異世界に召喚されたけど、戦えないので牧場経営します~勝手に集まってくる動物達が、みんな普通じゃないんだけど!?~

黒蓬

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第36話 王女様のご来訪!?

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朝靄が牧場を優しく包み込む中、悠真は納屋の扉を開けた。新鮮な空気が肺いっぱいに広がり、一日の始まりを告げている。

「今日も良い天気になりそうだな」

彼がそう呟いた瞬間、アズールが小さな翼をバタつかせながら駆け寄ってきた。青みがかった鱗が朝日に照らされ、美しく輝いている。

「おはよう、アズール。今日も元気だな」

「キュイッ!」

小さなドラゴンは嬉しそうに悠真の足元をくるくると回り、何かを伝えようとしているようだ。

「どうした?何かあったのか?」

悠真が首を傾げると、アズールは納屋の方向へと小さな頭を向けた。そこにはリーフィアが何かの紙を手に持ち、こちらへ歩いてくる姿が見えた。

「悠真さん、おはようございます。これが今朝届いたのですが…」

リーフィアが差し出したのは、高級な羊皮紙に書かれた手紙だった。紙面には金色の紋章が輝き、一目で重要な文書であることがわかる。

「これは……王都の紋章じゃないか」

悠真が驚いた表情で封を開けると、丁寧な筆跡で書かれた文面が現れた。

――――――

牧場の朝の作業を終えた後、悠真とリーフィアは居間のテーブルに手紙を広げていた。テラは好奇心旺盛な様子で、テーブルの上からじっと手紙を見つめている。

「エイドさんの報告が王家の耳に入ったってことか……」

悠真は少し困ったように髪をかき上げた。手紙によれば、エイド・ローレンスが定期的に提出している研究報告が王立学院を通じて王家に知られることとなり、王女アリシア・バストリアが直々に牧場を訪問したいとの内容だった。

「訪問は一週間後……準備する時間はそれほど多くありませんね」

リーフィアが心配そうに言うと、悠真も頷いた。

「王女様が来るなんて……牧場はそのままでいいと思うけど、少なくとも接待の準備はしないとな」

テラは「ミュー!」と元気よく鳴き、小さな手を挙げたように見えた。何かを手伝いたいという意思表示のようだ。

「テラも手伝ってくれるか?ありがとう」

悠真がテラの頭を撫でると、カーバンクルは喜んで目を細めた。その時、窓の外からトレジャーの鳴き声が聞こえてきた。

「カァー!」

黒いカラスが窓辺に降り立ち、くちばしをコンコンと窓ガラスに当てている。

「トレジャーも何か感じているのかな」

――――――

午後、悠真たちは牧場の整備を始めた。特別に何かを変える必要はないと思いつつも、訪問者が心地よく過ごせるよう、納屋の掃除や客間の準備を進める。

「悠真さーん!」

元気な声と共に、ミリアムが薬草のバスケットを手に駆け寄ってきた。亜麻色の髪が風に揺れ、エメラルドグリーンの瞳が好奇心で輝いている。

「どうしたんだ、ミリアム?そんなに慌てて」

「村で噂になってるんです!王女様が白石牧場に来られるって!本当なんですか?」

悠真は苦笑いしながら頷いた。情報の伝わりは早いものだ。

「ああ、どうやらエイドさんの報告書のおかげでな。牧場の特別な動物たちに興味を持たれたらしい」

「すごいです!王女様ですよ!私、お手伝いします!薬草も摘んできました。おもてなしのハーブティーに最高ですよ!」

ミリアムの目が星のように輝き、彼女の熱意に悠真もリーフィアも思わず笑みを浮かべた。

「ありがとう。君の助けは本当にありがたいよ」

ルナが静かに二人の足元にすり寄り、「ニャー」と鳴いた。普段は落ち着いた黒猫だが、今日は何となく興奮しているようだ。

「ルナも何か感じているのかな」

リーフィアがルナを抱き上げ、優しく撫でると、猫は気持ちよさそうに喉を鳴らした。

「王都の人たちには見せないほうがいいかもしれないな、ルナの変身能力は」

悠真が冗談交じりに言うと、ミリアムが目を丸くした。

「そうですね……王女様が驚いて気を失ったりしたら大変です!」

三人は笑いながら、準備の続きに取り掛かった。

――――――

一週間後の朝、牧場は朝日を浴びて美しく輝いていた。龍脈石のエネルギーのおかげで、植物たちはいつも以上に生き生きとし、花々が鮮やかに咲き誇っている。

「来たみたいだな……」

悠真が遠くを見つめると、王都の紋章を掲げた馬車が牧場に続く道を進んでくるのが見えた。リーフィアとミリアムは急いで悠真の隣に並び、三人は緊張した面持ちで馬車を迎え入れる。

