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第82話 混沌の街の冒険者ギルド
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翌朝、トウマは雲の上亭で温かい朝食を取った後、街の中心部にあるという冒険者ギルドを探しに出た。
「確か、中央広場の近くにあるって聞いたんだが……」
しかし、この迷宮都市で「中央広場」を探すこと自体が一苦労だった。道は相変わらず曲がりくねり、時には行き止まりになったり、突然階段が現れたりする。
「こっちかな?」
角を曲がると、そこには魚屋の店主が大きな魚を捌いている光景があった。
「兄ちゃん、迷子かい?」
魚屋の店主が手を止めて声をかけてきた。
「冒険者ギルドを探してるんだが、知ってるか?」
「ああ、ギルドね。この道をまっすぐ行って、赤い屋根の建物を左に曲がって、階段を上がったら……」
店主の説明は複雑で、トウマは途中で混乱してしまった。
「すまん、もう一度頼む」
「あー、そうだな。言葉で説明するより、誰かに案内してもらった方が早いかもな」
その時、昨日会ったキオムが偶然通りかかった。
「おっ、トウマの兄ちゃん!おはよう」
「キオム、ちょうど良かった。冒険者ギルドへの道、分かるか?」
「もちろん!案内するよ」
「助かる」
キオムの案内で、トウマは迷宮のような街を進んだ。途中、橋を渡ったり、建物の間を縫うように歩いたり、まるで立体迷路を攻略しているような気分だった。
「ここの住人は、よくこんな複雑な街で迷わないな」
「慣れだよ。それに、みんなそれぞれ覚えやすい目印を作ってるんだ」
「目印?」
「ほら、あそこに青い鳥の絵が描いてある壁があるだろ?あれとか、向こうの変な形の煙突とか」
キオムが指差すと、確かに個性的な目印があちこちに見えた。
「なるほど。住人なりの工夫があるんだな」
「そういうこと。あ、着いたよ」
――――――
冒険者ギルドは、街の中でも比較的大きな建物だった。それでも、他の建物と同じように不規則な形をしており、増築を繰り返したような独特の外観をしている。
「ありがとう、キオム」
「どういたしまして。何かあったら、また声をかけてよ」
キオムはそう言って、手を振ると去って行った。
トウマはギルドの扉を押して中に入った。内部は他の街のギルドと似ているが、依頼書が貼られた掲示板の配置が少し変わっている。受付カウンターでは、茶髪の女性職員が書類を整理していた。
「いらっしゃいませ。どのようなご用件でしょうか?」
「依頼を受けたい。これが俺の冒険者証だ」
トウマは琥珀色の瞳で女性職員を見つめながら、冒険者証を差し出した。
「Aランクの……トウマ様ですね。お噂は聞いております」
女性職員は微笑んだ。
「現在、うちで対処をお願いしたい依頼は……」
彼女はそう言うと、棚から一枚の書類を取り出した。
「街の地下に広がる古い下水道に、魔物が住み着いてしまったというものです。最近、地上への被害も報告されています」
「魔物の種類は?」
「詳しくは分かりませんが、複数の種類がいるようです。それと、下水道の構造も複雑で、迷いやすいという問題があります」
トウマは面白そうに眉を上げた。
「この街の上も複雑だが、下も複雑なのか」
「そうなんです。実は、この街の地下構造は謎が多く、古代遺跡の一部ではないかという説もあります」
「古代遺跡?それは興味深いな」
「報酬は金貨十枚です。期限は設けませんが、被害が拡大する前に解決していただけると助かります」
「分かった。引き受けよう」
トウマは依頼書を受け取った。
「ありがとうございます。地下への入り口は、街の北側にある古い建物の地下室からアクセスできます。詳しい場所は、この地図に記載されています」
女性職員が地図を手渡そうとした時、ギルドの扉が勢いよく開いた。
「大変だ!誰か助けてくれ!」
入ってきたのは、汗だくで息を切らした中年の男性だった。
「どうされましたか?」
女性職員が慌てて声をかけた。
「俺の娘が……娘が行方不明になったんだ!」
男性は必死な表情でギルドの中を見回した。
「詳しく話を聞かせてください」
「昨日の夕方から帰ってこないんだ。いつもなら、遅くても夜には帰ってくるのに……」
男性の声は震えていた。
「娘さんのお名前と年齢は?」
「エリナ、十六歳だ。茶色い髪で、青い服を着ていた」
