追放された魔法使いの巻き込まれ旅

ゆり

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2章 魔法の国ルクレイシア

魔物討伐1:受付

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クレアとセイルクがプリントを提出してから2週間が経ったころ、魔物討伐の日がやってきた。
クレアは朝早くに起きて、宿の前でセイルクが来るのを待っていた。
もともとは、討伐対象の場所である森で待ち合わせをする予定だったが、クレアが森までの道を知らなかったため、宿で待ち合わせすることになった。

クレアは空を見上げた。
少し雲行きが怪しい。1週間ほど前から晴れが少なく、雪がたまに降るような不安定な日が続いていた。
討伐は1日をかけて行われるため、天気が崩れるのは避けたい。

「クレア、お待たせ」

そうして天気の心配をしていると、セイルクが現れた。
待ち合わせの時間ぴったりだ。
セイルクはいつもの学校の制服ではなく、動きやすそうな服を着ていた。
学校から支給されているものらしい。
怪我防止なのか、上下長袖で、袖はそんなにゆったりしていない。

(ローブで参加できてよかった……)

クレアはまたローブへの信仰心を強くした。





【ルクレイシア大森林】
ルクレイシアの北西部の国境線沿いにある広大な森林。魔物が定期的に出てくるため、入り口を除く森林全体は人の手が入っていない。
自然豊かではあるが広大かつ危険で、歩きづらい道や底なし沼、崖も多く、怪我人が絶えない。
正確な地図などができていないため、討伐では探索済みの場所に規制線を張り、その範囲のみ行動可能としている。



森に着くと、それぞれに貼り紙で「総合」、「生徒」、「パートナー」と書いてある受付があった。
総合の受付に行くと、事務員のような人が対応する。

「おはようございます。本日は第一学校が対象です。本人確認を行わせていただきますので、二手にわかれてお進みください。その後、もう一度こちらへお越しいただいて説明という形を取っています」

総合受付は最初に行くところではなかったらしく、クレアたちはお互いの受付に足を運んだ。

パートナーの受付に来たクレアがどこに並ぼうかと辺りを見渡していると、クレアに向かって手を振る受付の人を見つけた。
カルーアだ。
クレアはカルーアの列に並び、自分の番になると、カルーアのふくよかな体で包み込まれた。

「クレアちゃん本当に参加するのね!疑っていたわけじゃないのよ?
私がクレアちゃんを送り出したくて今日の手伝いにも志願したの」
「そんな、ありがとうございます……!知ってる方に送り出してもらえるのは結構心強いです」

そうして1,2週間ぶりの再会を果たしたカルーアが受付の仕事をしてくれる。

「まずは確認から!クレアちゃんの名前は知っているから割愛して……一緒に行動する生徒の名前を教えて?」
「セイルク=オルフェンです」

カルーアは書類が挟まっているファイルを取り出して、セイルクの名前を探す。
やがて、書類をめくる手が止まって、何かと照らし合わせるような仕草をしてクレアの方を見た。

「大丈夫ね。生徒の名前もパートナー名も一致してる。これで確認終了ね。
次は色々と説明をしないといけないわね。
よいしょ………っと」

カルーアはファイルから1枚書類を抜いてハンコを押すと、ファイルをしまい、大量の小型の魔石が入った箱を机に置いた。
そして、箱の中身をじっと見つめて、ふたつ魔石を取り出して箱を下げた。
カルーアが取り出した魔石は青と緑の魔石で、とても澄んでいて純度が高いようだ。
他にも色々と必要なものを机に出して、揃ったところでカルーアが説明を始めた。

「次は緊急時の対処や準備をするわね。
今回の討伐ではこの小型魔石が緊急時に連絡をとれるものになってるの。色によって連絡先が変わるから覚えておいてね。

こっちの緑色の魔石は、学校やここの受付に連絡が届くもの。パートナーの場合は、生徒が自分で連絡できない状態だったり、高ランクの魔物を感知したりしたときに使うのが多いわ。
もちろん、生徒じゃなくてクレアちゃんみたいなパートナーが連絡できない状態のときも、この魔石で連絡してね。

そして青色の魔石は、自分が『緊急連絡先』に記入したもとへ連絡が届くもの。重篤な状態ですぐに助けが必要な場合に使ってね。この魔石は使う人の魔力を込めると、体の状態を察知してくれるの。
魔石が危険を察知した場合は、ほぼ自動的に連絡が行くから、最悪な状態はそうそう起こらないわ。

