異世界に召喚されたけど、戦えないので牧場経営します~勝手に集まってくる動物達が、みんな普通じゃないんだけど!?~

黒蓬

文字の大きさ
30 / 74

第30話 ドミニクの訪問

しおりを挟む
朝霧が牧場を包み込み、優しい光が草原を照らす頃、白石悠真は牧場の小高い丘に腰を下ろし、一息ついていた。見学路が完成してから数週間が経ち、村の子どもたちが時折訪れるようになっていた。

「最近は賑やかになったな」

悠真はそう呟きながら、牧場の風景を眺めた。アズールは小さな池で水しぶきを上げて遊び、フレアは暖かい岩場で気持ちよさそうに昼寝をしている。ウィンドは空高く舞い、牧場の上空をパトロールするかのように飛んでいた。

「悠真さん、おはようございます!」

振り返ると、リーフィアが朝の水やりを終えたようで、手には空になった水差しを持っていた。銀色の髪が朝日に輝いて見える。

「おはよう、リーフィア。今日も早いな」

「はい。朝の光を浴びた植物たちは、一段と生き生きとしているように感じますから」

リーフィアは穏やかな微笑みを浮かべ、悠真の隣に座った。

「見学路ができてから、家畜たちも随分と落ち着いたようですね」

「ああ、初めは子どもたちの声にびっくりしていたけど、今ではすっかり慣れたみたいだ」

二人が話していると、シャドウがそっと近づいてきた。最近では人の気配にも慣れ、以前ほど警戒しなくなっている。悠真の足元に座り、尻尾をゆっくりと左右に振った。

「シャドウまでこんなに人懐っこくなるとはな」

リーフィアがそっと手を伸ばすと、シャドウは少し身を引いたものの、すぐに落ち着き、彼女の手の匂いを嗅いだ。

「人間にも色々いるってわかったんでしょうね」

悠真がシャドウの頭を撫でていると、牧場の入り口から人影が見えた。

「あれは……」

悠真が目を凝らすと、それはドミニク・バレルだった。アスターリーズ商会の取引担当で、しばらく牧場に来ていなかった。彼は深緑色のジャケットに赤いベストという、いつもの商人らしい格好で、興味深そうに牧場を見回している。

「おはようございます、白石さん!久しぶりにお邪魔します!」

ドミニクは口髭を撫でながら、大きな声で挨拶した。悠真とリーフィアは立ち上がり、彼を迎えに行った。

「おはようございます。ドミニクさん。久しぶりですね」

「それにしても……」

ドミニクは周囲を見回し、目を丸くした。

「牧場の様子がまるで変わっていますね!前回来た時はここまで……」

悠真は微笑んだ。

「少しずつ整備したんです。子どもたちも遊びに来るようになったので」

「なるほどそういうことですか。あっ、そうです。今日は、お礼を言いに来たんですよ」

ドミニクは誇らしげに胸を張った。

「白石牧場の畜産物が、アスターリーズで大評判なんです!特にサクラから採れる羊毛は、王都の貴族の間でも引っ張りだこですよ」

「それは良かった」

悠真が答えると、ドミニクはさらに続けた。

「それで、良ければ今日は牧場の様子を見せてもらえないでしょうか?」

「もちろんです。今から案内しましょう」

悠真は見学路に沿って、ドミニクを案内し始めた。リーフィアも一緒に付いてきた。

――――――

「これは素晴らしい!まるで公園のようですね!」

ドミニクは見学路の整備された様子に驚いていた。適度な間隔で設置された休憩所や、動物たちを観察するための展望台、四季折々の花が咲く花壇。それらが見事に調和していた。