トウマは興味深そうに男性を見つめた。
「最後に見かけた場所は?」
「友達と一緒に、街の東側の市場に行くって言ってたんだ。その友達に聞いてみたら、午後の三時頃に別れたって……」
男性は頭を抱えた。
「それから行方が分からないんです」
女性職員が状況を整理した。
「この街は複雑ですから、道に迷ってしまった可能性もありますが……」
「いや、エリナはこの街で生まれ育ったんだ。道に迷うなんてことは考えられない」
男性は首を振った。
「何か事件に巻き込まれたかもしれませんね」
女性職員は深刻な表情を浮かべた。
「金は払う!誰か、娘を探してくれ!」
「……その娘さんの特徴、もう少し詳しく教えてくれ」
トウマが口を開くと、男性は希望を見つけたような表情になった。
「背は小さめで、いつも元気な子なんだ。人見知りしないから、誰とでも話すんだが……」
「性格は?」
「好奇心旺盛で、面白いものを見つけると、つい夢中になってしまうタイプなんだ」
トウマは自分と似た性格だと感じた。
「最近、何か変わったことはなかったか?」
「変わったこと……」
男性は思い出すような表情を浮かべた。
「そう言えばエリナは最近、街の古い建物に興味を持っていたんだ。歴史がある建物を調べるのが好きで……」
「古い建物?」
「まさか……」
トウマと女性職員は同時に反応した。
「トウマさん、何かお気づきのことが?」
「地下の魔物退治の依頼、入り口は古い建物の地下室からだったよな?」
「そうですね……あ、まさか……?」
「あぁ。もしかすると、エリナさんはその建物を調べているうちに、地下の迷宮に迷い込んでしまったのかもしれない」
トウマの推理に、男性は青ざめた。
「そんな……」
「可能性はある。地下に魔物がいるなら、なおさら危険だ」
女性職員も心配そうな表情を浮かべた。
「それでは、依頼を変更しましょうか?魔物退治と同時に、エリナさんの捜索も……」
「いや、捜索依頼は別で出してくれ。俺はその地下に向かって先に彼女を探す」
「承知いたしました」
「ありがとう!本当にありがとう!」
男性は涙を浮かべてトウマに頭を下げた。
「礼なんていい。だが、ただでさえ迷いやすいこの街の地下を、俺一人で探索するのは効率が悪い。誰か案内できる人間はいないか?」
「案内……ですか……」
女性職員が考え込んだ。
「地下の構造に詳しい人は、この街にも数人いますが、魔物がいる場所に同行してくれる人は……」
「魔物の対処は俺がする。道案内だけできれば十分だ」
その時、ギルドの扉が再び開いた。
「よお、何やら騒がしいじゃねえか」
入ってきたのは、黒い外套を着た痩せた男性だった。顔には古い傷跡があり、左手には魔道具らしき手袋をはめている。
「レイドさん」
女性職員が少し緊張したような表情を見せた。
「何か面白い話があるなら、俺も混ぜてくれよ」
レイドと呼ばれた男性は、不敵な笑みを浮かべながらトウマを見つめた。
「あんたは?」
「俺か?俺は情報屋だ。この街で起こることは、大抵知ってるぜ」
そう答えるレイドを、トウマは興味深そうに男性を見つめる。
「なるほど、情報料はいくらだ?」
「そうだな……」
レイドは値踏みするような目でトウマを見つめた。
「面白い話を聞かせてもらえるなら、タダでも構わねえぜ」
トウマは眉をひそめた。怪しい男だが、情報は必要だった。
「面白い話?」
「あんたの冒険談でもいいし、他の街で起こった出来事でもいい。俺は情報が商売道具だからな」
「なるほど。そういう取引ってわけか」
「そういうことだ」
レイドは椅子に座りながら、トウマを見つめた。
「それで、どうする?」
トウマは少し考えた後、決断した。
「分かった。取引しよう」
「ほう、話が早いじゃねえか」
「その代わり、本当に役に立つ情報を頼む」
「もちろんだ。俺の情報にハズレはねえぜ」
レイドは自信満々に答えた。
「それじゃあ、まずは地下の構造について教えてくれ」
「地下の構造か……」
レイドは少し考えるような表情を浮かべた。
「その前に、あんたの冒険談を聞かせてもらおうか」
「今か?」
「今だ。情報は対価を支払ってから受け取るのがルールだろ?」
確かに一理ある。だが、今は緊急事態だ。こんなところで足を止めている時間はない。となれば――
「分かった。但し、冒険談は移動しながらだ。あんたは道案内を頼む。これで対等だろう?」
