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第50話 小さな職人と大きな依頼
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薬剤都市エルフェンハイムでの依頼を終えたトウマは、宿で一晩ゆっくりと休息を取った。翌朝、さわやかな青空が広がる中、彼は次の目的地である祝福の都へと向かう街道を歩いていた。
「いい天気だな」
トウマは深呼吸をしながら、のんびりとした足取りで街道を進んでいく。エルフェンハイムから祝福の都までは徒歩で三日ほどの距離だ。急ぐ必要もないため、彼は道中の風景を楽しみながら歩いていた。
街道の両側には緑豊かな丘陵地帯が広がり、時折、羊の群れが草を食む牧歌的な光景が見える。遠くの山々は薄い霞に包まれ、まるで水彩画のように美しかった。
「あの雲、面白い形してるな」
空を見上げながら歩いていると、トウマの足は自然と止まった。街道脇の小高い丘の上に、何やら奇妙な建造物が見えたのだ。
それは石で作られた小さな塔のようなものだったが、普通の建物とは明らかに異なっていた。高さは人の背丈ほどしかなく、全体が精巧な装飾で覆われている。まるで巨大な工芸品のようだった。
「あれは……何だ?」
好奇心に駆られたトウマは、街道から外れて丘を登り始めた。近づいてみると、その建造物の精巧さに驚かされた。石の表面には細かな彫刻が施され、所々に小さな宝石のようなものが埋め込まれている。
「すげぇ細工だな。これを作ったのは一体……」
その時、建造物の陰から小さな人影がひょっこりと現れた。
「あ、あなたは……人間ですね?」
現れたのは、トウマの膝丈ほどの身長しかない小さな人物だった。手足は人間のようだが、耳が尖っており、全体的に小柄で愛らしい容姿をしている。明らかに人間ではない。
「小人族か」
トウマは驚きながらも、警戒心を解いた。小人族は基本的に温厚で、人間に害を与えることはない種族として知られている。
「は、はい!僕はピートと申します。小人族の石工です」
ピートと名乗った小人は、慌てたようにぺこぺこと頭を下げた。
「石工?ということは、これを作ったのはお前か?」
「そ、そうです。でも、まだ完成していないんです……」
ピートの表情は暗かった。よく見ると彼の服は汚れており、表情にも影があるように見えた。
「何か問題でもあるのか?」
「実は……その……」
ピートは言いにくそうに口ごもった。
「遠慮しなくていい。俺は冒険者のトウマだ。何か手伝えることがあるかもしれん」
「と、トウマさん……冒険者の方でしたか」
ピートは少し安心したような表情を見せた。
「実は、この記念碑を完成させるために必要な材料が足りないんです。でも、その材料がある場所が……」
「どこにあるんだ?」
「森の奥の洞窟なんです。そこに『月光石』という特殊な鉱石があるのですが、最近、その洞窟の周辺に魔物が現れてしまい、迂闊に近づけなくて……」
トウマはその話に納得した。ピートのような小人族にとっては魔物と対峙するのはなかなか困難だろう。
「そういうことなら手伝えそうだ。ちなみに、これは何の記念碑なんだ?」
「これは我が村の開拓百周年を記念する碑なんです。村のみんなが協力して、僕が代表で制作を任されました。でも、月光石がないと装飾の仕上げができなくて……」
ピートの目に涙が浮かんだ。
「式典は明後日なんです。それまでに完成させないと、村のみんなに申し訳が立ちません」
「なるほどな。その洞窟はどこにあるんだ?」
「あの森の向こうです」
ピートが指差した方向には、鬱蒼とした森が広がっていた。
「よし、案内してくれ。俺が魔物を片付けて、月光石を取ってこよう」
「えっ、本当ですか?でも、報酬は……」
「気にするな。こういうのは俺の趣味みたいなもんだ」
トウマの言葉に、ピートの顔がぱっと明るくなった。
「あ、ありがとうございます!本当にありがとうございます!」
――――――
ピートの案内で森の中を進んでいくと、確かに魔物の気配が濃くなってきた。普通の森ではない、どこか重苦しい空気が漂っている。
