捨てられ聖女は、王太子殿下の契約花嫁。彼の呪いを解けるのは、わたしだけでした。

鷹凪きら

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4章

49 呪いの解きかた

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 目の前に置かれた本を見つめる。

 表紙には不思議な模様が描かれていた。
 昔の物語の中に出てくる、魔法陣と言われるものに似ている気がする。

「シェラ、これはアレストリアに古くから伝わる魔術書だ」

 魔術書、その言葉は聞いたことがある。
 たしか遥か昔の、魔法が当たり前に使われていた時代に書かれた本。

 これは魔力を扱えるものしか中身を読むことができない。今は存在する数自体少ないが、現代で読める者はいないとされている。

「この中に呪いについて、なんらかの記述がされている可能性が高い。もしかしたら、聖女の力についても何か分かるかもしれない。君の力で中身が確認できないか、試してもらいたい」

 ヴェータの聖女の力は、昔魔法を使っていたころの名残だと聞いたことがある。
 確かにこの力について何か書かれているかもしれないし、呪いの解き方も載っているかもしれない。

「わかりました。やってみます」
「体調の変化を感じたら、すぐにやめるように」
「はい」

 両手で本を手に取る。
 腕輪がない分、うまく力が発動できるか分からない。

 不安を感じながらも、ゆっくりと本を開いてみた。
 中は白紙で、何も書かれてはいない。

 試しにいつもの感覚で力を使おうとしたとき、白紙のページに、ぼんやりと光り輝く文字が浮かび始めた。
 見慣れない文字列が並び、何と書いてあるのかは分からない。
 これは恐らく、古代文字。何かの本で見たことがある。

 文字が浮かび上がっても、それが読めなければどうしようもない。
 とりあえず書き写して、あとで調べてもらおうかと思っていると、文字がぐにゃりと形を変えた。

 驚きながらも見つめていると、次第に見覚えのある文字に変化する。これはいま、現代で使われているものだ。
 読む者に合わせて、文字自体が変化するというのか。古代の魔法は、恐ろしく便利なものだったらしい。

 浮かび上がった文字には、こう記されていた。

【知りたいことを、思い浮かべよ】

 それ以外の言葉はない。
 まさか、こちらが質問したら返してくれると言うのだろうか。

 不思議に思いながらも、呪いと聖女の力について教えてほしいと、頭の中で問いかけてみた。

 少しして、大量の文字が浮かび上がる。
 字の多さに戸惑い瞬きを繰り返すと、隣から声がかけられる。

「シェラ、大丈夫か?」
「は、はいっ。あの、たくさん書かれているので、とりあえず読み上げますね」
「文字が見えるのか?」
「はい」

 頷くと、ルディオは驚きを顔に浮かべた。どうやらシェラ以外の者には、この文字の数々は見えていないらしい。

 書かれていることを端から読み上げていく。
 みな黙ったまま、シェラの言葉を聞いていた。

「……なるほど。呪いも聖女の力も魔法の一部で、呪いはプラス、聖女はマイナスの力で作用しているってことかねぇ」

 ハランシュカがしみじみと頷く。
 書かれている内容が難しく、シェラにはいまいち理解できなかったが、他の者は違ったらしい。

 内容を把握できていないシェラを気遣ってか、分かりやすく説明してくれる。

「要するに、この呪いは起因となる事象――ルディの場合は怒りの感情だけど、それを魔力に変換しているんだよ」
「感情を魔力に変換?」
「そう。普通の人間は魔力を持っていないから、魔法を使えない。だから感情を魔力に変えることによって、魔法――呪いを無理やり発動させているんだ」

 そんなことができるのかと思ってしまうが、実際にルディオは身をもって体験している。
 腕を組み、感慨深げに言った。

「なるほどな。私の呪いは、魔力変換と獣化を組み合わせた魔法ということか」

 頷きながら、ハランシュカは続きを話しだす。

「それに対して聖女の力は、もともと体内にあった魔力を消費して、力を発動させているようだね」

 つい先ほど、普通の人間は魔力を持っていないと言ったばかりだ。そもそも魔力がないから魔法を使えない、これは現代の常識である。
 首を傾げたシェラに向けて、くすんだ銀髪の男が言う。