「なるほど、俺にも同時に対価を払えって訳か。確かに対等だな。取引成立だ!」
そうして、トウマとレイドは冒険者ギルドから地下への道を走りだした。
「確か、中央広場の近くにあるって聞いたんだが……」
しかし、この迷宮都市で「中央広場」を探すこと自体が一苦労だった。道は相変わらず曲がりくねり、時には行き止まりになったり、突然階段が現れたりする。
「こっちかな?」
角を曲がると、そこには魚屋の店主が大きな魚を捌いている光景があった。
「兄ちゃん、迷子かい?」
魚屋の店主が手を止めて声をかけてきた。
「冒険者ギルドを探してるんだが、知ってるか?」
「ああ、ギルドね。この道をまっすぐ行って、赤い屋根の建物を左に曲がって、階段を上がったら……」
店主の説明は複雑で、トウマは途中で混乱してしまった。
「すまん、もう一度頼む」
「あー、そうだな。言葉で説明するより、誰かに案内してもらった方が早いかもな」
その時、昨日会ったキオムが偶然通りかかった。
「おっ、トウマの兄ちゃん!おはよう」
「キオム、ちょうど良かった。冒険者ギルドへの道、分かるか?」
「もちろん!案内するよ」
「助かる」
キオムの案内で、トウマは迷宮のような街を進んだ。途中、橋を渡ったり、建物の間を縫うように歩いたり、まるで立体迷路を攻略しているような気分だった。
「ここの住人は、よくこんな複雑な街で迷わないな」
「慣れだよ。それに、みんなそれぞれ覚えやすい目印を作ってるんだ」
「目印?」
「ほら、あそこに青い鳥の絵が描いてある壁があるだろ?あれとか、向こうの変な形の煙突とか」
キオムが指差すと、確かに個性的な目印があちこちに見えた。
「なるほど。住人なりの工夫があるんだな」
「そういうこと。あ、着いたよ」
――――――
冒険者ギルドは、街の中でも比較的大きな建物だった。それでも、他の建物と同じように不規則な形をしており、増築を繰り返したような独特の外観をしている。
「ありがとう、キオム」
「どういたしまして。何かあったら、また声をかけてよ」
キオムはそう言って、手を振ると去って行った。
トウマはギルドの扉を押して中に入った。内部は他の街のギルドと似ているが、依頼書が貼られた掲示板の配置が少し変わっている。受付カウンターでは、茶髪の女性職員が書類を整理していた。
「いらっしゃいませ。どのようなご用件でしょうか?」
「依頼を受けたい。これが俺の冒険者証だ」
トウマは琥珀色の瞳で女性職員を見つめながら、冒険者証を差し出した。
「Aランクの……トウマ様ですね。お噂は聞いております」
女性職員は微笑んだ。
「現在、うちで対処をお願いしたい依頼は……」
彼女はそう言うと、棚から一枚の書類を取り出した。
「街の地下に広がる古い下水道に、魔物が住み着いてしまったというものです。最近、地上への被害も報告されています」
「魔物の種類は?」
「詳しくは分かりませんが、複数の種類がいるようです。それと、下水道の構造も複雑で、迷いやすいという問題があります」
トウマは面白そうに眉を上げた。
「この街の上も複雑だが、下も複雑なのか」
「そうなんです。実は、この街の地下構造は謎が多く、古代遺跡の一部ではないかという説もあります」
「古代遺跡?それは興味深いな」
「報酬は金貨十枚です。期限は設けませんが、被害が拡大する前に解決していただけると助かります」
「分かった。引き受けよう」
トウマは依頼書を受け取った。
「ありがとうございます。地下への入り口は、街の北側にある古い建物の地下室からアクセスできます。詳しい場所は、この地図に記載されています」
女性職員が地図を手渡そうとした時、ギルドの扉が勢いよく開いた。
「大変だ!誰か助けてくれ!」
入ってきたのは、汗だくで息を切らした中年の男性だった。
「どうされましたか?」
女性職員が慌てて声をかけた。
「俺の娘が……娘が行方不明になったんだ!」
男性は必死な表情でギルドの中を見回した。
「詳しく話を聞かせてください」
「昨日の夕方から帰ってこないんだ。いつもなら、遅くても夜には帰ってくるのに……」
男性の声は震えていた。
「娘さんのお名前と年齢は?」
「エリナ、十六歳だ。茶色い髪で、青い服を着ていた」
トウマは興味深そうに男性を見つめた。
「最後に見かけた場所は?」
「友達と一緒に、街の東側の市場に行くって言ってたんだ。その友達に聞いてみたら、午後の三時頃に別れたって……」
男性は頭を抱えた。