「あの洞窟です」
ピートが指差した先には、岩山の中腹に大きな洞窟の入り口が口を開けていた。しかし、その周辺には複数の魔物の影がうろついている。
「グレイウルフが三匹……それにオーガが一匹か」
トウマは状況を把握すると、短剣を手に取った。
「ピート、ここで待ってろ。すぐに片付ける」
「は、はい!お気をつけて!」
トウマは魔力を短剣に込めると、狙いを定めて投げつけた。短剣は空中で刃を伸ばし、一番近いグレイウルフの急所を正確に貫いた。
「ガウゥゥ!」
仲間の死に気づいた他の魔物たちが、一斉にトウマに向かって襲いかかってくる。
「来いよ」
トウマは片手剣を抜くと、迫りくる魔物たちを迎え撃った。動きの速いグレイウルフから順番に処理していく。二匹目、三匹目と立て続けに倒すと、最後に残ったオーガが棍棒を振り上げて襲いかかってきた。
「大振りすぎる」
トウマは軽やかにオーガの攻撃を回避すると、その懐に飛び込んで心臓を一突きにした。
「これで終わりだ」
戦闘終了まで、わずか数分のことだった。
「す、すごい……」
物陰から見ていたピートが、感嘆の声を上げた。
「さて、月光石を取りに行くか」
――――――
洞窟の奥で、トウマとピートは目指していた月光石を発見した。淡い青白い光を放つ美しい鉱石だった。
「これですこれです!完璧な品質の月光石!」
ピートは興奮して飛び跳ねた。
「これだけあれば記念碑を完成させることができます!」
「よかったな」
トウマは微笑みながら、ピートが月光石を丁寧に袋に詰めるのを見守った。
「でも……本当にいいんですか?報酬もなしに、こんなに助けていただいて」
「報酬なら、お前の嬉しそうな顔を見れたからそれで十分だ」
トウマの言葉に、ピートの目がうるんだ。
「トウマさんは本当に優しい方なんですね」
「そうでもないさ。面白そうだったから手伝っただけだ」
実際、トウマにとって今回の出来事は面白い経験だった。小人族の職人と出会い、彼らの文化に触れることができた。これもまた、旅の醍醐味の一つだった。
――――――
記念碑の前に戻ると、ピートは早速月光石を使った装飾作業に取りかかった。その手際の良さと技術の高さに、トウマは感心した。
「器用なもんだな」
「これが僕の仕事ですから」
ピートは集中して作業を続けていたが、やがて最後の月光石を記念碑の頂上部分に埋め込むと、満足そうに息をついた。
「完成です!」
記念碑は月光石の輝きによって、まるで生きているかのような美しさを放っていた。夕日に照らされた石の表面が、幻想的に光って見える。
「本当に美しいな」
「ありがとうございます。これで村のみんなに胸を張って報告できます」
ピートは涙ぐみながら、何度もトウマに頭を下げた。
「本当にありがとうございました。トウマさんがいなければ、この記念碑は完成しませんでした」
「そんなに頭を下げなくてもいい。俺も楽しかったから」
「もしよろしければ、明後日の式典にも参加していただけませんか?」
ピートの申し出に、トウマは少し考えた。確かに式典を見てみたい気持ちもあったが、その式典の参加者はみんなピートのような小人族だろう。となると――
「気持ちは嬉しいが、俺が参加したら気になって楽しめない人たちもいるだろうし、遠慮しておくよ。それに俺もそろそろ次の街に向かわないとだしな」
「そうですか……残念です」
「けど、お前の作った記念碑は良い出来だと思うぞ。きっと素晴らしい式典になるだろうな」
「はい!村のみんなできっと盛大にお祝いします」
――――――
夕暮れが迫る中、トウマは記念碑の前でピートと別れの挨拶を交わした。
「それじゃあ、俺はそろそろ行くよ」
「本当にありがとうございました。トウマさんのおかげで、無事に記念碑を完成させることができました」
「何度も言うが、気にするな。お前の技術があったからこそだ」
トウマは手を振ると、街道に向かって歩き出した。振り返ると、ピートが記念碑の前で深々と頭を下げているのが見えた。
「いい体験だったな」
街道に戻ったトウマは、改めて祝福の都に向けて歩き始めた。空には最初の星が瞬き始めている。
