異世界に召喚されたけど、戦えないので牧場経営します~勝手に集まってくる動物達が、みんな普通じゃないんだけど!?~

黒蓬

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第34話 シャドウの冒険

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牧場の朝は早い。太陽がようやく顔を出し始めた頃、悠真は納屋の前で伸びをしていた。

「今日も暑くなりそうだな」

朝露に濡れた草の香りを深く吸い込むと、背後から小さな物音が聞こえてきた。振り返ると、漆黒の毛並みを持つシャドウが、眠そうな黄金の瞳でこちらを見上げている。

「おはよう、シャドウ。珍しいな、こんな早くに起きるなんて」

小さな熊は「クゥン」と鳴き、悠真の足元にすり寄った。その仕草があまりにも可愛らしく、思わず頭を撫でる。

「今日の見回りについてくるか?」

シャドウは嬉しそうに頷いたように見えた。

――――――

朝食後、牧場の見回りを始めた悠真とシャドウは、納屋の裏手に向かった。そこではリーフィアがウィンドに餌をやっていた。優美なペガサスは銀色の翼を広げ、朝日に照らされて輝いている。

「おはようございます、悠真さん。今日はシャドウも一緒なのですね」

リーフィアの柔らかな声に、ウィンドも嬉しそうに鳴いた。

「ああ、珍しく朝から元気だったからな。ウィンド、調子はどうだ?」

悠真が近づくと、ペガサスは首を伸ばして彼の肩に鼻先を軽く押し付けた。これがウィンドの挨拶の仕方だ。

「シャドウ。ほら、ウィンドにも挨拶しような」

悠真の言葉に、小さな熊は慎重にペガサスに近づいた。ウィンドは身を低くして、シャドウの頭に優しく鼻先を触れた。

「仲良くなってきましたね」

リーフィアが微笑む。確かに最初は警戒していたシャドウも、今では牧場の仲間たちと打ち解けてきている。特にウィンドとは、何故か気が合うようだった。

「それにしても、最近シャドウが元気ないと思ったんだが、何か心当たりはあるか?」

リーフィアは少し考え込むように首を傾げた。

「そういえば、ここ数日、夜になると森の方をじっと見つめていることがありました。何か気になるものでもあるのでしょうか」

悠真が牧場と森の境界を見渡すと、シャドウもその方向を見ていた。小さな熊の表情には、何か切なさが混じっているように見える。

「森に何かあるのか?シャドウ」

熊は悠真を見上げ、低く鳴いた。

――――――

午後、悠真は納屋の修理をしていた。夏の暑さで木材が少し反り返っていたのを直している。そこへリーフィアが水の入った木製のバケツを運んできた。

「悠真さん、お水をどうぞ」

「ありがとう」

喉の渇きを癒やしていると、アクアが木から飛び降り、悠真の肩に飛び乗った。

「おや、アクア。どうした?」

リスは「チチチ」と鳴き、何かを伝えようとしている。その様子に、リーフィアが首を傾げた。

「何か慌てているようですね」

アクアは悠真の肩から飛び降り、納屋の隅に向かった。そこには大きなカゴがあり、中にはシャドウの寝床が作られている。しかし、シャドウの姿はなかった。

「シャドウがいない?」

悠真が周囲を見回すと、アクアは牧場の外れ、森に向かう小道を指さすように鳴いた。

「まさか、森に入ったのか?」

リーフィアの表情が心配そうに曇る。

「昨日、様子がおかしかったですね……」

悠真は急いで道具を置き、立ち上がった。

「森に行ってみよう。ウィンドを呼んでくれないか?空から探した方が早い」

リーフィアが頷き、ウィンドを呼びに行く。悠真はアクアを肩に乗せ、シャドウの足跡を探し始めた。

――――――

ウィンドの背に乗り、森の上空を飛んでいる。悠真の隣にはリーフィアが座り、下の様子を注意深く観察している。アクアも悠真の肩からキョロキョロと辺りを見回していた。

「シャドウの姿は見えないか?」

リーフィアが手で目を覆い、木々の間を探す。

「まだ見つかりません……あ!」

突然、リーフィアが森の奥を指さした。そこには小さな開けた場所があり、何かが動いているのが見えた。

「あれはシャドウですね!でも、何か他にも……」

ウィンドに下降するよう合図すると、ペガサスは優雅に旋回して森の開けた場所へと下りていった。地上に近づくにつれ、状況が明らかになった。シャドウは地面に伏せており、その前には大きな茨のような植物が立ちはだかっていた。