「子どもたちの安全を考えて作ったんだ」

「さすがは白石さん!こういう細やかな配慮が、畜産物の質の高さにも表れているんでしょうね」

ドミニクが感心していると、池の方から「キュイ!」という可愛らしい鳴き声が聞こえてきた。アズールが水から飛び出し、三人の方に向かって小走りで近づいてきた。

「あれは、まさか……ドラゴン!?」

ドミニクの目が大きく見開かれた。

アズールは好奇心いっぱいの表情で、ドミニクの足元までやってきた。青みがかった鱗は朝日を受けて美しく輝いている。

「ああ、アズールだよ。まだ子どもだけどね」

悠真が当たり前のように言うと、ドミニクは震える手でアズールを指さした。

「何を呑気な!ドラゴンですよ!?幻獣中の幻獣!一国の財宝にも匹敵する価値がある!」

ドミニクの興奮した様子に、アズールは首を傾げた。その仕草がさらに可愛らしく見える。

「白石さん!」

ドミニクが突然、真剣な表情で悠真に向き直った。

「このドラゴン、売ってくれませんか?いや、お値段は言い値で構いません!」

「え?」

悠真は驚いて声を上げた。

「いやいや、アズールを売るなんて、そんなことできませんよ」

「でも、考えてみてください!ドラゴンの子どももこれほど希少で、しかも人に懐いているなんて……王都の貴族たちが争って求めるでしょう!」

ドミニクの目は輝き、口髭が興奮で震えている。しかし悠真は穏やかに、だが毅然とした口調で答えた。

「彼には近くに親がいるんだ。そんなことをしたら大変なことになる」

「親、ですって!?」

ドミニクの顔から血の気が引いた。

「成体のドラゴンが……この近くに!?」

「ああ、シギュラって言うんだ。かなり大きいよ」

悠真が何気なく言うと、ドミニクはさらに青ざめた。

「い、いや……しかし……」

彼はまだ諦めきれない様子だったが、リーフィアが静かに言葉を挟んだ。

「ドミニクさん、アズールはただの商品ではありません。彼には家族がいて、この牧場が彼の住処なのです」

「それに彼を売ったりなんかしたら、シギュラが怒るのは目に見えてる。最悪、アスターリーズをそのドラゴンが襲うことになるかもしれませんよ?」

その言葉にドミニクの顔がさらに青ざめた。彼は口髭を撫でながら、深いため息をついた。

「……そうですね。それは……避けたいですね」

ドミニクは残念そうだったが、理解を示した。

「まさか、こんな小さな牧場でドラゴンが飼われているとは……白石さん、あなたは並外れた人物だ」

「そんなことないよ。彼らが勝手に集まってくるんだ」

悠真が謙遜すると、アズールは彼の足元に寄り添い、「キュイ」と嬉しそうな声を上げた。

――――――

見学を終え、ドミニクは牧場を後にした。彼の表情には名残惜しさと、新たな商機への期待が入り混じっていた。

「また来ますよ、白石さん!今度は別の商品も探してみましょう!」

悠真とリーフィアは彼を見送りながら、穏やかな笑みを浮かべた。

「ドミニクさんも、商人だけあって珍しいものには目がないのですね」

「ああ、でも悪い人じゃない。彼の目利きのおかげで、牧場の畜産物も広まったんだからね」

牧場に静けさが戻り、アズールは再び池に戻っていった。空では、ウィンドが優雅に舞い、フレアはまだ昼寝を続けている。シャドウは悠真の足元で丸くなり、穏やかな寝息を立てていた。

「結局は、この平和が一番だよな」

悠真はそう呟き、牧場の景色を満足げに眺めた。牧場で暮らす動物たちが、それぞれの場所で、それぞれの幸せを見つけている。彼らを見守ることが、悠真にとっての幸せだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました

黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。 彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。 戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。 現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと! 「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」 ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。 絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。 伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進! 迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る! これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー! 美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。 人生、逆転できないことなんて何もない!

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

#密売じゃありません!ミツバイギフトで最高に美味しい果物作ったら、領主令息が夫になった件について

国府知里
ファンタジー
「がんばっても報われなかったあなたに」“スローライフ成り上がりファンタジー”  人生に疲れ果てた北村めぐみは、目覚めると異世界の農村で少女グレイスとして転生していた。この世界では6歳で神から“ギフト”を授かるという。グレイスが得た謎の力「ミツバイ」は、果物を蜜のように甘くするという奇跡の力だった!村を、領地を、やがて王国までも変えていく果樹栽培の物語がいま始まる――。美味しさが未来を育てる、異世界農業×スローライフ・ファンタジー!