「それから行方が分からないんです」
女性職員が状況を整理した。
「この街は複雑ですから、道に迷ってしまった可能性もありますが……」
「いや、エリナはこの街で生まれ育ったんだ。道に迷うなんてことは考えられない」
男性は首を振った。
「何か事件に巻き込まれたかもしれませんね」
女性職員は深刻な表情を浮かべた。
「金は払う!誰か、娘を探してくれ!」
「……その娘さんの特徴、もう少し詳しく教えてくれ」
トウマが口を開くと、男性は希望を見つけたような表情になった。
「背は小さめで、いつも元気な子なんだ。人見知りしないから、誰とでも話すんだが……」
「性格は?」
「好奇心旺盛で、面白いものを見つけると、つい夢中になってしまうタイプなんだ」
トウマは自分と似た性格だと感じた。
「最近、何か変わったことはなかったか?」
「変わったこと……」
男性は思い出すような表情を浮かべた。
「そう言えばエリナは最近、街の古い建物に興味を持っていたんだ。歴史がある建物を調べるのが好きで……」
「古い建物?」
「まさか……」
トウマと女性職員は同時に反応した。
「トウマさん、何かお気づきのことが?」
「地下の魔物退治の依頼、入り口は古い建物の地下室からだったよな?」
「そうですね……あ、まさか……?」
「あぁ。もしかすると、エリナさんはその建物を調べているうちに、地下の迷宮に迷い込んでしまったのかもしれない」
トウマの推理に、男性は青ざめた。
「そんな……」
「可能性はある。地下に魔物がいるなら、なおさら危険だ」
女性職員も心配そうな表情を浮かべた。
「それでは、依頼を変更しましょうか?魔物退治と同時に、エリナさんの捜索も……」
「いや、捜索依頼は別で出してくれ。俺はその地下に向かって先に彼女を探す」
「承知いたしました」
「ありがとう!本当にありがとう!」
男性は涙を浮かべてトウマに頭を下げた。
「礼なんていい。だが、ただでさえ迷いやすいこの街の地下を、俺一人で探索するのは効率が悪い。誰か案内できる人間はいないか?」
「案内……ですか……」
女性職員が考え込んだ。
「地下の構造に詳しい人は、この街にも数人いますが、魔物がいる場所に同行してくれる人は……」
「魔物の対処は俺がする。道案内だけできれば十分だ」
その時、ギルドの扉が再び開いた。
「よお、何やら騒がしいじゃねえか」
入ってきたのは、黒い外套を着た痩せた男性だった。顔には古い傷跡があり、左手には魔道具らしき手袋をはめている。
「レイドさん」
女性職員が少し緊張したような表情を見せた。
「何か面白い話があるなら、俺も混ぜてくれよ」
レイドと呼ばれた男性は、不敵な笑みを浮かべながらトウマを見つめた。
「あんたは?」
「俺か?俺は情報屋だ。この街で起こることは、大抵知ってるぜ」
そう答えるレイドを、トウマは興味深そうに男性を見つめる。
「なるほど、情報料はいくらだ?」
「そうだな……」
レイドは値踏みするような目でトウマを見つめた。
「面白い話を聞かせてもらえるなら、タダでも構わねえぜ」
トウマは眉をひそめた。怪しい男だが、情報は必要だった。
「面白い話?」
「あんたの冒険談でもいいし、他の街で起こった出来事でもいい。俺は情報が商売道具だからな」
「なるほど。そういう取引ってわけか」
「そういうことだ」
レイドは椅子に座りながら、トウマを見つめた。
「それで、どうする?」
トウマは少し考えた後、決断した。
「分かった。取引しよう」
「ほう、話が早いじゃねえか」
「その代わり、本当に役に立つ情報を頼む」
「もちろんだ。俺の情報にハズレはねえぜ」
レイドは自信満々に答えた。
「それじゃあ、まずは地下の構造について教えてくれ」
「地下の構造か……」
レイドは少し考えるような表情を浮かべた。
「その前に、あんたの冒険談を聞かせてもらおうか」
「今か?」
「今だ。情報は対価を支払ってから受け取るのがルールだろ?」
確かに一理ある。だが、今は緊急事態だ。こんなところで足を止めている時間はない。となれば――
「分かった。但し、冒険談は移動しながらだ。あんたは道案内を頼む。これで対等だろう?」
「なるほど、俺にも同時に対価を払えって訳か。確かに対等だな。取引成立だ!」
そうして、トウマとレイドは冒険者ギルドから地下への道を走りだした。
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