「さて、明日は祝福の都に着けるかな」
トウマは夜空を見上げながら、のんびりとした足取りで街道を進んでいった。遠くの村から聞こえてくる生活の音が、静かな夜に心地よく響いている。
きっと明後日、あの記念碑の前では盛大な式典が開かれるのだろう。そう考えると、トウマの心も温かくなった。
「いい天気だな」
トウマは深呼吸をしながら、のんびりとした足取りで街道を進んでいく。エルフェンハイムから祝福の都までは徒歩で三日ほどの距離だ。急ぐ必要もないため、彼は道中の風景を楽しみながら歩いていた。
街道の両側には緑豊かな丘陵地帯が広がり、時折、羊の群れが草を食む牧歌的な光景が見える。遠くの山々は薄い霞に包まれ、まるで水彩画のように美しかった。
「あの雲、面白い形してるな」
空を見上げながら歩いていると、トウマの足は自然と止まった。街道脇の小高い丘の上に、何やら奇妙な建造物が見えたのだ。
それは石で作られた小さな塔のようなものだったが、普通の建物とは明らかに異なっていた。高さは人の背丈ほどしかなく、全体が精巧な装飾で覆われている。まるで巨大な工芸品のようだった。
「あれは……何だ?」
好奇心に駆られたトウマは、街道から外れて丘を登り始めた。近づいてみると、その建造物の精巧さに驚かされた。石の表面には細かな彫刻が施され、所々に小さな宝石のようなものが埋め込まれている。
「すげぇ細工だな。これを作ったのは一体……」
その時、建造物の陰から小さな人影がひょっこりと現れた。
「あ、あなたは……人間ですね?」
現れたのは、トウマの膝丈ほどの身長しかない小さな人物だった。手足は人間のようだが、耳が尖っており、全体的に小柄で愛らしい容姿をしている。明らかに人間ではない。
「小人族か」
トウマは驚きながらも、警戒心を解いた。小人族は基本的に温厚で、人間に害を与えることはない種族として知られている。
「は、はい!僕はピートと申します。小人族の石工です」
ピートと名乗った小人は、慌てたようにぺこぺこと頭を下げた。
「石工?ということは、これを作ったのはお前か?」
「そ、そうです。でも、まだ完成していないんです……」
ピートの表情は暗かった。よく見ると彼の服は汚れており、表情にも影があるように見えた。
「何か問題でもあるのか?」
「実は……その……」
ピートは言いにくそうに口ごもった。
「遠慮しなくていい。俺は冒険者のトウマだ。何か手伝えることがあるかもしれん」
「と、トウマさん……冒険者の方でしたか」
ピートは少し安心したような表情を見せた。
「実は、この記念碑を完成させるために必要な材料が足りないんです。でも、その材料がある場所が……」
「どこにあるんだ?」
「森の奥の洞窟なんです。そこに『月光石』という特殊な鉱石があるのですが、最近、その洞窟の周辺に魔物が現れてしまい、迂闊に近づけなくて……」
トウマはその話に納得した。ピートのような小人族にとっては魔物と対峙するのはなかなか困難だろう。
「そういうことなら手伝えそうだ。ちなみに、これは何の記念碑なんだ?」
「これは我が村の開拓百周年を記念する碑なんです。村のみんなが協力して、僕が代表で制作を任されました。でも、月光石がないと装飾の仕上げができなくて……」
ピートの目に涙が浮かんだ。
「式典は明後日なんです。それまでに完成させないと、村のみんなに申し訳が立ちません」
「なるほどな。その洞窟はどこにあるんだ?」
「あの森の向こうです」
ピートが指差した方向には、鬱蒼とした森が広がっていた。
「よし、案内してくれ。俺が魔物を片付けて、月光石を取ってこよう」
「えっ、本当ですか?でも、報酬は……」
「気にするな。こういうのは俺の趣味みたいなもんだ」
トウマの言葉に、ピートの顔がぱっと明るくなった。
「あ、ありがとうございます!本当にありがとうございます!」
――――――
ピートの案内で森の中を進んでいくと、確かに魔物の気配が濃くなってきた。普通の森ではない、どこか重苦しい空気が漂っている。
「あの洞窟です」
ピートが指差した先には、岩山の中腹に大きな洞窟の入り口が口を開けていた。しかし、その周辺には複数の魔物の影がうろついている。
