているので、そもそもありませんでした」
「なに、言って、やがる………」
うずくまるテッドの周りを回る少女は続ける。
「商品に彼は触ってないです、とお伝えしたかったんです。無益な争いは商人のあなたも望まないでしょう?……あぁ、でもあなたは得をするんでしたっけ?」
「うる、せぇ……何が悪い」
「あ、今認めましたね?悪質な方法であなたが商売を行っていると!卑怯ですね、マイナスです」
少女の言葉でまたテッドの体がはねる。
(コイツ……杖はフェイクかよ……)
さすがに杖なしの魔法使いは知っているようだ。テッドは少女を睨み続ける。
少女は最初の2回以外、一度も杖を使って魔法を出していない。これは彼女が杖なしの魔法使いだと知らせている。
『杖なしの魔法使い』。杖がなくても魔法が出せるほどの実力者、または、何かの拍子で自身の杖をなくした愚か者。
少女は前者だろうか。
テッドは勝ち目のない少女にあたってしまったことに気づいたのだ。
テッドの戦う気を失った顔を見て、少女は少し口角を上げる。杖をしまい、魔法で地面から出てきたロープでテッドを縛り上げると、テッドを浮かせて城門の検閲官のもとへ連れていく。
それまで少女とテッドを皆が見ていたため、すんなりと道を開けてくれる。というよりは、2人を警戒しているように見えた。
少女は検閲官の目の前でテッドをおろして事情を説明すると、証拠を要求された。
なるほど、検閲官もグルのようだ。
少女は検閲官の頭に手を当て、商品の『記憶』を無理やり見せた。
突然の魔法に検閲官はよろめくが、少女を見下す。
「あなたが改ざんしたかもしれない情報を見せられても証拠とは言えないですね……もっと確証のあるものを提示していただかないと」
少女はめんどうになった。
しかし、少女が武力行使にシフトしようとしていたところに、違う城門から検閲官がやってきた。
見た目はまだまだ若く、短い金髪が似合う顔立ちの整った男だった。
少女を信じなかった検閲官は彼がきた途端に青ざめながら敬礼する。
どうやら地位としては彼の方が上のようだ。
「旅人様、どうかなさいましたか?よければお話聞かせてくださいませんか」
少女は先ほどと同じように事の顛末を伝えると、彼はすぐに頭を下げた。
「犯罪防止にご協力していただき、ありがとうございます。テッドはこちらも手を焼いていたので、とても助かります。彼の身柄は私どもが対応いたしますのでお任せください」
先ほどの検閲官とは打って変わって彼の対応は素晴らしいものだった。
少女は彼にテッドを任せ、列に戻ろうとする。
「お待ちください!」
戻ろうとした少女に彼は話しかける。
テッドの逮捕に協力したため、優先して入れてくれるという。
そのための検閲を行いたいそうだ。
「フレンティアへ来た目的は?」
「旅の途中で物を揃えようと思って立ち寄りました」
「滞在日数は?」
「何もなければ、3日の予定ですが…多分倍になると思います」
「年齢は?」
「15です」
「ご職業は?」
「魔法使いです」
「所属の魔法使い連盟を教えてください」
「大陸魔法使い協会本部です」
「最後に、お名前は?」
「クレア。クレア=モルダナティスです」
「クレアさん、フレンティアへようこそ」
砂利道を誰かが歩いているようだ。
そろそろ本格的に冬が始まり、
どこの町でも冬ごもりの準備を終えて家に引きこもっているはずだと言うのに、
そのローブで全身を隠した者は、時期なんて関係ないというようにずんずん歩いている。
強い風が吹き、フードがはらりと落ちた。
フードからのぞいたのは、透き通るほど美しい腰まで伸びた銀髪に、寒空の色をした淡い水色の瞳をもつ雪のような肌の少女だった。
身長は150半ば、歳は14,15くらいだろうか。
少女はフードを被り直すこともなくただ前へ____前方には商業都市、フレンティアの門が見える____前方へ進んでいく。
彼女の周りを大量の魔物が死体となっては消えていくのをくりかえしながら。
【フレンティア城門】
フレンティアは大陸一の商業都市だ。
大陸の真ん中に位置しているため、四方八方からモノが毎日やってくるからなのか、「流行が毎日変わる都市」とも言われている。
ここに定住する人は大体が商業者関連の家族であり、家主は大抵世界中を飛び回っていて不在が当たり前という都市である。
商業都市として栄えてるだけあって、生活水準は周辺都市と比べれば少し高いといえる。
少女がたどり着いた城門は、いわゆる「正門」という門で、フレンティアの中で一番大きく、人の出入りが激しい場所である。
冬ごもりが始まる時期でも商業者はやってくるようで、今日もフレンティアは大盛況のようだ。
少女はフレンティアの城門の賑わいようを実感しながら、入る際に必要となる検閲の列に並ぶ。
ようやく歩いていた足を止めた少女は、落ち着いた様子で古びたマジックバックから本を取り出した。
