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2章 魔法の国ルクレイシア
嬉しい誤算 (セイルクside)
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俺たちは場所を移動して、この前の図書館の部屋を使うことにした。
クレアは着いて早々、俺に向けて両手を広げた。
まるで、今から抱きついてこいとでも言うように。
俺が固まっていると、クレアが口を開いた。
「まずは、セイルクさ……がどれだけ魔力の扱いができるかを見ようと思って。
1番効率的な方法は私がフードを取る必要があるから……抱き合って魔力を送るところからにしようってこと」
敬語が外れたクレアを少ししか知らなくて一瞬驚いたが、クレアが両手を広げた意味はわかった。
自分の魔力を相手に送るには、接触してる必要がある。
指一本から、とにかく相手の皮膚か粘膜に触れれば送ることができる。
服などで隔たりがあってもなくても同じ量を送ることができる。
1番効率的な方法は口づけなどの粘膜接触で、今から行う抱擁で魔力を送るよりも格段に高い魔力を送ることができる。
ただ、緊急時くらいにしか使わない方法だ。
俺は少しだけためらって、自分より20センチは小さそうなクレアを抱きしめた。
クレアの脇の下に俺の腕を入れるとクレアが浮きそうで、俺がクレアの頭を抱えて胸元に顔が当たっている感じだ。
クレアが俺の背中に自分の腕を絡めてしっかりとくっついた。
足から胸元までほぼ触れている状況だ。
「じゃあ、まずはこの状態で私に魔力を送って」
「あぁ」
俺は集中して魔力を循環させて触れている部分までまわって魔力が流れるのを意識して魔力を送る。
触れている部分が多いおかげですんなりと送ることができる。
「……うん、いいね。じゃあ次」
魔力を送れているか確認できたのか、クレアはそう言って背中に回していた手を戻して俺から離れた。
そうして、触れる場所をどんどん減らしながら、俺は同じように魔力を流した。
魔力の扱いに慣れない俺は、微細なコントロールが苦手だ。
触れる部分が減っていけばその分、魔力を送ることに苦戦をした。
「それじゃあ、最後は指一本だね」
「…………あぁ」
俺はげんなりした顔をしてクレアを見た。
魔力が減ったわけではない。送った魔力はクレアが俺に戻してから次に移るから平気だ。
平気じゃないのは集中力だ。
正直言って俺は握手の状態までが限界だった。
握手の状態で魔力を送った後の段階から、送るのに時間はかかるし、一定の量を送り続けられることができなくなってきた。
学校だと授業に時間がついているせいですぐに切り上げられるが、クレアはちゃんと待ってくれる。
ただその分、次の段階に移るとクレアが言うまでする必要があって、俺はとても疲れている。
さっきも言ったとおり、俺は微細なコントロールが苦手だ。
触れる部分が減ると、相手に送ることができる扉の開き具合が変わる。
今からやる指一本は、針に糸を通すような試みだ。
俺はクレアと小指を絡ませた。
俺は一度大きく息を吐いてから体の魔力に神経を集中させた。
「……うん、いいね。ありがとう、大体わかったよ」
「それなら、よかった………」
結局、俺がこう言われたのは小指を絡ませてから数時間経ったころだった。
閉館間際で終わった、と言っていいのか。
もしかしたら閉館を気にして早めに切り上げたのかと思ってしまうくらいには、まったく送れなかった。
俺は仰向けになって疲労と不甲斐なさに大きなため息をついた。
こうやって魔力を誰かに送ることは先生に初めて会ったとき以来だった。
確か、そのときもこうやって色んな触れ方で魔力を送ることになって…………
そこまで思い出して、俺は体を起こした。
そうだ、あのときも同じだった。
最初にどれくらいの実力か確かめようと言って、魔力の送り方を教えてもらって。
クレアは先生と同じ教え方をしているんだ。
………もしかして、上手な魔法使いはみんなこうやって教えるんだろうか。
俺がじっとクレアを見ると、視線に気づいたクレアと目があった。
「何かあった?」
「あー………えっと」
俺は言葉を詰まらせた。
教え方が先生と同じで驚いた、と言ったらクレアはまた俺に敬語を使うだろうか。
俺にとっては最高の褒め言葉だけど、代わりにされた気分にならないだろうか。
何か傷つけない言い方がないか考えていて、学校でもらった紙を思い出した。
俺は鞄から今日もらったプリントを取り出して、クレアに見せた。
クレアは目の前に出された紙を手に持ち、内容を黙って読んで口を開いた。
「野外演習で同伴する魔法使いの情報をここに記入すると書いてあるけど……もしかして、私に同伴して欲しいってこと?」
「えっ?あ、あぁ……まぁそんなところ」
「へぇ」
思ってもみなかった展開で、間の抜けた声で返事をしてしまった。
でも、確かにクレアが同伴してくれたら、また国から派遣された魔法使いとぎこちなくする必要がなくなる。
嬉しい誤算に目が眩んでいると、クレアはプリントをじっと見つめていた。
「ごめん、これ明日までに決めることにしてもいいかな」
「別にいいけど……何か問題あったか?」
すぐに決められない理由を俺が求めると、クレアは少し笑った。
「参加はできると思うし、むしろ参加したいんだけど……。記入欄の『緊急連絡先』にしていいか、頼む必要があって」
「……許可を取る必要がある人を緊急連絡先にするのか?」
俺が邪推したのを察知したのか、クレアは誤解を解くように勢いづいて答えた。
「関係が悪いとかではないよ!すごく良くしてくれてお世話になってる人たちだし。何かあったらすぐに心配してくれる。
……許可を取るのは、その人が北方に住んでるから。北寄りのここからでも少し遠い場所だし、忙しい人だから大丈夫かを聞くだけだよ。」