「聖女は魔術師の素質がある者、ということだ」

 バルトハイルがシェラを見る。

「聖女と魔術師が同一のものであると、僕たちも推測はしていたが……これで決定的になったな」

 兄の言葉に息をのむ。
 己の力が魔力と同一のものだなんて、考えたこともなかった。シェラがこの本を読めていることからしても、間違いはなさそうだが。

「古代の文献によると、魔術師は自身の中にある魔力を少しずつ消費して、魔法を発動していたらしい。昔の人も理由は分からなかったみたいだけれど、魔力と生命は密接に関係していて、使いすぎると生命活動に影響が出ていたようだね」

「魔法が衰退したのも、恐らくはそれが原因だろう。いくら便利でも、己の命を犠牲にしてまで使おうとする者は多くないはずだ」

 ハランシュカに続いて、ルディオが補足する。
 話の流れからして、シェラは体内の魔力を消費して力を使い、魔力が枯渇したことにより、生命活動に支障が出たという事だろうか。

 レニエッタの力が彼に通用しなかったのも、恐らく魔力が関係しているのだろう。魔力を有している聖女同士が、力の影響を受けないことからしても、そう判断できる。

 ひとり納得していると、ルディオがシェラへと視線を向けて言った。

「どうやら君と私は、本当にお互いを補い合う関係のようだな」
「……え?」
「恐らく呪いによる魔力変換は、魔力が一定量を超えると、暴発しないように獣化の魔法で相殺しているんだと思う……が、君はその変換された私の魔力を、体内に吸収しているみたいだな」

 どういう原理かは分からないが、と付け加えた。

 要するに今まで生命力と呼んでいたものは、実は魔力だった。そして、彼が感情から変換した魔力を、シェラがもらい受けている。それが体調の回復に繋がったのだろう。

「君たちのことをお似合いだとは言ったけど、ここまで割れ鍋に綴じ蓋だったなんてねぇ……人生何があるか分からないもんだ」

 しみじみと頷くハランシュカとは対照的に、バルトハイルは難しい顔をして机の上を見つめていた。

 自分とルディオの関係ははっきりとした。そして、それは悪いものではなかった。
 そのことにほっと胸を撫で下ろしたかったのだが、どうしてもバルトハイルの表情が気になってしまう。

 そもそも、どうしてここに兄がいるのだろう。
 いまこの場で行われた会話は、国家機密という言葉で収まるような内容ではない。それをヴェータの国王と共有する。
 いったいどんな意図があるのか。

 兄を見ながら考えていると、思考を遮るように隣から声がかかる。

「シェラ。すまないが、もうひとつ確認してもらいたいことがある」
「はい」
「呪いを解く方法があるのか、見てもらいたい。現状私には必要ないが、弟たちのこともある。もし方法があるのなら知っておきたい」

 ルディオの呪いを解いてしまえば、シェラは彼の魔力に頼って生きていくことができなくなる。自分には必要ないとは、それを指して言ったのだろうが、彼が呪いで苦労しているのは知っている。

 呪いを解く方法があり、かつシェラが他から魔力を補えれば、それが一番いいのは間違いない。

「わかりました、やってみます」

 いつの間にか白紙に戻っていた本へと視線を戻し、もう一度問いかける。

 ――呪いの解き方を、教えてください

 少しして浮かび上がった文字に、大きく目を見開いた。


 呼吸が止まる。
 全身から血の気が引き、指先が小刻みに震えだした。

 目の前に浮かぶ文字列に、言い表しようのない感情が込み上げる。
 これは悲しみか、怒りか。

 それとも――、喜びか。

 ああ、だから……夢の中の、わたしは――


 そこには、こう書かれていた。

【心から愛する者が死ねば、呪いは解ける】

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