『旅のお供に読める本』
いかにも旅のために作られたような題名の本を開いてしおりを挟んでいたページから読み始めようとしたとき、大きな怒鳴り声が聞こえた。
「バカ野郎!!!何勝手に手ェ出してんだ、平民!!汚ねぇ手で俺の商品にさわんじゃねぇよ!!」
「ち、ちがう、俺は……」
「いい訳なんてしなくていい、お前を突き出しゃ終わる話だからな」
商人が優先的に検閲される列に並んでいるところからだ。
どうやら、商人同士のケンカのようだ。言葉から察するに、怒鳴っている男の商品を、おどおどしている男の商人が勝手に触れたようだ。
少女が黙ってその光景を眺めていると、後ろに並んでいたツナギを着た男が一緒に並ぶ仲間と口を開く。
「あぁ、ありゃ終わったなぁ」
「テッドのやり方には正直呆れちまうけどよ、誰があんなの止められるんだって話だよな」
「ずりぃやり方だよ。商人のプライドがない」
彼らの話を隣で盗み聞いた少女は、本をしまって話しかける。
「あそこで揉めているのはいつものことなんですか」
少女が急に話しかけてきたため、少し驚いた彼らは少女と目線を合わせて答える。
「そうだなぁ。あいつらはあれで商売してるっていってもおかしくねぇよ」
「この後あいつらは、商品をキズモノにされたって騒いで価格を下げて町の奴らに売りつけるんだ」
困ったような顔で話す商人たちには反面、諦めも垣間見えた。
「どうして勝手に値下げしないんですか」
「フレンティアではやむを得ない事情や事前の正当な申請がない限り、勝手な値下げは禁止して全ての商品を同じ値段で売っているんだ。みんなの商売が平等になるように、とね」
どうやら本当にいつものことのようだ。
しかし、なぜ告発しないのだろうか。
少女は商人たちにもう一度問いかけた。
「迷惑しているなら、どうして告発しないんですか」
「テッド____あそこで騒いでる奴はここの上層部と仲がいいせいで全く懲りないんだよ」
「誰か魔法で消してくんなーかねぇ、ま、そんな魔法使いいないから無理なんだけどよ」
「そうだなぁ、テッドも商人の端くれだが魔法は俺らの中じゃ相当の実力者だからな」
と、永遠と語り始めてしまったため、少女は今の話を整理した。
つまり、彼____テッドは、自分の商品を相手によって品質が低下した、として届出、相手の商売を潰すと同時に、一律の値段で売るフレンティアで不法な値下げを行って商売をしているということだ。
(初日からめんどうな場所に出会ってしまった……)
少女はため息をついた。そして、古びたマジックバックから、自身と同じ身長ほどある杖を取り出した。
話し込んでいた男たちは、フレンティアでは稀にしか見ない魔法使いの杖を少女が取り出したのを見て、少女に近寄った。
「お、お前さん、魔法使いなのか!?」
「……まぁ、一応ですが」
「な、なら、ならよ!さっきまでの話聞いてただろ?頼むよ、テッド懲らしめてくれねぇか?」
「おい、ジュセルよせ。相手はテッドだ。こんな小さい子じゃ無理だ」
「でも魔法使いだぞ、ロウ!年齢も身長も、俺たち商人には関係ないだろ。嬢ちゃん、頼むよ……」
藁にもすがる思いで少女に頼み込む男、ジュセルは少女に土下座して願い出るほど懇願している。
ロウはそんなジュセルに呆れながら、少女を冷たい目で見ている。
これは見定められているのだろうか。
少女はジュセルの肩に手をおいた。
「その願い、確かに聞き届けました」
ジュセルにその一言だけ言うと、少女は自分の検閲の列を外れて、テッドたちに近づいていく。
ジュセルは少女の言葉に呆然としているが、ロウは少女の危険な行動に声だけで止まるように言ってくる。
もちろん、少女がロウの言葉を聞くはずもなく、少女はただ前へ進んでいく。
テッドたちの前へ着いたとたん、少女は杖の先端を地面においた。
次の瞬間。
杖の先端を中心として大きな幾何学模様の魔法陣が現れた。
この世界は魔法陣の複雑さで魔法使いの強さがわかるというが、少女の展開した魔法陣は幾重もの幾何学模様が調和して存在している。
魔法使い同士、または博識な者ならばこの魔法陣を見ただけで逃げるはずだが、テッドは違った。
「なんだお前、ガキのくせに魔法陣を俺の前で披露して……見せつけてんのか?」
(……知らないのか)
テッドはこれを挑発と受け取ったようで、少女の穏便に済ませようとした策は失敗に終わったようだ。
少女は小さくため息をつき、杖を地面から離した。魔法陣もそれに応じて引っ込む。
怖気ついたと感じたテッドはニヤリと笑って少女に近づく。
「俺に怖がってんのかァ?……ちいちゃなおこちゃまには怖かったでちゅねー?今謝れば許してあげまちゅよー」
「……………」
本当にバカにされているようだ。
少女は怒りを抑えてテッドに笑顔を向けた。少女の目を引かれる透明度のある笑顔に怯むテッドを横目に、少女はテッドの荷台に近寄った。
