追放された魔法使いの巻き込まれ旅

ゆり

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2章 魔法の国ルクレイシア

許可取りと喜び (ファルside有)

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図書館が閉まり、今日やることを終えたクレアはセイルクと別れて宿に戻った。
本当はこのあと、セイルクのための教え方について考える予定だったが、それよりも先に処理するものができたため後回しにする。

クレアはセイルクにもらったプリントを机に置いた。
どこの欄も記述していないが、クレアには『緊急連絡先』という欄がひどく目立っているように感じた。
今からこの『緊急連絡先』に書いてもいいかを、伝達媒体の水晶玉を使って聞く。

クレアは机の上に両手に収まるほどの大きさの水晶玉を置いて『伝達』と呟いた。
途端に青く光り出した水晶玉の上部にモニターが現れ、相手の伝達媒体と繋がる間砂嵐が流れる。

プツッ

何か途切れたような音を出して、モニターが砂嵐から執務室のような書類が大量に置かれた部屋に切り替わる。
誰かいないかと水晶玉の方向を変えて辺りを見渡そうとしたところで、上部から声が聞こえた。

『……クレア?』

伝達媒体を通してだからなのか、いつも聞いていた低すぎないちょうどいいバリトンのような声よりも少し低い声。
声の主はモニターの前まで移動して顔を見せた。

クレアと同い年の彼は、ツーブロックに前髪を七三で分けて立てた銀髪と業火のように紅い瞳は父親譲りの見た目。
活発そうで忠犬のような雰囲気が感じ取れる。
父親の属性である氷属性を継いだ割には母親の寒がりを継いでしまい、年中暖かそうな服装をしている。今日は後ろにある窓から雪が見え、よほど寒いのか、家族で色違いのストールをつけている。

クレアの保護者代わりとしてよくしてくれるグラント公国の公子、ファル・セルナリア=グラントだ。

4日ぶりに連絡を入れたクレアを見て、モニターに映るファルは嬉しそうに目を細めた。

『やっぱりクレアだ。この間は何かあったら連絡するって言って切ったけど、何かあったのか?』
「うーん……大きく言えばそうなるかな?」

苦笑まじりに手をもぞもぞさせるクレアを見て、男は少し安心した表情をした。
心配させてしまったようだ。
クレアは気を取り直して質問する。

「ファル、公爵様は不在?」
『父上?父上は2日前から討伐に同行して、ここにはいないな』

ファルは少し難しそうな顔をして答え、その答えにクレアが眉を顰めた。

「……もう討伐?ちょっと早いんだね」
『あー……今年は雪の威力が増す年と凶暴化する年がぶつかってるからな。山から降りてくる時期が早まって、被害も少し出たからやむなく早めたんだ。
それよりも、父上に用事?』
「あ、そうなの。これに書いてもいいか聞きたくて」

クレアは横に置いていたプリントをモニターに映してファルに見せた。
モニターに近づいてプリントの内容を見たファルは納得したような顔をした。

『今ルクレイシアだっけ?確かにこの時期によく討伐の話を聞いてたな。
目立つから参加しなさそうなのに参加するなんて……』
「楽しそうだし、ちょっと頼まれたから。ちょうどいいかなって。
それで、参加にあたってここの『緊急連絡先』も埋めないといけなくて、ここに公爵様の名前を書いてもいいか聞こうと思ったんだけど……」
『……討伐があるから無理だな』
「だよね……」

クレアが残念そうに肩を落とすのを見てファルが笑った。
そして、少し席を立ち、何かを聞いている。
何を聞いているのかわからないが、盛り上がっていることは伝わる。
そうして一度大きな歓声が聞こえたかと思えばファルが戻ってきて座り直した。

『その連絡先、俺じゃ務まらないか?
予定も空いてるし、緊急連絡先だから危ないことしない限りはかかってこないだろ?』
「確かに、そうだけど……ファルはいいの?」
『何かあったら応じろって言ったのはそっちだろ?』

驚いた表情を見せるクレアにファルは快くすぐに承諾した。
クレアは驚きながらプリントにファルの情報を書き入れた。
書いた内容を確認してもらうためにファルに見せると、ファルは指で丸を作った。

『記入漏れなしだな。このことは父上にも伝えとくから、あんまり心配すんな。
もっと話したいところなんだが……この後会議が入ってるから今日はこれで切るぞ。楽しんでこいよ』
「うん……ありがとう。ファルも頑張って」

クレアはファルにお礼を言って連絡を切った。
プリントで唯一埋まった『緊急連絡先』の欄を見てクレア少し嬉しそうに笑った。
連絡する前より気にならなくなった気がした。

「よし、頑張ろう」

クレアは心の中でもう一度ファルに感謝して夕食を食べることにした。









《ファルside》

クレアと連絡を切った俺は机に置いたままの資料を持って父上の執務室を出た。
扉の前で待っていた侍従が俺に頭を下げた。

「クレア様との御歓談は楽しめたでしょうか」
「あぁ、話すことができて助かったよ」

俺の言葉に侍従は少し微笑むと、「こちらです」と言って会議の場まで案内を始めた。
父上が討伐の間、俺はここで代理を任せられている。
後継者教育はまだまだ続いている中で突然任せられて、実は結構疲弊している。
未熟な俺にこの家を任せなければいけないほど、今年は魔物が凶暴化していることがわかると同時に、父上が戻ってくるまで俺がこの家を維持できるか不安だった。

今日の会議は討伐への物資支援や来年の計画について話し合う重要なもので、荷が重いと朝から憂鬱な気分だった。
そんな中で自室で執務を済ませていると、侍従が父上の執務室まで来るように急かしてクレアと話すことができたわけだ。

元気そうで安心した。
4日前に連絡が来たときは少し不安そうにしていたから、ルクレイシアではまだ上手くいっているんだなと思えた。

普段は参加しなさそうな討伐に参加したいと言って緊急連絡先の欄に書いてもいいか聞いてきたときは、正直に嬉しかった。
クレアはここにいるときあまりわがままを言わない方だったから、こうして願いを叶えることができて嬉しい。
まぁ、緊急連絡先なんてなくてもクレアに何かあればすぐに『影』から連絡がきて俺か父上が飛んでいくんだけど。
クレアは知らないだろうな。

くっ、と少し意地悪げに笑った俺は到着した会議の場に足を踏み入れた。
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