追放された魔法使いの巻き込まれ旅

ゆり

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1章 商業都市フレンティア

巡回

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「じゃあ悪いけどクレアのこと頼んだよ、シスター」
「はいはい、いいから早く行きなさい」
「え、ちょっ……」
「クレアちゃんを引っ張って連れ出したこと、許してませんからね?」
「あのときは急いでて………って、閉めんのかよ」

孤児院に着いても眠ったままだったクレアをシスターに預けにきた俺は、半ば強引に孤児院を閉め出された。
シスターは俺の扱いが年々軽くなっている。
俺もここの子供だぞ……。
閉ざされた孤児院の扉を見て俺はため息をついた。






「ルーク。ちゃんとあの子送ってきたか?」
「……おー」

貧困街から出てすぐのところで、同期のハースに声をかけられた。
隣にはクレアの魔法をめちゃくちゃに褒めていた筆頭魔法使い、ゼルナがいた。

俺の少し不満気な返答から、ハースは俺がシスターに軽く扱われたことを察したようだ。
俺の背中をバシバシと叩きながら一緒に歩き始める。地味に痛い。

向かう先はフレンティア警備舎だ。
ヒルゼ様が部隊長を務める、商業地区特別部隊は警備舎が中央地区と同じだ。
これは、商業地区が具体的にどこからどこまでかを定義できないほどフレンティアに広がっているからだ。

中央に警備舎があるおかげで事件対応も迅速で、去年の犯罪件数はたったの5件だった
(俺が担当の貧困街第一地区は274件だった)。
実力派揃いだからというのもあるんだろう。

俺の隊ももっと強くならないといけないな……。

そうこう考えているうちに、俺たちはフレンティア警備舎に着いた。

「来たか」

俺のことを待っていたのか、ヒルゼ様は入り口前に建つ、フレンティアで幸せを呼ぶと言われている白鳥像の横に仁王立ちしていた。
鬼と白鳥が並んでいるみたいに壮観(?)だ。

通り過ぎていく子供に泣かれても気にせずと言った顔で立ち続けているが、子供好きなヒルゼ様は内心では逆に涙を流しているだろう。


俺とハースはヒルゼ様に敬礼し、今後の動きを聞いた。

今回は傾向からして、テッドが商業地区か貧困街のどちらかに出ると踏んで動くようだ。
関連する部隊の隊員で何個かのグループをつくり、情報共有を行いながら私服で巡回し、テッドを見つけたらすぐに拘束する計画を立てている。

俺はハースとゼルナの3人で、出入りが激しい城門寄りの商業地区を担当することになった。

「今、貴族街担当のやつにテッドと仲のいい貴族を聞いている。リストアップした貴族を俺の隊と貴族街のとこの隊が入る予定だ」
「リストに入ってない貴族が関与している可能性が否定できません。すべて調べるべきでは?」
「可能性はあるかもしれんが……テッドも結局平民だ。仲のいい貴族以外とは関わりなんざ持てないだろう」
「…………わかりました」

そうだといいのだが、と思いつつ俺はヒルゼ様の意向を了承した。

俺たちは早速城門の方へ向かって歩き始めた。





城門側は昨日クレアと回ったときと、そんなに変わっていなかった。
昨日の今日だから当たり前だと思うかもしれないが、この検閲を通ってすぐの城門側の商業地区は「ラトゥスの胃袋」と呼ばれている。

豊穣の神ラトゥスは、神話の中で貧困に飢えて苦しむ人々を思いやり、自らの胃袋を切った話がある。
ラトゥスの胃袋にはさまざまな食べ物が最高の状態で生え続けていて、人々は協力して飢餓を乗り越え、富を築いた話からあやかっている。

人の流入が一番激しく、検閲を通ってすぐの人に「フレンティアで初めての店」と思ってもらい懇意にされるからラトゥスの胃袋に似ている、らしい。

俺はここが一番稼げるという理由でいると思っている。正直、金の亡者の集まりだとしか思っていない。

俺たちはヒルゼ様の指示通り私服(ゼルナはローブを剥いだら死んでやる、と言ったのでそのままにした)に着替え、一般人を装って巡回を始める。

俺はフレンティア育ちで、大抵行く先々で声をかけられるが、ここは人が変わりやすいから、俺のことを知ってるやつは少ない。
ヒルゼ様はそこまで考えてここに配属したのだろう。



「ほんとうに、この街はうるさいですね………」

巡回をする中で、フードを目深にかぶったゼルナが鬱陶しそうに呟いた。
クレアを褒めていたときとは真逆のテンションで少し驚く。
俺の様子を見てハースが「いつものことさ」と断りを入れる。

ゼルナは南方では有名な武力国家の出身で、魔法の素質を持っていたがひ弱だったため、学園ではしょっちゅういじめられていたという。
おかげで人の声が多いところでは恨み辛みを吐きながら歩く癖があるらしい。
ヒルゼ様はここまでは考えずに配属したのだろうか……。

「あー、もう少し人気の少ないところに行くか?その方が辛くないだろう?」
「あぁ、そういう気遣いは結構です。こういう場所でも独り言を言っていれば、問題なく仕事できるので」
「あ、そう……」

俺の気遣いはあっけなく断られた。
隣で腹を抱えるハースに一発食らわせたいが耐える。

魔法使いはゼルナのように変なやつが多いのだろうか。
この世界の生き物は人間を含め、必ず魔力がある。
ただ、その大小は人さまざまで、大抵は灯りやコンロに火をつけるくらいの生活魔法しか使えない。
魔法使いは一定以上の魔力とそれを操る力を厳正な試験で認められない限りなれない。
おかげで魔法使いの数も何十万人、と世界人口の1割に満たないほどだ。
少ないというのもあるが、魔法以外に興味がない魔法使いは多い。
23年間、フレンティアにいながらこうして魔法使いに出会ったのも、両手に収まるくらいだ。
クレアもどっかヤバい一面があるなんて嫌だな……。

和やかに巡回を行っていたそのとき、誰かが商店街中に響く大きな声で叫んだ。




「火事だ!!!火事が起きたぞ!!誰か水持って来てくれ!!」
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