少女は荷台をのぞいてもう一度杖を地面において、何かを確信したようだった。
(やっぱり、あの人は____)
少女が荷台をのぞいていることに気づいたテッドは我に返り、少女の首根っこを掴んで投げ捨てる。
「テメェ、何しやがった!?お前も商品を触ったな!?コイツと一緒に突き出してやるよ!!」
勝ち誇った顔で話すテッドを気にせず、尻もちをついた少女は立ち上がってローブについた土をきれいに払い落とす。
無視をされたと思ったテッドが顔を赤くして殴りかかる____が、少女は殴り飛ばされず、無傷で立っていた。むしろテッドの方が重症で、殴りかかった右手を押さえ込んでいる。たぶん骨折だろう。
少女はテッドに初めて話しかけた。
「すみません。手荒な真似をしようとすると、跳ね返してしまうんです。さっきはとっさのことで驚きましたが……。と、それよりも解決する話がありましたね。まずはじめに、濡れ衣はよくないです。マイナス1点」
マイナス1点と言った瞬間に、電撃を受けたかのようにテッドの体がはねた。
何も言えずに悶えるテッドを気にせず少女は続ける。
「一連の流れを見させていただきました。どうやら商品に勝手に触られたことが品質に関わると思ったようですね。
………先ほど魔法で調べさせていただきましたが、商品には全て同じ人____テッドさんの『記憶』しかありませんでした。
あぁ、念の為疑いのかかっていた彼の『記憶』がないかも照らしましたが…荷台は幕がかかっているので、そもそもありませんでした」
「なに、言って、やがる………」
うずくまるテッドの周りを回る少女は続ける。
「商品に彼は触ってないです、とお伝えしたかったんです。無益な争いは商人のあなたも望まないでしょう?……あぁ、でもあなたは得をするんでしたっけ?」
「うる、せぇ……何が悪い」
「あ、今認めましたね?悪質な方法であなたが商売を行っていると!卑怯ですね、マイナスです」
少女の言葉でまたテッドの体がはねる。
(コイツ……杖はフェイクかよ……)
さすがに杖なしの魔法使いは知っているようだ。テッドは少女を睨み続ける。
少女は最初の2回以外、一度も杖を使って魔法を出していない。これは彼女が杖なしの魔法使いだと知らせている。
『杖なしの魔法使い』。杖がなくても魔法が出せるほどの実力者、または、何かの拍子で自身の杖をなくした愚か者。
少女は前者だろうか。
テッドは勝ち目のない少女にあたってしまったことに気づいたのだ。
テッドの戦う気を失った顔を見て、少女は少し口角を上げる。杖をしまい、魔法で地面から出てきたロープでテッドを縛り上げると、テッドを浮かせて城門の検閲官のもとへ連れていく。
それまで少女とテッドを皆が見ていたため、すんなりと道を開けてくれる。というよりは、2人を警戒しているように見えた。
少女は検閲官の目の前でテッドをおろして事情を説明すると、証拠を要求された。
なるほど、検閲官もグルのようだ。
少女は検閲官の頭に手を当て、商品の『記憶』を無理やり見せた。
突然の魔法に検閲官はよろめくが、少女を見下す。
「あなたが改ざんしたかもしれない情報を見せられても証拠とは言えないですね……もっと確証のあるものを提示していただかないと」
少女はめんどうになった。
しかし、少女が武力行使にシフトしようとしていたところに、違う城門から検閲官がやってきた。
見た目はまだまだ若く、短い金髪が似合う顔立ちの整った男だった。
少女を信じなかった検閲官は彼がきた途端に青ざめながら敬礼する。
どうやら地位としては彼の方が上のようだ。
「旅人様、どうかなさいましたか?よければお話聞かせてくださいませんか」
少女は先ほどと同じように事の顛末を伝えると、彼はすぐに頭を下げた。
「犯罪防止にご協力していただき、ありがとうございます。テッドはこちらも手を焼いていたので、とても助かります。彼の身柄は私どもが対応いたしますのでお任せください」
先ほどの検閲官とは打って変わって彼の対応は素晴らしいものだった。
少女は彼にテッドを任せ、列に戻ろうとする。
「お待ちください!」
戻ろうとした少女に彼は話しかける。
テッドの逮捕に協力したため、優先して入れてくれるという。
そのための検閲を行いたいそうだ。
「フレンティアへ来た目的は?」
「旅の途中で物を揃えようと思って立ち寄りました」
「滞在日数は?」
「何もなければ、3日の予定ですが…多分倍になると思います」
「年齢は?」
「15です」
「ご職業は?」
「魔法使いです」
「所属の魔法使い連盟を教えてください」
「大陸魔法使い協会本部です」
「最後に、お名前は?」
「クレア。クレア=モルダナティスです」
「クレアさん、フレンティアへようこそ」
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