追放された魔法使いの巻き込まれ旅

ゆり

文字の大きさ
57 / 119
2章 魔法の国ルクレイシア

許可取りと喜び (ファルside有)

しおりを挟む
図書館が閉まり、今日やることを終えたクレアはセイルクと別れて宿に戻った。
本当はこのあと、セイルクのための教え方について考える予定だったが、それよりも先に処理するものができたため後回しにする。

クレアはセイルクにもらったプリントを机に置いた。
どこの欄も記述していないが、クレアには『緊急連絡先』という欄がひどく目立っているように感じた。
今からこの『緊急連絡先』に書いてもいいかを、伝達媒体の水晶玉を使って聞く。

クレアは机の上に両手に収まるほどの大きさの水晶玉を置いて『伝達』と呟いた。
途端に青く光り出した水晶玉の上部にモニターが現れ、相手の伝達媒体と繋がる間砂嵐が流れる。

プツッ

何か途切れたような音を出して、モニターが砂嵐から執務室のような書類が大量に置かれた部屋に切り替わる。
誰かいないかと水晶玉の方向を変えて辺りを見渡そうとしたところで、上部から声が聞こえた。

『……クレア?』

伝達媒体を通してだからなのか、いつも聞いていた低すぎないちょうどいいバリトンのような声よりも少し低い声。
声の主はモニターの前まで移動して顔を見せた。

クレアと同い年の彼は、ツーブロックに前髪を七三で分けて立てた銀髪と業火のように紅い瞳は父親譲りの見た目。
活発そうで忠犬のような雰囲気が感じ取れる。
父親の属性である氷属性を継いだ割には母親の寒がりを継いでしまい、年中暖かそうな服装をしている。今日は後ろにある窓から雪が見え、よほど寒いのか、家族で色違いのストールをつけている。

クレアの保護者代わりとしてよくしてくれるグラント公国の公子、ファル・セルナリア=グラントだ。

4日ぶりに連絡を入れたクレアを見て、モニターに映るファルは嬉しそうに目を細めた。

『やっぱりクレアだ。この間は何かあったら連絡するって言って切ったけど、何かあったのか?』
「うーん……大きく言えばそうなるかな?」

苦笑まじりに手をもぞもぞさせるクレアを見て、男は少し安心した表情をした。
心配させてしまったようだ。
クレアは気を取り直して質問する。

「ファル、公爵様は不在?」
『父上?父上は2日前から討伐に同行して、ここにはいないな』

ファルは少し難しそうな顔をして答え、その答えにクレアが眉を顰めた。

「……もう討伐?ちょっと早いんだね」
『あー……今年は雪の威力が増す年と凶暴化する年がぶつかってるからな。山から降りてくる時期が早まって、被害も少し出たからやむなく早めたんだ。
それよりも、父上に用事?』
「あ、そうなの。これに書いてもいいか聞きたくて」

クレアは横に置いていたプリントをモニターに映してファルに見せた。
モニターに近づいてプリントの内容を見たファルは納得したような顔をした。

『今ルクレイシアだっけ?確かにこの時期によく討伐の話を聞いてたな。
目立つから参加しなさそうなのに参加するなんて……』
「楽しそうだし、ちょっと頼まれたから。ちょうどいいかなって。
それで、参加にあたってここの『緊急連絡先』も埋めないといけなくて、ここに公爵様の名前を書いてもいいか聞こうと思ったんだけど……」
『……討伐があるから無理だな』
「だよね……」

クレアが残念そうに肩を落とすのを見てファルが笑った。
そして、少し席を立ち、何かを聞いている。
何を聞いているのかわからないが、盛り上がっていることは伝わる。
そうして一度大きな歓声が聞こえたかと思えばファルが戻ってきて座り直した。

『その連絡先、俺じゃ務まらないか?
予定も空いてるし、緊急連絡先だから危ないことしない限りはかかってこないだろ?』
「確かに、そうだけど……ファルはいいの?」
『何かあったら応じろって言ったのはそっちだろ?』

驚いた表情を見せるクレアにファルは快くすぐに承諾した。
クレアは驚きながらプリントにファルの情報を書き入れた。
書いた内容を確認してもらうためにファルに見せると、ファルは指で丸を作った。

『記入漏れなしだな。このことは父上にも伝えとくから、あんまり心配すんな。
もっと話したいところなんだが……この後会議が入ってるから今日はこれで切るぞ。楽しんでこいよ』
「うん……ありがとう。ファルも頑張って」

クレアはファルにお礼を言って連絡を切った。
プリントで唯一埋まった『緊急連絡先』の欄を見てクレア少し嬉しそうに笑った。
連絡する前より気にならなくなった気がした。

