追放された魔法使いの巻き込まれ旅

ゆり

文字の大きさ
58 / 119
2章 魔法の国ルクレイシア

謎の言動 (セイルクside)

しおりを挟む
クレアと別れて、俺は今日も寮へ足を運んだ。
クレアが話す「いい人たち」が頭から離れなかった。
あの家には……いい人なんていない。

俺を引き取った当初は優しかったけど、魔力暴走をきっかけに扱いも態度も一変した。
学校に通っているのは国で強制されているが、寮は強制じゃない。簡単に追い出せるから寮に入れたんだろう。
あそこに居場所はない。

でも、俺も緊急連絡先に親の署名をもらう必要がある。
あそこに帰らないといけない。魔力を乗せて署名してもらうせいで、自分で勝手に書いて出せないところが嫌なところだ。
きっと、しぶしぶ署名して、本当に俺が緊急の状態になっても心配はしないのだろう。

寮に戻り、自室で鞄を探る。書類を入れているところに今日のプリントがあるはずだと探っていく。

「……?」

俺は不思議に思って鞄の中身を全て取り出して確認する。
違う場所に入れていないか、鞄の底で哀れな姿になっていないか。
しかし、どれだけ探っても俺の鞄から書類が出てくることはなかった。
取り出したのはクレアのときしかない。
きっと、クレアに渡したときに間違えて自分の分も渡してしまったのだろう。
クレアへの言い訳で自分がどれだけ慌てていたかがわかった。

俺は一度ため息をついて、出したものを鞄に戻す。

俺の頭の中に今日の、クレアの幸せそうな声が響いた。
あんなに嬉しそうってことは、それだけよくしてくれた人で。クレアもその人も幸せな気持ちで生活していたのだろう。
羨ましくて、せめて緊急連絡先に先生の名前でも書けたらよかったのにと思ってしまった。



鞄に戻し終わり、制服から私服に着替えて、高いところで結んでいた自分の髪を下ろし、首のあたりで結び直す。
ちょうどお腹が空いたころに食堂から夕食の美味しそうな香りがした。
俺は自室を出て食堂へ向かった。

今日はクリームシチューとホワイトクリームのハンバーグだ。
炊事係がこの間の雪がホワイトクリームに見えて作ったと、生徒に渡す際に逐一話していた。
結構な量が盛られたときは、あの日の雪の積もり具合を思い出して、そんなところまで再現しなくていいと思ってしまった。

俺は誰も座っていない端の席に座って食べ始める。
いつも通り美味しいが、量が多い。
クリームシチューだけでお腹が満たされてしまいそうだ。

大体食べ終わったあたり、淡々と食べ進めている中で、頭上から影が差した。
見上げてみると、ミュゼがトレーを持って俺の目の前に立っていた。

「隣、いい?」
「……好きにすれば」

一体何の用かと思って身構えていたが、相席と聞いて少し固まった。
少し気まずいかと周りを見渡して、他の席が埋まっていることがわかった俺は仕方なく相席を許した。

ミュゼは俺の隣に座って食べ始めた。
向かいに座ればいいのになぜ隣で食べるんだ……。
ただそんなことを言うのもいい気がしなくて、俺は黙々と目の前のご飯を食べていく。
食器同士が当たる音だけが俺とミュゼの間で聞こえる。

「……今年の討伐、また国から派遣された魔法使いと回るの?」
「……?今年は違うけど」

沈黙を破ったミュゼから聞かれたことに俺はわざわざミュゼを見て答えた。
なぜそんなことを聞くのかと目で訴えてみると、それを察したかのようにミュゼはまた口を開いた。

「去年はパートナーの魔法使いと気まずそうだったから……今年もだったら私が一緒に回ってあげようかと思っただけ」

俺は不審に思った。
別に他の生徒とそのパートナーと一緒になって回ることは珍しいことではない。
ただ、いつも嫌味ばかり言ってくるミュゼが、単なる心配だけで俺と回ろうとするだろうか。
どうにも信じられなかった。

それに、今年のパートナーはクレアだ。
俺とミュゼの仲は元々そんなに良くないのにクレアの一件から気まずさが増しているし、クレアとミュゼは確執が生まれていた。
クレアのため、俺のためにも一緒に回るのは得策じゃない。

「……悪いけど、今年は気まずくないから遠慮しておく」

俺がそう断りを入れると、ミュゼはハンバーグを食べ進めるのを止めた。
少しの間沈黙が流れて、ミュゼがスプーンを持つ手に力を込めて俺に問いかけてくる。

「気まずくない人って、クレアさんのこと?」
「………そうだけど」
「へぇ……」

ミュゼは俺の答えを聞いて納得したような声を漏らした。
ミュゼは時間をおいて固くなったクリームシチューをかき混ぜて、柔らかくなっていくのをただ見つめている。

「私との間も簡単に解れればいいのに……」

ミュゼの呟きは小さすぎて俺には聞こえなかった。

先に食べ終えた俺は立ち上がってその場を去ろうとする。
ミュゼは悲しそうな、羨ましそうな、とにかく色々な負の感情を目に乗せて俺を見ていたが、俺は何も言わないで立ち去った。

一体なんだったんだ……。
俺はトレーを戻して、自室に戻る間もミュゼの言動の意味を考え続けていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

職業ガチャで外れ職引いたけど、ダンジョン主に拾われて成り上がります

チャビューヘ
ファンタジー
いいね、ブックマークで応援いつもありがとうございます! ある日突然、クラス全員が異世界に召喚された。 この世界では「職業ガチャ」で与えられた職業がすべてを決める。勇者、魔法使い、騎士――次々と強職を引き当てるクラスメイトたち。だが俺、蒼井拓海が引いたのは「情報分析官」。幼馴染の白石美咲は「清掃員」。 戦闘力ゼロ。 「お前らは足手まといだ」「誰もお荷物を抱えたくない」 親友にすら見捨てられ、パーティ編成から弾かれた俺たちは、たった二人で最低難易度ダンジョンに挑むしかなかった。案の定、モンスターに追われ、逃げ惑い――挙句、偶然遭遇したクラスメイトには囮として利用された。 「感謝するぜ、囮として」 嘲笑と共に去っていく彼ら。絶望の中、俺たちは偶然ダンジョンの最深部へ転落する。 そこで出会ったのは、銀髪の美少女ダンジョン主・リリア。 「あなたたち……私のダンジョンで働かない?」 情報分析でダンジョン構造を最適化し、清掃で魔力循環を改善する。気づけば生産効率は30%向上し、俺たちは魔王軍の特別顧問にまで成り上がっていた。 かつて俺たちを見下したクラスメイトたちは、ダンジョン攻略で消耗し、苦しんでいる。 見ろ、これが「外れ職」の本当の力だ――逆転と成り上がり、そして痛快なざまぁ劇が、今始まる。

#密売じゃありません!ミツバイギフトで最高に美味しい果物作ったら、領主令息が夫になった件について

国府知里
ファンタジー
「がんばっても報われなかったあなたに」“スローライフ成り上がりファンタジー”  人生に疲れ果てた北村めぐみは、目覚めると異世界の農村で少女グレイスとして転生していた。この世界では6歳で神から“ギフト”を授かるという。グレイスが得た謎の力「ミツバイ」は、果物を蜜のように甘くするという奇跡の力だった!村を、領地を、やがて王国までも変えていく果樹栽培の物語がいま始まる――。美味しさが未来を育てる、異世界農業×スローライフ・ファンタジー!

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

処理中です...