「グレイウルフが三匹……それにオーガが一匹か」
トウマは状況を把握すると、短剣を手に取った。
「ピート、ここで待ってろ。すぐに片付ける」
「は、はい!お気をつけて!」
トウマは魔力を短剣に込めると、狙いを定めて投げつけた。短剣は空中で刃を伸ばし、一番近いグレイウルフの急所を正確に貫いた。
「ガウゥゥ!」
仲間の死に気づいた他の魔物たちが、一斉にトウマに向かって襲いかかってくる。
「来いよ」
トウマは片手剣を抜くと、迫りくる魔物たちを迎え撃った。動きの速いグレイウルフから順番に処理していく。二匹目、三匹目と立て続けに倒すと、最後に残ったオーガが棍棒を振り上げて襲いかかってきた。
「大振りすぎる」
トウマは軽やかにオーガの攻撃を回避すると、その懐に飛び込んで心臓を一突きにした。
「これで終わりだ」
戦闘終了まで、わずか数分のことだった。
「す、すごい……」
物陰から見ていたピートが、感嘆の声を上げた。
「さて、月光石を取りに行くか」
――――――
洞窟の奥で、トウマとピートは目指していた月光石を発見した。淡い青白い光を放つ美しい鉱石だった。
「これですこれです!完璧な品質の月光石!」
ピートは興奮して飛び跳ねた。
「これだけあれば記念碑を完成させることができます!」
「よかったな」
トウマは微笑みながら、ピートが月光石を丁寧に袋に詰めるのを見守った。
「でも……本当にいいんですか?報酬もなしに、こんなに助けていただいて」
「報酬なら、お前の嬉しそうな顔を見れたからそれで十分だ」
トウマの言葉に、ピートの目がうるんだ。
「トウマさんは本当に優しい方なんですね」
「そうでもないさ。面白そうだったから手伝っただけだ」
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――――――
記念碑の前に戻ると、ピートは早速月光石を使った装飾作業に取りかかった。その手際の良さと技術の高さに、トウマは感心した。
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「完成です!」
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「本当に美しいな」
「ありがとうございます。これで村のみんなに胸を張って報告できます」
ピートは涙ぐみながら、何度もトウマに頭を下げた。
「本当にありがとうございました。トウマさんがいなければ、この記念碑は完成しませんでした」
「そんなに頭を下げなくてもいい。俺も楽しかったから」
「もしよろしければ、明後日の式典にも参加していただけませんか?」
ピートの申し出に、トウマは少し考えた。確かに式典を見てみたい気持ちもあったが、その式典の参加者はみんなピートのような小人族だろう。となると――
「気持ちは嬉しいが、俺が参加したら気になって楽しめない人たちもいるだろうし、遠慮しておくよ。それに俺もそろそろ次の街に向かわないとだしな」
「そうですか……残念です」
「けど、お前の作った記念碑は良い出来だと思うぞ。きっと素晴らしい式典になるだろうな」
「はい!村のみんなできっと盛大にお祝いします」
――――――
夕暮れが迫る中、トウマは記念碑の前でピートと別れの挨拶を交わした。
「それじゃあ、俺はそろそろ行くよ」
「本当にありがとうございました。トウマさんのおかげで、無事に記念碑を完成させることができました」
「何度も言うが、気にするな。お前の技術があったからこそだ」
トウマは手を振ると、街道に向かって歩き出した。振り返ると、ピートが記念碑の前で深々と頭を下げているのが見えた。
「いい体験だったな」
街道に戻ったトウマは、改めて祝福の都に向けて歩き始めた。空には最初の星が瞬き始めている。
「さて、明日は祝福の都に着けるかな」
トウマは夜空を見上げながら、のんびりとした足取りで街道を進んでいった。遠くの村から聞こえてくる生活の音が、静かな夜に心地よく響いている。
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