「あれは……棘の魔草!?」

リーフィアの声には驚きが混じっていた。

「危険な植物なのか?」

「はい、森の奥に生える珍しい植物で、動くものを捕らえようとします。触れると毒の棘で傷つけられてしまいます」

地上に着陸すると、悠真はすぐにシャドウの元へ駆け寄ろうとした。しかし、棘の魔草はまるで意思を持つかのように、触手のような蔓を伸ばしてきた。

「気をつけて!」

リーフィアの警告に、悠真は素早く身をかわした。アクアが悠真の肩から飛び降り、前に出る。リスの目が青く光り、尻尾から細い水流を放った。水流は魔草に当たると結晶化し、一部の蔓を固定した。

「さすがアクア!」

しかし、魔草はまだ多くの蔓を持っており、シャドウに近づこうとしている。小さな熊は怯えた様子で身を縮めていた。

「シャドウ!影に隠れろ!」

悠真の声にシャドウは反応したが、何かに気を取られているようだった。よく見ると、シャドウの後ろには何か小さな黒い塊がある。

「あれは……子熊?」

リーフィアが驚いた声を上げた。確かにシャドウの後ろには、さらに小さな熊の子が隠れていた。シャドウはその子を守るように立ちはだかっている。

「だからシャドウは森に来たのか!」

ウィンドが前に出て、翼を広げた。銀色の翼が風を起こし、魔草の一部を押し返す。リーフィアも急いで小さな袋から何かの粉を取り出した。

「これは忌避粉です。棘の魔草を一時的に鎮める効果があります」

粉を魔草に向かって撒くと、植物の動きが鈍くなった。チャンスとばかりに、悠真は素早くシャドウと子熊の元へ駆け寄り、両方を抱き上げた。

「よし、つかまって!」

ウィンドの背に戻り、急いで上昇する。魔草は再び激しく動き始めたが、もう届かない高さまで飛び上がっていた。

「無事で良かった……」

リーフィアがほっとした表情で、シャドウと子熊を見つめる。シャドウは疲れた様子だが、子熊を守ることができた安堵感からか、悠真の腕の中で小さく鳴いた。

――――――

牧場に戻ると、すぐにリーフィアがシャドウと子熊を診察した。サクラも駆けつけ、癒しの光を放っている。

「大きな怪我はなさそうですね。でも、この子は相当疲れています」

子熊は黒い毛並みにうっすらと灰色の模様があり、シャドウより一回り小さかった。

「生まれたばかりなのかな?」

悠真が不思議そうに見つめると、リーフィアが首を横に振った。

「いいえ、ただ弱っているだけです。食べ物が足りなかったのでしょう」

シャドウは子熊から離れようとせず、心配そうに見守っている。

「昨日の様子も、この子の存在を感じ取っていたのかもしれないな」

サクラの癒しの光が子熊を包み、少しずつ元気を取り戻していく。やがて、小さな瞳がゆっくりと開いた。黄金色の目がシャドウを見つめ、弱々しく「クゥン」と鳴いた。

シャドウは嬉しそうに返事をし、子熊の頭をやさしく舐め始めた。その光景に、リーフィアは微笑んだ。

「きっとそうですね。そしてこの子の危機を感じ取って、森に助けに行ったのでしょう」

悠真がシャドウの頭を撫でると、小さな熊は安心したように目を細めた。

――――――

夕暮れ時、納屋の前のベンチに座り、悠真とリーフィアは二匹の熊を見守っていた。シャドウと子熊はすっかり打ち解け、じゃれ合って遊んでいる。

「この子にも名前をつけないとな」

悠真が子熊を見つめながら言った。

「シャドウに似ていますが、あの灰色の模様が特徴的ですね」

「そうだな……じゃあ、"ミスト"はどうだろう?霧のような模様だし」

リーフィアは柔らかく微笑んだ。

「素敵な名前ですね」

ウィンドが優雅に近づき、二匹の熊の周りを回った。ペガサスが鳴くと、シャドウはミストを連れて彼の前に行き、感謝するように小さく頭を下げた。

「ウィンドに助けてもらったことを覚えているんだな」

アクアも木から降りてきて、ミストに近づいた。水色のリスは好奇心いっぱいに新しい仲間を観察している。

「これで牧場の家族がまた一人増えましたね」

リーフィアの言葉に、悠真は満足げに頷いた。

「ああ。シャドウも寂しくなくて良かった」

夕陽が牧場を赤く染める中、シャドウとミストは仲良く寄り添いながら眠りについた。牧場の家族は、また一つ絆を深めたのだった。
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