元王城お抱えスキル研究家の、モフモフ子育てスローライフ 〜スキル:沼?!『前代未聞なスキル持ち』の成長、見守り生活〜

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「エレンはね、スレイがたくさん褒めてくれるから、ここに居ていいんだって思えたの」 ***  魔法はないが、神から授かる特殊な力――スキルが存在する世界。  王城にはスキルのあらゆる可能性を模索し、スキル関係のトラブルを解消するための専門家・スキル研究家という職が存在していた。  しかしちょうど一年前、即位したばかりの国王の「そのようなもの、金がかかるばかりで意味がない」という鶴の一声で、職が消滅。  解雇されたスキル研究家のスレイ(26歳)は、ひょんな事から縁も所縁もない田舎の伯爵領に移住し、忙しく働いた王城時代の給金貯蓄でそれなりに広い庭付きの家を買い、元来からの拾い癖と大雑把な性格が相まって、拾ってきた動物たちを放し飼いにしての共同生活を送っている。  ひっそりと「スキルに関する相談を受け付けるための『スキル相談室』」を開業する傍ら、空いた時間は冒険者ギルドで、住民からの戦闘伴わない依頼――通称:非戦闘系依頼(畑仕事や牧場仕事の手伝い)を受け、スローな日々を謳歌していたスレイ。  しかしそんな穏やかな生活も、ある日拾い癖が高じてついに羊を連れた人間(小さな女の子)を拾った事で、少しずつ様変わりし始める。  スキル階級・底辺<ボトム>のありふれたスキル『召喚士』持ちの女の子・エレンと、彼女に召喚されたただの羊(か弱い非戦闘毛動物)メェ君。  何の変哲もない子たちだけど、実は「動物と会話ができる」という、スキル研究家のスレイでも初めて見る特殊な副効果持ちの少女と、『特性:沼』という、ヘンテコなステータス持ちの羊で……? 「今日は野菜の苗植えをします」 「おー!」 「めぇー!!」  友達を一千万人作る事が目標のエレンと、エレンの事が好きすぎるあまり、人前でもお構いなくつい『沼』の力を使ってしまうメェ君。  そんな一人と一匹を、スキル研究家としても保護者としても、スローライフを通して褒めて伸ばして導いていく。  子育て成長、お仕事ストーリー。  ここに爆誕!

追放された荷物持ちですが、実は滅んだ竜族の末裔でした~のんびり暮らしたいのに、なぜかそうならない~

ソラリアル
ファンタジー
目が覚めたら、俺は孤児だった。 家族も、家も、居場所もない。 そんな俺を拾ってくれたのは、優しいSランク冒険者のパーティだった。 「荷物持ちでもいい、仲間になれ」 その言葉を信じて、俺は必死についていった。 だけど、自分には何もできないと思っていた。 それでも少しでも役に立ちたくて、夜な夜な一人で力を磨いた。 だけどある日、彼らは言った。 『ここからは危険だ。荷物持ちは、もう必要ない』 それは、俺の身を案じた「優しさ」からの判断だった。 俺も分かっていた。 だから、黙ってそれを受け入れ、静かにパーティを離れた。 「もう誰にも必要とされなくてもいい。一人で、穏やかに生きていこう」 そう思っていた。そのはずだった。 ――だけど。 ダンジョンの地下で出会った古代竜の魂と、 “様々な縁”が重なり、騒がしくなった。 「最強を目指すべくして生まれた存在」 「君と一緒に行かせてくれ。」 「……オリオンを辞めさせた、本当の理由を知っている」 穏やかなスローライフ生活を望んだはずなのに、 世界はまた、勝手に動き出してしまったらしい―― ◇小説家になろう・カクヨムでも同時連載中です◇

料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される

向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。 アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。 普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。 白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。 そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。 剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。 だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。 おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。 俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

グラサン幼女の異世界とらべるっ! ~最強の【魔眼】を宿す転生幼女は、もふかわ神獣を連れてスローライフな旅路を楽しみます~

空戯ケイ
ファンタジー
社畜OL、水城愛璃(みずきあいり)は、女神のうっかりミスにより25歳の若さで死んだ。 お詫びとして女神が提案したのは、オッドアイの幼女ボディへの転生。 そうして幼女の姿で異世界転生を果たしたアイリだったが、 特異体質により『感情が高ぶると暴発する魔眼』が宿っていることが発覚! しかも両目!? それを封じるため、女神から与えられたユニークスキルは、『神のサングラス』。 このサングラスをかければ、魔眼の暴発を抑えられるらしいけど……常にグラサンかけてる幼女とか怪しすぎじゃない!? だけど、とある"激レア魔道具"があれば 、なんと魔眼を完治できるらしい。 ならばその魔道具を手に入れるため、異世界を巡るしかないっ! さらに旅の道すがら、もふもふフェンリルや忍者少女、特異スライムを仲間にし、珍道中はさらに加速していって――!! まったりのんびりをモットーに、たまに魔物や刺客に襲われちゃう。 【グラサン幼女】の破天荒な異世界旅が始まる! ※更新は不定期です。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

処理中です...