「よし、頑張ろう」

クレアは心の中でもう一度ファルに感謝して夕食を食べることにした。









《ファルside》

クレアと連絡を切った俺は机に置いたままの資料を持って父上の執務室を出た。
扉の前で待っていた侍従が俺に頭を下げた。

「クレア様との御歓談は楽しめたでしょうか」
「あぁ、話すことができて助かったよ」

俺の言葉に侍従は少し微笑むと、「こちらです」と言って会議の場まで案内を始めた。
父上が討伐の間、俺はここで代理を任せられている。
後継者教育はまだまだ続いている中で突然任せられて、実は結構疲弊している。
未熟な俺にこの家を任せなければいけないほど、今年は魔物が凶暴化していることがわかると同時に、父上が戻ってくるまで俺がこの家を維持できるか不安だった。

今日の会議は討伐への物資支援や来年の計画について話し合う重要なもので、荷が重いと朝から憂鬱な気分だった。
そんな中で自室で執務を済ませていると、侍従が父上の執務室まで来るように急かしてクレアと話すことができたわけだ。

元気そうで安心した。
4日前に連絡が来たときは少し不安そうにしていたから、ルクレイシアではまだ上手くいっているんだなと思えた。

普段は参加しなさそうな討伐に参加したいと言って緊急連絡先の欄に書いてもいいか聞いてきたときは、正直に嬉しかった。
クレアはここにいるときあまりわがままを言わない方だったから、こうして願いを叶えることができて嬉しい。
まぁ、緊急連絡先なんてなくてもクレアに何かあればすぐに『影』から連絡がきて俺か父上が飛んでいくんだけど。
クレアは知らないだろうな。

くっ、と少し意地悪げに笑った俺は到着した会議の場に足を踏み入れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

職業ガチャで外れ職引いたけど、ダンジョン主に拾われて成り上がります

チャビューヘ
ファンタジー
いいね、ブックマークで応援いつもありがとうございます! ある日突然、クラス全員が異世界に召喚された。 この世界では「職業ガチャ」で与えられた職業がすべてを決める。勇者、魔法使い、騎士――次々と強職を引き当てるクラスメイトたち。だが俺、蒼井拓海が引いたのは「情報分析官」。幼馴染の白石美咲は「清掃員」。 戦闘力ゼロ。 「お前らは足手まといだ」「誰もお荷物を抱えたくない」 親友にすら見捨てられ、パーティ編成から弾かれた俺たちは、たった二人で最低難易度ダンジョンに挑むしかなかった。案の定、モンスターに追われ、逃げ惑い――挙句、偶然遭遇したクラスメイトには囮として利用された。 「感謝するぜ、囮として」 嘲笑と共に去っていく彼ら。絶望の中、俺たちは偶然ダンジョンの最深部へ転落する。 そこで出会ったのは、銀髪の美少女ダンジョン主・リリア。 「あなたたち……私のダンジョンで働かない?」 情報分析でダンジョン構造を最適化し、清掃で魔力循環を改善する。気づけば生産効率は30%向上し、俺たちは魔王軍の特別顧問にまで成り上がっていた。 かつて俺たちを見下したクラスメイトたちは、ダンジョン攻略で消耗し、苦しんでいる。 見ろ、これが「外れ職」の本当の力だ――逆転と成り上がり、そして痛快なざまぁ劇が、今始まる。

#密売じゃありません!ミツバイギフトで最高に美味しい果物作ったら、領主令息が夫になった件について

国府知里
ファンタジー
「がんばっても報われなかったあなたに」“スローライフ成り上がりファンタジー”  人生に疲れ果てた北村めぐみは、目覚めると異世界の農村で少女グレイスとして転生していた。この世界では6歳で神から“ギフト”を授かるという。グレイスが得た謎の力「ミツバイ」は、果物を蜜のように甘くするという奇跡の力だった!村を、領地を、やがて王国までも変えていく果樹栽培の物語がいま始まる――。美味しさが未来を育てる、異世界農業×スローライフ・ファンタジー!

魔道具は歌う~パーティ追放後に最高ランクになった俺を幼馴染は信じない。後で気づいてももう遅い、今まで支えてくれた人達がいるから~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界転生者シナグルのスキルは傾聴。 音が良く聞こえるだけの取り柄のないものだった、 幼馴染と加入したパーティを追放され、魔道具に出会うまでは。 魔道具の秘密を解き明かしたシナグルは、魔道具職人と冒険者でSSSランクに登り詰めるのだった。 そして再び出会う幼馴染。 彼女は俺がSSSランクだとは信じなかった。 もういい。 密かにやってた支援も打ち切る。 俺以外にも魔道具職人はいるさ。 落ちぶれて行く追放したパーティ。 俺は客とほのぼのとした良い関係を築きながら、成長していくのだった。

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

処理中です...