「……そう」
俺はその話を聞いて、少し羨ましく思ってしまった。
クレアは着いて早々、俺に向けて両手を広げた。
まるで、今から抱きついてこいとでも言うように。
俺が固まっていると、クレアが口を開いた。
「まずは、セイルクさ……がどれだけ魔力の扱いができるかを見ようと思って。
1番効率的な方法は私がフードを取る必要があるから……抱き合って魔力を送るところからにしようってこと」
敬語が外れたクレアを少ししか知らなくて一瞬驚いたが、クレアが両手を広げた意味はわかった。
自分の魔力を相手に送るには、接触してる必要がある。
指一本から、とにかく相手の皮膚か粘膜に触れれば送ることができる。
服などで隔たりがあってもなくても同じ量を送ることができる。
1番効率的な方法は口づけなどの粘膜接触で、今から行う抱擁で魔力を送るよりも格段に高い魔力を送ることができる。
ただ、緊急時くらいにしか使わない方法だ。
俺は少しだけためらって、自分より20センチは小さそうなクレアを抱きしめた。
クレアの脇の下に俺の腕を入れるとクレアが浮きそうで、俺がクレアの頭を抱えて胸元に顔が当たっている感じだ。
クレアが俺の背中に自分の腕を絡めてしっかりとくっついた。
足から胸元までほぼ触れている状況だ。
「じゃあ、まずはこの状態で私に魔力を送って」
「あぁ」
俺は集中して魔力を循環させて触れている部分までまわって魔力が流れるのを意識して魔力を送る。
触れている部分が多いおかげですんなりと送ることができる。
「……うん、いいね。じゃあ次」
魔力を送れているか確認できたのか、クレアはそう言って背中に回していた手を戻して俺から離れた。
そうして、触れる場所をどんどん減らしながら、俺は同じように魔力を流した。
魔力の扱いに慣れない俺は、微細なコントロールが苦手だ。
触れる部分が減っていけばその分、魔力を送ることに苦戦をした。
「それじゃあ、最後は指一本だね」
「…………あぁ」
俺はげんなりした顔をしてクレアを見た。
魔力が減ったわけではない。送った魔力はクレアが俺に戻してから次に移るから平気だ。
平気じゃないのは集中力だ。
正直言って俺は握手の状態までが限界だった。
握手の状態で魔力を送った後の段階から、送るのに時間はかかるし、一定の量を送り続けられることができなくなってきた。
学校だと授業に時間がついているせいですぐに切り上げられるが、クレアはちゃんと待ってくれる。
ただその分、次の段階に移るとクレアが言うまでする必要があって、俺はとても疲れている。
さっきも言ったとおり、俺は微細なコントロールが苦手だ。
触れる部分が減ると、相手に送ることができる扉の開き具合が変わる。
今からやる指一本は、針に糸を通すような試みだ。
俺はクレアと小指を絡ませた。
俺は一度大きく息を吐いてから体の魔力に神経を集中させた。
「……うん、いいね。ありがとう、大体わかったよ」
「それなら、よかった………」
結局、俺がこう言われたのは小指を絡ませてから数時間経ったころだった。
閉館間際で終わった、と言っていいのか。
もしかしたら閉館を気にして早めに切り上げたのかと思ってしまうくらいには、まったく送れなかった。
俺は仰向けになって疲労と不甲斐なさに大きなため息をついた。
こうやって魔力を誰かに送ることは先生に初めて会ったとき以来だった。
確か、そのときもこうやって色んな触れ方で魔力を送ることになって…………
そこまで思い出して、俺は体を起こした。
そうだ、あのときも同じだった。
最初にどれくらいの実力か確かめようと言って、魔力の送り方を教えてもらって。
クレアは先生と同じ教え方をしているんだ。
………もしかして、上手な魔法使いはみんなこうやって教えるんだろうか。
俺がじっとクレアを見ると、視線に気づいたクレアと目があった。
「何かあった?」
「あー………えっと」
俺は言葉を詰まらせた。
教え方が先生と同じで驚いた、と言ったらクレアはまた俺に敬語を使うだろうか。
俺にとっては最高の褒め言葉だけど、代わりにされた気分にならないだろうか。
何か傷つけない言い方がないか考えていて、学校でもらった紙を思い出した。
俺は鞄から今日もらったプリントを取り出して、クレアに見せた。
クレアは目の前に出された紙を手に持ち、内容を黙って読んで口を開いた。
「野外演習で同伴する魔法使いの情報をここに記入すると書いてあるけど……もしかして、私に同伴して欲しいってこと?」
「えっ?あ、あぁ……まぁそんなところ」
「へぇ」
思ってもみなかった展開で、間の抜けた声で返事をしてしまった。
でも、確かにクレアが同伴してくれたら、また国から派遣された魔法使いとぎこちなくする必要がなくなる。
嬉しい誤算に目が眩んでいると、クレアはプリントをじっと見つめていた。
「ごめん、これ明日までに決めることにしてもいいかな」
「別にいいけど……何か問題あったか?」
すぐに決められない理由を俺が求めると、クレアは少し笑った。
「参加はできると思うし、むしろ参加したいんだけど……。記入欄の『緊急連絡先』にしていいか、頼む必要があって」
「……許可を取る必要がある人を緊急連絡先にするのか?」
俺が邪推したのを察知したのか、クレアは誤解を解くように勢いづいて答えた。
「関係が悪いとかではないよ!すごく良くしてくれてお世話になってる人たちだし。何かあったらすぐに心配してくれる。
……許可を取るのは、その人が北方に住んでるから。北寄りのここからでも少し遠い場所だし、忙しい人だから大丈夫かを聞くだけだよ。」
「……そう」
俺はその話を聞いて、少し羨ましく思ってしまった。
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