馬車が牧場の前で停まると、まずエイドが降りてきた。いつもの研究員の服装ではなく、きちんとした正装に身を包んでいる。彼の表情には緊張と興奮が混じっていた。

「白石さん、お久しぶりです。本日は……特別なお客様をご案内しました」

エイドが丁寧に一礼すると、馬車からもう一人の人物が姿を現した。淡い金色の髪を持つ若い女性は、シンプルながらも上質な緑色のドレスを身にまとい、優雅な佇まいで牧場の地面に足を下ろした。

「アリシア・バストリアです。こちらが噂の白石牧場なのですね」

柔らかな声色と穏やかな笑顔に、悠真たちは少し緊張が解けるのを感じた。

「ようこそいらっしゃいました、王女様。白石悠真と申します」

悠真が丁寧に頭を下げると、アリシアは軽く手を振った。

「堅苦しい挨拶は無用です。今日は王女としてではなく、一人の研究愛好家として訪問させていただきました。エイドさんの報告書に興味をそそられて。特に、魔力を持つ動物たちについて、ぜひ自分の目で見てみたいと思いまして」

その時、トレジャーが空から舞い降り、アリシアの前に止まった。カラスは賢そうな目で彼女を見つめ、優雅に一礼した。

「なんと賢いカラスなのでしょう!これが報告書に書かれていたトレジャーですね?」

アリシアの目が輝き、すっかり魅了された様子だった。

「はい、よく珍しいものを見つけてくるんですよ」

悠真の言葉に、トレジャーは誇らしげに羽を広げた。

「素晴らしい!他の動物たちにも会わせていただけますか?」

アリシアの純粋な好奇心に、悠真たちは安堵の表情を浮かべた。

「もちろんです。皆さんも楽しみにしていましたよ」

――――――

牧場のツアーは予想以上に和やかな雰囲気で進んだ。アリシアは動物たちに対して深い愛情と尊敬を示し、一つ一つの能力に驚嘆の声を上げた。

ベルの雷を実演すると、「このエネルギーを研究できれば、王国の防衛に役立つかもしれません」と目を輝かせ、サクラの癒しの力を見せると「医療の発展に貢献できる可能性がある」と真剣に考察していた。

「あの……王女様」

ミリアムが恐る恐る声をかけると、アリシアは優しく微笑んだ。

「アリシアで大丈夫ですよ、ミリアムさん」

「はい、アリシア様……この牧場の動物たちを研究のために連れていったりは……しないですよね?」

ミリアムの素直な心配に、アリシアは真剣な表情で首を振った。

「もちろんです。彼らはここが居場所なのですから。研究とは、対象を尊重することから始まるものです。私たちができるのは、彼らの能力を理解し、共存する方法を見つけることだけです」

その言葉に、皆の肩から緊張が解けた。

「それより、先ほど見せていただいた龍脈石の洞窟について、もう少し詳しくお聞きしたいのですが……」

アリシアの学術的な質問に、悠真とリーフィアは丁寧に答えていった。

夕暮れ時、居間ではミリアム特製のハーブティーを囲んで、和やかな会話が続いていた。アリシアは予想以上に気さくで知的な女性で、悠真たちもすっかり打ち解けていた。

「実は、もう一つ提案があるのです」

アリシアが真剣な表情で切り出した。

「白石さんの牧場を王国の特別保護区に指定させていただきたいのです。これにより、牧場とその周辺は王国の法律で守られ、動物たちの安全も保証されます」

悠真は驚きの表情を浮かべた。

「それは……ありがたい話ですが、何か条件はあるのでしょうか?」

アリシアは穏やかに首を振った。

「条件は特にありません。ただ、エイドさんの研究を今後も許可していただくことと、時々私自身が訪問させていただくことくらいでしょうか」

リーフィアとミリアムが喜びの表情を交わす中、悠真は深く頷いた。

「喜んでお受けします。牧場と動物たちを守る手助けになるなら」

「ありがとうございます」

アリシアの笑顔が部屋を明るく照らしたような気がした。

窓の外では、トレジャーがアズールと空中で戯れ、フレアとアクアが草原を駆け回っている。シャドウとミストも好奇心いっぱいに庭を探検していた。牧場は活気に満ち、みなが幸せそうだった。

夕暮れの牧場は穏やかな風に包まれ、王女の一行を乗せた馬車が遠ざかっていく様子を見送りながら、悠真は深い息をついた。

「王女様なんて、どんな人かと心配したけど、傲慢な人間じゃなくて良かったな」

「はい。動物たちのことも尊重してくれるとても素敵な人でしたね」

リーフィアもほっとしたように胸をなでおろしていた。トレジャーが彼の肩に静かに降り立ち、同意するように小さく鳴いた。

「思い返せば、王様も強制的に召喚されはしたけど、対応は悪くなかったんだよな」

あの日の記憶が鮮明に蘇る。異世界に突然引き寄せられた混乱と戸惑い。しかし、バストリア王はただの道具として扱うのではなく、悠真の意思を尊重してくれた。そして今、その娘も同じように、牧場の住人たちの自由と尊厳を重んじている。

頭上では星々が瞬き始め、一日の終わりを告げている。王女の訪問は、牧場に新たな歴史の一ページを刻んだのだった。
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