それで、魔石の使い方だけど、緑の魔石には固定でここへ連絡が来るように先に魔法が埋め込まれているの。だから、緑の魔石は魔力を込めれば魔法陣が作動するようにできてるわ。
青の魔石は特定のダメージが魔石自体に与えられるか魔力を流すかをすれば届くようになってるわ。
今から青の魔石の中に魔法陣を埋め込みましょう」

カルーアは羊皮紙を広げてクレアにガラスペンを差し出した。
羊皮紙には3つ記入欄があった。
ガラスペンはペン先から魔力を感じるため、魔法を帯びたインクが入っているのかもしれない。

「魔法陣を埋め込むために、必要事項をここに書いてほしいの。自分の名前、生徒の名前、緊急連絡先の3つよ。
書けたら血を一滴落としてから魔石を乗せて、紙に魔力を流してね」

クレアはカルーアに言われたとおりに進める。
インクが白色で見えづらいと思っていたが、最後に魔石を乗せて紙に魔力を流した後にはインクが黒く変色していた。
書いただけでは効力を発揮せず、魔力を流すことで役割を果たすようだ。

クレアが物珍しそうにガラスペンを眺めていると、カルーアは魔石を小さなルーペで覗き込んでいた。
魔法陣が定着したか確認しているようだ。
とても小さくて見づらそうだと思っていると、カルーアがふぅ、と息をついてからクレアに向けて微笑んだ。

「ちゃんと定着していたからこれで使えるわ。
これが使えたり連絡が届いたりするのは、さっき羊皮紙に書いた人だけだから気をつけてね。
それじゃあ緊急時の準備はここまで。

あとはパートナーとしての注意事項かしら。
よっぽど大丈夫だと思うけど、パートナーは生徒が安全に行動できるように適度に支援をすることが役目なの。わざと危ない行動を促したり、生徒の力量に合わない行為を止められなかったりして怪我をするのは責任重大よ。
そして、生徒の魔石には先生たちが後々評価できるように映像記録の魔法陣が埋め込まれているわ。
パートナーが生徒の代わりにすべて討伐するなんてしたら、生徒が減点されてしまうから気をつけてね」
「はい。気をつけます」

クレアから返事をされたカルーアは「よろしい」と言って書類などをひとまとめにした。
説明が終わったようだ。

「それじゃあ最後にここの受付を通過した証のスタンプを押すから、手を出して」

クレアが言われたとおりに手を出すと、カルーアは検閲のときに押してもらったものと似たスタンプをクレアの手の甲に押した。
ちゃんと見えるかを確認したカルーアはクレアにまとめた書類を渡した。

「これを持って総合受付で生徒の子と一緒に提出してね。それじゃあ頑張って!」
「はいっ!」

カルーアに笑顔で送り出されたクレアは、声だけでも伝わるように明るく返事をした。




クレアが戻ると、セイルクは既に終わっていたようでクレアを待っていた。
クレアが来たのを見て、セイルクはクレアにかけ寄り隣に並んで一緒に総合受付まで歩いた。
総合受付に来ると、さっきの人が対応してくれた。「書類を」と言われて、2人でもらったものを出すと、さらりと目を通して、「手を」と言ってスタンプの確認もてきぱきと終わらせる。

「……よさそうですね。
それでは最後に集合時間や行動可能な範囲などを説明させていただきます。

開始は全員一緒でこのあと半刻後を予定しています。開始の合図の鐘が鳴りますので、それから森林へ入ってください。
開始から1刻ごとに鐘が鳴ります。7刻後が最終集合時間となります。終了に関しては、十分な魔物を狩ったり怪我をしてこれ以上は無理だと判断したりなどで各々異なりますので、7刻後までに帰ってくれば問題ありません。

行動可能な範囲は、前日に探索して安全に討伐できると判断したところまでになっています。範囲はこの黄色の規制テープで囲った部分になります。
超えようとすると結界が発動する仕様になっていますが、少し判定が悪くて、その隙を突いてしまうと発動しないときがあります。悪用しないでください。
範囲の中には崖や底なし沼などがありますが、見ればわかるとのことですので、近くを通るときは気をつけてください。

最後に、前日の探索隊によると、今年は魔物が凶暴化しているそうで怪我をされた方がいました。
いつもなら倒せる魔物だと思っていても、凶暴化していて倒せない場合があります。
そういったときはすぐに命を優先してください。危険でも進もうとする場合はパートナーの方が止めてください。

以上で終わりですが、なにか質問はありますか?」

受付はクレアとセイルクが何もないことを確認すると、確認済みの連絡用の魔石を渡した。

「オメルタの加護があらんことを」

受付はそう言って両手を自分の前で重ねて祈りを捧げた。
クレアは一瞬その祈りの姿勢に体をこわばらせたが、すぐにその場を後にした。
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