コストカットだ!と追放された王宮道化師は、無数のスキルで冒険者として成り上がる。

あけちともあき

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第1話 王宮追放

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 国というものは、政治や金勘定や軍事の専門家だけでは回らない。
 何事も、間に入ってうまくつなげる人間がいてこそ、きちんと機能するのだ。

 さながら、マールイ王国の宮廷道化師たるオーギュスト。
 つまり俺はつなげる役……、この国の潤滑油だった。

「道化師殿! 実は某国と交渉したいのだが……」

「はいはい。前に俺が歓待した大使とツテがありますよ」

「道化師殿! 昨今の税収が減っているのだが……」

「ああ、それはですね。旅芸人の友人から聞いたところ、畑作地帯に害虫が大量に湧いたとかで」

「道化師殿! 隣国が新しい戦術を取り込んで、我々に対抗しようとしているそうですが!」

「その話なら詳しく聞いてますよ。これは、これこれ、こういう戦術で……。ああ、ええ、隣国にも伝手があってですね」

 今日も宮廷を、西に東に大忙し。
 かと言って、本当の仕事をおろそかにはできない。

「道化師殿! 陛下がまた塞ぎ込んでおられます!」

「はいはい。今行きますよ」

 俺は国王陛下の前で、芸を見せる。
 逆立ちしたり、宙返りしたり、玉をポンポンと幾つもお手玉してみたり。

 いつも同じ芸ばかりでは、これを見る陛下の気持ちも晴れない。
 常に新しい芸を仕入れようと思い、情報網を広げた。
 すると俺は、すっかり宮廷の便利屋になっていたというわけだ。

 それに俺は、魔族の血を受け継いでいて、人よりもちょっとだけ寿命が長い。
 長い間宮廷にいれば、人間関係や国中の知識に詳しくなっても当然というわけだ。

 これも全て、マールイ王国のため。
 俺は国に忠誠を誓っていたのだった。

 だが。

「宮廷道化師オーギュストよ」

 なぜか、俺は謁見の間で。

「我が国の予算は貧窮している」

 どうしてか、今まで手を貸してあげてきた人々に囲まれて。
 騎士団長が、外交官が、侍従長が。

「長く我が国に仕えてくれたそなただが、もはやそなたのような無駄飯ぐらいを雇っておく余裕はない」

 誰もが俺を邪魔者みたいに見て。

「マールイ王国はそなたのような贅肉を削ぎ落とし、筋肉質な体質の国家に生まれ変わるのだ」

 子どもの頃から芸を見せてきた陛下まで、俺を邪魔者のように。
 呆然とする俺を見て、さっきから語り続けている男がニヤリと笑った。

 大臣のガルフスだ。
 国の大学機関を主席で卒業した公爵家の跡取りで、王国の歴史上最年少で大臣になった天才。
 だが、宮廷ではあまり目立った活躍ができていない男。

 お勉強と実際の仕事は違うと、陰口を叩かれていた男だ。
 そいつが、俺を見下している。

「陛下、この者にお言葉を」

「ああ。うん」

 国王キュータイ三世陛下は、いつもの無気力そうな目で俺を見た。
 ため息をつく。
 何事も面倒臭がる国王。

 俺がなだめ、芸を見せて気晴らしをしてもらい、毎日執政を行ってもらっている国王陛下が。

「オーギュスト。お前はクビだ。どこへなりと行くがいい」

 なんてことだ。
 あんまりだ。

 俺は絶望の底に、放り出されたのだった。


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